表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/26

騎士たちの熱戦

 この話は、合同学園祭後のお話です。

 ディアグラムで起きた皇女の誘拐を含む同時多発事件から3日が過ぎた。

 未だ混乱が残る王都ディアグラム。アイディール学園でも、特別クラスと一般クラスは休講となっているが、そんな中でも騎士クラスだけは授業を続けていた。


「こんな状況だからこそ、騎士を目指す者は修練を積まなければならない」

 と、騎士クラスの教職員を務める元騎士団団員たちの意向が、強く反映されていた。


「すまない、フローラとフレミー殿はいるか?」

 授業が終わり、次の準備をしていたフレミ-とフローラの下に、隣のクラスであるペトラが会いにやってきた。


「ペトラ、どうかした?」

 同僚にして友人であるペトラが、無駄に笑顔を浮かべていることに、フローラは嫌な予感が過る。

「いや、少々二人に提案したいことがあってね」

「提案、ですか?」

 フレミーも、何か引っかかるものを感じ、一歩引く。

「実は、明日の実技訓練の際に、私と一戦やってくれないか?」

 フレミーとフローラが顔を見合わせる。

「明日の実技訓練って、私たちのクラスとペトラのクラス合同のだよね?」

「ああ、そうだ」

 実技訓練は騎士クラス特有の授業であり、基本的には各クラスごとに行われているが、一月に何度かクラス合同で行われている。

「それは構いませんが、今までも何度か剣を交えていますし、わざわざ断りを入れる必要はないのではないですか?」

 フレミーの言葉に、ペトラが渋い顔をする。

「ああ~・・・・いや、今回はいつもの剣ではなく、お互いに完全装備でお願いしたんだ」

 同僚の言葉に、フローラが信じられないと言った風に、顔を引き攣らせる。

「ちょっとペトラ?・・・・学園で戦争でも始めるつもり?」

「・・・・・すまん!先日の騒動の際に、クラスメイトが私やフローラの装備を見たらしくて、後学の為に、帝国式の戦闘方法を見せてくれないか、と頼まれたのだ!・・・・同盟国の次代を担うクラスメイトたちの頼みを、むげに断るのも帝国軍人としてどうかと思ってな・・・・とはいえ、相手がいないと張合いもないし、このようなことを頼める相手もそういるものでも無いので・・・・」

 ペトラの弁明に、フローラは頭痛を覚え始め、額を押さえる。

「後学って・・・私やペトラが持ってる戦闘技術なんて、帝国内では少数派になるんだよ?見ても参考どころか、意味がない気がするんだけどな・・・・」

「確かに、私のはそうだが、フローラは違うだろ?”銃精の輪舞(フェアリーダンス)”は、帝国の一般女性士官が使っている近接銃格闘術だ。大いに見る価値があるだろう」

 銃精の輪舞(フェアリーダンス)とは、帝国軍内に於いて非力な女性用に、異世界からもたらされたモノを基に考案された戦闘技法である。両手に拳銃を持ち、拳の替わりに銃弾を相手に叩き込み、銃身で攻撃を受ける攻防一体の戦闘法。

 女性のしなやかで流れる動きが、まるで舞を舞う妖精のように見えることから、いつからか銃精の輪舞(フェアリーダンス)と呼ばれるようになった。

「私のは師匠が思いっきり手を加えたものだから、あれとは完全に別物だよ!て言うか、模擬戦用の準備するの大変なの分かってる?部隊の整備スタッフは居ないんだから、自分たちで準備するしかないんだからね?」

