クィーンのファッションチェック(辛口)
低い声。
独特なイントネーション。
いわゆる、ドラァグクイーン。
(濃いな)
ベラドンナは、ピンク頭のミレーヌの前を行ったり、来たり。
右から見る。
左から見る。
首を上下に何度も動かす。
目つきが悪い。
『…………アナタ』
ベラドンナの目が、ミレーヌの襟元で止まった。
『……ちょっと待って』
「?」
『なぁに、その襟ィ!!』
「…………!」
『アナタ、首のまわりで春祭りでも始めたのォ!?』
ミレーヌが、ごくりと唾を飲む。
『盛ればいいってもんじゃないのよ!!』
『一枚、二枚、三枚……イヤだァ、まだあるじゃないィ!! 何枚重ねたのォ!?』
ベラドンナが、ぐいっと首を伸ばす。
『ちょっとォ! 首どこ!?』
「ここ……」
『知ってるわよ!!』
ばさり。
羽が揺れる。
『アタシの羽根を参考にしたのかしら? でもねぇ!』
ベラドンナが胸を張った。
『コレは、アタシという個性の上に成り立っているのよ!!』
「でも……」
ミレーヌが胸元のフリルをそっと摘む。
『でもね』
ベラドンナが、すっと顔を寄せた。
視線が上へ。
ピンク色の髪。
左右に結われた、ハート型のお団子。
『…………そこ』
「?」
『その髪型』
「ハート、いい?」
『いいわよォ!!』
ミレーヌの顔が、ぱっと明るくなる。
『そこは残しなさい! アナタ、ちゃんと自分が可愛いって分かってるじゃない!』
「うん!」
『だったら次は、その可愛さを服で潰さないことね!』
「でも、それってベラドンナちゃんのいけんだよね?」
『…………』
ベラドンナの首が、止まった。
『出たわね、その言い方ァ!!』
「だって、わたしはかわいいと思うよ?」
『盛りすぎなのよォ!!』
「ベラドンナちゃんも盛ってるよね?」
『アタシはいいの!!』
「なんで?」
『似合うからよォ!!』
「わたしも似合ってるよ?」
『…………アナタねぇ!!』
「えへへ」
『笑うんじゃないわよォ!!』
「でもね、ベラドンナちゃん」
『なによォ!!』
「私、次のおゆうぎ会の、はやりをつくりたいんだよね!」
『…………はやりを?』
ベラドンナの首が、ぴたりと止まった。
「うん!」
『アナタ……』
一歩。
『生意気ねぇぇぇぇぇ!!』
「えへへ」
ばさあっ!!
色鮮やかな羽根が、一気に開いた。
『でも、そういう子――アタシ、嫌いぢゃないわよォ!!』
『流行のお話は後日! 今日はお客さまがいっぱいだから!!』
「わあ!」
(この鳥、うるせえし、でけえ)
ヤンは、さらに一歩距離を取った。
『いいわ! 見てなさい!!』
ベラドンナが、くるりと向きを変える。
その目が。
ヒヨコ組の女児たちを捉えた。
『そこの小さいアナタァ!!』
「えっ」
マリーが固まる。
『そう! 今、“自分じゃありませんように”って顔したアナタよォ!!』
「まりー……」
『いらっしゃい!!』
「ひゃい!」
マリーがおずおずと前へ出る。
ベラドンナは右から見る。
左から見る。
首を伸ばして上から見る。
『…………イヤねぇ』
「え」
『何もないわァ!!』
「ええっ!?」
『ジャケット! 普通!』
「うん……」
『スカート! 普通!』
「うん……」
『靴下! 普通!』
「うん……」
ベラドンナがマリーを見つめる。
『アナタ、今日どこにいるのよゥ!!』
「ここ……」
『そういう話じゃないわよォ!!』
マリーの目が、まん丸になる。
『……待って』
ベラドンナが急に顔を寄せた。
『そのリボン』
「……これ?」
『それよ!!』
マリーが、髪についた小さなリボンを触る。
『なんでそんな可愛いものを髪の奥に埋葬してるの!?』
「まいそう……?」
『出しなさいな! 前へ!! その子を生かしてあげなさいィ!!』
「おりぼん、いきてるよ?」
『知ってるわよォ!!』
(何の会話だよ)
『次!!』
「わたし?」
リナが前へ出る。
ベラドンナは、一目見るなり足元で止まった。
『…………誰?』
「え?」
『誰がやったの?』
「なにを?」
『その靴下よ!!』
「おかーさま」
『お母さまァ!?』
ばさばさばさっ!!
