19
ジラはかげろうを連れて、闇の奥に移動をした。
ジラの姿はいつの間にか、マゼンタ色の尻尾と耳がなくなって、いつもの人間の形をしたジラの姿に戻っていた。
にっこりと笑ったジラは(たいていの異性は、あるいは同性でも、だいたいジラがにっこりと猫をかぶって笑えば、うっとりとして、すきを見せてくれるものだった)
「大丈夫。殺したりはしないよ。ちょっと君に聞きたいことがあるだけなんだ。私は」とかげろうに言った。(かげろうはまたこくこくと一生懸命にうなずいた)
それからジラは、そんな必死なかげろうの姿を見てくすっと笑うと(これは本当の笑顔だった)かげろうの口からその白い手を離した。
「ぷはぁ」
かげろうは言った。
「し、声を出さないで」ジラはいう。
「あ、は、はい」
と言って、かげろうは(今度は)自分で自分の口を塞いだ。
「よし。ゆっくりと、呼吸をして、口からその手を離して、なるべく静かな声で喋るんだ。いいね」
「……はい」ジラの言ったとおりにして、かげろうは言った。
「うん。『いい子だ』」とジラはかげろうの頭を黄色いコート越しに撫でながら、そう言った。
そんなジラのことを、かげろうはなぜかとても珍しいものでも見るような(輝く)目で、見つめていた。
それからジラは「私の名前はジラ。マゼンタ・Q・ジラっていうの。よろしくね」手を差し出して、ジラは言った。
「僕は竹田かげろうって、いいます。よろしくお願いします」
ジラの差し出した手を両手でぎゅっと握りながら、頭を下げて、かげろうが言った。
「……竹田、かげろう。それが君の名前なんだ」(……ホロウにも名前があるんだ)
「はい。それが僕の名前です」かげろうは言う。
ジラは口元に手を当てて、なにかを数秒、思考する。
それから「かげろう。あなたは幽霊だよね?」とかげろうに聞いた。するとかげろうは「はい。僕は幽霊です。『ロストチャイルド(迷子)』ではありません」と真剣な顔でジラに答えた。
「ロストチャイルド?」ジラは言う。
「はい。僕はロストチャイルドではありません。立派な、一人前の幽霊です」とかげろうは言った。
……ロストチャイルドとはなんだろう? そんな言葉、手に入れた資料(秘密データ)にはなかったはずだ。
「みちびき。今の言葉は?」
『データにない言葉です。捕獲した幽霊。竹田かげろうの名前と声、姿の映像とともに、新しい言葉として、データの中に記録しておきます』みちびきが答える。
そんなジラの(まるで一人芝居のような)やり取りを、首をかしげながら、かげろうは見ていた。
そんなかげろうを見て、ジラはにっこりと笑うと、「君は幽霊。そしてここは幽霊の街の中で、間違いないよね」と言った。
「いいえ、違います。僕は幽霊ですけど、ここは幽霊の街でありません。ここは『天の川銀河の街です』」とかげろうは言った。




