43 幽霊はそこにいる
幽霊はそこにいる
本当の目覚め
あなたは今、本当に目覚めていますか?
二人は椅子に座った。
歯車博士は丸い形をしたグラスに注がれているライムのついた緑色をした強めのアルコールの入った飲み物を。ジラは細長い円筒形の形をしたグラスに注がれたオレンジの乗っている、100パーセントのオレンジュースを飲んだ。
二人は少しの間、黙ったままだった。
その間、ジラはずっと窓の外に降る真っ暗な世界に降り続く雨の音を聞いていた。
(一つの部屋の中にいる、年齢の離れている二人の姿は、まるで世界に二人だけの孤独な親子のようにも見えた)
博士がジラを見て笑うと、ジラもにっこりと博士に笑いかけた。
それから二人は話を始めた。
それはもちろん『お仕事』の話だった。
部屋にある大きなテレビにはさっきからずっと古い白黒の映画が流れている。(とても有名な映画監督がずっと昔にとった作品だった)その映画の題名は『幽霊はそこにいる』という名前だった。
その二時間の映画が終わるころに二人のお仕事の話は終わった。
「じゃあ、私はもう行くよ。報酬はいつもの口座に振り込んでおくから安心してくれ。それから必要な道具があったら事前に言ってくれればすべてこちらで用意するよ。君の実力はわかっているから、心配はしていない。『彼女のこと』よろしく頼んだよ」歯車博士は椅子から立ち上がってそういった。
「あの、今日は最後に一つお願いがあります」恥ずかしそうな顔をして、ジラは言う。
そんなジラの声を聞いて歯車博士は驚いた顔をしてその歩き始めた足を止めた。
でも、すぐにいつもの笑顔になって、「なんだい? 君のお願いだったらどんなことでも聞くよ。もちろん、私にできる範囲でね」と歯車博士はジラに言った。
「……私と一緒に、ダンスを踊ってくれませんか?」
顔を真っ赤にしながら、ジラは言った。
そんな(まるで小さな女の子みたいな顔をした)ジラを見て、「もちろんです。プリンセス・ジラ」と優雅にお辞儀をして、ジラの手を取りながら歯車博士はそういった。
それから二人は優雅な音楽を蓄音機を使ってかけて、一曲だけ二人で一緒に部屋の中でダンスを踊った。
(それはジラにとって、とても幸せな時間だった)
「あの人のこと、今も愛していますか?」
ダンスの途中で、歯車博士の耳元でジラは言った。
歯車博士は無言。
「……じゃあ、私のことは?」
「もちろん、……いるよ」と歯車博士は、ジラの綺麗な形をした(嘘と真実を聴きわける力のある)耳元で、恋人に真実の愛を囁くようにして、真心を込めた声で、そういった。
それから二人は部屋の中でお別れをした。
ダンスが終わっても、世界にずっと降り続いている雨は、(奇跡が起きるわけでもなくて)まだ降り止んではいなかった。
一人になったジラはそんなざーっという冷たい雨の降る音に、静かに一人、椅子の上で丸くなって、泣きながら耳をかたむけていた。
……雨はやがて雷を伴う激しい嵐になった。
白黒の(色のない)世界には、激しい雷鳴が鳴り響いている。
(物語は再び、幽霊の街の地下世界へ……)




