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第69話 公爵家監督報告、父の空白

 ヴァレンシュタイン公爵家の監督報告は、いつも重い。


 紙の量が多いからではない。


 もちろん、多い。


 領地税、家政費、使用人給金、宝物庫、社交費、分家支援、王都屋敷の修繕、領地の橋、冬前の穀物管理、前当主時代から続く寄付名簿。


 公爵家というものは、血筋だけで立っているわけではない。


 帳簿の上にも立っている。


 むしろ、帳簿を見れば、その家が何を大切にし、何を見ないふりをしてきたかが分かる。


 だから、重い。


 父の家を見ることは、父の言葉を聞くよりも重い時がある。


 北翼の執務室で、エレノアは王家監督官ヘルマンから届いた中間報告を開いた。


 表紙には、簡潔にこう記されている。


 ――ヴァレンシュタイン公爵家監督報告。

 ――当主権限停止後、第一期整理。

 ――提出者、王家監督官ヘルマン・グラーツ。


 隣には、リリアナが座っていた。


 今日は見学ではない。


 本人関係者として、一部説明を受ける日だった。


 ただし、すべてを見せるわけではない。


 家の財産や使用人の個人情報には、閲覧範囲がある。


 つい先日作ったばかりの「必要以上に知らないことも保護の一部」という考え方は、公爵家監督にも適用される。


 リリアナには、自分に関係する教育費、社交費、王太子妃候補工作に関わる支出、そして今後の生活費に関する部分のみが共有される。


 それでも十分に重い。


「緊張している?」


 エレノアが尋ねると、リリアナは素直に頷いた。


「しています」


「見たくないなら、今日はやめてもいいわ」


「見ます」


 答えは早かった。


 けれど、手は少し震えている。


「知らないままに戻りたくないので」


 その言葉は、もう何度も聞いた。


 だが、今日のそれは少し違っていた。


 今回は救貧院でも、孤児院でも、王太子府でもない。


 自分の家だ。


 自分が生まれ育ち、可愛い娘として守られ、同時に利用されていた家。


 そこを見るのは、別の怖さがある。


 扉が叩かれた。


 ヘルマン監督官が入ってくる。


 灰色の上着、無駄のない動作、変わらない硬い表情。


 彼は礼をし、厚い書類束を机に置いた。


「本日は、公爵家監督報告のうち、第一期整理分を説明いたします」


「お願いします」


 エレノアが答えると、ヘルマンはまず一枚目の紙を開いた。


「結論から申し上げます。ヴァレンシュタイン公爵家は、即時解体を要するほど財務崩壊しているわけではありません。しかし、見せかけの安定に多くの空白があります」


 空白。


 その言葉に、エレノアの指が少し止まった。


 ヘルマンは淡々と続ける。


「第一に、領地収入は堅調ですが、王都社交費と名誉維持費が過大です。第二に、使用人給金は支払われていますが、下級使用人の退職積立が不十分。第三に、リリアナ様の社交費が、教育費名目へ混入しています。第四に、エレノア様の実務労働に対する正式報酬がほぼ記録されていません」


 リリアナが、小さく息を呑んだ。


「お姉様の……報酬?」


「ええ」


 ヘルマンは、別紙を出す。


「王妃基金補助、王太子妃候補教育関連書類整理、公爵家内寄付記録の修正、王宮提出文書下書き、夫人会連絡文の精査。これらの多くを、エレノア様が十代前半より担っていた記録があります。しかし、正式な職務として扱われず、公爵家長女の“教養訓練”または“婚約者準備”として処理されています」


