☆③─30話 再び、サッカーへ
~放課後~
というわけで、サッカー部に行くことになった楓は、教科書や筆記用具を片づけた後、部へと向かう準備をする。
「ねぇ。ほんとに行くわけ?」
俺が準備をしていると、白戸が声をかけてくる。
「幸か不幸か、今日はフットサル部は休みだからな。予定は空いてる」
「や、そうじゃなくて……」
なんだ? あのデリカシーの無い白戸にしては珍しく言いづらそうな顔をしているぞ。何が言いたいんだ。
……ああ、そういうことか。
「俺がサッカーに行くことか。お前もお前なりに心配してくれてたのか」
俺にはサッカーにトラウマがある。過去、俺のエゴのせいで仲間を全員退部させてしまったことから、人に対してパスが出せないというトラウマが。
こいつはそこまで知らんだろうが、過去にあった出来事くらいは父さんから聞いててもおかしくない。
「心配してくれてありがとな。でも大丈夫だ」
「心配とかじゃなくて単純に今日の学級日誌担当あんたなんだけど。それ持っていってから部に行けって話」
「………………ああ、そう」
こいつに何かを期待していた俺がバカだった。俺は白戸から日誌を受け取り、サラサラと今日の時間割を記入していく。
「でも、そっちも意外だった。あんたってサッカー避けてたじゃん」
「そのことなんだがな」
俺はスマホを起動させて白戸にとあるトーク画面を見せる
それは今日の朝送られてきた父さんとのやつだ。
父さん:『サッカー部に来たれ! 新入部員大歓迎!!』
楓:『急にどうした』既読
楓:『おい既読無視するな』既読
「あ~……」
「な? 絶対何かあるだろこれ」
俺も最初はサッカー部に来てくれと言われた時は嫌だった。けど、慧と会話していた最中にこれを思い出した。そう。決して下心だけではないんだ。決してな。断じて決して。
奴め……また何か企んでやがる。正直何もないならサッカーをやるのはまだ怖いが、そこに父さんが絡んでいるとなれば話は別。たとえ鬼が出ようと蛇が出ようと行ってみないとな。
「はぁ……じゃ、私も行く」
「え? お前が?」
これも白戸にしては珍しい。いつもなら「あっそ。じゃ、勝手に行ってくれば、とか言ってきそうなものなのに。
白戸がいつにもまして優しいぞ!?
「これ」
「ん?」
そう言って白戸は俺にスマホの画面を見せてくる。
それは父さんとのトーク画面だった。
『サッカー部に来たれ! 新入部員大歓迎!!』
いやお前も来てたんかい!! それはよ言えや!!!!
そんなこんなでいつも通りだった白戸と共に、高等部のグラウンドへ赴く。
そこでは当然だが、サッカー部の練習が始まっていた。
……懐かしいな。俺もちょっと前まではこんな練習をしていたもんだ。
「ねぇ」
「なんだ白戸。何か言いたげだな」
「今のあんためっちゃお爺ちゃんみたいな目してた。マジでウケるんだけど」
「ウケんでよろしい」
いちいち茶々を入れるな。ちょっとくらい良いじゃねーか。俺にとってはそういう気持ちにもなるもんなの。
「おぉ!! 桜庭くんじゃないか!! 本当に来てくれたとは!」
「あ……えっと」
「阿漕優だ」
あ、そうだった。たしかサッカー部のキャプテンの。そういえばこんな人いたなー。懐かしいキャラだったから忘れかけてたよ。随分前に俺をサッカー部に勧誘しに来た人だ。
「楓。来てくれたんだ」
「おう。個人的な野暮用もあってな」
俺はそんなキャプテンよりも、その横にいた人物に挨拶をしておく。勧誘した奴が来たと言うのに無感動というか、無表情なままの四井慧。なんだかこういう表情に出ないところはなゆちゃんと似ていると思ってしまう。
さてこれからどうしたもんかと思っていると、キャプテンの阿漕優はパン! と手を鳴らし、
「桜庭くん。好きに練習は見学してくれていいよ。……そうだ! しばらくは慧と二人でボールを蹴り合ってくれて大丈夫だ。見るだけじゃ暇だろうしね」
「キャプテン。でも」
「大丈夫だ! 監督が来るまでなら問題ない。それに慧も話したいと言っていただろう?」
「わかりました」
とりあえず俺もそっちの方が助かる。来たとはいえ、いきなり練習に入れとか言われたらどうしようかと思った。
監督さんやチームの皆には悪いが、少しばかり慧を借りさせてもらうか。
「じゃあ、あっち行こうか」
「おう」
慧に連れられて、グラウンドの隅の方へ移動する。白戸も置いて行かれてはさすがに気まずいのか、俺の後ろからついてくる形だ。
ちょうどいい場所が見つかると、俺は慧にボールを投げてやり、慧はそれを蹴り返して俺の手元に返す。そんな単純なアップを繰り返しながら時間を潰す。まぁ、この練習もしっかりボールの芯を捉えるちゃんとした練習でもあるわけだが。
白戸は少し離れてつまらないだろうに座って見学している。あ、今欠伸した。もう帰ればいいのに。
「ねぇ楓はなんで今サッカーやってないの」
「あ?」
ボールを蹴り返してきながら、よせばいいのにそんなことを聞いてくる。なんでそんなに俺のことを知りたいのか。
「……お前だって知ってるだろ。俺の過去を」
なんせ俺の処刑具合は全国でお披露目済みだ。俺がそんなに有名ってんならその悲惨な最期まで有名なはずだからな。
「まぁ……ね。よくまだフットボールに関われるなとは思うよ」
「勧誘してきた奴が普通それ言うか?」
慧は自分で俺を引っ張ってきたくせに随分な言い草だ。なんだかマイペースというか、こっちの調子も狂ってくるな。
「フットサル。なゆは、ちゃんとやってる?」
今度も慧が質問してきた。俺は初対面ではあまりベラベラこっちから喋ったりはしないので、それは構わないが、やっぱり兄としては妹がどうなのか気になるもんか。
俺なんか凪が初等部で俺のこと何言ってるかわからんから聞くのも怖いのに。それぞれ違う兄妹の形とは恐ろしいものだ。
「おう。頑張ってくれてるよ。意外って言ったら怒るだろうけど、任せた役目をちゃんと理解してこなしてくれるし、体力もある。スポーツに向いてるかもな」
俺は贔屓目なしでなゆちゃんについて思ったことを言った。
普段の練習でも、言ったことはちゃんと理解するしすぐに行動に移せる。来栖谷との試合でも守備専門とフィニッシュの役目をこなした。こっちは交代がロクに使えないのに最後まで走り切れてるしな。
「なゆとは昔から一緒に走ってたりしたからね」
「なるほど。どうりで」
サッカー部の兄と一緒にトレーニングか。それならあの意外な体力の多さも頷ける。
フットボールに対する理解度も、兄の試合を見てたりとか、一緒にボールを蹴ってたりとかからか?
「なゆに何かおかしなことはなかった?」
「は? おかしなこと?」
突然、慧は変なことを聞いてくる。
「お前こそおかしなことを言うな。それはまたどういう……?」
「……何もないならいいよ」
「強いて言えばあの異常な可愛さにはいつもにーたんとして悩まされてるってことくらいかな」
「楓がおかしいことは十分にわかったよ」
何もおかしくなんてない。むしろ当然だとばかりに首を傾げる楓に慧ははぁ……と嘆息する。




