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姫巫女の秘密

この話は、フェリシアたちがアルターレ護国を去った後のお話です。

「ふぅ〜・・・・・」


 フェリシアたちがアルターレ護国を後にし十数日が過ぎ、久しぶりに自宅へ帰ってきたマーナは、やっと落ち着けると背伸びをした。

 若返りの法で肉体は二十代になったとはいえ、精神は七十を過ぎている。

 賢人と言う、慣れない仕事をやるのは、マーナには少々堪えていた。

 廊下を歩いていると、普段使われていない部屋の明かりがついているのに気がついた。


 その部屋は、兄であるシオンが若い頃に使っていた部屋で、数日間であるがミユが寝泊りしていた部屋だった。

「・・・・・・・・・・・」

「どうされたんですか?兄さん」

 中を覗くと、シオンが椅子に腰掛け部屋の中をボーっと眺めていた。


「別に、何でもないわよ」

 そんなことを言っているが、いつもの覇気は何処へ行ったのか、まるで魂が抜け、人形ように力なく座るシオン。


「・・・・・・・兄さん。どうして、ミユさんに言ってあげなかったのです?」

 そんな兄を見ていたマーナは、どうしても聞きたかったことを聞くことにした。

「何を?」


「自分が、ミユさんのお祖父さんだって事をです」

 マーナの言葉に、シオンはため息をついて椅子に座りなおす。

「・・・・・・・・言ったところで、あの子は混乱するだけよ。祭事巫女に選ばれた事だって、あの子にとっては青天の霹靂だったのよ。それを追い詰めたところで、いいことなんてないわ」


 実は、シオンはミユにとっては母方の祖父に当たる人物だった。


 彼には若かりし頃、たった一度だけ恋に落ち、深く愛した女性がいた。


 その彼女と、一度だけ結ばれたシオンだったが、彼女はその後すぐに行方が分からなくなってしまった。


 同じ頃、姫巫女候補となっていたシオンは、政治に関わり多忙を極め、彼女の行方を捜すことが出来なかったのだ。


 それから数十年後、実家へ送られてきた手紙を見てシオンは驚いた。

 差出人は、彼が人生で唯一愛し、自分の元から去った女性からだった。


 手紙には、何も告げずシオンの前から去ったことへの謝罪から始まり、シオンとの子供を妊娠したこと、そのことを誰にも相談できず逃げ出し、一人見知らぬ土地で娘を産み育てたこと。

 その娘が大きくなり、とある男性の下へ嫁いだこと。シオンの元を去ってからの数十年のことが事細かに、何枚にも渡って書き記されていた。


 そして、手紙は最後のページになり、そこに書かれていたのは孫のミユのことだった。


 父方の血の影響で、ミユが特異な性質を持って生まれ、そのことで娘と娘の旦那がミユを虐待をしていること。自分一人では、どうすることも出来ないことへの無力感と無念さが切々と書かれていた。


 最後に、震える文字で「お門違いとは存じますが、どうか孫を。ミユを助けてください」という言葉で締められていた。

 シオンは手紙を握りしめたまま、その足で彼女の元へと走り、そのままミユを娘たちから取り上げた。


 娘とその旦那から罵詈雑言を浴びせられたが、シオンは顔色一つ変えることなく、「この子を化け物だと罵って要らない娘って言って、真面に育てる気が無いなら、あたしの所で預かって巫女として育ててあげるわ。あぁ、それから心配しなくて、この子を巫女見習いとしてこの家から出した瞬間、この子とあんたたちの親子の縁は国によって切られるから、化け物の親ではなくなるわよ。よかったわね」と、切って捨てた。


 真っ青になる娘夫婦を尻目に、シオンは深々と頭を下げるかつて愛した女性に、一言も声を掛けることなく、ミユをつれて聖都へ戻った。


 その後、女性は患っていた病気が悪化しすぐに亡くなった。まるで、親に虐待され不憫な孫を助けたい一身で、生き永らえたように。

 娘夫婦も、納得できないと抗議の為、聖都へ向かう途中の馬車で野党に襲われ殺されたと、女性の死の知らせと一緒に連絡が入った。


 このことで、ミユはシオン以外、血の繋がる家族を失ってしまったのだった。

 

 だが、シオンは祖父であるとミユに名乗り出るつもりはなく、その事実を墓まで持って行くつもりでいた。


「血の繋がった家族がまだいると知れば、あの子がどれだけ喜ぶか・・・・」

 マーナの言葉に、シオンは首を横に振る。

「家族なら、あなたたち夫婦がいるじゃない」

 「血のつながりなら、あなただってあの子の親戚なんだからね」と言い、シオンは暗くなった窓の外を見つめる。


「それにね、あたしは自分に娘がいることさえ知らなかった愚か者よ?今更、どの面下げて「あたしがお祖父ちゃんよ」なんて言えばいいの?それに、あたしじゃ精々お祖母ちゃんじゃない?」

 シオンには、やはり名乗り出る気は一切無く、話をはぐらかそうとおどけてみせる。

「でも!娘がいたことを知らなかったのは、あの方がアルターレ護国でまつりごとの重要な位置にいた兄さんに気を使って、何も告げずに身を引いたからで・・・・・・・」

 マーナは、兄からこの話を聞いた時から、シオンに落ち度は無かったと思っていた。ただ一度、女性がシオンに相談していればよかったはずだ、と思わずにはいられなかった。


「あたしは、居なくなった彼女を探しもしなかったわ。忙しさに託けて、「彼女は、あたしに愛想尽かせて去っていったんだ」って、自分に言い聞かせてね」

 だがシオン自身は、彼女が去ったのは自分のせいだと言い続ける。

 不甲斐ない自分のせいだと、責め続けているのだ。

「兄さん・・・・・・」

「あの子には、新しい場所で楽しい思い出を沢山作って欲しいのよ。辛かった過去なんて忘れるくらいに・・・・・そう考えたら、余計な重荷を背負わせることなんて出来ないわよ」


 そう言うと、シオンは立ち上がり部屋から出て行く。


「すまなかったわね、気を使わせてしまって。あなたも、ごめんなさいね」

「変に殊勝なこと、言わないでください兄さん。ねぇ、ダヴィドさん」

「そうですね。お義兄さんが大人しいのは、少々不気味です。ですがいつでも気兼ねなく遊びに来てください。ここは、あなたの実家でもあるのですから」

 マーナと彼女の夫であるダヴィド・フェリテに見送られ、玄関で白い外装を纏い、フードを目深に被るシオン。

「全く、あなたたち夫婦は似たもの同士だわ、ホント」

 そんなことを言われながらマーナは、意を決してシオンの顔を見る。

「・・・・・・・いつか。あの子が全てを受け止められるだけの巫女に成長したら、本当のことを言ってあげてください。あの子は絶対、受け止めてくれるはずです」

 妹の頼みに、シオンは一瞬不機嫌に目を細めたが、深く息を吐き目をつむった。


「・・・・・・・・それまで、あたしが生きてたらね」

 そんな軽口を言いながら、シオンは実家のドアをくぐり出て行った。


「・・・・・・私は、そう遠くない未来だと思いますよ?あなたも、そう思っているんじゃないですか?ねぇ、兄さん」

 夫に肩を抱かれてその身を預けながら、見えなくなった兄に問いかけるマーナは、そんな日がいつか来ると信じ、異国で頑張っているはずの義娘むすめに思いを馳せるのだった。


 次回更新は、未定です。

 話が出来次第、アップしますのでお待ちください。

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