 面倒そうにため息をつくフローラに、ペトラがムッとした表情になる。

「・・・・そういえば、私とフローラの戦績は確か、20戦11勝8敗1分けで私が勝っていたな・・・・あぁなるほど、フローラは私にまた(・・)負けるのが嫌なのだな?」

 また、と言う部分を強調して言うペトラ。

「・・・・へぇ、その話持ち出すんだ」

 フローラの顔つきが変わり、目に怪しい光が宿る。

「上等だわ!この際だから、白黒はっきり決めようじゃない!!」

 机をたたき立ち上がったフローラに、クラス中が何事かと注目する。周りの反応を確かめ、ペトラが、沈黙を保つフレミーへ話を振る。

「・・・フレミー殿はどうだろう?私の話を受けるか?」

「そうですね・・・・たしかに、私も剣を振るう者として、お二人がどのように戦うのか興味がありましたから・・・・いいですよ、その勝負受けて立ちます」

 クラス中から、どよめきが起こる。

 眼鏡の奥にある瞳に闘志をみなぎらせるフレミーの言葉に、ペトラが笑みを浮かべる。

「よし、では交渉成立だ。教官殿たちには私から話を通しておくので、心配しないでくれ。では、失礼する」

 ペトラが去った後、模擬戦の話はフレミー達の教室だけに留まらず、騎士クラス全学年で持ちきりとなったのだった。


************


 次の日の午後。

 騎士クラス全学年の午後からの授業が変更となり、フレミー達の模擬戦を観戦することとなり、学園の中で一番大きな訓練場に、騎士クラス全生徒が集まり、模擬戦が始まるのを待っていた。


「随分と大事になったね」

 使い慣れた装備を身にまとったフローラが、観戦席を見る。

「どうも、教官殿たちが仕組んだようだな。しかも、騎士団の方からもテコ入れがあったそうで、騎士団で使用している訓練用の最新結界術が提供され、今回使われることになったそうだぞ」

 同じく、軍用装備を身に着けたペトラが、仁王立ちで説明する。

「・・・間違いなく、フォルトさんだ」

 こういったことに反応しないはずはないであろう、騎士団団長の顔が脳裏に浮かび、鎧を纏ったフレミーが頭を抱える。

 

