オルディスのルール
チビが、泣いている。
しかし、ルールはルールだ。
「……ぉ゛う゛!! ……ヒィッッ……グ!! ……」
大きな声で泣いている。
好きなだけ、泣けばいい……。
だが、泣けば全てかいけつするわけではない。
それが、オルディスがくえん、ようちしゃだ。
チビたちに、このしゅうだんこうどうで、わかってもらいたい事がある。
よのなかは、りふじんであふれている。
だから、俺たちはせんぱいとして心をオニにして続ける。
それこそが、スミレ組のシメイだからな。
「ユーリ、おりるの?」
「うん。ヤンくん、ないてるから」
ユリウスがなわから手を離し、なわきしゃからはなれようとする。
「とちゅうげしゃは、できません!」
俺はしゃそうさんとして、後ろから声をかける。
「そっか」
「つぎのえきまで、おまちください!」
「はーい」
「ないふ!ふぉーく!ないふ!ふぉーく!」
「ふぉーく、ないふ、ふぉーく、ないふ……」
右、左がまだわからないチビたちに教えるかけごえは、俺たちもせんぱいから教わった。
これがデントーというものなのだ。
チビたちのゆがんだれつを、いちれつに戻し、あしなみのズレたこうしんを合わせていく。
「いち!に!いち!に!」
うんてんしのカイルの声が大きく響く。
きょうしつの中をぐるりと一周する。
スミレ組のたんにんのアンナが、年少のヒヨコ組に来たのは、チビが大泣きするところだった。
「こら!! あなた達!! 小さいおともだちを泣かせてはいけません!!」
先頭にカイル、後方に俺を配置した縄汽車は、ヒヨコ組の一人のクラスメイトを置き去りにした。
「……ぉ゛う゛!! ……ヒィッッ……グ!! ……」
かおをまっかにして、泣きくずれたチビ。
後から来たアンナには、スミレ組の俺たちが、なかまはずれにしたように見えたのだろう。
「戻りなさい! 入れてあげたらいいでしょ? とにかく、仲間はずれはいけません!!」
アンナは何もわかっていない。
ジョアンナ先生はきょうしつの入り口でだまって見ているというのに……。
ひじょうになげわかしいことだ。
「せんせぃ、これはなかまはずれじゃない!ルールをたたきこんでいるんだ!」
俺は、こうしんしながら言い返す。
「そうです、先生。ルールとは秩序です!」
アルベルトがむずかしい言葉でアンナに話す。
レオンがその隣りで頷く。
「でも……! 小さなおともだちを泣かせていいのかな? それは、先輩としてどうなのかな?」
ハァーとアルベルトがため息を吐く。
「アンナ先生。先生は、最初から物事を見ずに今の状況だけで判断していますね? それは教師としてはいかがなことでしょうね?」
「……なっ何?」
「今、ヤン君が泣いているのは、自分のせいです」
アルベルトが冷静な声で続ける。
「わがままを言い、駄々を捏ねた結果、縄汽車の発車時刻に乗り遅れた」
アルベルトがヤンの行動を指を折りながら数える。
「ぅうう……」
アルベルトの言葉にはんのうするように泣き続けるチビ。
「それから、発車したあとに乗ろうとした」
レオンが続ける。
「それは……」
「ホンモノの汽車で、かけこみじょうしゃはあぶないでしょ?」
「……」
「だから、つぎのきしゃをまっているところ」
「でも、泣いているでしょう?」
「泣いたら、のせるの?」
「え?」
「泣いたら、ルールをまもらなくてもいいんですか?」
アンナは言葉に詰まった。
「それは……そういう意味ではなくて……」
「では、どういういみなのかな?」
「まだ三歳なのよ!」
「だから、おしえているんだよ。さいしょがかんじんでしょ?」
レオンが当然のように答えた。
「五歳になってから、おしえるんですか?」
「……!」
「ルールをしらないまま、おおきくなったら、もっとあぶないよ?」
その隣でアルベルトが大きく頷く。
「幼いうちから秩序を学ぶことは、集団生活において非常に重要です」
「アルベルトくんはちょっと黙ってて!」
「なぜです?」
「話が難しくなるからです!」
「……?」
アルベルトが首を傾げる。
レオンとアルベルトに言い返すアンナの声をきしゃのこうほうから聴く。
アンナは、まだオルディスをわかっていない。
俺たちはヤンを仲間外れにしているわけではない。
「つぎのきしゃは、さんぷんごです」
「三分?」
「はい」
「たった三分じゃないですか!」
「そうです」
「だったら――」
アンナが口を閉じた。
自分で気づいたらしい。
たった三分。
俺たちはヤンを置いていくわけではない。
次の汽車を待ってもらっているだけだ。
いちどはチビから遠ざかっていたなわきしゃが徐々に近づく。
「いち!に!いち!に!」
「ふおーく!ないふ!ふぉーく!ないふ!」
さいしょは、みだれていた列や、あしなみもスタートラインにもどってくるにつれてそろい始める。
「よーし!とーちゃく!!」
せんとうのカイルが大声でゴールしたとつたえる。
俺はしゃそうのかかりなので、
「どなたさまもおわすれものに、おきをつけください!」
と、ちゅういをうながす。
「なーい!」
「こーたい、しよー」
「こんどはわたしやる!!」
「サッちゃんも!」
チビたちがいりみだれる。
「おりるひとが、さきでーす! のるひとはちゃんとじゅんばんにならんでくださーい」
とちゅうげしゃをしかられたユーリも、きしゃからおりて、ヤンのそばへいく。
ヤンはまだ、
「……ぉ゛う゛……ヒィッ……ク……」
泣いてる。
「ねぇ、もどったよ! こんどは、いっしょにならぼう!」
「……。ぅう、……の゛る゛」
「ヤンくん、ぼくのうしろね」
「……うん」
「ここから、でちゃだめだよ」
「……うん」
チビたちが、こうたいする。
あらたなじょうきゃくをむかえて、なわを持たせる。
「いいか? さいしょは、ないふをもつほうのあしからだ!」
「こっち?」
「おまえは……。ふぉーくをもつほうだ!」
「わかった!」
「じゃあ、あしぶみのれんしゅうだ!」
「ないふ!ふぉーく!ないふ!ふぉーく!」
「いち!に!いち!に!」
さきほどくんれんをうけたチビたちも声を合わせてその場であしぶみをする。
よし、よし、ことしのしんじんはきたいできるぞ!
「テレレレ!」
「とびらがしまります!」
「あっ!かけこみじょうしゃは、おやめください!」
「しゅっぱーつ!!」
「オー!!」
「……ぉー……」




