12 卒業パーティー 3(ミレイユ視点)
――やった。うまくいったわ。
この世の終わりのような顔をして絶望した王女を見て、私は内心でほくそ笑む。
ずっとコーネリアスを縛り付けてきた報いを受けるがいいわ……。
アデレードがサラマンダーの魔石を買い込んでいると知って、私は彼女の罪を作り上げることを思いついた。
アデレードがいる限りは、コーネリアスは自由になれない。
例え彼がヒロインである私を愛していても、悪役王女との婚約がなくならない限りは結ばれることはないのよ。
でも、その断罪を表立っておこなうのは誰か。
なんせアデレードは王女だもの。いくら聖女と呼ばれているとはいえ、子爵令嬢にすぎない私では失敗するのが目に見えているわ。
王族であるアデレードを断罪できるような立場の人物なんて数えるほどしかいない。
(パスカル……)
アデレードの兄で、王太子パスカル。
聖魔法の使い手として、度々王宮へ行く機会があった私は、パスカルとも顔見知りだった。それにお母さまから聞き飽きるほど繰り返しパスカルの攻略について聞いていた私は、彼の行動パターンだって知っていたわ。
パスカルは執務の合間に、庭園の一角でこっそり休憩する。ゲームでは、ミレイユがそれと知らずに庭園に訪れ、交流が始まるらしいの。
そのことは知っていたけれど、私は元気そうなパスカルじゃなくコーネリアスを救ってあげることにしたから、今まで庭園には行かなかったのよね。
私はパスカルに近付くために、庭園に行くようにしたわ。
「君は、コラン子爵令嬢か」
「あっ、お、王太子殿下」
思惑通りパスカルと会えた時は嬉しかったし、お母さまの情報はやはり正しいのだわと再確認した。お母さまが言っていたとおりの振る舞いをして、何度か会ったあと、私はようやくアデレードの話をしたの。
「ということは、我が妹が何やら危うい橋を渡ろうとしている疑いがある、と」
「パスカル様にこんなことをお伝えするのは、とても心苦しいです……でも、どうしても見て見ぬふりはできなくて……! アデレード様が沢山の功績を上げているのは王位を狙うためだと話していたのを聞いた子もいるのです!」
当然嘘だけど、真実味を持たせるためにそれらしく言ったわ。パスカルは猜疑心が深いらしいから、例えそれが嘘でも、まるで澄み切った水に一滴インクを落としたように、じわりとアデレードへの疑いを持つはずよ。
「……そうか。ではこちらでも調査してみよう。妹の離宮には何人か私の手の者がいる」
パスカルは本当にアデレードの調査をした。そして、私が想像したよりも、有利な情報が集まったみたい。話を聞きながら、顔がにやけてしまうのを抑えるのに大変だったわ。
それにしても、本当にアデレードは武器を作ろうとしていたんじゃないかしら。
悪辣な王女だっていうのは確かなんだから、国の混乱を防いだと言えるんじゃない? 私がこうして動いたことは正しいことだったのよ。
そして私はパスカルに、アデレードの罪を卒業パーティーで明らかにすべきだと言ったの。
「なぜだ」
「アデレード様が逃げられない状況で真実を明らかにして、罪を認めて貰うべきです。そうすればコーネリアスの……」
「前々から思っていたのだが」
話している途中なのに突然パスカルが冷ややかな声を出したので、私はびっくりした。
「コラン子爵令嬢。君はコーネリアスを呼び捨てにしているようだな。そしてルパートも。彼らは侯爵家の令息だ。序列というものを理解しているか? いくら生徒会で親しいとはいえ、婚約者でもない相手を呼び捨てにするのはいかがなものか」
「えっ……」
なになに。これって、もしかして。
つまり彼が言いたいのは、他の男と親し気にするなってことでしょ? つまり嫉妬よね。
そんなつもりはなかったけど、私、パスカルを攻略しちゃったのかしら。
困ったわ。私、パスカルは好みじゃないのよね。王子様っていう身分は魅力的なんだけど。それに、コーネリアスもいるし……。
でも彼にはアデレードの断罪をして貰わないといけないから、しおらしくしておかないと。拗ねちゃったら大変だし、傷つけたら可哀想だもの。
「分かりました、パスカル様」
「……だから、君に名前呼びを許した覚えはないのだが……まぁいい。確かに事実確認は必要だ」
こうしてパスカルはアデレードの卒業パーティーで断罪することを約束してくれたの。
そして今日、アデレードは冷や汗をかいて真っ青な顔を晒している。全て上手くいっているわ。これでコーネリアスは自由になって晴れて私を選ぶことができるのよ。
アデレードの断罪後の末路って、確か老人の後妻だったわよね。ふふ、最悪! 絶対嫌。でもいい気味だわ。
ねぇ、コーネリアス。もうあなたは自由よ。
でも――。
「これは、何の茶番ですか」
コーネリアスは相手を射殺しかねないほどの目線でパスカルを睨みつけている。
予想外の反応に、私は混乱した。
「茶番とはどういう意味だ? コーネリアス」
「パスカル殿下もご存じでしょう。アデレード殿下が叛意を持つなどあり得ません。この方は基本的に魔道具のことしか考えておられない」
「そうですわ、パスカル様! これは一体どういうことですの!?」
「……ラヴィニア」
そこで悪役令嬢ラヴィニアが横から口を挟んだ。私は「ゲッ」と言いそうになる。
走ってきたのか、息を切らしているし、髪型も少し崩れているのに、それに構うことなく大声を張り上げる姿はちょっと意外だ。だってラヴィニアはいつも取り澄ました顔で隙がない。そんなにアデレードが好きなのかしら?
ルパートもそうだけど、この姉弟はやたらとアデレードの肩を持ちがちなのよ。だからラヴィニアが来賓の見送りで会場を出るタイミングを見計らって断罪を始めたのに、もう戻ってきちゃったのね。
「サラマンダーの魔石は、このわたくしが仕入れたものですわ。それでしたらわたくしだって謀反をほう助したことになるのではなくて!? なぜアデレード様だけをこのような場で追及なさるのです!」
「……アデレードが本当に兵器を作っていたのなら、そうなるな」
ちょっと、やめてよ。ラヴィニアが断罪なんてことになったら、パスカルがフリーになっちゃうじゃない。
「パスカル殿下。サラマンダーの魔石を使った魔道具については俺も知っています。なぜなら俺もその開発に関わっているからです。俺も一緒に裁かれますか?」
はぁ? 何言ってんの、コーネリアス。
立て続けに擁護されたのが効いたのか、忌々しいアデレードは真っすぐに立ち、顔を上げた。その表情はさっきとは全く違い、自信が感じられた。