「・・・しかし、本当にいいのかフレミー殿?私とフローラを同時に相手するということで」

「ええ、構いません。それに、私は独りではありませんから」

 フレミーの言葉を切っ掛けに、彼女の精霊であるラファルとマリーナが姿を現す。

「3対2。数の上では、私の方が有利ですよ?」

 驕りとも取れる言葉だが、フレミーの顔に油断と言う言葉は一切映っていない。


「フローラ・・・・」

「そうね、ここは一時休戦にしよう・・・・」

 フローラとペトラは、精霊術士との戦闘経験はあったが、戦士系の術士との戦闘はあまり多くない。しかもフレミーはレアと言われるダブル・シンボル。

 ある意味で、未知の敵なのだ。


「・・・では、行こうか」

 フレミー達が、訓練場の中央へと進み出る。

 拍手と歓声の中、一定の距離で相対する三人。


「今回は、騎士団から結界術の提供を受けたとはいえ、全員訓練用の武装を用いる。いいな?」

 審判役である教師が三人に確認し、三人がうなずく。

 フレミーは、騎士団で訓練用に使っている二振りの剣。

 フローラは、オートマチック式のカスタムショットライフルに、訓練用の特殊弾頭の入った黄色のドラムマガジンを付けている。

 そしてペトラが、実戦用のブースター付バルディッシュの刃に、訓練用のガードを取り付けていた。


「勝敗等の判断は、訓練要綱に沿うものとする。双方、全力を尽くすよう心掛けよ!構え!」

 三人が、腰を落とし構えを取る。


「始め!!」

「ペトラ!」

「パンツァー!!」

 フローラが駆けると同時に、ペトラの持つ戦斧のブースターが火を噴き、彼女の身体をフレミーへと飛ばす。

 だが、

「ラファル!」

 フレミーの身体に風が纏わりつき、飛んでくるペトラへと肉薄し、迫るペトラに両手に握る剣を振りかざし待ち受ける。

「なに!?」

 自分を待ち受けるフレミーを見て驚くペトラ。しかし、急に止まることが出来ず、そのままフレミーの攻撃を受けてしまい、撃墜される。

「ペトラ?!」

 打ち落とされた相棒を見て、フローラが不覚にも走る速度を緩める。

 上空から強襲するフレミーに一瞬、対応が遅れたフローラは懐に跳び込まれてしまった。

「くっ・・・」

 下からフレミーの剣が迫るのを見て、フローラは両手の銃に付いたソードブレイカーで受けとめた。

 瞬間、猛烈な風によってフローラの身体が後ろへと吹き飛ばされ、地面に叩き付けられた。


 開始からの数秒で起こった出来事に、観戦席の生徒たちは言葉を失う。


「・・・・さすがですね、お二人とも」

 静かに相手への感心の言葉を口にするフレミー。

「いや~、まさかあんな形で撃墜されるとは、まだまだ改良の余地があるな」

 豪快に笑いながら、土煙の上がるクレーターの中から、ペトラが現れる。

「・・・・・・・何を能天気に笑ってるの?私たちの連携が一つ、破られたんだからね?」

 同じように、地面に叩き付けられたフローラも、何事もなかったように立ち上がる。

「それにしても、ソードブレイカーなんて飾りだと思ってたけど、実際に剣を折ろうとすると難しいね」

「これは訓練用に刃を潰していますが、それなりの業物です。そう簡単に折られては困りますよ。ですが、刃の付いた物だったら、刃こぼれはしましたね」

 使い慣れた得物を見ながら、互いに賞賛しあう三人。


「さて、ファーストアタックはフレミー殿に軍配が上がるな・・・・・だが、勝負は譲れない!」

「その通り!!」

 再び、構える二人。

「それは、こちらのセリフです!」

 剣を構え、今度はフレミーが距離の近いフローラへ仕掛ける。

 迫りくるフレミーに、フローラは左のショットライフルを連射する。

 訓練用の弾丸を、風と水の鎧で防ぎながらフローラとの距離を詰める。

「私を無視してもらっては困る!」

 真後ろから、ブースターをふかしてペトラが迫る。

 フレミーは、ラファルの風によって急激に進行方向を曲げる。

「甘い!!」

 読んでいたように、フローラが右手のショットライフルをフレミーの行く先へ発砲する。

「!?」

 先ほどまで防げていたフローラの弾丸が、突然フレミーの鎧に当たる。

 足を止めたフレミーの背中を、衝撃が襲う。

「はぁぁぁぁぁぁああ!!」

 ペトラは、フレミーの背中を捉えた戦斧を思いっきり振りぬき、フレミーの身体は加速し観戦席の壁に衝突する。


「フレミー殿!無事か?!」

 壁に叩き付けた張本人が、少々焦りながら声を掛ける。


「・・・ご心配なく。結界のおかげで無事ですから」

 先ほどの焼き回しのように、フレミーが土煙の中から現れる。

「まさか、ここまでとは・・・・・話には聞いていたが、ルーン王国の訓練用の結界の性能はすごいな」

「帝国の方も凄いですよ、フローラ殿の弾丸。あれ、対精霊術用の物ですよね?」

「さすが、フレミー殿!一発で見抜くなんてね~。その通りだよ」

 包み隠さず答えるフローラ。

 三人が三人ともに、予想を超える相手の力量に嬉しくなり、笑みがこぼれる。


