表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
33/50

第33話 偽ヒロイン登場

 食堂イベントを無事に回避した。


 そう思っていた。


 だが、学園は甘くなかった。


 午後の授業が終わり、俺とセシリアが廊下を歩いていると、前方が少し騒がしくなった。


「見て、あの子」


「平民出身の特待生らしいわ」


「でも、すごく可愛い……」


 そんな声が聞こえる。


 俺は嫌な予感がした。


 平民出身。

 特待生。

 可愛い。


 その三つがそろうと、かなり危ない。


 廊下の先に、一人の少女がいた。


 栗色の髪。

 大きな瞳。

 少し困ったような笑顔。


 周囲の視線に戸惑いながらも、どこか人目を引く雰囲気がある。


 名前を聞く前に、俺は分かってしまった。


 リリア・ノートン。


 乙女ゲーム『聖女と王国の花冠』の主人公。


 原作では、彼女が王子たちと親しくなり、最後に悪役貴族レオンを断罪する。


 つまり、かなり危険な存在だ。


 俺は思わず足を止めた。


「レオン様?」


「少しまずい相手が来た」


「まずい相手?」


「あの少女だ」


 俺は小声で答える。


 セシリアはリリアを見た。


 その目が少しだけ細くなる。


「平民出身の特待生の方ですね」


「ああ」


「お知り合いですか?」


「知り合いではない。ただ、嫌な予感がする」


 本当は原作主人公だと知っている。


 だが、そんな説明はできない。


 俺が警戒している間に、リリアは周囲に囲まれていた。


「大丈夫? 教室分かる?」


「はい。ありがとうございます」


 彼女はにこりと笑う。


 すると、周りの男子生徒が少し顔を赤くした。


 なるほど。


 主人公補正、強い。


 俺は距離を取ろうとした。


 関わらない。


 絶対に関わらない。


 原作主人公に近づけば、破滅フラグが増える。


 ここは逃げる。


「セシリア嬢、別の廊下から行こう」


「はい」


 ところが、そううまくはいかなかった。


 リリアがこちらに気づいたのだ。


「あ……」


 彼女の目が俺に向く。


 そして、なぜかまっすぐ近づいてきた。


 やめろ。


 来るな。


 お願いだから来るな。


「グランヴェル様、ですよね?」


 来た。


 逃げられなかった。


 リリアは俺の前で足を止めた。


「初めまして。リリア・ノートンと申します」


「レオン・グランヴェルだ」


 短く答える。


 余計なことは言わない。


 怒らない。

 見下さない。

 優しくしすぎない。


 難しい。


 かなり難しい。


 リリアは少し不安そうに俺を見た。


「先ほど、食堂でトーマスさんを助けていらっしゃいましたよね」


「ああ。たまたまだ」


「とてもお優しい方なんですね」


 やめてくれ。


 その言い方は危ない。


 周囲の視線が集まっている。


 セシリアが隣にいる。


 ここで俺が照れたり、妙に親しくしたりすると、余計な火種になる。


「優しいというほどではない。食堂で騒ぎを起こしたくなかっただけだ」


「それでも、助けたことに変わりはありません」


 リリアは笑う。


 明るい笑顔だ。


 原作主人公らしい。


 だが、俺は警戒を解かない。


 なぜなら、今の彼女の言葉は少しだけ引っかかった。


 俺を褒めているようで、周囲に聞かせている。


 そんな感じがした。


 考えすぎか?


 いや、学園では考えすぎくらいでいい。


 セシリアが一歩前に出た。


「リリア様。レオン様に何かご用でしょうか?」


 声は穏やかだ。


 だが、距離がある。


 リリアはセシリアを見る。


「あ、セシリア様ですよね。お噂は聞いています」


「そうですか」


「レオン様の婚約者でいらっしゃるんですよね」


「はい」


 セシリアは迷わず答えた。


「私はレオン様の婚約者です」


 少しだけ強い。


 いや、気のせいかもしれない。


 だが、リリアは一瞬だけ目を瞬かせた。


「素敵ですね」


「ありがとうございます」


 会話は丁寧だ。


 だが、どこか冷たい。


 俺は胃が痛くなった。


 頼むから、ここで変なイベントを起こさないでくれ。


 その時、廊下の向こうから王子アルベルトが現れた。


 エドガーも一緒だ。


 まずい。


 役者がそろいすぎている。


 王子はリリアを見て、少し目を留めた。


「君は?」


 リリアはすぐに礼をした。


「リリア・ノートンと申します。平民出身の特待生です」


「特待生か。優秀なのだな」


「いえ、そんな……」


 リリアは少し照れたように笑った。


 原作なら、ここから王子との出会いイベントだ。


 そして、王子は彼女に興味を持つ。


 その後、悪役貴族レオンがリリアをいじめ、王子が守る。


 最悪の流れだ。


 俺は一歩下がった。


 関わらない。


 ここは静かに離れる。


「殿下。私たちは次の用がありますので、失礼いたします」


 俺が言うと、王子はこちらを見た。


「ずいぶん急ぐな、レオン」


「授業の確認があります」


「真面目になったものだ」


「努力中です」


 王子は少しだけ目を細めた。


 だが、止めはしなかった。


 俺はセシリアと一緒にその場を離れる。


 背後では、王子がリリアに何か話しかけていた。


 始まってしまった。


 原作主人公と王子の接触。


 これは避けられなかった。


 だが、少なくとも俺がリリアを怒鳴る展開にはならなかった。


 そこは成功だ。


 廊下を曲がったところで、セシリアが口を開いた。


「レオン様」


「何だ?」


「あの方を、警戒しておられますね」


「分かるか?」


「はい。とても」


 そんなに顔に出ていたのか。


 まずい。


「リリア嬢が悪い人間かは分からない。ただ、王子に近づくと面倒になる」


「それだけですか?」


 セシリアの声が少し静かになる。


 俺は首をかしげた。


「それだけ、とは?」


「……いえ。何でもありません」


 そう言いつつ、セシリアは少しだけ俺の袖をつまんだ。


 え。


 何だこれは。


 可愛い。


 いや、そうではない。


「セシリア嬢?」


「レオン様は、誰にでも手を差し伸べます」


「そうか?」


「はい。そこが良いところです。ですが……」


 彼女は少し目を伏せた。


「少しだけ、心配になります」


 心臓に悪い。


 これは、もしかして嫉妬か?


 いや、決めつけるな。


 自意識過剰かもしれない。


 だが、セシリアが俺の袖をつまんでいるのは事実だ。


 俺は慎重に言った。


「俺が信頼しているのは、君だ」


 言った瞬間、自分でも驚いた。


 何を言っているんだ俺は。


 だが、本音だった。


 王都でも、学園でも。


 俺を支えてくれているのはセシリアだ。


 リリアが原作主人公だろうと関係ない。


 俺にとっての味方は、彼女だ。


 セシリアは顔を上げた。


 頬が少し赤い。


「……はい」


 小さな返事だった。


 だが、嬉しそうだった。


 俺は視線をそらす。


 まずい。


 学園は破滅イベントだけでなく、心臓に悪いイベントも多いらしい。


 そのころ、廊下の向こうでは、リリアが王子と話している。


 原作の流れは、まだ消えていない。


 だが、今の俺にはセシリアがいる。


 なら、原作通りにはならない。


 絶対に、そうさせない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