 エレノアは黙っていた。


 驚きはなかった。


 自分では知っていたことだ。


 けれど、それが監督報告として読み上げられると、別の重さになる。


 リリアナは、顔色を変えていた。


「それって……仕事だったの?」


「実質的には」


 ヘルマンが答える。


「ただし、当時の家内慣行では、高位令嬢の教育の一部として扱われていました。問題は、その量と責任範囲です」


 彼は数字を示した。


 月平均の文書処理数。

 王宮提出前の修正件数。

 寄付記録の照合時間。

 社交書簡代筆件数。


 リリアナは、数字を見ても最初は理解できなかったようだった。


 だが、ヘルマンが一つずつ説明すると、だんだん顔が強張っていく。


「お姉様、こんなにしていたの?」


「していたわ」


「私、その間……」


 可愛いドレスを選び、茶会の菓子を楽しみ、王太子殿下に似合う髪飾りを気にしていた。


 そう言いかけたのだろう。


 エレノアは静かに遮った。


「あなたが悪い、という報告ではないわ」


「でも」


「あなたが知らされていなかったことの報告よ」


 リリアナは唇を噛んだ。


 知らされていなかった。


 それは、何度聞いても痛い。


 ヘルマンは表情を変えず、次の紙へ進んだ。


「第五に、グレゴール公爵の当主判断について。大きな横領は確認されていません。しかし、家の維持を優先し、現場確認を行わない傾向が強く見られます」


「現場確認?」


「はい。領地の橋修繕、穀物倉の湿気対策、使用人宿舎の暖房修理、下級使用人の欠員補充。これらはすべて報告が上がっていますが、公爵は“執事判断に任せる”“次期予算で検討”“優先度低”として先送りしています」


 任せる。


 次期予算。


 優先度低。


 見慣れた言葉だ。


 だが、今のエレノアには、その裏が見える。


 見ないことにした、の別名だ。


 ヘルマンは、淡々と表を指した。


「特に使用人宿舎の暖房修理は、三年連続で延期されています。理由は、社交費削減が難しいため」


 リリアナが顔を上げた。


「社交費を減らせば直せたの?」


「一部は」


「私のドレス代も入っていますか」


 自分で聞いた。


 偉い、とエレノアは思った。


 聞かないままでもよかった。


 でも、リリアナは聞いた。


 ヘルマンは、少しだけ間を置いた。


「入っています。ただし、リリアナ様個人の意思で決定されたものではありません。公爵夫人および家政担当の判断です」


「でも、私のために使われた」


「はい」


 リリアナは、手帳を握った。


 エレノアは、妹の顔を見た。


 今、何を言えばいいのか。


 慰めるべきか。


 現実をそのまま置くべきか。


 少し迷った。


 だが、リリアナは自分で言った。


「私、あとでその部分を見ます。全部は無理でも、私に関係するところは」


「分かったわ」


 エレノアは頷いた。


 ヘルマンは続ける。


「第六に、公爵の空白です」


 空白。


 また、その言葉。


 ヘルマンは、一枚の紙を机の中央に置いた。


 表題は、こうだった。


 ――当主未確認事項一覧。


 リリアナが、息を止めるように見た。


 エレノアも視線を落とした。


 そこには、父グレゴールが確認しなかった事項が並んでいた。


 夫人会別口資金の用途。

 リリアナ社交費の詳細内訳。

 月涙石代替品の宝物庫記録。

 王妃基金担保品の移動経路。

 下級使用人宿舎の修繕状況。

 領地代官からの穀物湿気警告。

 エレノアの実務負担時間。

 王太子府への推薦状実務確認者。

 ベルナール分家への非公式支援金。

 セレスティア夫人の夫人会謝礼支出。


 どれも、父の署名がある。


 だが、確認はない。


 印あり未確認。


 王太子府だけではなかった。


 父もまた、同じことをしていた。


「グレゴール公爵は、これらを知らなかったと主張できますか」


 エレノアが問う。


 声は、自分でも冷たく聞こえた。


 ヘルマンは答えた。


「詳細を知らなかったと主張することは可能です。ただし、当主として確認すべき報告は上がっています。したがって、“知らなかった”ではなく、“確認しなかった”または“優先しなかった”と記録すべきです」


