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幼稚園戦争  作者: あぐり りょう


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32/33

リバークロウ釣り、開戦!

 もしもの時のために、馬車が一台先にジェミナ池に向かった。


 大人の足で5分。

 子どもたちには大冒険に匹敵する距離だ。


 歩き慣れている子どももいれば、家と幼稚舎以外では常に抱き上げられて、自分の足で歩かない子どももいる。


 ゆっくり時間をかけて進む。

 両サイドを冒険者装備に身を包んだ用務員と先生たちで囲み、周囲を確認する。


 到着したジェミナ池は、水面に光が反射してキラキラ光る。

 その様子に子どもたちは、

「わぁ!!」

 と興奮した声を出す。


 早く、釣りをしたい子。

 水面を観察したい子。

 疲れた子。

 

 いろいろな反応を示すが、アンナは今日の注意事項をもう一度子どもたちに伝える。


「皆さん。朝のお約束は覚えていますか?」

「はーい!!」

「一人にならない!」

「せんせいとようむいんさんのいうことをきく!」

「そうですね、よくできました!」

「今、池はキラキラして綺麗ですね。でも、池に入ってはいけません。もし、物を落としても先生や用務員さんに相談してください! わかったひと!!」

「はーい!」

 子どもたちから元気な返事が返ってくる。

 アンナは用務員や他の先生たちと合図を確認する。


「それでは、リバークロウ釣り開始です!!」


「みんなー!! ここにエサ置いとくから自由に使ってね!!」

 トーマスは父が持ってきたエサの入った箱を置く。


「これは、人間が食べても大丈夫なおやつだから、お腹減ったら食べてもいいよー!!」


「コレなに?」

「これは、スルマ。生だから、僕たちは食べちゃダメ」

「こっちは?」

「こっちは干したスルマ。これは食べてもいい。よく噛むと味がして美味しいよ!」

「こっちは?」

「これはチクーヴァ! こっちも齧ったら美味しいよ! パパは昨日も食べてた!」

「ここの穴おもしろーい! とおくが見える!」

「え? そうなの?!」


 子どもたちはそれぞれエサを見て、不思議そうに触ったり、さっそく釣り針にひっかけたりと忙しい。


「うまーい!!」

 当然、味見する子どももいる。


 用務員や先生たちも興味津々にトーマスのエサ箱を覗き込む。


「あれ、あそこのヤツだろう? 仕事終わりにわけて欲しいな……うまい酒の肴だぞ」

「言うな。俺は今からでも食べたいくらいだが、警護中だからな……」

「そりゃそうだ」

 大人たちも笑う。


「釣れた!」

「はさみがこわい!」


 子どもたちの賑やかな声は途切れない。


「えー。釣れないよ? エサかえようかな?」

「どれがいい?」

「僕はチクーヴァで釣れたよ!」

「じゃあ、そっちにする!」

「チクーヴァ美味しいもんね! デカいシザーくるかな? 今釣れてるのリバーばっかりだもんね」


「いいですか? 青いのは肉食で凶暴です。水魔法も使ってきます。だからエサは生スルマ一択です」

 生態を調べてきたらしいアルベルトがレオンに話をしている。


「でもさー。生スルマ、ぬるぬるしてるし、クサイよ?」

「たぶん、モンスターはそれがいいのでは?」

「そっか……。僕は『青いの』狙わなくていいや」

「見ないのですか?」

「……うーん、あんまり興味ない。このチクーヴァ、美味しいね。じぃに言って今度買ってきてもらおう!」

「それは……賛成です。次の子どもたちのお茶会に出してもらいましょう」


 アルベルトは会話を続けながらも、つり針にスルマをつけて池に放り込む。


 レオンも同じく食べかけのチクーヴァを釣り針につけて放り込む。


 その隣では、ラピス・シザー狙いのアーロンとカイルが、アルベルトの話に耳を傾けている。


「そうなのか? さっきからリバークロウしか釣れてないのはエサが悪かったのか……」


「カイル、ちょっとは池に帰してあげなよ。釣りすぎでしょ……」

 レオンはカイルのバケツを見て顔を顰める。

「そうか?」

「うん、ほら見て? 共喰い始めてるよ!」

 その言葉に周りにいた男の子たちが集まる。

「よし、対決させようぜ!」

「強いのだけ、持って帰ろう!」

 バケツの中から釣り上げたリバークロウを地面に並べる。

「もう、あっちでやってよぅ!」

「怖いからヤダ」

 女の子たちからは苦情が出る。


「よし! イケ!」

「ナイフ号! がんばれ!」

「ガリバー! 強いぞ!」


 敗れたリバークロウを次々と池に投げ込む。

 ぽちゃん、ぽちゃんと水面を揺らす。


「ヨシ! 次がさいしゅうけっせんだ!!」

「オレのガリバーが勝つぞ!!」

「あっ、ナイフ号の爪が取れたぁ!!」

「じゃあ、持ってかえるのはガリバーだな!」


 カイルが手に持っていたナイフ号を池に投げ込む。

 ぽちゃんとまた水面を揺らす。


「エサは生スルマでぇー、ほいっ」

「オレが一番でっかい『青いの』釣る!ほいっ」

 カイルとアーロンは再び釣りに戻った。


 その時だった。

「……ん?」

 変化に最初に気づいたのは、水面ばかりを見ていたフィンだった。


「キラキラのお水が曇ってきたよ?おひさまは出てるのに、おかしくない?」


「確かに今は雲一つない青空……」

「見て、お水がグルグルしてきた!」

「おい! つりざおがおもーい! オオモノがかかった気がする! てつだって!」

「カイル! ガンバレ!」

 アーロンが自分の釣竿を放り投げてカイルに駆け寄る。

「先生に報告する!」

「せんせい!! たいへん! たいへん!」

 子どもたちの声に用務員たちも集まってくる。

「これは……、ラピス・シザーがくるぞ! 坊主、釣竿をおじさんに渡して」

「今、離すと持っていかれる!」

 少しずつ、前に前に進むカイルとアーロン。

「おじさんが持つから!」

 すぐに用務員が交代する。

 釣竿の糸がピンと張ったまま、左右に振られる。


「そろそろ水魔法が来るぞ! 結界!」

「わかった! みんな、下がって!」

 普段は優しい送り迎えしてくれる先生と、用務員たちが真剣な表情で、子どもたちに指示をする。

 アンナもすぐに状況を把握する。


「全員、丘側へ急いで!」

「はい!」


 池の周りに散らばっていた子どもたちは丘側へ素早く集まる。

 恐怖と興味が入り混じった表情で、子どもたちは固唾を飲んで成り行きを見守っている。


「流石に重いな。糸が切れそうだぞ……」

「ここまで引っ張ってるんだ! 上げるぞ?」

「水面が下がった。来るぞ!」


「オン・バジュラ・バンダ・ウン!」


 素早く展開した防御魔法に、圧縮された水の礫が次々とぶつかる。


「おい、ヒビが見えるぞ!」

「わかってる!」

 展開中の盾はそのままに、次の詠唱を始める。

「オン・ヴァジュラ・ラクシャ・サンヴァラ・フーン!」

 更に盾を重ねる。

 礫の勢いが増す。

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