コメヌーカと、おじいちゃん
ベラドンナが好意の証として、目一杯に羽を広げて、ユリウスにアピールしている。
「ベラちゃん、すごいね!きれいだね!」
キラキラした目でユリウスはベラドンナを褒め称える。
ベラドンナは満更ではないようで、羽を揺らす。
その間にスミレ組の諸先輩は淡々とベラドンナに好物のペリカという木の実を与え、部屋を後にする。
次の部屋へは、何の警戒もなく皆がぞろぞろとついていく。
だが――
「ん〜〜!!!」
「くっさっっっ!!!」
部屋に入った途端、全員が鼻をつまんだ。
中にはハンカチを鼻に押し当て、涙目になっている子までいる。
頭上には物干し竿がある。
葉っぱの部分を結ばれたラディナが、二本一組になってずらっと掛けられている。
部屋の端には、匂いの元であろう粘土のような塊と、割れた甕の欠片が置いてあった。
しかし、そこには部屋の主人がいない。
パヴォナのベラドンナのように隠れている訳ではなさそうだ。
ヤンは鼻を摘む前に嗅いだ、記憶にうっすらと残る臭気を思い出した。
(コレ、糠じゃない?)
用務員のおじさんが運んできたラディナとカロナを床へ置いていく。
スミレ組の一人がおじさんに聞いた。
「おじさん、これ……またガルドウルフ?」
「ああ。怪我すると危ないから触るなよ」
用務員のおじさんは、割れた甕を見てため息をついた。
「ララァ母さん、どこにいるの?」
「ああ。あいつなら――」
用務員のおじさんは、天井を見上げた。
その動きに、子どもたちは体を一瞬固くする。
「勇者サポート協会に『コメヌーカ』を貰いに行ってるぞ」
「良かった。ララァ母さん無事だったんだ!」
「あぁ。旦那の方はダメだったが……」
「……パパさん、新たな選択の地に……。母さん一人で可哀想」
他の上級生の顔が歪む。
「おじちゃん、『コメヌーカ』ってなに?」
ヤンは先程から気になった言葉を思い切って聞く。
「おぉ、『コメヌーカ』は……あれだ。ラディナとかカロナを、その……長く置いとくためのやつだ。……で、わかるか?」
(やはり、漬物用の米糠か!?)
ヤンは、目を輝かせて頷く。
ユリウスがヤンの袖を引っ張る。
「おじさん、『コメ』ってあるの?」
「あぁ、勇者サポート協会が『コシヒカリ』って種類を毎年育てているぞ」
「ヤンくん、わかるの?ぼく、知らなーい」
「コシヒカリ!?」
「お? やっぱり知ってるのか。坊主は物知りだな」
おじさんは感心したようにヤンを見る。
「なんでも昔、勇者が異界から持ってきた草だそうだ。勇者はこれのためなら命をかけるとか……よく分からんが」
(分かる。ものすごく分かる)
「ここじゃガルパンやパヴォナも食うぞ。それで……なんだっけな。食う時に、こう……削るんだ」
おじさんは両手をこすり合わせる。
「磨く?」
「そう、それだ。その時に出る粉が『コメヌーカ』らしい」
(米糠!!)
「ララァは勇者に聞いてな。これにラディナを突っ込んどけば長く食えるって――」
おじさんは、割れた甕を見る。
「せっかく作ってたんだがなぁ」
それから黙って止めていた手を動かし始めた。
(この世界にはすでに米はあるし、漬物もあるんだ! ママに言って買って貰おう!)
今世ではまだ見たことがない、懐かしいソウルフードの情報を得たヤンは思わずニヤける。
「みんな、今日はララァ母さんが留守だから今度また来よう! 次は水辺に住むトルティアたちの部屋だから、足元に気をつけてね」
上級生の説明を聞いてから、匂う部屋から早々に立ち去る。
「おじーちゃん!! ごはんのじかんだよ!!」
「葉っぱ持ってきたから!! こっち来てたべて!!」
次の部屋には池がある。
真ん中辺りの岩の上に、さらに岩が乗っているように見えた。
「おじーちゃーん!!!」
『……………』
『ワシ、飯はくったかのぅ?』
上の岩から、ぬっと手足と首が出てくる。
ゆっくりと動きだし、池にドボンと落ちる。
水の中からあっという間に岸へ辿りつき、陸地に上がるとまたゆっくりと動く。
かなり大きなトルティアだった。
「おじーちゃん!! 今日は! まだごはん!食べてないよ!!」
『……そう? じゃったかのぅ。ありがとう!ありがとう』
三歩進み、止まる。
『……ワシは何をしにきたんじゃったかのう?』
「おじーちゃん!! ご!は!ん!」
「あと三歩進んで! 葉っぱ! 箱に入っているから!!」
『あぁ、そうか……ありがとう! ありがとう』
やっと箱に辿りついて、ゆっくりと葉っぱを食む。
葉っぱの種類はミミルとほぼ一緒でいいらしい。
『ハルトバートは大きくならんのぅ』
「おじーちゃん!! ぼくはアルベルト!!」
「園長先生はペルカディアになったの!!」
『……そうか。次の選択はペルカディアだったか』
また、のそのそと葉っぱを食べるトルティア。
「ガガガガ」
『爺さんはボケてからが長いんじゃ』
「え?」
ヤンは、後ろからずっとついてきている『えん鳥』を振り返る。
この鳥の言動に少しだけ、違和感を覚えた。




