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傭兵の鍛冶師

 この話は、学園の姫君たち編のエピローグにおいて、食堂から追い出された昊斗が、部屋で何をしていたかが語られています。

 ディアグラムでの広域テロ事件の翌日。

 

 昊斗そらとたちのベースを訪れたフェリシアたち三国の姫君たちとその従者たち。


 彼女らとの会話の中で、フェリシアの騎士であるフレミーとヴィルヘルミナの騎士であるフローラの失言いより、食堂は和気あいあいとした雰囲気から一転、男子禁制のガールズトークが始まった。


 そして、唯一の男性だった昊斗そらとは、即座に食堂から追い出されてしまい、仕方なく部屋で本を読んでいた。


「いやいやいや~・・・・それは無いだろ?」

 読んでいる本とは、グラン・バースへ召喚される前に、「貸してあげる」と妹がご丁寧に郵送してきたライトノベルだった。

 今読んでいるのは、怒りに我を忘れたヒロインの攻撃に主人公が傷つきながら突き進み、最後はヒロインにキスをして正気に戻すと言う場面だった。


「キス一つで済むなら、そりゃ楽だろうけどさ・・・」

 

 似たような状況なら、過去何度となく冬華とうかで経験している昊斗そらとだが、このような手を使ったことはもちろん、考えたことも無かったので、俄かに信じられなかった。


「とはいえ、試したら試したで・・・・・殺されるな、確実に」

 そう結論づけ、昊斗そらとは本の続きを読み始める。

 

 まさか、一月も経たずにこの手を使うことになるとは、この時の昊斗そらとには知る由もなかった。 



 ラノベを読み始めて、しばらくした時だ。


「・・・・あれ?」

 昊斗そらとは、真っ白な何もない空間に寝転がっていた。

 本を読んでいて気が付かなかったらしく、本を閉じて立ち上がった。


「誰からの通信だ?」

 これは、冬華とうかたちとの通信の一つに使っている精神空間スピリット・スペースを用いたものと同種のものだった。


 そしてそれは、”組合”の、しかも自分たちと親しい人物からしか考えられなかった。


「久しぶりだな、昊斗そらと

 間を置かず、連絡相手が現れた。

「お久しぶりです、薫子かおるこさん」


 薫子かおること呼ばれた人物は、昊斗そらと冬華とうかと同じ、無神世界”地球”の出身で、昊斗そらとたちからすれば、先輩に当たる女性だった。

 油まみれのツナギを上半身だけ脱いで腰に巻き、白いタンクトップには慎ましやかだが、彼女が”女性”であることを主張するかのように膨らみがある。

 上記の特徴と共に太い二の腕に、茶髪を短く切りそろえ、少しきつい目つきのせいか、女性らしさに欠けるが、その表情は女性らしい安堵の笑みが浮かぶ。


「ノートの旦那から話を聞いた時、心配したんだぞ?」

「すみません、ご心配をおかげして。ですが、俺も冬華とうかたちもピンピンしてますよ」

「馬鹿、額面通りに受取るな。お前たちが早々くたばるとは思ってない」

「ヒド・・・・それで、からかう為に連絡してきたんですか?」

「あたいがそこまで暇な人間に見えるのか?これだよ」

 そう言って彼女が取り出したのは、昊斗そらとが愛用している高周波ブレードだった。

 それを見て、昊斗そらとの表情が固まる。


「お前、何を斬った?」

「・・・何の話でしょうか?」

「とぼけるのは構わんが、本当のことを言っておくがお前の為だぞ?」

 彼女は、傭兵が使う武具を作る”鍛冶場”の筆頭鍛冶師で、昊斗そらとたちの使っている武具の内、神滅武装以外のほとんどを彼女が手掛けていた。

「・・・・ごめんなさい」

 目の前の女性に逆らって、ロクな目に遭っていない昊斗そらとは情けなく頭を下げた。


 昊斗そらとは、事の次第を薫子かおるこに全て話した。


 グラン・バースの一国が開発した機動兵器との戦闘時、一撃目に妙な手応えを感じ、その後何とか押し切ったこと。

 そして、久方ぶりに振るう使い慣れたはずの高周波ブレードに違和感があったことを。


 話を聞き、薫子かおるこは神妙な顔つきをしていた。


「・・・・薫子かおるこさん?」

「すまなかった、前にお前たちには最高の武器を提供してやると息巻いておきながら、この体たらく・・・・・あたいは、自分の腕に胡坐をかいていたのかもしれないな」

「はい?」

 彼女が何を言っているのか、昊斗そらとは一瞬理解できなかった。


 薫子かおるこは、手に持つ高周波ブレードに視線を落とす。

「よくよく考えれば、こいつを作ったのだってお前が13の時か。あの時は、最高の物を作ったつもりだったが、今のあたいから見ればお粗末なものだ・・・・こんな物を、最高だと言っていたなんてな!!」

