19 大好きな先生
リディアスと別れた一時間後くらいに、シイちゃんが帰ってきた。
突然いなくなったことに苦情を言うと、シイちゃんはこう言った。
『ごめんね。でも、シイもえんりょする。あ、シイがいなかったから、チューくらいはした?』
シイちゃんの声は期待に満ちている。
ざ、残念ながらそんな雰囲気にはなっていない。
というか、好きだと言っただけでかなり動揺していた。恋愛経験が少ない人間が一歩進むのは難しいのか。
『したの? しちゃったの?』
「……チューはしてないわ」
『……そっかあ。まあ、ああいうのもタイミングなのかなあ?』
「やっぱりするべきものかしら」
『してもおかしくないんじゃないとシイはおもう』
シイちゃんのために作ってもらった小さなクッションの上に乗せると、シイちゃんはこてんと体を傾けた。
そうか。そうよね。私たちだってもう、それくらいしてもいいお年頃よね!
「エレスティーナ様たちの件が片付いたら頑張ってみるわ!」
『それって……、おそくない?』
「お、遅くないよ、たぶん」
心の絆が一番大事!
都合よく考えて、お肌のために早く眠ろうと眠る用意を始めた。
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次の日、リディアスは私と顔を合わせても、動揺している様子は一切見られなかった。でも、シイちゃんから『どうしてチューしなかったの?』と聞かれた時は、飲んでいたスープを盛大に吹き出していた。
リディアスと発展するには、私がリードしなくちゃいけないのかも。だけど、淑女としてはしたない真似はできない。
どうすればいいか、コニファー先生に相談してみようかな。
メイドたちに相談という手もあるけど、リディアスがへたれと思われても可哀想だし。
――実際そうなのだけど。
朝食後はいつも通り学園に行って、家に帰ってきた。そして、小屋で待ってくれていたコニファー先生に、まずは薬師の大会についての話をしてみた。
「大会のことは聞いたわ。代表者を選ぶなら私になるだろうと言わたんだけれど、さすがにもう年だから辞退しようかと考えたの。もう、あなたは立派な薬師だし、あなたに任せてもいいかなって」
「そうでしたか……」
薬師の資格を取得したから、誰かに教えてもらわなければいけない程ではない。本当はコニファー先生に講師をお願いしなくてもいい。でも、私はまだまだコニファー先生には及ばない。
だから、コニファー先生が続けようと思ってくれる間は、先生のままでいてもらうことにしていた。
私としては、末永く交流を続けたい。
……と思っていたけれど、先生の体が辛いなら、こうやって来てもらうことも止めたほうがいいんだろうか。
そう思うと、急に悲しくなった。
真正面に座るコニファー先生に、悲しんでいる顔を見せないように俯く。
『コニファー、もう、こなくなっちゃうの?』
テーブルの上に載っていたシイちゃんが泣きそうな声で尋ねた。
「ふふっ。あなたもミリルも早とちりねぇ。私は考えたのと言ったのよ」
「……ということは」
「ミリルが代表して出るにしても、補佐役はあなたの力を知っている人でなければならないわ。なら、私が適任でしょう?」
陽だまりのような笑みを浮かべるコニファー先生に、私は涙を堪える。
「ありがとうございます、コニファー先生! 大好きです!」
『シイもコニファー、だいすき!』
「あらあら、困った子たちねぇ」
飛びついたシイちゃんを受け止め、優しく撫でながら、コニファー先生は私を見つめて微笑んだ。




