☆③─38話 じーにあす少女
東京予選2戦目まであと二日。
今日はフットサルの練習日だ。さぁ気合を入れて──
の、前に、みんな知っているか? 俺は高校生だ!
え? 知っているって? 今更なんだ、って?
ははは。悪い悪い。だってさ、
「桜庭くん。あなたは放課後補習と反省文を書きなさい」
「はい」
中間テスト。返ってきました~♡
あの全部ボールペンで書かれたやつ。そうあれあれ。
なんと全部見事に30点以下。しかもボールペンで受けていたことが今頃発覚し、反省文まで付いてきた。わーお。これは、これは……なんとも。
「楓ってバカだったの?」
「いや、あの……」
昼休み。昨日のサッカー部での練習で仲良くなれた慧は俺と飯を食おうと誘ってくれた。。そこまではすごく嬉しいんだが開始早々とんでもないことを言われた。
「入学してからというものの、フットサルのことしか考えてなくて勉強マジで全然してなかったんだよ……。普段はまだ半分くらいの点数は取るんだが」
「勉強教えてあげよっか?」
慧は顔を近づけてきてクスっと笑う。
中性的な見た目をしているのでそれについついドキッとしてしまうが、って……いやいや、男に何をドキッとしているんだ。
「……慧は、成績いいのか?」
「まぁ全部80点以上取るくらいには」
「天才か?」
「楓がヤバいだけだよ」
俺は「くそ~」とうなだれながら、慧はその頭をポンポンと撫でてやりながら、その無表情な顔でほんの少しだけ薄く笑む。
そんな二人の様子を、離れた場所で一緒に昼食を取っていた夏月と秋乃は見ていた。
「白戸さん。2人すっかり仲良くなりましたね」
「そうね。まぁ、サッカーやってる者同士意気投合は早いんじゃない? 知らんけど」
夏月はどうでもいいとばかりに用意していた弁当を食べていた。
そこで秋乃の眼鏡の奥の瞳がギラリと光る。
「……桜庭くんと四井くん。どっちが攻めでどっちが受けなのかな」
「え」
唐突というか、突飛な問いかけに夏月は箸で掴んでいた唐揚げを落としてポカンとした顔をする。
攻め? 受け? 何の話だ?
サッカーの話なんだろうか。彼らの共通点で言えばそれしかないし、自分たちも一応フットサル部のマネージャーだ。
「あ~……えっと……四井の方が攻め(?)なんじゃない?(ポジションFWだし)」
「白戸さんは『けい×かえ』かぁ……なるほど」
「へ??? なんて???」
「なかなか良い目をしているね白戸さん」
ふふふと不敵な笑みを携えながら、話の一割も理解できていない夏月はとりあえず頷いておいた。
放課後。俺は教室で一人寂しく反省文を書き、先生が用意した補習プリントをやっていた。
今日はフットサルの練習日。本当はこんなことをやっている暇などないんだ。次の試合が目前なのに俺は一体何をやっているのか。
しかし、練習の方はひとまず心配はないかも。というのも、俺が補習ってこともあって慧をフットサルの練習に向かわせておいた。
「向かわせておいた」とは言うが、実は慧にはうちの部のコーチになってくれないかと打診していたのだ。
『フットサル部のコーチ?』
『そうだ。サッカー部が休みの時だけでいい。もちろん来たい日だけでも構わないから、お願いできないか?』
『別にいいよ。なゆが行ってるから興味もあったし。それに、楓もサッカー部に来てくれたしね』
『すまん……助かる』
あの子たちへの紹介は白戸と綾瀬に任せておいた。根暗な俺よりは良い紹介をしてくれるだろう。そんなわけでそっちの心配は今のところ俺にはない。というか、まだ時間的にも練習は始まってないしな。俺が早く補習を終わらせて間に合えば問題もなし。
そうして俺が課題と向き合い、少しした時だった。
(うーん。わっかんねぇなここ)
俺の補習プリントは半分くらいで止まる。
なにせ勉強していなかった人間なのだ。これをやっとけと言われても、わからんところはわからん。先生でも教室に居てくれれば質問して解けるだろうに。その先生は職員室に引っ込んでしまってるので助けを得ることもできん。わざわざ質問しに行くのも面倒だしな。
俺がどうしようかと教科書を開いていると、
「おこまりのごようす」
「うわぁ!!!!」
ひょこっと机の前から生え出るようにニョキっと現れたのは、いつも見慣れているエンジェルボディに聞きなれているエンジェルボイス、まさかまさかの我が部のエンジェル四井奈夕葉──なゆちゃんだった。
「びっくりした。なゆちゃんか」
「いえす。にーたんがおそいのでむかえにきました」
ああ、なんて可愛いのだろうか。こんなの無垢な小学生いる? にーたんが遅くて心配だから(心配とまでは言っていない)迎えに来たって♡ は~可愛すぎんか?
