10 卒業パーティー 1
先ほど卒業式を終え、いよいよ学生生活を終えた私は、そのまま生徒会が準備を整えてくれた卒業パーティーに出席した。
学園の大広間は普段の様相とは打って変わって、パーティーのために煌びやかな装飾に様変わりしている。
会場は卒業生たちとそのパートナー、そして親族来賓が華やかなドレスでさらに場を彩っている。
昨年は自分が生徒会長としてこのパーティーを差配していたのを思い返し、懐かしくなる。今年はラヴィニアがきっと今日の為に奔走してくれていたことだろう。
「アデレード殿下。飲み物はどうされますか」
「あぁ……果実水を」
「承知しました」
私のパートナーをつとめるコーネリアス様はアッシュグレーの髪をパーティー仕様にオールバックにまとめ、夜会用の衣装を身に纏っている。
(ビジュがいい!!)
いつも格好いいが、今日は絵師にこの姿を留めて欲しいぐらい素敵である。
彼は普段と変わらない様子で私をエスコートし、今も隣に立っている。見たところ、何か緊張した様子もなければ、離れたがっているような感じもない。
(ゲームのコーネリアス様は、アデレードをエスコートすらしなかったはず……)
もしや断罪は避けられたのだろうか?
私は今日の日を、何年も前から恐れていた。いずれ断罪され、全てを失い、後ろ指を指される、そんな存在になるのではないか……。
来るかもしれないそんな未来の不安を和らげるために、魔道具を作り続けてきたようなものだ。
しかし断罪が起こらないのならば。
何も失わないのならば。
隣に立つこの人と、夫婦になる――そんな未来が来るのだろうか?
同級生や教師たちと言葉を交わしながらそれとなく会場を見回していると、意外な顔を見つけた。
会場の隅に設置された来賓席の一角。そこに白髪の老人がにこやかな表情で座っている。
「あら、フルニエ伯爵だわ!」
見知った顔に嬉しくなり、弾むような声が出る。
そこでコーネリアス様が足を止めた。特に前に誰かがいる訳でもない。私は不思議に思い、彼を見上げた。
「コーネリアス?」
「伯爵は学園に多額の寄付をされているので、来賓招待リストに名が載っておられます」
「そうよね。去年も招待したけれど、パーティーにはいらっしゃらなかったわ」
「…………恐らく、アデレード殿下の卒業に合わせて出席を決められたのだと……」
「まぁ! それなら是非挨拶に――」
「いえ」
コーネリアス様は、グッと私を引き寄せた。
予想外の行動に、私はよろめき、それを彼が危なげなく支える。ふわりとコーネリアス様の香りに包まれ、一気に心拍数が上がった。
「な、なっ……コ、コーネリアス。一体っ……!」
「殿下。踊りましょう」
「え?」
「殿下は卒業生の中で一番身分が高い。このパーティーにおける主賓とも言えますから、踊るべきです」
そう言われてみればそうかもしれない。
普通夜会では主賓が踊り始めてから、他の参加者も踊る。
断罪のことばかりに気を取られ、他の参加者のことを考えていなかった。
さすがコーネリアス様だわ!
納得した私は音楽に合わせて彼と踊り始める。
そしてコーネリアス様の言ったとおり、私たちが踊り始めると他の卒業生たちもそれぞれ踊りはじめた。
「……強引にお誘いし、申し訳ありませんでした」
「別に、謝る必要はないわ」
彼の提案は的を得ていたし、ありがたいぐらいだ。
長い期間婚約者をやっているので、彼と踊る機会はあったものの、コーネリアス様はとてもダンスが上手くいつも気を抜くとポーっとなってしまう。努めてそれを抑えながら今日の一曲を終えた。
「アデレード殿下。本日は誠におめでとうございます」
「フルニエ伯爵!」
ダンス終わりに声をかけてくれたのは、何とフルニエ伯爵だった。隣には私と同じ年頃の女性が立っている。
学生ではなさそうなので、恐らく伯爵のパートナーなのだろう。
紺色の落ち着いたデザインのドレスを身に付け、眼鏡をかけている。
「この子は孫娘のロザリーナです。是非殿下にお会いしたいと言うものですから連れて参りました」
「まぁ、ありがとう存じます。初めまして。アデレードですわ」
「お、お、お目にかかれて光栄でございます、殿下。ロザリーナと申します」
頬を紅潮させてロザリーナは言った。かなり緊張しているようだ。
「彼は私の婚約者のコーネリアスよ」
「……コーネリアス・マクレガーと申します、伯爵、ご令嬢」
「おぉ。マクレガー侯爵子息ですな。お目にかかれて光栄です」
「は、初めまして……!」
そこで以前のパーティーでの会話を思い出す。フルニエ伯爵の孫娘。まさかロザリーナは……。
「まさか、錬金術の……?」
「そ、そうでございます!」
「そうなのね! 嬉しいわ、私も是非あなたにお会いしたかったの!!」
私は思わず彼女の手を握った。
ロザリーナはフルニエ伯爵から私の話を聞き、詳しく話をしたいと思っていたという。私は感激した。
「実は人工魔石については以前から研究を進めておりまして……クズ魔石をより等級の大きい魔石に変えることができればと思っておりました」
「そうなのね。素晴らしい研究だわ! 資源の活用になります」
魔物の卵やスライムなど、子どもでも討伐できるような魔物から獲れるクズ魔石。それらはほとんど魔力を貯められず、価値がない。装飾品として活用することもできるが、捨てられることがほとんどだ。
しかしそのクズ魔石を、錬金術により価値ある魔石として生まれ変わらせることができれば、大きな変化が起こるだろう。
「……殿下。また飲み物を取ってまいります」
コーネリアス様は小さな声でそう言うと、礼をして離れていった。
私はハッとする。ロザリーナとの話につい夢中になってしまって、彼が分からない話をしていたことに申し訳なくなった。
「ロザリーナ様。今度ゆっくりお話をしましょう。よろしければ研究の成果をお見せいただいてよろしいかしら?」
「ぜっ、是非お願いいたします……!」
また後日、彼女の研究室へお邪魔することになった。
フルニエ伯爵邸の敷地内に彼女のための建物があるのだという。私の離宮と似たようなものだろうか。
さすが、裕福な伯爵家なだけある。
「伯爵、本日は本当にありがとう。ロザリーナ様まで紹介していただいて」
「アデレード殿下のご卒業とあらば、直接お祝い申し上げたく思いまして……お喜び頂けたのならば幸いです」
「ふふ。とても嬉しいですわ! まさか伯爵にお会いできるなど思いませんでしたもの!!」
「…………殿下」
コーネリアス様がお戻りだわ!
私が振り返ると、そこにはコーネリアス様と、ミレイユがいた。
想定していなかった状況に、ひゅっと息をのむ。
ミレイユは華やかな黄色のドレスを着ていた。髪に散らされたパールの飾りが清楚な彼女の魅力を引き立てている。
そんな彼女がコーネリアス様と並ぶ姿は、とても――素敵だった。
(あぁ、お似合いだわ)