 その後、一進一退で進んだ戦いは、唐突にこう着状態になってしまう。


「はぁ・・・・はぁ・・」

「・・・・・・」

「・・・・ふぅ、そろそろ制限時間だな・・・次で最後にしようか?」

 ペトラの言葉に、二人がうなずく。


 緊迫した空気に、観戦席の生徒たちが固唾をのむ。


 いつまでも続くかと思った緊張は、学園の鐘の音によって均衡が崩れ、三人が一斉に渾身の一撃を繰り出した。


 シン、となる訓練場内。生徒たちの視線の先で、奇妙な状況が発生していた。


 フレミーの攻撃を、フローラとペトラが受け止めていたのだが、何故か仲間である二人は互いに武器を向けていた。


「え?え?」

 相対していたフレミーも状況が呑み込めず、混乱していた。

「フローラ、そこまでして私に勝ちたかったのか?」

「それはこっちのセリフだよ。最初に言ったよね?一時休戦って」

「確かに・・・・だが、私は同意したとは言っていないぞ?」

「ペトラ。人はそれをサイテーって言うんだよ?」

「戦いとは、非情なのだぞ?」

 ジト目のフローラに、ペトラは涼しげに言ってのける。 


 そして、フレミーを置いて二人が距離を取って構える。


「今日と言う今日は、その性格を治してあげる」

「やれるものなら、やってみろ」

 殺気を纏いだす二人に、フレミーが慌てる。

「お、お二人とも!何をやっているんですか?!」

「「口出し無用!!」」

 武器を構え、二人が駆け出した瞬間だった。二人の身に着けたアーマーから電子音が鳴り響く。

「へぶ!?」

「くぉ!?」

 駆け出した勢いのまま、二人が前のめりに倒れる。

「アーマーのパワーアシストが切れた?!」

「外部からこれが出来るのって・・・・」

「あなたたち!何をやっているのです?!」

 幼さの残る声が、訓練場内に響く。

「ま、まさか・・・この声は?!」

「ひ、姫様・・・・!?」

 恐る恐る二人が声のした方へ顔を向けると、そこには彼女たちの主である皇女ヴィルヘルミナが、制服姿で立っており、手にはリモコンが握られていた。

「フェリシアお姉様から今回の話を聞いて、楽しみに見に来ていましたのに・・・・・」

 自分の騎士たちの振る舞いと無様な姿に、ヴィルヘルミナが目に涙をためる。

「ひ、姫!これは、違うのです!これは・・・そう!仲間同士の親睦を深めるための・・・申し訳ありませんでした」

 言い訳を始めるペトラだったが、自分を見つめるヴィルヘルミナの純粋な目を見て、素直に頭を下げた。

「姫様の騎士として情けない姿をお見せしてしまい、申し訳ありませんでした」

 言い訳することなく頭を下げたフローラに、ペトラが「ズルいぞ!」と言わんばかりに見つめる。

「二人とも・・・・以降、このような馬鹿な真似はしないと、わたくしと約束してください。いいですね?」

 まるで別人のようなヴィルヘルミナの言葉に、フローラとペトラが驚いた顔をする。

「いいですね?!」

 昔の高圧的なものとは違う、可愛らしくも怒った顔を見せるヴィルヘルミナ。

「は、はい」

「了解しました」

 別の意味で押し負けてうなずく二人に、ヴィルヘルミナは嬉しそうに笑顔を浮かべる。


 茫然と立っていたフレミーに、フェリシアがゆっくりと近づいてきた。

「お疲れ様」

「いいえ・・・・しかし、姫様。よくここまで来れましたね」

 先にも述べた通り、特別クラスは休講となっている。特に、ヴィルヘルミナとアリエルという二人のお姫さまが狙われたことを鑑み、フェリシアも含む三人の外出は控えられていた。

「優秀な護衛さんたちがいたからね」

 フェリシアの視線の先に、アルバート城に”籠っている”はずの傭兵四人の姿を見つけ、フレミーは目を見開いた。

 

 そんな中、一団に歩み寄る人影があった。

「話はまとまったか?」

 それは、実戦訓練担当の女性教官だった。

「は、はい・・・この度は、部下がご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ございませんでした」

 ヴィルヘルミナが頭を下げるが、教官は首を振る。

「貴女が頭を下げる必要はありません、殿下」

 鬼教官と言われた女性の母性に満ちた表情を見て、騎士三人が驚愕する。


「さて・・・・主に頭を下げさせるとは、情けないとは思わないか?お前たち・・・・・」

 だが、その表情はすぐに見慣れた物へと変貌する。

「フローラ・メッサーシュミット、ペトラ・クリスティーネ・ローレンツ。選ばせてやる・・私のありがたい説教12時間コースと、パワーアシストの切れた状態で、全装備を担いで訓練場100周・・・・どちらがいい?」

 死刑宣告に等しい鬼教官の提案に、帝国の騎士二人の口からは、壊れたように乾いた笑いが漏れ、フレミーは心の中で「ご愁傷様」と手をあわせるのだった。



 ちなみに、勝敗は仲間割れを起こしたとして、ルール違反でフローラ・ペトラペアの負けとなり、フレミーの勝利だったことを付け加えておく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