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第36話 実技試験で圧勝する

 実技試験の日が来た。


 内容は、魔法標的の破壊と、簡単な戦術判断。


 生徒は数人ずつ組に分かれ、訓練場に置かれた標的を倒す。


 ただ強い魔法を撃つだけでは駄目らしい。


 仲間を守る位置取り。

 敵の動きに合わせた判断。

 無駄な被害を出さないこと。


 そのあたりも評価される。


 俺にとっては、かなり嫌な試験だ。


 なぜなら、原作ではここでレオンが暴走するからだ。


 王子派の生徒に妨害される。

 怒る。

 大きな魔法を撃つ。

 周囲を巻き込みかける。


 そして、また悪評を得る。


 絶対に避ける。


「レオン様」


 訓練場の端で、セシリアが声をかけてきた。


「無理はなさらないでください」


「無理をすると悪評になるからな」


「それだけではありません」


 セシリアは少しだけ眉を寄せる。


「怪我をしてほしくないのです」


 心臓に悪い。


 試験前にそういうことを言われると、妙に落ち着かなくなる。


「気をつける」


「はい」


 セシリアは微笑んだ。


 よし。


 絶対に失敗できない。


 俺の組には、王子派の生徒が二人いた。


 一人はエドガーの取り巻き。

 もう一人は、やけに俺を見てにやにやしている。


 名前は覚えていない。


 覚える必要もあまりなさそうだ。


 どう見ても噛ませ犬である。


「グランヴェル卿、足を引っ張らないでくださいよ」


 取り巻きの一人が言った。


「こちらの台詞だ」


 と言いそうになって、飲み込む。


 危ない。


 挑発に乗るな。


「互いに役割を守ろう」


 俺は短く答えた。


 相手はつまらなそうな顔をする。


 怒らせたかったのだろう。


 残念だったな。


 俺はもう、怒ったら死ぬ世界で生きている。


 審判役の教師が声を上げた。


「開始!」


 標的が動き出す。


 人型の魔道具が三体。


 そのうち一体は前衛。

 二体は後ろから魔法弾を撃ってくる。


 まずい配置だ。


 だが、対処はできる。


「左を押さえる。右の標的を先に止めろ」


 俺が指示を出す。


 だが、王子派の生徒はわざと逆へ動いた。


 予想通りだ。


 その瞬間、視界が歪む。


 《最悪予測》。


 見えたのは、右の標的を放置したせいで魔法弾が飛び、俺の背中に当たる未来。


 なるほど。


 そういう妨害か。


 俺はすぐに位置を変えた。


 右の標的が魔法弾を放つ。


 だが、俺はすでに避けている。


 魔法弾はそのまま、動きの悪い前衛標的に命中した。


 標的が一体、止まる。


 訓練場がざわついた。


「味方の攻撃を利用した?」


「いや、標的同士をぶつけたのか?」


 違う。


 妨害を避けたら、たまたまそうなっただけだ。


 でも、使える。


 王子派の生徒たちは顔をしかめた。


 次に、片方が俺の進路をふさぐように動いた。


 まただ。


 俺を動きにくくして、失敗させるつもりか。


 視界が揺れる。


 今度は、俺が止まったところへ標的の攻撃が来る未来。


 なら、止まらない。


 俺は一歩下がり、わざと空いた場所を作った。


 標的がこちらへ走る。


「危ないぞ!」


 王子派の生徒が叫ぶ。


 演技が雑だ。


 だが、俺は標的の足元へ小さな魔法を撃った。


 攻撃ではない。


 地面を少し滑らせるだけの魔法だ。


 標的の足がずれる。


 そのまま王子派の生徒がふさいでいた場所へ突っ込んだ。


「うわっ!」


 生徒は慌てて逃げる。


 標的は壁にぶつかり、動きを止めた。


 二体目も停止。


 教師が目を見開いた。


「魔力をほとんど使わず、誘導したのか……」


 また周囲がざわつく。


 俺は内心で冷や汗をかいていた。


 危なかった。


 普通に危なかった。


 妨害されなければ、もっと楽だったのに。


 残る標的は一体。


 後衛型だ。


 遠くから魔法弾を撃ってくる。


 ここで大きな魔法を撃てば、派手に倒せる。


 だが、それは原作のレオンがやった失敗だ。


 俺はやらない。


「全員、下がれ。盾代わりの障壁を出す」


 俺は小さな防御魔法を展開した。


 そこへ標的の魔法弾が当たる。


 障壁が少し揺れる。


 その反動で、標的の攻撃方向が固定された。


「今だ」


 俺は低い出力の風魔法を撃つ。


 標的の足元の砂が舞い上がり、視界を塞ぐ。


 次の瞬間、訓練場の端に控えていた安全装置が作動した。


 標的が生徒を見失い、停止する。


 三体目も無力化。


 試験終了の鐘が鳴った。


 訓練場はしばらく静かだった。


 その後、教師が大きく息を吐いた。


「グランヴェル。今の判断は見事だ」


「ありがとうございます」


「魔力で押し切らず、標的の行動を利用した。周囲の被害もない。実戦をよく考えている」


 教師の声ははっきりしていた。


 周囲の生徒にも聞こえるように。


「この判断力は、学生のものではないな」


 ざわめきが広がる。


 王子派の生徒たちは真っ青になっていた。


 自分たちの妨害が、全部俺の評価につながったのだから当然だ。


 エドガーが遠くで悔しそうにこちらを睨んでいる。


 また失敗したな。


 俺は何も言わない。


 勝手に自滅してくれる相手には、余計な追撃をしない方がいい。


 教師は王子派の生徒たちを見た。


「それと、君たち」


「は、はい」


「味方の動きを妨げる場面があった。実戦なら仲間を危険にさらす行為だ。減点する」


 二人の顔がさらに青くなる。


 よし。


 ざまぁ。


 ……とは口に出さない。


 危ない。


 悪役っぽくなる。


 試験が終わると、セシリアが近づいてきた。


「レオン様、お見事でした」


「かなり危なかった」


「そうは見えませんでした」


「見えなかったなら成功だ」


 正直、何度も冷や汗をかいた。


 だが、結果は良い。


 妨害を避けた。

 標的を倒した。

 周囲を巻き込まなかった。

 教師から評価された。

 王子派は減点された。


 破滅イベントが、完全に評価アップイベントに変わった。


「レオン様は、やはり先を見て動かれるのですね」


 セシリアが言う。


「最悪だけはよく見えるからな」


「だからこそ、皆を守れるのです」


 その言葉に、俺は少しだけ黙った。


 最悪しか見えない力。


 最初は、ただ怖いだけだった。


 今も怖い。


 だが、その最悪を避けることで、誰かが助かる。


 そう考えれば、少しだけ受け入れられる気がした。


 その時、訓練場の入口に王子アルベルトがいるのが見えた。


 彼は何も言わず、こちらを見ていた。


 表情は読めない。


 だが、隣のエドガーは明らかに焦っている。


 王子派の罠は失敗した。


 しかも、教師の前で。


 これで終わるとは思えない。


 次はもっと露骨な罠が来るかもしれない。


 俺は小さく息を吐いた。


「セシリア嬢」


「はい」


「次からは、証拠も集める」


「妨害の、ですか?」


「ああ」


 破滅フラグは、ただ折るだけでは足りない。


 誰が火をつけているのか、突き止める必要がある。


 俺は王子派の生徒たちを見た。


 次に仕掛けてきたら、今度は逃がさない。

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