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幼稚園戦争  作者: あぐり りょう


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27/33

クィーンのファッションチェック(辛口)

 低い声。

 独特なイントネーション。


 いわゆる、ドラァグクイーン。

(濃いな)


 ベラドンナは、ピンク頭のミレーヌの前を行ったり、来たり。


 右から見る。

 左から見る。


 首を上下に何度も動かす。

 目つきが悪い。


『…………アナタ』

 ベラドンナの目が、ミレーヌの襟元で止まった。


『……ちょっと待って』

「?」

『なぁに、その襟ィ!!』

「…………!」


『アナタ、首のまわりで春祭りでも始めたのォ!?』


 ミレーヌが、ごくりと唾を飲む。


『盛ればいいってもんじゃないのよ!!』

『一枚、二枚、三枚……イヤだァ、まだあるじゃないィ!! 何枚重ねたのォ!?』


 ベラドンナが、ぐいっと首を伸ばす。


『ちょっとォ! 首どこ!?』

「ここ……」

『知ってるわよ!!』


 ばさり。

 羽が揺れる。


『アタシの羽根を参考にしたのかしら? でもねぇ!』


 ベラドンナが胸を張った。


『コレは、アタシという個性の上に成り立っているのよ!!』

「でも……」

 ミレーヌが胸元のフリルをそっと摘む。


『でもね』


 ベラドンナが、すっと顔を寄せた。

 視線が上へ。

 ピンク色の髪。

 左右に結われた、ハート型のお団子。


『…………そこ』

「?」


『その髪型』

「ハート、いい?」

『いいわよォ!!』


 ミレーヌの顔が、ぱっと明るくなる。


『そこは残しなさい! アナタ、ちゃんと自分が可愛いって分かってるじゃない!』


「うん!」


『だったら次は、その可愛さを服で潰さないことね!』

「でも、それってベラドンナちゃんのいけんだよね?」

『…………』

 ベラドンナの首が、止まった。


『出たわね、その言い方ァ!!』

「だって、わたしはかわいいと思うよ?」


『盛りすぎなのよォ!!』

「ベラドンナちゃんも盛ってるよね?」


『アタシはいいの!!』

「なんで?」


『似合うからよォ!!』

「わたしも似合ってるよ?」


『…………アナタねぇ!!』

「えへへ」

『笑うんじゃないわよォ!!』


「でもね、ベラドンナちゃん」

『なによォ!!』


「私、次のおゆうぎ会の、はやりをつくりたいんだよね!」


『…………はやりを?』

 ベラドンナの首が、ぴたりと止まった。


「うん!」

『アナタ……』


 一歩。


『生意気ねぇぇぇぇぇ!!』

「えへへ」


 ばさあっ!!

 色鮮やかな羽根が、一気に開いた。


『でも、そういう子――アタシ、嫌いぢゃないわよォ!!』

『流行のお話は後日! 今日はお客さまがいっぱいだから!!』


「わあ!」


(この鳥、うるせえし、でけえ)

 ヤンは、さらに一歩距離を取った。


『いいわ! 見てなさい!!』

 ベラドンナが、くるりと向きを変える。


 その目が。

 ヒヨコ組の女児たちを捉えた。


『そこの小さいアナタァ!!』

「えっ」

 マリーが固まる。


『そう! 今、“自分じゃありませんように”って顔したアナタよォ!!』


「まりー……」


『いらっしゃい!!』

「ひゃい!」


 マリーがおずおずと前へ出る。

 ベラドンナは右から見る。

 左から見る。

 首を伸ばして上から見る。


『…………イヤねぇ』

「え」


『何もないわァ!!』

「ええっ!?」


『ジャケット! 普通!』

「うん……」


『スカート! 普通!』

「うん……」


『靴下! 普通!』

「うん……」


 ベラドンナがマリーを見つめる。


『アナタ、今日どこにいるのよゥ!!』

「ここ……」


『そういう話じゃないわよォ!!』


 マリーの目が、まん丸になる。


『……待って』

 ベラドンナが急に顔を寄せた。


『そのリボン』

「……これ?」

『それよ!!』


 マリーが、髪についた小さなリボンを触る。


『なんでそんな可愛いものを髪の奥に埋葬してるの!?』

「まいそう……?」

『出しなさいな! 前へ!! その子を生かしてあげなさいィ!!』


「おりぼん、いきてるよ?」

『知ってるわよォ!!』


(何の会話だよ)


『次!!』

「わたし?」


 リナが前へ出る。

 ベラドンナは、一目見るなり足元で止まった。


『…………誰?』

「え?」


『誰がやったの?』

「なにを?」


『その靴下よ!!』

「おかーさま」


『お母さまァ!?』

 ばさばさばさっ!!


