20 幻の薬草 ①
コニファー先生と話をした五日後には、ロードブル王国側から薬師の大会が行われることが正式に発表された。それと同時に急ではあるが、パトリック様は留学を終えて学園を去っていった。
大会が始まるのは、あと約100日後。私が学園を卒業してからのことになる。
パトリック様と会うのは、お互いに学生としては最後になった。
ささやかではあるが、ロングホームルームでお別れ会をした際、パトリック様は締めのスピーチで「また会おうね」と、私を見て言った。
私がハピパル王国の代表として出てくるとわかっているからだろうけど、何だか複雑な気分になった。
大会は強制参加というわけじゃないから辞退してもいい。いや、辞退すべきなのだろうけど、世界から薬師が集まると思えば、ぜひとも行ってみたいと思うのはおかしくないことよね?
世界には私の知らない薬草がまだまだある。ぜひともミリル印の美味しい薬を、色々な種類で出していきたい。そのためには、ハピパル王国には存在していない薬草を仕入れるルートがほしい。
あと、エレスティーナ様にはリディアスのことを少しでも早く諦めてもらいたいしね!
よく晴れた日の放課後。そんなことを思いながら、私は帰る準備をしていた。すると、ルワナ様の唸り声が聞こえてきた。
「ううううう」
気になって目を向けてみたら、席に着いた状態で、机に両ひじをつけ頭を抱えているルワナ様の姿があった。
机の上にはノートや羽ペン、参考書らしきものが広がっている。
ルワナ様はパトリック様が学園を去った日から、絶対にと再会するのだと誓った。そして、その日から薬師の資格を取るために猛勉強をしている。わからないことがあれば、ノートにメモをし、休み時間に私の所へやって来ては質問してくるので、ゆっくり休む暇がない。
放課後も勉強して帰ろうとするのは偉いことだけど、頭を抱えてまで悩む問題とは何なのかしら。
……私に構ってほしいだけかな?
なぜそう思ったのかというと、ルワナ様の取り巻きたちが、困った顔をして私に視線を送ってきたからだ。
私に助けを求められても困るんだけどな。
『ミリル、どうするの?』
ポーチの中にいるシイちゃんから尋ねられ、私は答える代わりに行動に移すことにした。
好きな人に会うために薬師を目指すことは悪いことではない。急ぎの用事があるわけではないし、鞄を持って近づきながら話しかけた。
「ルワナ様、どうかされたんですか?」
待ってました! と言わんばかりに、ルワナ様は頭から手を離して私を見つめた。
「ああ、ミリルさん! 相談したいことがあるんです! あなたは恋心を消す薬があるということをご存じ?」
「こ、恋心を消す薬、ですか?」
『なに、それ!』
私だけじゃなく、シイちゃんちゃんまで驚いて聞き返した。
もし、本当にそんな薬があるのなら、叶わぬ恋をしてしまった人は苦しまなくていい。だけど、そんな都合のいい薬が存在するなんて信じられなかった。
「ええ。幻の薬草で作ることができるそうですわ」
「幻の薬草……」
それって、前に探してみたけど見つからなかったあの薬草のこと?
「心当たりがありますの?」
「あ、えっと、あるというかないというか」
今のところは、曖昧な答えを返すだけにしておいた。
結局、私はこの話を持ち帰り、コニファー先生に確認してみると伝えた。
納得してくれたルワナ様と別れ、急いで馬車の乗降場に向かう。
さっき、シイちゃんも驚いた様子だったけど、まずはシイちゃんに心当たりが本当にないのか聞いてみることにした。




