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9 ヒロインは救いたい(ミレイユ視点)

ヒロイン・ミレイユ視点です。


 うまくいかない。なぜなの。


 私は“ヒロイン”で主人公。素敵な男性を選ぶ立場。救ってあげる立場なの。

 そう信じていたのに……。


 自分が特別な女の子だと知ったのは、まだ子どもだったころ。

 事故にあい、意識を取り戻したお母さまの様子がおかしくなったとき。


「ちょっと待って。王弟ハイラム殿下に、パスカル王太子殿下……って、嘘。えっ、ミレイユって、まさか……」


 ベッドの上でわなわなと震えながら私を見るお母さまは、恐ろしい形相をしていた。

 お母さまはこれまで、いつもニコニコと笑顔を浮かべる朗らかな人だった。私を睨むなんて初めてのことで凄く怖かったわ。

 何かに取りつかれたように意味の分からないことを話すお母さまが、まるで知らない人みたいに見えた。もしかすると事故で本当のお母さまは死んでしまって、別の人に変わってしまったのかもしれない、なんてあり得ないことまで考えたの。


「ヒロインの母に転生しても意味がないじゃない! あぁもう。私がパスカル様を攻略したかったのに!」

「おかあさま?」

「あんたは良いわね。ヒロインなんだから……!」


 お母さまが言うには、この世界は母の前世にあった『すまほげーむ』の中の世界だという。そして私は“ヒロイン”らしい。

 お母様の一番の“推し”はパスカル王太子殿下。一年ほど前に立太子した本物の王子様だ。子爵令嬢の私からみると雲の上の人のように思うが、お母さまが言うには、私は彼の孤独を癒し、救うことのできる唯一の存在なのだという。


「パスカル様の妹アデレードはすごい高慢で残忍な女なの。そして婚約者のラヴィニアは選民思想の強い我がまま令嬢。パスカル様は王弟のハイラム様ぐらいしか心を許せる人がいなくて、ずっと孤独なのよ」


 アデレードというのは、きっと王女様のことだわ。王太子様の婚約者も、きっとすごく身分の高い人よね。王女様や高位のお嬢様をこんな風にけなすなんて、きっといけないことなんじゃないかしら?


 でもお母さまはそんな私の疑問を「いつかあなたが王太子妃になるのだから大丈夫なのよ」と言って気にもとめない。

 でもお母さまの言う話を聞いているうちに、だんだんと私は自分が「特別」な存在なんだと理解していったの。


「本当に使えたわ!」

「私の言ったとおりでしょう?」


 子爵邸の庭師が怪我をしたとき、お母さまが言うとおりに祈ったら体の中から力が溢れて、気が付けば傷が治っていた。本当にびっくりしたわ。

 庭師は感激しているし、他の使用人も大騒ぎしている。


(お母さまの言うとおりだった……)


 子爵領の近くに『聖跡』と呼ばれる祠があって、そこを綺麗に掃除して、捧げものをすれば、聖魔法が使えるようになる、とお母さまが言ったの。祠は近所の集落の人から忘れ去られ、荒れ果てていたわ。他の人が同じことをしても無理だけど、私には聖魔法を使う素質があるから大丈夫なんですって。


 半信半疑だったけれど、私はそこに何度も通って、お花や食べ物を供えたの。

 五度目のあと、私は夢を見た。すごく綺麗な人がでてきて、私に感謝していたわ。


「その夢は確定イベントよ! よくやったわ、ミレイユ!」


 夢のことをお母さまに話すと、すごく喜んでくれた。でもそれは多分、私が聖魔法を使えるようになったからじゃなくて。

 お母さまは飛び跳ねながら「これでパスカル様に……!」と呟いていたから、私を通じてパスカル様に会えるかもしれないことを喜んでいたのだと思うわ。

 とにかく、これでどうやらお母さまが言うことはデタラメじゃないんだってことが分かった。


 つまり――私はこの世界のヒロインなんだって。


 だって辛い思いをしている人がいるんでしょう? 私が皆を助けてあげて、幸せにしてあげないと救われないなんて、可哀想だわ。

 さて頑張らないと、と気合いを入れて入学した学園で、私、本当にびっくりしちゃった。だって、お母さまの話と全然違ったんだもの。


 鉄面皮だっていうパスカルはちょっと気難しそうなだけで普通に笑ってるし、悪役令嬢のラヴィニアも見た目はキツそうだけど人格者とか言われてチヤホヤされていたわ。それに、関係が悪いはずの二人は上手くいっていたの。

 ルパートもそうよ。小さなころの事情でひねくれた性格になり、攻略が進むと『ツンデレ』になるってお母さまは仰っていたけど、別にひねくれてなかった。


(どうなっているの!?)


