騎士志望の男の娘(?)
この話は、昊斗たちが家に移って数日後の話です。
「ここも空振りか~」
「まぁ、大した期待もしていませんでしたが、こうも予想通りですとフラストレーションが溜まりますね」
小さな図書館から背伸びをしながら昊斗と、特に疲れた様子でもない顔の玉露が出てきた。
昊斗たちが家へ移り住んで三日が過ぎ、彼らは王都内の図書館巡りによる、代理神たちの情報収集を再開した。
しかし成果は芳しくなく、ほとんどが空振りとなっていたのだ。
「マスター、冬華さんたちも終わったようです」
金糸雀を通じて、冬華から玉露に連絡が入る。
「なら、一度”水鳥亭”に集合して昼飯にするか」
「了解しました。冬華さんたちに伝えます」
行きつけの宿屋兼定食屋への道を歩き出した時だ。
「あ、あの!」
歩き出した二人が、声を掛けられ後ろを振り向く。
「オ、オクゾノ・・・ソラトさん、ですよね?」
振り向いた先にいたのは、王立アイディール学園高等部、騎士クラスの制服を着た”学生”が立っていた。
「そうだが・・・君は?」
「はい!アイディール学園高等部騎士クラス一年、プリエ・エトワールです!」
プリエと名乗った学生を見て、昊斗は首を傾げた。
(女の子・・・・か?)
理由は簡単。制服は男子の制服なのだが、その容姿は中性的で、どちらかと言えば女の子だと言った方がしっくり来るからだ。
「一つお聞きしますが、なぜ男子の制服を?」
臆することなく、玉露が疑問を口にする。
こういう時、彼女の豪胆さに感心してしまう昊斗。
「ぼ、僕は”男”です!!」
プリエは、顔を真っ赤にして憤慨する。その様子で、普段から言われているのだろうと、昊斗は判断した。
「いえ、それは”見たら”分かります。私が聞いているのは、なぜ、似合わない男子の制服を着ているのか、聞いているのです」
「え?」
だが、予想していなかった玉露の返しに、プリエが呆ける。
玉露から、プリエのスキャンデータが送られてくる。
それを見る限り、目の前に立つ学生は紛うことなく男の子だった。
「・・・・・・まぁ、彼女の言葉は忘れてくれ。それで、プリエ君だったな・・・・俺に、何か用か?」
このまま玉露のペースで行くと、大変なことになると判断した昊斗が、話を強引に引き戻す。
「・・・・・は?!そうでした!!あの、僕を弟子にしてください!!」
「は?」「え?」
********
水鳥亭
ディアグラムの商業区で、長年愛されている宿屋兼定食屋である。住民だけでなく、旅人や船乗りなどにも人気で、昊斗たちも王都に来てから度々利用しており、家に移ってからは、その利用頻度が上がっている。
「それじゃ、少し待っててくださいね~」
水鳥亭の一人娘にして看板娘でもある「ナタリア」が、昊斗たちのオーダーを取り終わり、笑顔で厨房へと消えていく。
「それで、どうして昊斗君に弟子入りしようと思ったの?」
「そ、それは・・・あの・・・」
聖母のような笑みを浮かべる冬華が、鈴の音のような声でプリエに話しかける。見た目女の子に見えるプリエだが、やはり男の子な為かそんな冬華を前に、緊張でガチガチになる。
「心配しなくていいですよ。先ほどの我が主の行動は、乙女なら誰もが持つ、恋心がさせたことですから」
「金糸雀、それはフォローではありませんよ」
玉露が吹き出し、笑いを堪える。
弟子にしてくれ、と言ってきたプリエに詳しい話を聞くため、水鳥亭に連れてきた昊斗(と玉露)を見て、例のごとく冬華が勘違いし、殺気を漲らせて殺戮が繰り広げられる寸前まで行った。
金糸雀が、プリエの身体をスキャンし男だと懇切丁寧に説明したことで、何とか矛を収めさせることに成功したが、プリエは軽く、冬華に畏怖の念を抱いてしまっていた。
「金糸雀!?変なこと言わないで!私は、昊斗君の毒牙にかかるのは、私たちだけで十分だと・・・・って玉露ちゃん!いつまでも笑わないでよ!!」