「にーたんなにをしてますか」
「あ~、えっとね。テストの補習っていってね。にーたんどーしようもないバカだから先生に命令されてやらされてるんだ~」
うん。もうバカでいい。なゆちゃんとのこの時間が生み出された要因が己のバカさ加減なら、甘んじて受け入れよう。ここに宣言する。俺はバカです。
「どれどれ、にーたんしつれい」
「うぉっ! お、おぉぉぉ……!」
なゆちゃんはぴょんっと俺の懐へと飛び乗り、机と俺を挟む形で膝に座ってきた。あ、あぁぁ……脳がおかしくなる。今、国宝が俺の膝に乗ってるぅ……!!
や、やばい。ひ、膝が、膝が震えてきた。やばいて。あまりの可愛さで俺の体がおかしくなってきた! おかげでなゆちゃんがブルンブルン上下に揺れている。にーたんチェアは(精神)崩壊寸前です! 誰かこの震えを止めてぇ!!
しかも目と鼻の先にあるなゆちゃんヘッドからはとても良い匂いがする。ありとあらゆる神経を魅了してくるこの愛くるしい存在は本当に人の体から生まれてきたものなのだろうかと疑わしくなってくる。人が産めるもんじゃねぇこれは! 神だ! 神が産んだんだ!!
と、絶賛アホみたいなことを考えているバカが高速の貧乏ゆすりをしながら薬でもキメているのかとドン引きするような顔で混乱していると、
「はい。にーたんできました」
「はい? できた?」
「にーたんのほしゅー。おわりました~」
「い、いやいや、そんなことが……」
思わず我に返ってしまう。まさかな……と、なゆちゃんの頭に顎を乗せるような形で目の前の問題用紙を覗き込むと、
「え」
たしかに、俺の問題用紙はびっしりと埋められている。だからなゆちゃんなりに解答はしたんだろうが……
(あ、合ってる……のか?)
とりあえず埋めてみたってやつかと思ったら、よく見ると計算式もちゃんと書かれてる。xとかyとか……おいおい、小学生が因数分解ちゃんと解いてるぞ……!
「なゆちゃんこれ──」
「じゃあにーたんまたねー」
あ、行っちゃった。
しかし、これはまた意外な特技か? なゆちゃんはお勉強が得意なのだろうか。いやいやここまでやれるなら得意ってレベルじゃないだろ……! スポーツもできるし勉強もできるし完璧な天使だなぁ。
部活途中にでも慧に聞いてみようか。いい話題を手に入れたぞ。
そこからなゆちゃんの協力(?)も得て課題は完了。あとは反省文もちゃちゃっと済ませて(反省度0)、職員室に提出しに行った。
なゆちゃんと会ってから30分くらいかな。少し手こずってしまったが、これでようやく練習に合流できそうだ。
慧に任せている手前、早く行ってやらなければ。
さーてと、どんな感じに練習は進んでいるかなーと。
と、と、と。
「なゆ。いい加減にしなよ」
「…………にーに、嫌い」
と~!? な、なんでこんなことになってるの~!?
体育館の中でむむむ、と睨み合う四井兄妹を前に、桜庭楓はムンクのような顔をして叫びをあげた。
最近、ちょっと大変になってきて更新の間が空くようなってしまって申し訳ございません! 頑張って空きすぎないようにしますので……!!!!