『イヤだぁ! 信じらんないィ!! 花! 花! 花! 三つ!!』
「かわいいから……」
『一個ならね!!』
「…………」
『花は可愛いわよ! でも三つ並べたら花壇なの! 四ついったら公園よォ!!』
「かだん……」
『アナタの足はお庭じゃないのォ!!』
リナが、自分の足を見る。
『でも』
「?」
『黄色は、いいわ』
「え?」
『そこは残して』
「いいの?」
『いいわよォ。アナタ、笑うと黄色が似合うもの』
リナが、ぱっと笑った。
『ほらぁ!! それよ!!』
ベラドンナが羽根をばさばささせる。
『だから花壇を撤去しなさい!!』
「はーい!」
(撤去って言ったぞ)
『次!!』
今度はソフィア。
ベラドンナが、じっと見る。
「…………」
『…………』
「…………」
『ちょっと』
「なに?」
『その髪飾り、アナタが選んだ?』
「うん」
『…………そう』
ベラドンナは一度、目を細めた。
『それはいいわ』
「ほんと?」
『そこだけね』
「そこだけ……」
『ジャケットは着られてる! スカートも真面目すぎ!』
ベラドンナが、首を傾げる。
『アナタ、今日はお出かけじゃなくて、謝罪会見でもするつもり!? 個性が家出して帰って来ないぢゃないィ!! それに対する謝罪会見なのォ!?』
「しゃざい……? いえで……?」
『でも髪飾りはいい』
「うん」
『残しなさい』
「ほんとに?」
『自分で選んだものって、不思議と本人の顔をするのよ』
ソフィアが、少しだけ笑った。
ベラドンナが目を細める。
『そう。その顔も残しなさい』
(たまに、いいこと言うな)
ヤンが思った、その時だった。
『次!! そこの前髪!!』
「わ、わたし!?」
『ちゃんと顔を出しなさい!! 前髪に家賃でも払ってるのォ!?』
「やちん?」
『そっち!! 袖はいい! でもボタンが死んでる!!』
「しんでる!?」
『そこのアナタ!! なんでリボンを二個つけたの!?』
「おねえちゃんが……」
『お姉ちゃん、連れてきなさい!!』
「えええっ!?」
次々と女児たちが捕まっていく。
『違う!』
『惜しい!』
『そこはいい!』
『イヤだ、それ足したの誰ェ!?』
『なんで取ったの!? 戻しなさい!!』
『ちょっとォ! その色どこから持ってきたのよォ!! 目がパレードしちゃうぢゃないィ!!』
『そこは好き!!』
『でも下は嫌い!!』
『アナタはまず鏡を見て!!』
怒鳴り声。
悲鳴。
歓声。
羽ばたき。
一枚、扉を隔てた隣では、さっきまで上級生男子たちが卵を巡って死闘を繰り広げていた。
そして、こちらでは。
三歳児と五歳児が、鳥にファッションチェックを受けている。
(なんなんだよ、この動物舎)
ヤンは、そっと遠い目をした。
『……それにさァ、アナタたちはっ……』
ベラドンナの声が、突然止まった。
ベラドンナは何かに気がついたように、ヤンたちの方向を見る。
『…………ちょっと』
徐々に羽が持ち上がってきた。
『ねぇ、そこにいる、すっごく神々しく輝くお髪の彼――誰かしらァ?』
『隣に貧相な顔立ちが並んでるから、余計に際立つわァ!! 今は美幼児!! 将来は美男子確定ィ!!』
『ちょっとォ!! 聞いてないんですけどォ!! ちょータイプゥ!!』
全開に羽根を広げ、これでもかと揺らす。
「ゆーり?」
ユリウス殿下が、自分を指した。
『アナタ!! ゆーりとおっしゃるのねぇん!? ステキ!!』
え?じゃあ隣りの貧相な顔立ちの引き立て役って……?
(俺の事か!? 焼き鳥にしたいくらいの悪口だな!)
『レオンちゃんもキラキラでステキだけど……。レオンちゃんと似てるわね!!』
「うん!」
『レオンちゃんは公爵家のご嫡男って言ってたわねぇ……』
『まさか……アナタ、ホンモノの王子様かしらァ!』
「そうだよ!」
『ンマァァァァ!! 久しぶりの王族!! 眼福!!』
『我が一生に悔いナシだわ!!』
ベラドンナのテンションが、さらに上がる。
羽根を開く。
閉じる。
また開く。
好意を表現するたびに、土埃が舞った。
ヤンは心底思った。
はやく、帰りたい……。