 リリアナは小さく呟いた。


「お父様の空欄……」


 エレノアは、その言葉を受け止めた。


 父の空欄。


 それは怒りを呼ぶ言葉だった。


 けれど、少しだけ別の感情もあった。


 父は怪物ではない。


 冷酷なだけの当主でもない。


 領地を完全に放置していたわけではない。


 家を壊そうとしたわけでもない。


 ただ、家の顔を守るために、見やすいものを見て、見たくないものを先送りにした。


 社交の体面を守り、下級使用人の寒さを低く見た。


 娘の華やかな未来を語り、もう一人の娘の労働時間を見なかった。


 当主として署名し、父として見ないことにした。


 それが、父の罪だった。


 ヘルマンは、別の薄い封筒を出した。


「グレゴール公爵本人から、監督報告に対する所見が届いています」


 リリアナの体が硬くなる。


 エレノアも、少しだけ手を止めた。


「読むかどうかは、エレノア様とリリアナ様の判断に委ねられています。内容は監督官確認済み。脅迫や命令、外部連絡指示はありません。ただし、自責と説明が含まれます」


 手紙ではない。


 所見。


 父らしい、とエレノアは思った。


 母は手紙を書いた。


 父は所見を書く。


 どちらも、その人らしい距離の取り方なのかもしれない。


「リリアナ、どうする?」


 エレノアが尋ねると、リリアナは少し青い顔で封筒を見た。


「読みたい。でも、怖い」


「今日でなくてもいい」


「ううん。読みます」


 リリアナは、ゆっくり息を吸った。


「でも、途中で止めてもいい?」


「もちろん」


 エレノアは封を切った。


 便箋は三枚。


 父の字は、母より硬い。


 まっすぐで、整っていて、どこか感情を抑え込むような字。


 エレノアは読み上げるか迷ったが、リリアナが小さく頷いたので、声に出した。


「監督報告に関する所見。グレゴール・ヴァレンシュタイン」


 その題だけで、リリアナが少し苦い顔をした。


「お父様らしい……」


「ええ」


 エレノアは読み進めた。


「私は、王家監督官による指摘を受け、自らが当主として確認しなかった事項の多さを認めざるを得ません。私は長く、ヴァレンシュタイン公爵家を守っているつもりでいました。領地収入を維持し、王都での格式を保ち、娘たちに相応の縁を用意し、公爵家が揺るがぬよう努めてきたと考えていました」


 父らしい文面だった。


 自分の行為を、まず家の言葉で説明する。


「しかし、監督報告は、私が守ったものと見なかったものを分けて示しています。私は家の顔を守り、家の足元を見ませんでした。社交費の削減を嫌い、使用人宿舎の修繕を先送りにしました。リリアナの華やかな支度を認めながら、その費用が何を圧迫しているかを見ませんでした」


 リリアナの手が震えた。


 エレノアは一度読み止める。


「続ける?」


「うん」


 エレノアは続けた。


「エレノアの実務負担について、私は“才ある娘の教育”という言葉に逃げました。できる者に任せることと、できるから負わせることの違いを見ませんでした」


 その一文で、エレノアの胸の奥が少し痛んだ。


 できる者に任せること。


 できるから負わせること。


 似ているようで違う。


 父は、ようやくその違いを言葉にした。


 遅すぎる。


 けれど、記録には残る。


「私は、父として娘を見ていたつもりで、実際には家の役割を見ていました。エレノアを有能な長女として、リリアナを愛らしい次女として見ました。どちらも娘として見ていなかったのだと、今は記録の前で認めます」


 リリアナの目に涙が浮かんだ。


 エレノアは、紙から目を離さずにいた。


 読む声を保つために。


「謝罪をここに書けば、また娘たちに許す役割を求めることになるかもしれません。ゆえに、まずは認めます。私は当主として確認しなかった。父として見なかった。公爵として守ると言いながら、守るべき者の寒さや負担を見ませんでした」


