6 断罪後の環境は最高かもしれません
パーティー当日。私は夜会用にドレスアップをしてハイラムを待つ。
離宮まで迎えに来てくれた叔父様は相変らずの美丈夫っぷりだった。
「おぉアディ。今日も麗しいな」
「ふふ。叔父様も素敵ですわ」
社交辞令ではなく、ハイラムは相当格好いい。上背が高く、たくましい体格に、ワイルドな顔つき。確か年齢は三十近かったはずだが、まだ独身ということもあって、ご令嬢からの人気も凄まじいと聞く。
セイイノでの彼はイケオジ枠で、攻略は超難易度が高く、前世の私は結局彼を攻略できなかった。
まぁ考えてみれば、大人な彼からすればまだ学園に通う学生などお子ちゃまにしか見えないだろう。
「レディ、行きましょう」
「えぇ」
畏まった様子の叔父様に笑いがこみ上げながら、彼のエスコートで会場に入る。中では既にたくさんの人が踊っていた。
今日の私に踊るつもりはない。私は会場を見回すと、隅のベンチに会いたかった人が座っていた。白髪の紳士が、杖を持って微笑みを浮かべながら会場を眺めている。
「いらっしゃったわ……!」
「お、おいっ、アディ!!」
面食らった様子の叔父様が後ろをついてくる。パートナーとはいえ、今日はずっと私についてくれるつもりなのだろうか?
「伯爵!」
「おぉ、これはこれは。アデレード殿下、お久しぶりでございます……ハイラム殿下にもお目にかかれるとは恐悦至極に存じます……」
フルニエ伯爵がゆっくりと立ち上がって礼をとろうとするので私は手でそれを制した。目立ってしまうし、高齢である彼に立たせるのも気が進まない。
「まぁ、そのような大層な礼はよろしくてよ。私と伯爵の仲ではございませんか。ねぇっ、叔父様もそう思われるでしょ?」
「あ、あぁ……伯爵。ここは非公式な場だ。楽にせよ」
「私めなどにそのようなお言葉を……嬉しいですなぁ」
「さ、お座りになって! わたくし、伯爵とお話ができるのをとーっても楽しみにしていたのよ!」
私がフルニエ伯爵の隣に座ると、伯爵も座ってくれた。ハイラム叔父様は横に立っている。どこか顔色が悪い。もしや疲れてしまっただろうか。
「アデレード殿下。殿下のランプのおかげで、夜も読書を楽しめるようになりましたぞ」
「お役に立てて良かったですわ。伯爵邸にわたくしのランプが灯っていると思うと嬉しくなります」
「他にも、冷蔵庫、でしたかな。料理人が感激しておりました」
「まぁ、冷蔵庫も使っていただいているのね! 他にもいろいろありますのよ!」
「そうですか。是非教えてください」
目尻を下げてにこやかな笑顔を見せる伯爵に、私は次々と魔道具の話をするが、彼は嬉しそうに話しを聞いてくれた。私と伯爵が笑い声をあげるごとに、なぜか叔父様の顔色はどんどん悪くなっていく。私はこっそりと「大丈夫ですか、叔父様。休んでこられては?」と聞くとハイラムは「私は離れんぞ!」と意地のように突っぱねる。大丈夫ならいいかと、私は叔父様を放置してフルニエ伯爵と会話を続けた。
伯爵はゆったりと問いかけた。
「これから殿下はどのようなものをお作りになる予定で?」
「今は髪を乾かす道具を作っていますわ。あと……作れるかどうかは分からないけど、一番欲しいのは車なのです。あぁ、馬車じゃありませんのよ。馬を使わずに動く車ね」
私の知識でエンジンを作ることはできないが、魔石を動力源にタイヤを動かす仕組みならば、一人乗りの車のようなものを作れるのではないかと思っているのだ。
「なんと。そんな夢のようなものができるのですか」
「うーん、無理かもしれないですわ。でも作りたいわね。でもそのためには、まず魔石を改良しないといけなくて……」
