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幼稚園戦争  作者: あぐり りょう


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絶体絶命

「わかれてほしいの、カレと……」

 思い詰めた表情の彼女。

 そして彼女を見守るようについてきている彼女のお友達。


「……そんなことは、できないわ」


 わたしの一言に、引き攣ったような表情になる彼女たち。


「あいしているのよ。カレを!」

「それはわたしも、おなじ!」


 ランチタイムが終わった午後の自由時間。

 わたしは、カレとの約束した場所、藤棚の下に来ていた。


 今日は彼とわたしの逢瀬のじかん。

 小さな胸がときめいていた。


 そこへ、現れたのが彼女たち。

 歳は一緒。


 彼女はユリ組。

 今年入ってきた子たちだ。


 わたしはバラ組。

 去年からいる、せんぱい。


 彼女は、白いハンカチを握りしめてこちらを睨んでいる。


 くすり指には金色に輝く指輪がはめられている。


 誰が渡したか、知っている。

 何故なら、わたしももっている。

 一週間前にもらった。


 約束した時間に、カレは来ない。

 わたしは軽くため息を吐く。


「ごめん、まった?」


 ようやく現れたカレ。

 睨み合うわたしたちに、カレは言った。


「ふたりとも、おちついて!」


「「その人と、わたしのどちらをえらぶの??」」


 カレは黙って下を向く。


「あなた、昨日がお休みだったからって、わたしの午前中のカレとの時間をとっておいて、図々しくない?」


「だって、好きなんだもん! 入れて! って言えばいいんでしょ?」


「それは、それよ! デートの時間は避けるって『アンモクのルール』も知らないの?」


「いっけないんだ!! そんなルール持ち出すなんて!! 先生たちはみんなちゃんと仲間に入れなさい!! って言ってたわ!!」


 彼女のお友達が正義ぶって叫ぶ。


 彼女は哀しそうに顔を歪め、今にも泣きだしそうに目に汁を溜める。


 わたしは知っている。

 ソレは、ウソだ。


 なのに、カレは……。

 彼女に一生懸命に話しかけている。


 本来なら、わたしの時間のはずなのに……。


 そして、彼女はハンカチを目に当てている。

 濡れていない。


 わたしは再度、ため息を吐く。


「ふたりとも、あいしているよ」


 カレは悪びれもせずに言う。


「君もキミも、みんなかわいくて大好きだよ」


 カレの爽やかな笑顔に、彼女のお友達までもが頬を染める。


 なんて、罪なひと。


「……でもね、一番あいしてるのはわたしよね?今日、けっこんゆびわくれたもの……」


 彼女が見せつけるように左手を掲げる。

 キラキラ輝く指輪がわたしを弾いている。


 カレは少し困った顔をする。


「いいわ、わかった。バイバイ! やってられないわ!」


 わたしは藤棚の下から抜け出す。


 思えば、カレにはたくさんの恋人がいる。

 四人の彼女と一人の本命。

 わたしは四人の内の一人。

 いつか、関係が変わると信じていた。


 カレの『真実の愛』はきっとわたしだと。


 でも違った。

 その人の『どくせんよく』の深さに負けたの。


 さようなら、さようなら。

 やってられないわ。


 わたしが教室に向かって歩いていると、カレが慌てて走ってくる。


 もしかして。

 わたしのことを引き留めにきた? と最後の期待をした。


 でも、違った。


 何故なら、彼を大きな声で呼びつける本命の彼女の声が聞こえたからだ。


「ニコちゃーん!! もどってらっしゃーい!! ママとさんぽの時間よー!!」


「バウ! バウ!!」


 今日のままごとはペットの役らしい……。

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