☆③─40話 特訓開始!!
とうとう明日が東京予選二戦目。練習を休みにはしたいが、やれることはやっておかなければ。
チームの強化の最重要目標である雪姫のスカウト。
雪姫のスカウトをするためにはまず、あいつのことを知らないとダメなんだ。
もっと話がしたい。あの子の監督になろうとしているんだから、悩みくらい打ち明けられる存在にならなきゃだろ。
と、いうわけで。
「よお」
「楓様。どうしたんですか」
放課後。初等部の校門前で待っていると、雪姫が姿を現した。
普通に生活しているとなかなか話をするチャンスはない。だったら自分から会いに行かなくては。
「一緒に帰らないか?」
「私とですか?」
今日は雪姫に頼み事があってここに来た。若干ストーカー紛いな行動だが、仲が悪いわけでもないので大丈夫だと思うが……。
「ダメか?」
「構いませんが……どうしてですか?」
感情をあまり表に出さない雪姫にしては珍しくモジモジとして顔を赤くしている。気づけば俺たちは周りから少しばかり注目されている。主に女子が「うそー」「やだー」「え、そういう関係?」とか言われているぞ。
しかし、ここは引くべきところではない。
「お前と一緒に帰りたいんだ!!!!」
俺は雪姫の前で跪き、手を差し出す。この手を取ってくれ雪姫!
きゃーきゃーと周りの女子が騒ぐ中、雪姫はさらに顔を赤くする。
それでも、おずおずとゆっくり自分の手を俺の手に近づけていく。もう絶対にお前を離しはしないぜ。
「おにぃ?」
その声が聴こえた瞬間に、俺は雪姫の手を思い切り弾き飛ばして公衆の面前で土下座の姿勢になる。
はっ! 体が勝手に。そんなバカな。遺伝子レベルで逆らえない相手とは刻み込まれているというのか。
チラリと上を見上げるとやはりそこには凪の姿が。うわぁ……どす黒いオーラが出てる。やばぁ。
「ねぇ。ここで何やってんの?」
「いや、何と申しますと……えっと、もしかしてぇ……見てました?」
自分の兄が放課後に女子小学生に跪いて一緒に帰りたがってるところを凪が見ていたとしたら命の危険がある。自分で言ってみて虚しくなったがまずは確認だ。
「わからないから聞いてんの。おにぃの口で言ってみてよ」
おや? どうやら凪は見てなかったご様子。こんな奇跡あるか? みんな! 俺の命は助かるぞ!
「たまたま通りがかっただけでな? みんな高等部の人を見るのが珍しかったんだろう! ははは~こんな人だかりができちゃって、人気者は辛いなぁ!」
「そんなに人気者なら晒し首にしてあげよっか?」
「すみませんでした」
おい! こいつ絶対一部始終見てただろ!! じゃねーと普通女子小学生がここまで瞬時に殺気を放てるわけないんだよ! この嘘つき!
ええい! ここにいては本当に殺される! かくなる上は……
「きゃっ!」
「あっ! ちょっ、おにぃこら!」
俺は雪姫をお姫様抱っこで抱きかかえてその場から無理やり逃走することにした。寿命をただほんの少し伸ばしただけだが、ここで死体を晒されるよりは百倍いい。
後ろからはさらに女子たちからの「きゃ~」という叫びと、一名からの「殺」とか「死」とか「呪」とかが組み合わさった恐怖の言葉が飛んでくる。うぅ、こんなはずじゃなかったのに……。怖すぎるよぉ。
~☆☆☆~
「ふぅ。こんなところでいいだろ」
俺は学校から距離が取れた家の近くの公園に着くと抱えていた雪姫を下す。
「悪いな」
「い、いえ……」
雪姫は地に足を着くと、ハンカチで顔の汗を拭う。
(ドキドキしました……初体験です……)
真っ白な肌の頬がほんのりと赤くなった雪姫はすっかりと自分の世界に入ってしまっていたが、そんなのはお構いなしに楓はさっそく話を切り出す。
「雪姫。ここに連れてきたのは他でもない。お前に頼みがあるからだ」
「私に頼み……ですか?」
公園に連れてきたのは何も凪から逃げていたわけではない。いや、半分くらいはそうなんだけど、それどころか逃げてる最中はそのことしか頭になかったけども。
ともかく!
「放課後、もしも雪姫の都合が良ければ俺たちの練習に付き合ってほしいんだ」
「練習にですか?」
「ああ、そうだ」
雪姫のフィクソとしての経験はこれからの成長が重要になる詩織のためになる。
そしてそれと並行して雪姫との仲を縮め、引退した原因やチームへの勧誘をしていくという一石二鳥作戦だ。
「別に構いませんが」
「本当か!? よっしゃ!……ちなみにその流れでフットサル部に入ってくれたりは……」
「嫌です」
「それは断固拒否っすか……」
チームに入ってはくれないくせにフットサルはしてくれんだよなー。だからこそ原因がわからん。まぁ今のところは作戦の第一段階は成功したと喜んでおこう。
ちなみになんで練習するのに体育館じゃないの、という疑問があるだろうが、残念ながら今日はフットサル部が使える日じゃない。
今は大事な東京予選中だというのに。強豪だとここら辺は融通がきいたりするものだろうかと嘆くばかりだ。
しかし、嘆いて終わりにしてはならない。なんとかして練習しようと考えたのがこれだ。
というわけで。
「おー! 今日はここで練習するのかー!」
近衛メンバーを公園に呼び寄せましたとさ。亜子は体育館じゃないのが新鮮なのか、来て一番に叫んでる。近所迷惑になるから出来るだけ声は抑えてね。
「おにぃは死ぬ覚悟が決まったてことでいいの?」
近衛メンバーを呼んだということはもちろん絶賛殺る気満々のマイシスターも来るわけで。近所迷惑になるから俺の死体を出すのは出来るだけ抑えてね。
そして、呼んだ中になゆちゃんは……いない。
別に仲間外れにしているわけではない。俺は呼んだんだが……
『ごめん楓。なゆは今だけ僕が面倒見るから、その練習からは外してくれると嬉しい』
『外すってお前な……』
『今のなゆは練習しても何も身に付かないし、またわざと手を抜きかねない。大丈夫。こっちで鍛えておくから』
そう兄に言われると渋々だが引き下がらざるをえない。試合までに決着がつけばいいが……
なゆちゃんが手を抜く癖があることはみんなには言っていない。誤解を生む可能性があるからだ。
彼女は決して面白くないからとか、嫌だからとかでそんなことをやっていない。
けれど、なゆちゃんだけ兄からの特別メニューをこなしているとは伝えている。
ひとまず本日集まった中で、
舞依と凪は俺と攻撃の練習。
詩織と亜子と愛実は雪姫と守備の練習だ。
亜子が守備の練習とは意外と思われるかもしれないが、正直なところは守備の方の数合わせに近い。愛実はゴレイロだしな。まぁ亜子にも守備の意識を持ってもらいたいし結果オーライだろう。
さぁ練習開始だ!!