 リリアナが、こらえきれず涙を落とした。


 声は出さない。


 ただ、涙が落ちる。


 エレノアは読み続けた。


「監督官より、当主権限停止中の領地監督団設置を知らされました。私はこれに異議を唱えません。私が見なかったものを、まず見直すべきです。使用人宿舎の暖房修繕、穀物倉の湿気対策、領地橋の修繕、下級使用人退職積立について、監督官の指示に従います」


 最後の紙へ進む。


「リリアナへ。お前に見せてきた華やかさが、お前を守ったとは今は言えぬ。だが、お前がそれを自分の罪として背負いすぎることは望まない。費用を決めたのは当主である私と母だ。お前はこれから、知るべきところを知ればよい」


 リリアナが、震える声で言った。


「お父様……」


 エレノアは、最後の段落を読んだ。


「エレノアへ。お前に家を頼むとは言わない。言えない。ただ、私が空白にしたものを、お前が記録することを止める権利は私にない。父として、当主として、見なかったことを記録される。これが今の私に下るべき処分の一つだと思っている」


 手紙はそこで終わっていた。


 いや、所見だった。


 最後まで「所見」だった。


 けれど、そこには父の謝罪に近いものがあった。


 謝罪、と言い切れないのが父らしかった。


 すぐに許してほしいと言わないのは、母の手紙にも似ていた。


 両親は、少しずつ学んでいる。


 娘に許す役割を押しつけないことを。


 エレノアは、便箋を机に置いた。


 部屋は静かだった。


 リリアナが涙を拭きながら言った。


「お父様も、謝るのが下手」


「そうね」


「お母様も下手だった」


「ええ」


「私たち、下手な親の子なのね」


 その言い方が妙に素直で、エレノアは少しだけ笑ってしまった。


「そうかもしれないわ」


 リリアナも泣きながら小さく笑った。


 ヘルマン監督官は、表情を変えずに待っていた。


 こういうところは、さすがだった。


「所見への返答は不要です」


 彼は言った。


「必要であれば、後日、監督官経由で伝言を送ることも可能です」


 リリアナは、少し考えた。


「今は、返事は書きません」


「承知しました」


「でも、私に関係する費用の部分は見ます。全部は無理でも」


「該当部分を整理してお渡しします」


 ヘルマンは頷いた。


 エレノアも言った。


「私も、父への返答は今は書きません。ただ、所見は監督記録に添付してください」


「よろしいのですか」


「はい。父の空白を、父自身が認めた記録です」


 ヘルマンは、少しだけ目を伏せた。


「承知しました」


 報告はさらに続いた。


 だが、父の所見を読んだ後では、すべての数字が少し違って見えた。


 使用人宿舎の暖房修繕費。


 穀物倉の湿気対策。


 領地橋の補修。


 下級使用人退職積立。


 それらは、ただの支出ではない。


 父が見なかった場所だ。


 そしてこれから、誰かが見なければならない場所だ。


 エレノアは、監督官と共に優先順位を決めた。


 一、使用人宿舎の暖房修繕。冬前に必須。

 二、穀物倉の湿気対策。収穫保全に直結。

 三、領地橋の応急補修。物流遅延防止。

 四、下級使用人退職積立の再設計。財務官と協議。

 五、リリアナ社交費と教育費の再分類。本人閲覧範囲設定。

 六、エレノア実務負担の過去評価。補填方法は後日検討。


 六番目で、リリアナが顔を上げた。


「お姉様の補填も?」


「過去の労務として評価する必要があります」


 ヘルマンが答えた。


 エレノアは少し抵抗を感じた。


「私は補填を求めているわけでは」


「求めるかどうかと、記録するかどうかは別です」


 ヘルマンは淡々と言った。


 その言い方が、どこかエレノア自身に似ていて、少しだけ腹立たしかった。


 リリアナが小さく言った。


「記録した方がいいと思う」


「リリアナ」


「だって、お姉様がやったことが“教育”で済まされていたんでしょう? 記録しないと、また誰かが“できるから当然”ってなるかもしれない」


