迷子の神さま
学園の姫君 合同学園祭編の5話「顔合わせ」で、はぐれたルールーが何をしていたかのお話です。
「・・・・・ルールーさんが、いらっしゃいません」
「「・・・・・・え?」」
つい先ほどまで、金糸雀と手を繋いでいたルールーが、なぜか居なくなっていた。
「・・・・フェリシアさん。とりあえず、あのロリ神を呼び出してください、家を出る前に、はぐれないようあれだけ釘を刺したというのに」
ため息をつきながら、玉露が額に手を当てる。
「わ、分かりました」
フェリシアが、ムムッと眉間にしわを寄せて、ルールーに呼びかける。
「・・・・・・あ、あれ?」
少し戸惑った顔をしたフェリシアだが、再び集中するように、眼を閉じる。
「・・・・ダメです。ルーちゃんに繋がりません」
「はい?」
フェリシアの言葉に、玉露と金糸雀は顔を見合わせる。
「そんなことはないでしょう?もう一度試してみてください」
「・・・・・やっぱりダメです」
玉露が腕を組んで考え込む。
「・・・金糸雀、フェリシアさんとルールーを繋いでいるパスの術式用プログラムあるわよね?見せて」
「え?う、うん」
玉露に言われ、金糸雀は術式のデータを送る。玉露の中に、膨大の量のプログラムが入り込む。
「・・・・・・・」
受け取ったデータを確認し始めた玉露の表情が、秒単位で渋いものへと変わっていく。
「金糸雀・・・・どうしてあなたは、プログラムが下手なの?」
「え?」
呆れたように指摘する玉露に、金糸雀は首を傾げる。
「プログラムの3行目に27行目、それに249行目に・・・挙げたらキリがないけど、打ち間違えてるわよ」
「ウソ?!」
金糸雀が、慌てて確認を始める。
「えっと・・・どういうことですか?」
二人のやり取りを見て、フェリシアが不安そうに玉露に声をかける。
「フェリシアさんとルールーを繋いでいるパスなのですが、私も冬華も彼女の身体などを創るのが忙しくて、金糸雀に術式の製作を任せていたんです。この子、術式の管理や構成などの組み立ては上手いんですけど、完全に一から作り出すのは苦手で・・・今の今まで術式を確認しなかった私たちも悪いですが・・・・」
「あ、これも・・・え?!これも!?・・・・うう、なんでぇ・・・・」
玉露たちが見つめる先で、冷や汗を流しながら自身が作った術式を見直す涙目の金糸雀。
「まぁ、緊急事態が起こる前に不備が発覚しただけでも、良しとしましょう。しかし、私有地内だと私の能力は使えませんし、あの状態なった金糸雀は役立たずですし・・・・仕方ありません、アナクロですが足で探しに行きましょう」
「は、はい・・・・・あの、カナリアさんはどうされるんですか?」
「放っておきます。今の彼女に声を掛けても、反応を返しませんから」
冷や汗で足元に水たまりを作る金糸雀を置いて、玉露がルールーを探しに行ってしまう。
「え?・・ギョ、ギョクロさん!?・・・・カナリアさん、ごめんなさい!!」
心苦しく思いながらも、フェリシアも金糸雀をその場に残し、ルールーを探しに行った。
*************
「ほ~、フィリシアはここで勉強をしているのか」
昊斗たちと一緒に、フェリシアやフレミーが通っている”王立アイディール学園”へやってきたルールーは、フェリシアたちの心配をよそに、鼻歌交じりで学園の敷地内を歩いていた。
代理神は、行動における思考ルーチンとして、常駐型・巡回型・放浪型と三つに分けることが出来る。
ルールーこと水の神ルドラは、この中で巡回型に入り、決まったルートではあるが”世界”を見て回ることが好きだった。
それは、フェリシアと契約し”精霊”となっても変わることが無く、周りの隙をみては出歩こうとしていた。
「面白そうな所じゃなぁ・・・・・ん?こっちからいい匂いがする・・・これは、クッキーか!?」
鼻をヒクヒクと動かし、好物となったクッキーの匂いのする方へと足を向けた。
「・・・・・・おかしいの、こっちの方から匂ったはずなんじゃが・・・」
校舎内へ入ったはいいものの、様々なにおいが混ざってしまったために、途方に暮れるルールー。
「仕方ない、フェリシアたちの下へ帰るかの・・・・・ん?」
フッと、周りを見渡したルールーは、自分がどこにいるか分からなかった。
「・・・そうじゃ!こういう時こそ、トウカたちが作ってくれた術を・・・・・」
フェリシアと同様に、パスを介してルールーも思念を飛ばせば相手とコンタクトが取れるのだが、パスのプログラムに不備があるため当然、フェリシアから反応が返ってこない。
「マズイ・・・・・フェリシア、怒っておるのか・・・・?」
だが、不備のことを知らないルールーの顔から、サーッと血の気が引き、青くなる。
勝手な行動をした自分に、フェリシアが怒っているのでは、と勘違いしたルールーが慌てて校舎の外へ飛び出す。
しかし、自分がどちらから来たか分からないため、来た方向とは逆に走り出してしまう。
「・・・・・・ここは、どこなのじゃ?」
完全に道に迷ってしまい、途方に暮れるルールー。
トボトボと歩いていると、小さな石に蹴躓き、ビタン!と派手に転んでしまった。
「うううう・・・・・うわああぁぁぁ・・・・」
膝を擦りむき、泣き出すルールー。
昊斗と冬華によって、”痛み”に対してトラウマを植えつけられたルールー。