車を作るには魔石の魔力効率を上げることが必須だ。現在主流の天然魔石ではあまりに蓄蔵魔力が少なく、長距離を走ることができない。実用化は難しいだろう。
「つまり人造魔石ですな」
「えぇ。そうですわ、伯爵。でもわたくし、さすがに錬金術には明るくないの」
「それでしたら当家がお役に立てそうですぞ。私には錬金術にばかり傾倒している孫娘がおります……」
「あら、そうなの?」
「えぇ。いつでも力になりましょう」
なんて最高なのだろう。まさか、錬金術ができる人材までいるなんて。
私は感動に打ち震える。
「アデレード殿下は素晴らしい。その若さで偉大なことをなさっている」
「好きなことをしているだけだわ」
「ハハ。そのような。他にも何かこの老体に殿下のお役に立てることがあれば仰ってください」
「…………!」
彼は変わらず味方でいてくれるようだ。私は心底嬉しくなった。
「おや」
「どうされました、叔父様?」
ずっと難しい顔をしていたハイラム叔父様が急に声を出した。
「いや……。あそこにいるのは、ラヴィニア嬢の弟ではないか?」
「えっ」
叔父様が示した方向には、確かにルパートがいた。そしてその隣に立つ人物を見て心臓が大きく音を立てた。
(嘘。ミレイユ……!)
ミレイユは淡い緑のドレスに身を包み、天使のような笑顔を浮かべていた。
学園では徹底的に避けていたというのに、まさかこんなところで鉢合わせするとは思わなかった。予想外の事態に顔が引き攣る。
遠慮なく見ていたからか、彼らも私達の存在に気が付いたらしい。二人は私達の方へとやってきた。
私は立ち上がる。
「こんばんは、ルパート。そしてコラン子爵令嬢」
「アデレード様! 今夜お会いできるとは思いませんでした」
私がミレイユに目線をあわせると、彼女は慌ててカーテシーをした。ぎこちない仕草だが、小動物みたいで庇護欲をそそる。頬が薔薇色に染まり、伏せたまつ毛が頬に長い影をつくった。とても可愛い。さすがヒロイン。
「あ、あの。お目にかかれまして光栄です、アデレード殿下。私はミレイユ・コランと申します」
「……もちろん存じ上げていますわ。聖魔法が使えるのよね」
思えばこうして彼女と向き合って話したのは初めてかもしれない。
その後二人はハイラム叔父様とも挨拶を交わした。そんな私達のやり取りをフルニエ伯爵は微笑ましく見守っている。
「まさか夜会で会うなんて思わなかったわ」
「今日は父に出席するよう言われたのですが、姉の都合がつかず……彼女についてきてもらいました」
「そうだったのね」
「ルパートのおかげでパーティーに出席できて嬉しいわ」
そういえばゲームでもルパートルートでそんなイベントがあったかもしれない。てっきりミレイユはコーネリアス様ルートを選んだのだと思っていたが、もしかしてルパートも攻略しているのだろうか?
「しかし、アデレード様が夜会に出席されるなど珍しいですね」
「あぁ、たまにはね」
「あの……コーネリアスはなにか外せない用事が?」
「別にコーネリアスに声はかけていないわ。彼も忙しいもの」
どうやらパートナーがハイラムであることに疑問を持たれているらしい。
今日の夜会は、フルニエ伯爵に会うことが目的だったので、コーネリアス様にエスコートしてもらうわけにもいかなかった。だが別に、親族である叔父様にエスコートを頼むことは不自然ではない。
「アディ。今日のこと、婚約者に報告していないのか」
「していませんわ、叔父様」
コーネリアス様は勉学に訓練にと忙しいのだ。別に一から十まで自分の行動を彼に伝える必要はない。
それから少し雑談をした後彼らは帰っていき、フルニエ伯爵とまた魔道具談義に花を咲かせ、私はパーティーから帰ったのだった。




