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幼稚園戦争  作者: あぐり りょう


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10/33

入園式

 大講堂は、静謐な空気に包まれていた。


 高い天井。


 正面には、オルディス学園の紋章が掲げられている。


 壇上には学園長をはじめ、幼稚舎の教師たちが並ぶ。


 そして、その前。

 真新しい制服に身を包んだ、小さな子どもたちがいる。


 その背中を、保護者席から見つめる。


 ようやく。

 ここまで来た。


 真冬の夜から始まった長い入園選考を越えて、我が子が今、オルディス学園幼稚舎の園児として座っている。


 すすり泣く声が聞こえた。

 目元をハンカチで押さえる母親。

 黙ったまま我が子を見つめる父親。


 それを咎める者はいない。


 誰もが、同じような思いでこの日を迎えている。


 やがて。

 壇上に、一人の老人が立った。


 オルディス学園、学園長。

 元宰相。


 この国の政治を長く支え、多くの人々から敬意を集める人物である。


 大講堂が静まり返る。

 学園長は、ゆっくりと会場を見渡した。


 保護者ではない。

 その視線が向けられたのは――子どもたちだった。


「新入園児のみなさん。オルディス学園幼稚舎へ、ようこそ」


 優しい声が、大講堂に響く。

 きょろきょろしていた子どもたちが、壇上を見る。


「これから君たちは、ここでたくさんのおともだちと出会います。遊んだり、笑ったり、ときには喧嘩もするでしょう」


 学園長は微笑んだ。


「その前に。オルディスで過ごす君たちに、覚えておいてほしいことがあります」


 一本、指を立てる。


「君たちには、一つの権利があります」


 園児たちが見つめる。

 今度は、もう一本。


「そして、一つの義務があります」

「少し難しい言葉ですね」


 何人かの園児が頷いた。


「だから今日は、二つの言葉だけ覚えてください」


 学園長は、一本目の指を示した。


「まず――『入れて』」


「いれて?」

 どこかから、小さな声がした。


「そう。『入れて』です」


 学園長が頷く。


「君がおともだちの遊びに入りたいとき。勇気を出して、こう言ってください」

「入れて」

「これは、オルディスにいるすべての子どもが持っている権利です」


 そして、二本目の指を示した。


「もう一つは――『いいよ』」

「いいよ!」


 今度は何人もの声が重なった。


「そうです。よくできました」

 学園長は笑った。


「おともだちから『入れて』と言われたら、君たちは『いいよ』と答えてください」


 そして。

 穏やかな声のまま、はっきりと言った。


「それが、君たちの義務です」


 保護者席は静かだった。

 単なる幼児同士の約束事ではない。


 この学園が、何を子どもたちに教えようとしているのか。

 大人たちには、その意味が分かる。


「君が誰であっても」

「相手が誰であっても」


「オルディスにいる間、この二つの言葉は、すべての子どもに等しく与えられます」


「『入れて』と言えること」

「『いいよ』と迎えること」


「まずは、そこから始めてください」


 少しだけ間を置く。


「仲良くできるかどうかは――そのあと、君たち自身で考えればいい」


 保護者席の空気が、わずかに変わった。


「先生が、おともだちを決めるのではありません」

「お父さんやお母さんが、決めるのでもありません」

「君たちが自分で話し、自分で考え、自分で決めてください」


「失敗しても構いません」

「喧嘩をしても構いません」

「分からなくなったら、先生に聞いてください」

 

「けれど、最初から誰かを仲間の外へ置くことだけは、してはいけません」


 学園長は、新入園児たちを見渡した。


「それが、オルディスで最初に学ぶことです」


 そして、微笑む。


「では、もう一度」

「君たちが、仲間に入りたいときは?」


「いれてー!」


「おともだちが『入れて』と言ったら?」

「いいよー!」


「よろしい」


 学園長は満足そうに頷いた。


「今日から、この学園は君たちの学園です」


「たくさん遊びなさい」

「たくさん考えなさい」


「失敗することを恐れず、自分で選びなさい」


「そして、おともだちと共に、自分たちの世界を作っていきなさい」


 学園長は、ゆっくりと両手を広げた。


「これから始まる、君たちの学園生活に――」

「オルディス神のご加護を賜らんことを!」


 大講堂に、厳かに声が響いた。

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― 新着の感想 ―
良いお話。 学園長が言いたかったことが深くて。 自分達で友達を作り、そこに立場を入れない。 それが最初の課題なんて素晴らしい。 勝手にダン〇ルドアを想像していました(初期の優しい方)笑
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