だが面白いことに、彼らに与えられた同等の激痛なら、我慢できる自信のあるルールーだが、ちょっとした痛み、例えば今のような転んで膝を擦りむくなどの痛みは、なぜか我慢できなかった。
「ペトラ、あの子」
「ん?」
ルールーの傍を、二つの人影が通る。
「大丈夫?あなた、初等部の子だよね・・・・迷ったにしては、初等部の敷地からは離れ過ぎてるけど、どうしたの?」
スンスンと、鼻を鳴らしながらルールーが顔を上げると、青く長い髪に紫色のメッシュが特徴の高等部騎士クラスの女生徒・・・ヴィルヘルミナの騎士であるフローラが、両膝をついてルールーの顔を除きこんでいた。
「フローラ、迷子か?」
「どうかな、この子・・・学年とクラスのバッジつけてないみたい」
アイディール学園では、初等部から高等部までの全生徒に、学年とクラスを示すバッジをつけることを義務付けていた。
そのバッジが付いていないことに、フローラは首を傾げている。
「ん~・・・転校の見学にきて、親とはぐれたとか、か?お嬢さん、名前は?」
もう一人の女生徒、フローラの同僚であるペトラも膝をついてルールーと同じ目線となる。
「・・・ルールー」
「ルールーか、ここには誰と来た?」
「ソラトと・・・トウカ・・・・」
痛みで思考がうまく回っていないためか、ルールーが傍から見ると人見知りの子供に見える。
「それが親の名前か・・・・・フローラ、とりあえず職員室に連れて行こうか」
「そうだね・・・・立てる?」
フローラが、ルールーの手を取りゆっくりと立ち上がる。
「あ、ちょっと待ってね」
フローラが、スカートのポケットからハンカチを取り出し、怪我していたルールーの膝に巻く。
「ごめんね。私、精霊術苦手で・・・・回復系の術が使えればいいんだけど」
チラッと、ペトラの方へ視線を動かす。
「私は、精霊術自体使えないぞ!」
なぜか胸を張るペトラ。
「ペトラ殿、フローラ殿。どうされたんですか?小道具を取りに行くと言ったっきり戻ってこないから、みんな心配していますよ?」
後ろから声を掛けられ、二人が振り向くと、運動服を着たフレミーが立っていた。
「フレミー殿!いや、実は迷子を見つけてね」
「迷子ですか?・・・・・・!?」
迷子と聞いて、ペトラ達に近づいたフレミーは、ルールーの姿を見て、悲鳴を上げる寸での所で思い留まった。
「おぉ・・・フレミー」
フレミーの顔を確認し、安堵した声を上げるルールー。
「?なんだ、フレミー殿の知り合いか?」
「え、えぇ・・・・」
あいまいな声を上げ、ルールーに近づきフレミーは膝を折る。
(ルドラ様!!何をなさっているのですか?!ソラト殿やトウカ殿たちと一緒ではないのですか!?)
ペトラとフローラに聞かれないよう、小声で詰め寄るフレミー。
「少し散策していたら、はぐれてしまったのじゃ」
先ほどまで、泣いていたとは思えないほどあっけらかんとしたしゃべりに、フレミーはめまいを覚え、ペトラ達は少し驚いた顔をしていた。
**********
「あとで姫様の下にお連れしますから、ここで待っていてください」
「ん、すまんの」
知り合いに会えたため、ルールーの身柄はフレミーが預かることになった。
だが、フレミー達がいる場所から、フェリシアのクラスがある校舎まで連れて行くには距離があった。
どうしても外せない用事のあるフレミーだったが、他の誰かに任せることも出来ず、考えあぐねた結果、フレミーの下に居ることをフェリシアに伝えてもらうよう教師に頼み、フレミーはルールーを連れて教室へ戻っていた。
「フレミーさん、採寸しますから、こちらへ」
「あ、はい。いいですね、絶対に動かないでくださいね!」
ルールーに念を押して、フレミーは簡易的な仕切りの中へと消えて行った。
ルールーが周りを見渡すと、多くの学生が忙しなく動いていた。
「のうのう」
「はい?」
近くに居た女生徒に声を掛けるルールー。
「ここにいる者たちは、一体何をしているのじゃ?」
「今度の合同学園祭で披露する、演劇の準備ですよ」
「演劇のぅ・・・・」
大昔、人間が神への奉納として行っていた演劇を見たことがあったが、その時は特に気に留めることはなかった。
しかし、間近で準備の熱を学生たちから感じ、ルールーは少しずつ興味を持ち始めていた。
「お待たせしました。では、姫様のところに参りましょうか?」
採寸を終えたフレミーが、仕切りから出てきた。
「フレミーよ、主はどんな役をやるのじゃ?」
ルールーからの突然の質問に、フレミーは足を滑らせる。
「のう、どんな役じゃ?」
「ひ・・・秘密です!!」
フェリシアの下へ行くまでの間、ルールーの質問にフレミーは口を割ることが無かった。
フェリシアの下へとたどり着いたルールーは、玉露から突き刺さるような小言の雨を浴び、フェリシアにも「心配したんだよ!!」と怒られ、ルールーは自分のからはずみな行動を謝罪した。
金糸雀によって書き直されたパスのプログラム(今回は、玉露が2度確認した)を、改めてフェリシアとルールーに上書きし、パスが繋がる。
間違いなく作動することを確認し、胸を撫で下ろす面々。
「これで、今度ははぐれても大丈夫じゃな!」
素直に謝ったかと思ったら、明るく言ってのけるルールーに、全員が呆れる。
この後に、ルールーが自分の意志で街を出歩けるようになるのは、もう少し先の話である。