 そう言って、薫子かおるこは自身の渾身の作だった高周波ブレードを、いとも簡単に叩き折った。

「ちょっ!」

 薫子かおるこの行動に、昊斗そらとが慌てて駆け寄る。


昊斗そらと!後で、玉露ぎょくろ金糸雀カナリアにお前たちの最新のデータを、あたいに送るよう伝えておけ。今のお前たちに合った最高の物をすぐに作ってやる!!」

 殺気を孕む目に、昊斗そらとが立ちろぐ。

「・・・・・マジっすか?」

 薫子かおるこは、筆頭鍛冶師という立場に居るため、いつも仕事が立て込んでいる。だが、彼女はそれをそっちのけでやる!というのだ。

 さすがに昊斗そらとも驚きを隠せない。

「当たり前だ。お前たちは”組合”に所属する傭兵の中のトップランカーなんだぞ?そいつらが持つべき武具が中途半端なんて、許されないだろう?というか、あたいが許さない!!」

 腕を組み、仁王立ちで言い切る薫子かおるこは、実に堂々としていた。


「あ、ありがとうございます」

 そうしか言えない昊斗そらとは、申し訳なく思い頭を下げた。


「・・・・・・昊斗そらと、それからな」

 先ほどとは声色の違う薫子かおるこが、昊斗そらとに一振りの刀を差しだす。

「”おやっさん”が、逝ったよ」

「!?」

 その言葉に、昊斗そらとは絶句した。

 基本的に、”組合”に所属する職員は、不老不死だ。なので、職員が”死ぬ”時は自殺するのが殆どだった。

「勘違いするな、あの人は自ら命を絶ったんじゃない。最後の一振りを打つと決めた時から、不老不死の力を創造神たちに返上していたんだよ」 

 ”おやっさん”とは、薫子かおるこの師匠に当たる人物で、”組合”の中に”鍛冶場”を一から立ち上げた人物だった。

 昊斗そらとは、おやっさんに幼い頃から可愛がられており、いつか彼が鍛えた刀を持つことが昊斗そらとの目標だった。


「こいつはな、おやっさんの最後の作だ。昊斗そらと・・・・お前の為に鍛えられた最高傑作、創造神たちが造った神滅武装に、追いつけ追い越せと目指したおやっさんの命を燃やし続け、全てを懸けた一振りだ」

「・・・・いいんですか?俺なんかがそんな凄い刀を受け取ってしまって」

「言ったぞ、お前の為に打たれた刀だと。これはおやっさんの遺言でもあるんだ。お前に渡せ、と」

 そう言って、薫子かおるこは一通の手紙を渡す。


昊斗そらと、お前がこれを読んでいるってことは、オレっちはもうこの世からオサラバしてるってことだ。まぁ、悲しむことはないぞ。それなりに楽しい人生だったからな。だが、一つ心残りがあるとすれば、いけ好かない創造神たちの武器を超える武器を作った、と証明できなかったことだ・・・・しかし、お前の為に鍛えたその刀は、あいつらの武器を超える刀だと自負している。そいつをお前にくれてやる。だから、老いぼれの願いを一つ聞いてはくれねぇか?オレっちの武器が、創造神の武器と肩を並べるもの・・・いや、超える物だと証明してくれ。こんなこと、「カミヲウツモノ」であるお前にしか頼めないのでな、よろしく頼む。長々と書いても仕方ないからな、ここで筆をおくぞ。それじゃな、昊斗そらと。お前たちの行く末に幸多かれ。・・・・追伸、いい加減お嬢ちゃんたちに誠意をみせてやれ”


 手紙を読み終わり、昊斗そらとは悲しんでいいやら怒っていいのやらと、複雑な気分になっていた。


「そういうことだ、これはお前にこそ相応しい刀だよ」

 昊斗そらとは、震える手で刀を受け取る。

 鞘から刀を引き抜く際、全く刀と鞘の摩擦を感じなかった。恐ろしいくらいに、昊斗そらとの手になじむ刀。

 煌びやかな装飾が一切施されていない実践的な刀に昊斗そらとは、目を奪われてた。


「それじゃ、あたいは行くぞ。データの件、なるべく急げ。後、冬華とうかたちには、お前の口からおやっさんのことを伝えておけ。あの子達の悲しむ顔を、あたいは見たくないんでな」

「え?は、はい!」

 声を掛けられ、昊斗そらとは慌てて刀を鞘に戻す。


「・・あぁ、それからおやっさんじゃないが、あたいからも・・・・いい加減、冬華とうかたちに誠意を見せてやれ。女を待たせる男は、クズだぞ?」

 したり顔で笑う薫子かおるこ

「ほ、ほっといてください!!」

 やはりこの人は苦手だと、昊斗そらとは顔を赤くして叫んだ。


 薫子かおるこは、豪快に笑いながら姿を消した。

 

 昊斗そらとは、ため息をつきながら冬華とうかたちにどう説明するか悩んでいたが、この後に自身の身に不幸が降りかかるとは思ってもいなかった。


 そして、1週間も待たずして、昊斗そらとたちの装備は全て、筆頭鍛冶師謹製の超級品に変わっていたのだった。

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