 でも、一人だけは違った。騎士団長の息子コーネリアスは無口だし、あまり表情も動かない。彼だけはお母さまの言ったとおりだったの。


(じゃあ私が救ってあげなきゃ)


 お母さまは推しじゃないコーネリアスの話はあまりしなかったけど、確か彼は家の事情で性格が暗くなったのよね。心を無にして騎士になり、王命のため気の合わない王女を娶らないといけないのよ。なんて可哀想なのかしら。


 私なら彼を助けてあげられる。


 それに、コーネリアスは素敵。騎士を目指しているだけあって逞しくて男らしい。顔立ちだって私の好み。

 元々線の細いパスカルは私の好みじゃなかったのよ。


 本当はみんなの事を救ってあげたいけど、私はコーネリアスを選ぶことに決めたの。


 それから私は頑張ったわ。コーネリアスと近付くために、お母さまの言っていたイベントをたくさんこなしたの。そして生徒会の一員になった。


 コーネリアスはとても無口だったわ。

 でも話しかければちゃんと答えてくれるし、私との会話で笑顔だって見せてくれるようになった。

 ラヴィニアには敬称を付けろとか、馴れ馴れしすぎるとか、しつこく言われたけど、他の皆はそんなこと言わないから無視よ。


(なぜいないの!?)


 コーネリアスを攻略するために、肝心の人物が学園にいない。

 コーネリアスの婚約者、王女アデレード。

 アデレードは事あるごとに私の邪魔してくるはず。でもそのおかげでコーネリアスと親しくなれるのよ。いないと困るわ。

 不思議に思って周囲に聞いてみれば、アデレードは卒業に必要な単位を取り終えていて、殆ど学園にはいないんですって。文武両道の天才で、たくさん魔道具を発明しているって言うじゃない。


 どういうことなの。アデレードはコーネリアスの婚約者で、高慢な王女。王女なのに成績は悪く、王族の権力を使ってそれを誤魔化しているって話だったはずでしょう。

 アデレードがいないから、コーネリアスの好感度が上がらない。


 一応、ルパートのルートと暗殺者レミのルートを少し進めてみた。でもやっぱり私はコーネリアスがいいって再確認したの。

 だってルパートは少し頼りないし、レミは平民だしね。


 私はコーネリアスと距離を縮める努力をしたわ。騎士科の練習を見に行ったり、私の魔法で怪我を癒してあげたりもした。そして――なんと、合同演習では一緒に行動しようっていう私の誘いに頷いてくれたの!


(ゲームではコーネリアスから誘ってくれる流れだったみたいだけど、まぁ二人で演習に行くことは変わらないのだから気にしなくていいわよね)


 きっと、もうコーネリアスは私を好きになってくれたのよ。


 お母さまの話では、合同演習イベントを終えた後は想いを確かめ合い、卒業パーティーで断罪、そして改めてプロポーズになるはず。

 それなのに……。


(ドレスなんて!)


 私へ告白どころか、ルパートのせいでコーネリアスはアデレードにドレスを贈ることになってしまった。


 アデレードに嫌がらせをされていない今のままでは、断罪イベントは起こらないかもしれない。そうなれば、このままコーネリアスはアデレードと結婚することになるんじゃないのかしら?

 無理やり結婚させられるなんて、おかしいわ。

 私がコーネリアスを救ってあげないと。だって私は特別な女の子なんだもの。


「姉上、もう帰られるのですか」

「えぇ。アデレード様のご依頼の品が届くの。早く行かないと」

「あぁ、例のサラマンダーの魔石ですか?」

「そうよ」


 会長業務を引き継いでいたフィンドレー姉弟の雑談が耳に入り、私はパッと顔を上げる。


(サラマンダーの魔石?)


 ラヴィニアはそのまま荷物をまとめて生徒会室を出ていった。

 私はルパートに問いかける。


「ねぇルパート。アデレード様はサラマンダーの魔石で何を作るつもりなの?」

「さぁ? それは僕もよく知らない」


 サラマンダーの魔石といえば、かなり強力な威力の魔石なはず。確かハイラムルートに出てくるわ。強力な武器として使えるアイテムのはずよ。

 私は、とあることを思いつく。


 そうよ。断罪が起こらないのなら、起こせばいいのよ。


(コーネリアス。あなたのことは私が助けてあげる)



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