13 卒業パーティー 4(ミレイユ視点)
引き続きミレイユちゃん。次の話からアデレードに戻ります。
「……私が誤解を招くような行動をしてきたことは認め、謝罪いたします。しかし、私はお兄様を追い落とそうなどという企みを抱いたことなど、絶対にないと誓いますわ。それに、試作品についても、すべてお兄様にお見せできます。魔石の購入履歴と魔道具の試作品をお確かめいただき、私の証言に食い違いがないかもお調べいただいて結構です。そしてそもそも、私が作ろうとしていたのは、武器ではなく……ドライヤーでございます!」
「どらいやー? ……なんだそれは」
聞き慣れない単語に、パスカルが怪訝そうに眉を寄せた。
「濡れた髪を乾かす魔道具ですわ。男性のお兄様はご存じないかもしれませんが、髪は濡れたまま放置すると、傷みます。髪がパサついて枝毛だらけになって、悩んでいる女性は多いのですわ。しかし、洗髪後この魔道具を使ってすぐに乾かせば……! なんと、艶が出る美しい髪のまま、髪を伸ばせるのですわ!! ちなみに今日もドライヤーで髪をセットいたしましたのよ。ご覧くださいませ」
アデレードは自身の艶めく金髪をなびかせた。
一体何が始まっているの?
さっきまで会場を支配していた剣呑とした雰囲気はすっかり霧散してしまっているわ。
しかもパーティーの出席者の女性たちは興味深そうにアデレードの話を聞いているし……。
「しかし、そんなものになぜ危険な魔石を使う?」
「温風を出す熱源に使用しておりました。ただお兄様のご指摘の通り、確かにサラマンダーの魔石は危険すぎるという判断に至りましたので、今は仕組みの見直しを考えているところです。必ずや安全安心のドライヤーを作り、改めて皆さまにお届けいたします。もうしばらくお待ちいただければと存じます!」
アデレードは胸を張り、会場に向けて輝くような笑顔で言った。会場のそこかしこで、「さすがアデレード殿下」「楽しみね」という囁き声が聞こえる。
私は事態の動きについていけない。
ラヴィニアが一歩前に出た。
「パスカル様、これまでアデレード様が開発したものを考えてくださいませ! この方が武器を作ろうなどと考えるはずがございませんわ。しかも王太子の座の簒奪を狙う? アデレード様の何を見ていらしたの!? わたくし、あなた様がこんな暴挙に出るなど、心底幻滅いたしました」
「お、おい。ちょっと待て、ラヴィニア」
ラヴィニアの剣幕に、パスカルがうろたえている。ちょっとパスカル、しっかりしてよ。
なんでこうなっちゃったの?
私の苛立ちは頂点に達した。
「……さっきから一体なんなのよ! この女は悪女よ!! 皆目を覚まして! 高慢で冷酷で我がままばかりで、皆を困らせているんでしょう!」
「何を言っておられるの、ミレイユさん。アデレード様はそのような……」
「ラヴィニアは黙ってて!」
なんで誰も彼もアデレードの味方なの?
苛立ちのまま、私は叫んだ。
「ミレイユさん、だめよ。落ち着いて。私を疑っていただけで、あなたにラヴィニアを責める理由はないでしょう」
静かにアデレードが言った。
その、なだめるような口調に、いかにも私の短慮を馬鹿にされているように感じて、苛立ちはさらに高まる。
「あんた、一体何をしたのよ……! こんなはずじゃなかった。全部あんたがおかしくしたんでしょ」
「私はただ、一生懸命生きてきただけなの」
「嘘つき!」
王女として生まれて、全部持っているのに、それ以上も手に入れるつもりの傲慢な女。それらしいことばかり言って、周囲を騙してきたのね。
あなたなんて大嫌いよ。
「嘘じゃない。なぜそう思うの。私はあなたと挨拶ぐらいしか交わしていないはずよ」
「でも全部知っているもの。あなたのことを」
「……きっと私はあなたの思うアデレードじゃない。誰のこともいじめたりなんか――」
「それならコーネリアスを解放しなさいよ! 王族の都合で無理やり結婚を押し付けるなんて酷いわ。コーネリアスが可哀想だと思わないの? 彼は我慢してあんたと結婚するしかないのよ!」
「それは……」
アデレードは目を泳がせた。
きっと、図星だったのね。ずるい女。やっぱり私がコーネリアスを助けてあげないと。
「ねぇ、コーネリアス。あなたが一番よく知っているでしょう? この女の本性を」
コーネリアスはぽかんと口を開けている。きっと驚いているのね。
「私が助けてあげる。だから素直になっていいのよ! 私を好きなら好きと言って。私は受け入れるわ!!」
「君はなにを言って……」
コーネリアスが何かを言いかけたところで、パン、と大きな音が響いた。パスカルが、手を叩いたようだわ。会場はしんと静まり返る。
「どうやら、大きな誤解があったようだ。皆。私のせいで騒がせたことを謝罪しよう。すまなかった。詫びとしてアデレードの開発する“どらいやー”とやらを私が買い上げ、今日卒業を迎える淑女たちと、母君たちに贈ることとする。この話はこれで仕舞いだ」
会場はワッと歓声に包まれた。
パスカルが立ち上がり、ラヴィニアとアデレードに声をかけている。
コーネリアスも、誰も、私のことを見ていない。
私は呆然としていた。
なによ、なによ。じゃあアデレードの罪はどうなるの?
このままだと、コーネリアスはアデレードの婚約者のままじゃない。
離宮に引きこもるアデレードが公の場に出ることなんて滅多にない。
もう後がないわ。最後の手段を使うしかない。
そう判断した私は、窓の外に合図を出し、連絡用の魔道具を発動した。
でも、それと同時に、パスカルのそばにいた護衛に羽交い絞めにされ、私は声も出せないまま、別の場所へ連れて行かれてしまったの。




