5 ドライヤー作りを始めます!
王宮の敷地内の隅にある離宮。王宮の喧騒から離れたそこが、私の住まいだ。
ここは元々、王の側室などが住まう建物だが、父王には側室がいないので、長らく無人だった。そこを私が使わせてもらっている。
「アデレード様、ハイラム殿下から手紙が届いています」
「ありがとう、リラ」
彼女は私の専属メイドのリラといって、私の世話は主に彼女が担当してくれている。
離宮専属の使用人は彼女だけで、他は日替わりで来てくれるメイドや庭師ぐらいだ。
ゲームのアデレードはたくさんの侍女を顎で使い、気分次第で彼女たちをいじめていた。結局その内の一人に「王女が人を使いミレイユのドレスを破かせた」と密告され、断罪の罪状の一つとなっていた。
(確かにアデレードは嫌な女だけど、あっさり主人を裏切る侍女もどうなの!?)
そういう思いもあって、私はあまり近くに人を増やしたくなかった。前世の記憶の影響もあって沢山の人に世話を焼かれるのも好きではないし。
魔道具の試作のためという名目で離宮に住み、使用人は最小限に絞った。護衛騎士でさえ、王宮に繋がる扉の前に数人配置し、あとは公務で外に出るときについて貰う程度だ。正直騎士より私の方が強いので、形だけである。
王女としては異例なのは分かっているものの、これだけは我がままを通させてもらった。
「やったわ、さすが叔父様!」
手紙を読んで私はガッツポーズをする。
実は奥の手として、叔父である王弟ハイラムにフルニエ伯爵が出席するパーティーの手配を頼んだのだ。手紙には、無事に招待状が手に入りそうだと書いてあった。
叔父様は父王の年の離れた弟で、若い頃に騎士団に所属していたことからガタイが良く野性的な印象の美丈夫である。そしてゲームの攻略対象の一人でもあった。
顔が広い叔父様なら、フルニエ伯爵が出席するパーティーの招待状も手に入るはずだと思ったのだ。
(良かったわ……)
これでしばらく卒業パーティーのことは忘れよう。
それからは現実逃避のように、私は魔道具研究に没頭することにした。
早くドライヤーを作りたいのは本当だが、コーネリアス様やミレイユのことを考えたくなかった。
◇ ◇ ◇
ドライヤーの試作は難航した。
ラヴィニアの懸念通り、サラマンダーの魔石が強すぎて火炎が噴き出てしまうのだ。
「きゃーー!!」
「ア、アデレード様!」
予想外に大きな炎が出て、ついつい大声をあげてしまったので、リラが慌てた様子で離宮から飛び出てきた。
「ですから試作品を試すのは私がやりますと……! あぁ、御髪が!!」
「あらまぁ、少し焦げちゃったわね」
「なんてことでしょう、頬も!! すぐに冷やして……」
「大げさね。これぐらい何ともないわよ。水なら自分で出せるし」
そう言いながら私は魔法で水を出し、火傷してしまった頬を冷やす。髪は一部切らないといけないだろうが、いくらでも誤魔化せる程度だ。そもそも、魔法や剣術の訓練をしていると、この程度の傷は日常茶飯事である。
しかしリラは「そういう問題ではありません!」と憤慨した様子で傷の手当を始めた。
私は彼女の手当を受けながら魔導書を読み、失敗した原因について考える。
(うーん、きっとドライヤーの中が軽い真空状態みたいになっちゃったのね。急激に空気に触れて爆発したんだわ)
まずかった部分を洗い出し、次の試作品の魔法陣について思い悩む。
そんな私にリラはあきれ顔を隠さないのだった。
◇ ◇ ◇
「アデレード様。手紙でございます」
「コーネリアスからだわ! あ、あと、叔父様も……」
婚約者としての交流として、コーネリアス様とは手紙のやり取りをしている。ゲームではそんな描写はなかったが、彼は案外筆マメだった。
頻繁に手紙をくれるので、私の文箱はもう一杯になった。
ただし、内容には全く甘さなどはない。どこそこへ行ったとか、次のお茶会の日程調整とか、事務連絡のような手紙だが、推しから手紙を貰えるだけで幸せである。
(コーネリアス様ったら字も綺麗なのよねぇ)
じっくり読みこんで、ニコニコと顔が緩むのを止められない。私は机に向かい、早速返事を書いた。封蝋を押し封をする。
次にハイラム叔父様からの手紙を開けた。
(きっとパーティーのことね)
予想通り、ハイラムからの手紙の中身は念願のフルニエ伯爵が出席するパーティーの招待状だった。ただし出席する際は必ず自分も同行する、とある。
(叔父様ったら本当に心配性なんだから……)
ハイラムは私をとても可愛がってくれている。ゲームでは基本的にヒロインミレイユへ塩対応だったが、姪の事は可愛がるタイプだったようだ。
夜会の目的を考えればコーネリアス様にエスコートを頼むわけにもいかないので、有難く叔父様に頼むことにしよう。