 正論だった。


 しかも、痛いほど。


 エレノアは、しばらく黙った後、頷いた。


「……記録はします。補填方法は、後で検討します」


 ヘルマンは静かに記録した。


 会議が終わったのは、夕方近くだった。


 リリアナは少し疲れた顔をしていたが、逃げなかった。


 父の所見も、費用の表も、見た。


 全部理解できたわけではない。


 でも、見た。


 ヘルマンが退室した後、部屋には姉妹だけが残った。


 リリアナは、手帳を開いた。


 少し考えてから書く。


 ――お父様の空白。

 ――家の顔を守って、足元を見なかった。

 ――私の華やかさの裏で、誰かの暖房が後回しになった。

 ――でも、それを全部私の罪にしない。決めた人の責任を分ける。

 ――お姉様の仕事を「教育」で済ませない。


 書き終えると、リリアナはエレノアを見た。


「私、華やかな服を全部嫌いにならなくてもいい?」


 唐突な問いだった。


 でも、エレノアには意味が分かった。


 リリアナは、自分が楽しんできたものをすべて罪にしそうになっている。


 ドレス。


 髪飾り。


 茶会。


 母の笑顔。


 可愛いと言われた時間。


 それらの裏に、確かに誰かの負担があった。


 でも、全部を憎めばいいわけではない。


「嫌いにならなくていいわ」


 エレノアは答えた。


「でも、何を削ってそれを買ったのかは知る必要がある」


「うん」


「そして、これからは優先順位を考える」


「うん」


 リリアナは、少しだけ安心したように息を吐いた。


「よかった。全部嫌いになるのは、少し悲しかった」


「綺麗なものが悪いわけではないわ」


「花も悪くないけど、花だけでは寒さは防げない?」


「そう」


 リリアナは小さく笑った。


「この言葉、便利ね」


「ええ」


 その夜、エレノアは公爵家監督報告の要約をまとめた。


 ――ヴァレンシュタイン公爵家第一期監督報告。財務崩壊はなし。ただし、社交費過大、下級使用人宿舎修繕遅延、リリアナ社交費と教育費混在、エレノア実務負担未評価、当主未確認事項多数。

 ――グレゴール公爵所見あり。本人、当主として確認しなかった事項を認める。「家の顔を守り、家の足元を見なかった」と記述。

 ――優先対応。使用人宿舎暖房修繕、穀物倉湿気対策、領地橋応急補修、下級使用人退職積立再設計、リリアナ関連費用再分類、エレノア過去実務負担記録。


 付記。


 ――家名は、顔だけでなく足元で支えられる。

 ――できる者に任せることと、できるから負わせることを分けて記録する必要がある。

 ――父の空白は、憎しみだけでなく記録として扱う。


 最後の一文を書くのに、少し時間がかかった。


 憎しみだけでなく。


 まだ憎しみはある。


 怒りもある。


 遅すぎるという気持ちもある。


 だが、父をただ憎む対象として置いておくより、見なかった当主として記録する方が、前へ進める気がした。


 許すためではない。


 繰り返さないために。


 エレノアは、机の端に置いた父の所見を見た。


 返事はまだ書かない。


 母へも、父へも。


 けれど、記録には残す。


 今はそれでいい。


 扉の向こうから、リリアナの声がした。


「エレノアお姉様、夕食です」


「今行くわ」


「書類を閉じてからです」


「分かっているわ」


「本当に?」


 最近、疑われ方が徹底している。


 エレノアは少し笑い、報告書を閉じた。


 父の空白は、今日ひとつ見えた。


 まだ全部ではない。


 公爵家には、これからも多くの空欄が見つかるだろう。


 けれど、見つけたなら書く。


 次に見る日を決める。


 家の顔ではなく、足元を見る。


 それが、ヴァレンシュタイン公爵家を壊さずに正すための最初の道だった。

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