講堂へ行こう
ある朝。
全員の登園を終えたあと、園舎に一斉放送が流れた。
「皆さん、大事なお話があります。先生の指示に従って、講堂へ集まってください」
それは副園長の声だった。
オルディス幼稚舎では、全員が移動する際は順番がある。
最初は年長組。
その中でもスミレ組が先頭である。
園舎の一番奥の教室から廊下を名前の順番で歩く。
アーロンは先頭に立ち、廊下の真ん中を肩が風を切るように堂々と歩く。
「スミレ組さんよ!」
「カッコいいなぁ。俺もらいねんはアーロンくんみたいになりたい!」
「キャー!!レオンさま!!」
次々と各クラスの前を集団で歩く姿はまるで騎士団のパレードのようだ。
スミレ組が歩いた後にまた新たな組が列に加わる。
巨大な園児集団が形成されていくが、列の乱れはない。
スミレ組が年少クラスの前を通る。
「れおんさまぁー!」
「アーロンくーん!」
「どこいくのー?」
「ぼくもいくー!」
「せんせー! おしてるー!!」
どこのクラスも教室の入り口に園児たちが集まり、押し合いが始まっていた。
それはバンビクラスも同じだった。
れおん、さまが見れる!
そう思って見ていたはずなのに……。
後ろから強い力で押されて私は前に飛び出してしまった。
すべってころんだ姿でスミレぐみの前に飛び出してしまった。
ひざのすりきずから血がにじむ。
みんながわたしを見ている。
いたい……。
「……ぅ……いたい……」
めのおくがあつくなった。
みんなに見られた。
はずかしい。
ひざもいたい。
「ふぇ……っ」
「これはいけないね」
スミレぐみのれつから、ひとりのおとこのこがでてきた。
わたしのまえにしゃがむと、ポケットからしろいハンカチをとりだす。
「少しだけ我慢して」
そういって、すりむいたひざにハンカチをあてた。
「傷というものは不思議だね。同じように転んでも、気にせず立ち上がれる者もいれば、痛くて涙が出てしまう者もいる」
ちいさなひざにハンカチをむすぶ。
「でも、それは弱いということじゃない。痛みを知っている者ほど、誰かが傷ついたとき、その痛みをわかってあげられるからね」
「……?」
「だから、きみが流した涙は恥ずかしいものじゃないよ」
むすびおわると、そこではじめて、おとこのこがわたしのかおをみた。
「もっとも――」
なみだでぐしゃぐしゃになったかおをみて、ふっとほほえむ。
「こんなに可愛らしい女の子を転ばせるなんて、床のほうには少し反省してもらいたいところだけどね」
「……」
「さあ。もう泣かないで」
にこりと笑う。
「涙で隠してしまうには、きみの顔は少しもったいない」
「…………」
「アルベルト! 行くぞ!」
「今行くよ」
おとこのこはたちあがる。
「そのハンカチはきみに預けておくよ。また転んではいけないからね」
そういって……。
いってしまった。
「…………」
あるべると。
「……あるべると、さま」
れおんさまを見たかったはずなのに。
わたしは、アルベルトさまのうしろすがたをずっとみていた。
むねのおくが、またへんなかんじになる。
トゥンク……。
「……?」
このまえも、なった。
わたしは、むねにてをあてた。




