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すぴーどすた~☆ ~近衛学園初等部女子フットサル部~  作者: 四季 雅
第1章 ☆チーム結成編!☆
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☆③─37話 『銀世界』



 その日の夜。夕食後少し時間が経って俺は久しぶりにランニングをしていた。



 サッカーをやって、体がまだ動きたいって叫んでいるんだ。もっともっとやろうぜって。



 くそ。俺自身、正直体が熱くって仕方がない。





 そうだよな。俺、またサッカーしたんだ。





 さっきから同じことばっかり反芻(はんすう)している。まるで玩具を買ってもらった子供のようだ。




 でも、それくらい、俺にとっては興奮することなんだ。


 現にランニングだってのにサッカーボールまで持っている。何やってんだ俺は。



 浮かれすぎだろうけど、これくらいがちょうどいいよな。半年間を取り戻すには。



 俺は意気揚々と公園に入っていった。

 ボールを蹴るにはここが一番だ。夜なら誰にも見られないしな。



 どうせなら凪を呼んでも良かったけど、まだ復活具合がどうかわからない。呼んだはいいが、パスやっぱりできなくなってましたじゃシャレにもならんし、またわんわん泣かれる。良い頃合いを見て凪とは一緒にサッカーをやろう。俺がサッカーやってることがあいつのモチベーションでもあったらしいし。




 と、思っていたら。公園には人影が。


 あ、そうだった。ここは舞依もトレーニングでこっそり愛用している場所でもある。来栖谷(くるすだに)との練習試合が近づいていた頃はよくここで出会ったものだ。




 どれどれ。いっちょ舞依にもパスを出してやるとするか。







「あ。楓様」


「…………」



 夜の中でもはっきりと見える白の妖精もとい、柊雪姫。なんでお前がここに。っていうか、待て。待ってくれ。服が制服なんだが。まさか……





「道に迷ってしまって家に帰れなくなってしまいました」


「ですよねー!」




 皆はありえんと思うだろうが悲しいかな、俺はもう慣れっこ。こんな異次元な状況にもすぐさま順応できるようになっちゃった。人間とは恐ろしいものよ。




 しかし。今はもう午後8時。いくらなんでも家の人も心配しているだろう。



 仕方ない。ここは年上である俺が面倒を見てやるとしよう。



「安心しろ。いやもうすでに安心とは程遠い感情だろうけど。俺はスマホを持ってきてる。家の電話番号は? 俺が連絡してやるから」


「あ。私もスマホ持っていたことを思い出しました。ありがとうございます楓様」


「…………」




 そう言ってピッピッピと操作して電話をかけて迎えを呼んでいた。


 …………おい!!




「いたたた! 何をするんですか楓様~」


「なんとなく今すごいイラっとしたからだ」



 俺は雪姫の頭をグリグリとグーで挟み込む。今のは俺じゃなくともキレるだろ!



 とりあえずこれで雪姫の方の問題は解決。時間が経てば回収されることだろう。


 それまで暇なので、俺が持ってきたボールを蹴り合いながら迎えを待つことにした。



 フットサルをしない理由は怪我でないというので、これくらいは大丈夫だろう。



 サッカーを経てトラウマを克服した俺は、雪姫とも問題なくパスを送り合う。どうやら俺のトラウマは今のところ解消できていたみたいだ。



 パスし合うだけでは暇なので、その間に世間話でも。




「楓様は不思議な方ですね」


「俺が?」


「いつも私が困っていると現れます。王子様ですね」


「どっちかというと逆で、俺の前にいつもお前が現れるんだけどな」



 雪姫は神出鬼没だから出会うことに予測など無意味。悪いがこっちとしては出会うつもりもないのに出会うことが多々ある。というか出会いの全てがまさにそう。




 しかし……こうして蹴り合っているとわかるが、さすがは元全国7位。「止める、蹴る」だけでもレベルが違う。さっきから実は探る意味でもわざとパスの速度を変えたり、取りづらいパスを送ってみたりとしているが慌てる様子もなければブレもない。



 しかもこっちに送られてくるパスも綺麗だ。収まりがいいし、こっちのことを常に考えて送ってくれている。……ポジションは詩織と同じフィクソだったか。納得だ。


 よりうちのチームに入ってほしくなるな。これなら。




「なぁ。前に言ってたが、雪姫は天下原乃蒼と、今の全国1位と対戦したことがあるって言ってたよな」


「はい。言いました」


「天下原の方は色々と話を聞いたことがある。その全国1位の方の実力はどうなんだ? どんなプレーをする?」



 俺は今のチーム作りの方が忙しいせいか、普段他の選手の情報を集めることはしない。だが、せっかくの機会だ。聞いておいて損はないだろう。なにせ、個人ランキング1位なんて、全国制覇にするには絶対に倒す壁になるわけだしな。





