リバークロウ釣り、開戦!
もしもの時のために、馬車が一台先にジェミナ池に向かった。
大人の足で5分。
子どもたちには大冒険に匹敵する距離だ。
歩き慣れている子どももいれば、家と幼稚舎以外では常に抱き上げられて、自分の足で歩かない子どももいる。
ゆっくり時間をかけて進む。
両サイドを冒険者装備に身を包んだ用務員と先生たちで囲み、周囲を確認する。
到着したジェミナ池は、水面に光が反射してキラキラ光る。
その様子に子どもたちは、
「わぁ!!」
と興奮した声を出す。
早く、釣りをしたい子。
水面を観察したい子。
疲れた子。
いろいろな反応を示すが、アンナは今日の注意事項をもう一度子どもたちに伝える。
「皆さん。朝のお約束は覚えていますか?」
「はーい!!」
「一人にならない!」
「せんせいとようむいんさんのいうことをきく!」
「そうですね、よくできました!」
「今、池はキラキラして綺麗ですね。でも、池に入ってはいけません。もし、物を落としても先生や用務員さんに相談してください! わかったひと!!」
「はーい!」
子どもたちから元気な返事が返ってくる。
アンナは用務員や他の先生たちと合図を確認する。
「それでは、リバークロウ釣り開始です!!」
「みんなー!! ここにエサ置いとくから自由に使ってね!!」
トーマスは父が持ってきたエサの入った箱を置く。
「これは、人間が食べても大丈夫なおやつだから、お腹減ったら食べてもいいよー!!」
「コレなに?」
「これは、スルマ。生だから、僕たちは食べちゃダメ」
「こっちは?」
「こっちは干したスルマ。これは食べてもいい。よく噛むと味がして美味しいよ!」
「こっちは?」
「これはチクーヴァ! こっちも齧ったら美味しいよ! パパは昨日も食べてた!」
「ここの穴おもしろーい! とおくが見える!」
「え? そうなの?!」
子どもたちはそれぞれエサを見て、不思議そうに触ったり、さっそく釣り針にひっかけたりと忙しい。
「うまーい!!」
当然、味見する子どももいる。
用務員や先生たちも興味津々にトーマスのエサ箱を覗き込む。
「あれ、あそこのヤツだろう? 仕事終わりにわけて欲しいな……うまい酒の肴だぞ」
「言うな。俺は今からでも食べたいくらいだが、警護中だからな……」
「そりゃそうだ」
大人たちも笑う。
「釣れた!」
「はさみがこわい!」
子どもたちの賑やかな声は途切れない。
「えー。釣れないよ? エサかえようかな?」
「どれがいい?」
「僕はチクーヴァで釣れたよ!」
「じゃあ、そっちにする!」
「チクーヴァ美味しいもんね! デカいシザーくるかな? 今釣れてるのリバーばっかりだもんね」
「いいですか? 青いのは肉食で凶暴です。水魔法も使ってきます。だからエサは生スルマ一択です」
生態を調べてきたらしいアルベルトがレオンに話をしている。
「でもさー。生スルマ、ぬるぬるしてるし、クサイよ?」
「たぶん、モンスターはそれがいいのでは?」
「そっか……。僕は『青いの』狙わなくていいや」
「見ないのですか?」
「……うーん、あんまり興味ない。このチクーヴァ、美味しいね。じぃに言って今度買ってきてもらおう!」
「それは……賛成です。次の子どもたちのお茶会に出してもらいましょう」
アルベルトは会話を続けながらも、つり針にスルマをつけて池に放り込む。
レオンも同じく食べかけのチクーヴァを釣り針につけて放り込む。
その隣では、ラピス・シザー狙いのアーロンとカイルが、アルベルトの話に耳を傾けている。
「そうなのか? さっきからリバークロウしか釣れてないのはエサが悪かったのか……」
「カイル、ちょっとは池に帰してあげなよ。釣りすぎでしょ……」
レオンはカイルのバケツを見て顔を顰める。
「そうか?」
「うん、ほら見て? 共喰い始めてるよ!」
その言葉に周りにいた男の子たちが集まる。
「よし、対決させようぜ!」
「強いのだけ、持って帰ろう!」
バケツの中から釣り上げたリバークロウを地面に並べる。
「もう、あっちでやってよぅ!」
「怖いからヤダ」
女の子たちからは苦情が出る。
「よし! イケ!」
「ナイフ号! がんばれ!」
「ガリバー! 強いぞ!」
敗れたリバークロウを次々と池に投げ込む。
ぽちゃん、ぽちゃんと水面を揺らす。
「ヨシ! 次がさいしゅうけっせんだ!!」
「オレのガリバーが勝つぞ!!」
「あっ、ナイフ号の爪が取れたぁ!!」
「じゃあ、持ってかえるのはガリバーだな!」
カイルが手に持っていたナイフ号を池に投げ込む。
ぽちゃんとまた水面を揺らす。
「エサは生スルマでぇー、ほいっ」
「オレが一番でっかい『青いの』釣る!ほいっ」
カイルとアーロンは再び釣りに戻った。
その時だった。
「……ん?」
変化に最初に気づいたのは、水面ばかりを見ていたフィンだった。
「キラキラのお水が曇ってきたよ?おひさまは出てるのに、おかしくない?」
「確かに今は雲一つない青空……」
「見て、お水がグルグルしてきた!」
「おい! つりざおがおもーい! オオモノがかかった気がする! てつだって!」
「カイル! ガンバレ!」
アーロンが自分の釣竿を放り投げてカイルに駆け寄る。
「先生に報告する!」
「せんせい!! たいへん! たいへん!」
子どもたちの声に用務員たちも集まってくる。
「これは……、ラピス・シザーがくるぞ! 坊主、釣竿をおじさんに渡して」
「今、離すと持っていかれる!」
少しずつ、前に前に進むカイルとアーロン。
「おじさんが持つから!」
すぐに用務員が交代する。
釣竿の糸がピンと張ったまま、左右に振られる。
「そろそろ水魔法が来るぞ! 結界!」
「わかった! みんな、下がって!」
普段は優しい送り迎えしてくれる先生と、用務員たちが真剣な表情で、子どもたちに指示をする。
アンナもすぐに状況を把握する。
「全員、丘側へ急いで!」
「はい!」
池の周りに散らばっていた子どもたちは丘側へ素早く集まる。
恐怖と興味が入り混じった表情で、子どもたちは固唾を飲んで成り行きを見守っている。
「流石に重いな。糸が切れそうだぞ……」
「ここまで引っ張ってるんだ! 上げるぞ?」
「水面が下がった。来るぞ!」
「オン・バジュラ・バンダ・ウン!」
素早く展開した防御魔法に、圧縮された水の礫が次々とぶつかる。
「おい、ヒビが見えるぞ!」
「わかってる!」
展開中の盾はそのままに、次の詠唱を始める。
「オン・ヴァジュラ・ラクシャ・サンヴァラ・フーン!」
更に盾を重ねる。
礫の勢いが増す。