『イヤだぁ! 信じらんないィ!! 花! 花! 花! 三つ!!』


「かわいいから……」


『一個ならね!!』

「…………」


『花は可愛いわよ! でも三つ並べたら花壇なの! 四ついったら公園よォ!!』


「かだん……」


『アナタの足はお庭じゃないのォ!!』


 リナが、自分の足を見る。


『でも』

「?」


『黄色は、いいわ』

「え?」


『そこは残して』

「いいの?」


『いいわよォ。アナタ、笑うと黄色が似合うもの』


 リナが、ぱっと笑った。


『ほらぁ!! それよ!!』

 ベラドンナが羽根をばさばささせる。


『だから花壇を撤去しなさい!!』

「はーい!」


(撤去って言ったぞ)


『次!!』


 今度はソフィア。

 ベラドンナが、じっと見る。


「…………」

『…………』

「…………」


『ちょっと』

「なに?」


『その髪飾り、アナタが選んだ?』

「うん」


『…………そう』

 ベラドンナは一度、目を細めた。


『それはいいわ』

「ほんと?」


『そこだけね』

「そこだけ……」


『ジャケットは着られてる! スカートも真面目すぎ!』


 ベラドンナが、首を傾げる。


『アナタ、今日はお出かけじゃなくて、謝罪会見でもするつもり!? 個性が家出して帰って来ないぢゃないィ!! それに対する謝罪会見なのォ!?』


「しゃざい……? いえで……?」


『でも髪飾りはいい』

「うん」


『残しなさい』

「ほんとに?」


『自分で選んだものって、不思議と本人の顔をするのよ』


 ソフィアが、少しだけ笑った。

 ベラドンナが目を細める。


『そう。その顔も残しなさい』


(たまに、いいこと言うな)

 ヤンが思った、その時だった。


『次!! そこの前髪!!』

「わ、わたし!?」


『ちゃんと顔を出しなさい!! 前髪に家賃でも払ってるのォ!?』

「やちん?」


『そっち!! 袖はいい! でもボタンが死んでる!!』

「しんでる!?」


『そこのアナタ!! なんでリボンを二個つけたの!?』

「おねえちゃんが……」

『お姉ちゃん、連れてきなさい!!』

「えええっ!?」


 次々と女児たちが捕まっていく。


『違う!』

『惜しい!』

『そこはいい!』

『イヤだ、それ足したの誰ェ!?』

『なんで取ったの!? 戻しなさい!!』

『ちょっとォ! その色どこから持ってきたのよォ!! 目がパレードしちゃうぢゃないィ!!』


『そこは好き!!』

『でも下は嫌い!!』


『アナタはまず鏡を見て!!』


 怒鳴り声。

 悲鳴。

 歓声。

 羽ばたき。


 一枚、扉を隔てた隣では、さっきまで上級生男子たちが卵を巡って死闘を繰り広げていた。


 そして、こちらでは。

 三歳児と五歳児が、鳥にファッションチェックを受けている。


(なんなんだよ、この動物舎)

 ヤンは、そっと遠い目をした。


『……それにさァ、アナタたちはっ……』

 ベラドンナの声が、突然止まった。


 ベラドンナは何かに気がついたように、ヤンたちの方向を見る。


『…………ちょっと』


 徐々に羽が持ち上がってきた。

『ねぇ、そこにいる、すっごく神々しく輝くお髪の彼――誰かしらァ?』


『隣に貧相な顔立ちが並んでるから、余計に際立つわァ!! 今は美幼児!! 将来は美男子確定ィ!!』

『ちょっとォ!! 聞いてないんですけどォ!! ちょータイプゥ!!』

 全開に羽根を広げ、これでもかと揺らす。

 

「ゆーり?」

 ユリウス殿下が、自分を指した。


『アナタ!! ゆーりとおっしゃるのねぇん!? ステキ!!』


 え?じゃあ隣りの貧相な顔立ちの引き立て役って……?

(俺の事か!? 焼き鳥にしたいくらいの悪口だな!)


『レオンちゃんもキラキラでステキだけど……。レオンちゃんと似てるわね!!』


「うん!」


『レオンちゃんは公爵家のご嫡男って言ってたわねぇ……』

『まさか……アナタ、ホンモノの王子様かしらァ!』

「そうだよ!」


『ンマァァァァ!! 久しぶりの王族!! 眼福!!』

『我が一生に悔いナシだわ!!』


 ベラドンナのテンションが、さらに上がる。

 羽根を開く。

 閉じる。

 また開く。

 好意を表現するたびに、土埃が舞った。


 ヤンは心底思った。

 はやく、帰りたい……。

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