「一言で言うなら、『止める、蹴る』の究極形と言いましょうか」



「『止める、蹴る』の究極形?」


「フットボールにおける基本中の基本を、人類史上最大まで極めた結果。まさに『フットボールにおける一つの解答』……それが彼女です」


「おいおいベルカンプとでもいうのか?」


「実際に見てみればわかりますよ。そんな話じゃなく、あれは人間のレベルを遥かに超えていますから」



 それはまたなんとも大げさに聞こえる話だな。天下原の時も似たような感想を聞くし、全国トップになるとそんなんばっかりか。『人間』じゃなくて『化物』扱いの方が多い気がするぞ。



「それは雪姫でも止められないのか?」


「前にも言いましたが、全国ランキングは5位以上になると桁が違うんです。現に、彼女らはそれ以外のチームには負けた記録が存在しませんし、去年から顔ぶれがまったく変わっていません。私じゃとても相手になりませんね」



 ということは、今のランキング5以上の連中は5年生の時から先輩たちを抑えて頂点に君臨していたというのか。天才はいつだって早く頭角を現すが、それにしたってなぁ……。








「じゃあ、俺は止められるか?」





 雪姫からのパスを止め、そう問う。


 そのまま雪姫に向かってゆっくりと歩き出す。まるで間合いを詰めていくように。




 いい加減。そろそろ知りたいんだ。どうして父さんは雪姫を加入させたいのか。


 まさかランキングが高いから、なんて安直な理由ではないだろう。どうしても近衛学園に必要だからだ。



 その実力を、見てみたい。



 お前が、本当に苦労して獲得するべき選手なのかを。




「今の楓様なら、恐らくは」



「大した自信だな。もちろん手加減はするが。……それとも見せてくれるのかお前の『銀世界(ぎんせかい)』とやらを」



「よく知っていますね。私のことを」




 さっきは他の選手ことなんて調べない、とは言ったが。雪姫は加入を目標にしていることもあって、さすがに少しは調べておいた。



 雪姫はディフェンスに優れた選手。ただそれだけであれば全国にもはいて捨てるほどいるだろう。



 だが、彼女には『銀世界』と呼ばれる彼女独自のディフェンス技術があるらしい。それが一体何なのかはわからない。だから、実際に肌で感じてみないとな。




「いいか?」


「いつでも構いません」



 俺は徐々に歩く速度を上げていき、互いの間合いに入ると、空気が一気にピリッ……と張り詰める。



 高校生と小学生。一見すれば結果なんて分かりきったマッチアップ。しかし、そんな年齢差なんて吹き飛ぶほどのプレッシャーが彼女からは感じられた。




(すげぇな。ビリビリと来やがる……!)




 いっつもボーっとしているくせに、フットボールの勝負となった瞬間に、殺気でも出してるんじゃないかってくらい真剣な表情になりやがった。



 俺もこれまで全国の色んな奴らや、世界とも戦った経験がある。もちろんどいつもこいつも強かったし、気迫で言えば俺が怯んでしまうような奴もいた。



 雪姫は……小学生だぞ? それなのに、もう大人のプロとなんら遜色のない迫力を備えている……!



 これが、今のフットサルの世界。


 小学生であろうと、全国のトップレベルに君臨する者はプロや世界レベルの気配を身につけている。

 どれだけ厳しい世界なんだと高校生の俺は突っ込みたくもなるが、今はこっちだ。





 さて、どうするか。



 「勝利のルート」を使わないのは当然として、どう抜くかだな。



 雪姫の実力がわからない以上、手加減するとは言ったが小学生と思ってやると瞬殺されそうだ。事実として今向かい合っていても雪姫は俺の体とボールの両方を視界に入れていて隙が無い。この時点で今日やった高校生のサッカー部のどいつよりも守備は上手そうだぞ。簡単に一個のフェイントではぶっちぎれないな。



 足と、抜こうとする体の向き……あとは左右だけじゃなくて前後も入れるか。


 計3つを複合したフェイント。これは楓にとって十分に雪姫を警戒した結果だ。




 前のサッカー部でのゲームでもそうだったが、基本的に楓はいくつかのフェイントを織り交ぜることは少ない。


 楓からして相手が弱い場合も多いが、ダラダラと自分が時間をかけて一人抜くよりもスピードに乗った状態で「勝利のルート」を使って一回で瞬殺した方が早いからだ。「負けない」楓にとって、試合であればどうしても「効率」を考えてしまう。





 だが、ことこの勝負においては純粋な1対1。


 とにかく抜くことだけを考えられるため、いくつものフェイントを複合して翻弄してやればいい。




 そしてほんの少しでも「隙」ができれば、俺なら抜ける。



 そう信じて楓は、



(いくぞ……!)



 フェイントをかけ──







 シュッッ!!!!!!!!!!







「なっ!?」



 その瞬間、いいや()()



 一瞬にして自分の目の前を白銀の閃光が駆け抜け、俺はいとも容易くボールを奪われた。



(なんだ? 今、何が起こった?)



 俺はフェイントをかけようとした。いや、正しくはかけようと「()()()」。




 そう。「思った」瞬間に、雪姫はボールを奪ってきた。



 俺は当然のごとくそれを避けようとしたんだが……その時の俺の体はまるで、凍り付いたかのように()()()()()()



 これが、雪姫の『銀世界』……




「どうでしょうか? これが私の守備です」


「…………」



 楓は今起きたことを必死に分析している様子で、雪姫に声をかけられたことに気づいていないようだ。


 雪姫は無理もないと頭を振る。全国の選手たちもそうだったからだ。自分のこの守備を見せるとどうして奪われたのかとキツネに騙されたかのような顔をする。おおよそ、初見でこれを見破れる者などいない──





「……なるほどな。…………『眼』か」



「ッ!! 楓様……わかったんですか? 今の守備が?」


「ああ。最初は戸惑ったが、あの絶妙なタイミングが狙われていたとすると……それしかない」




 雪姫は驚愕した。確かに自分の守備は「とあるタイミング」をわざと狙ってボールを奪いに行っている。そして、それを自分の『眼』で見極めている。


 まさかそれをこのたったの一回で見抜かれるとは思いもしなかった。なにせ、自分がこれまで磨きをかけて全国7位に上り詰めるほどの技にしたのに。




(楓様も相当な選手であるのは知っています。が、まさかこれほどとは……)




 先は楓の瞬殺という結果に終わった。

 しかし、カラクリがバレた以上は同じようにはいかないだろう。バレていても対処が難しい技ではあるが、楓ならもうすでに対策を考え付いていてもおかしくない。




「……すごいな。まさか俺もあんな簡単にボールを奪われるとは思わなかった。尚更チームに欲しくなったぞ」



「熱烈な勧誘は嬉しいですが、お断りします」





 俺の想いは強くなる一方、雪姫の考えは断固として変わらないようだ。




 雪姫がチームに加入してくれれば、守備の厚みが段違いである。しかもこうやって1対1でボールを奪う技術があるならここぞという時に相手のエースを任せられるし、カウンターの起点にも出来る。高校生の俺から軽くボールを奪えるとなるとブランクがあるであろう今でも相当な実力なのは明白だ。



 近衛学園のチームに存在しない守備のスペシャリスト。どうしても欲しいところだ……!




「どうしてもダメなのか? フットサル復帰は」


「はい。……今の守備が、半分だけその答えです。私がいれば、チームに迷惑をかけますから」



 なんだよそれ。チームに迷惑って。



「それでもな──」





「お嬢様~!!」




 俺がまだ説得を続けようとした矢先、それを遮る声が夜に響く。なんだなんだ!?




「あ。来ました。迎えです」


「心配しましたぞ~! お嬢様~!」



 おいおいと泣きながら雪姫にすがりつく一人のお爺さん。傍から見ればロリに引っ付くお爺さんと事案だが、身内……なんだよな。



「爺や。離れてください。楓様の前で恥ずかしいです」


「うぅぅ、爺やは、爺やは、夜通し探していたのですよ! 携帯に電話をかけても繋がりませんし……」


「すみません。鳴っていることに気づいていませんでした」



 おい。さらっと聞き逃せないことを言うな。ここにきてさらにポンコツ具合を増やすなよ。ツッコミが間に合わんぞ。なんでそんなに迷子になる性能が高いんだお前は。



「それでは楓様。本日はありがとうございました」


「おぉこれはこれは。貴方が楓様でございますね。大変ご迷惑をおかけしました」


「い、いえいえ……」



 こうしてみると、本当に雪姫ってお嬢様だったんだな。うちの初等部はお金持ちが多いとは言うが、執事みたいな人までいるとなるとさすがに面食らう。



 凪とかこれでイジメられてなくて、なんなら友達も多いって地味にすごいよな。なんで平凡な家なのにあの中でカースト上位に君臨できているのかがわからん。あれかな? やっぱり暴力なのかな? 暴力は全てを解決するのかな?



 俺がおかしなことを考えていると、雪姫は構わず帰って行った。




 しかし……気になるのはあいつの言っていたことだ。



 自分がいるとチームに迷惑がかかる。




 それはまるで……「勝利のルート」に悩んでいた俺のことのような。


 雪姫自身にそんな能力があるとは思わないが、それとは違う「何か」があるせいでデメリットが生じる……?



 最近になって雪姫の勧誘を諦めつつあったが、今日の実際に目の前で感じてみてわかった。


 欲しい。ぜひチームに来てほしい。




 それ以上に、あいつと一緒にフットサルがしたい……!




 俺の中の想いの炎は薪をくべられ、再び燃え上がった。

 絶対に加入させてやるぜ、雪姫……!



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