そんなやり取りを見て、プリエは怖がっていた自分がおかしくなり、笑い出してしまった。
運ばれてきた昼食を食べ終わり、食後のお茶を飲みながら、昊斗が半眼でプリエを見据える。
「・・・・で?どうして俺に、弟子入りしようと思ったんだ?俺は傭兵であって騎士じゃない。しかも異世界人だ。騎士を目指すなら、俺なんかより、アルバート騎士団の騎士に師事したほうがいいと思うぞ」
冬華と同じ質問をする昊斗に、プリエは俯いてしまう。
「僕の家は、所謂没落貴族でして・・・・父を早くに亡くし、母や兄や姉たちが身を粉にして働いています。僕は、そんな家族を助けたくて、そして地に落ちた家名を盛り上げるために騎士をめざし、無理を言ってアイディール学園に通わせてもらっているんです。入学は出来ましたが、入って分かったのは、学生の内から騎士に師事出来るのは、”力”を持つ貴族出の子息子女だけ。それ以外は騎士団に入っても兵士にしかなれない現状でした。名ばかりの貴族である僕が、本当に騎士になれるか自信が無くなってしまいました」
プリエの説明に、昊斗たちはこのルーン王国でも、そんな現状があるのだな、と考えてしまう。
「そんな後ろ向きな考えを持ち始めた時です。フレミー先輩の決闘を見に行った際に、お二人の会話を”聞き”思ったんです!この人に師事すれば、騎士になれるんじゃないかって」
目を輝かせ、昊斗を見るプリエの顔は、騎士に憧れる男の子と言うより、夢見る女の子にしか見えず、男だと分かっていても、女性陣の心をざわつかせた。
「?あの時、俺とフレミーの声って拾ってたのか?」
プリエの説明の一部に、疑問を感じた昊斗が冬華を見る。
「ううん、観客席には二人の声は届いてなかったよ」
「あ、ぼくの故郷は山間部にあるんです。昔から声の届かない遠くに居る人の唇の動きを、望遠鏡なんかで見て読み取ったりしてましたから」
「なるほどな・・・・・」
話を聞き、昊斗が腕を組んで考え込む。
「・・・・・・・悪いが、君を弟子にすることはできない」
「!・・・やっぱりそうですよね」
「先ほども言ったが、俺は傭兵だ。あの時、フレミーに言ったことは、いろいろな場所で、基本的に言われていることを焼き回しで言ったに過ぎない。本当の意味で、俺に騎士を育てることは出来ないんだ。無責任に中途半端なことをやって、君の可能性を断つのは忍びない。だから、俺は君を弟子にはできない」
至極まっとうな言い分に、再びプリエは俯いてしまう。
「だが、手助けはしてやれる」
*******
「悪いな、フレミー。急に呼び出してしまって」
「い、いいえ!とんでもありません!!」
水鳥亭にフレミーを呼び、食堂の一部を借りた昊斗。
突然の事ながら、昊斗から呼び出されたフレミーの顔は嬉しさで綻び、それはまさに、恋する乙女そのものだった。
「あの、それで用事と言うのは・・・?」
何かを期待するように、モジモジと指を遊ばせるフレミー。
「あぁ、実は、君にしか頼めないことだと思うんだが・・・・プリエ」
昊斗に呼ばれ、現れた”美少女”にしか見えないプリエを見て、フレミーの思考が停止してしまう。
「は、初めまして、フレミー先輩!!騎士クラス一年のプリエ・エトワールです!!」
直立不動で自己紹介するプリエだが、フレミーには届いてはいなかった。
「・・・・?フレミー?どうかしたのか?」
「・・・へぁ?!いやあの・・・」
心配し顔を覗き込む昊斗。気が付くと、昊斗の顔が近くにあり、狼狽するフレミー。
「悪いんだが、彼をフレミーの弟子にしてやってくれないか?」
「・・・・・・え?」
予想だにしない昊斗の申し出に、フレミーは目が点になってしまった。
昊斗から事のあらましを聞き、考え込むフレミー。そして、昊斗の予想通りに彼女は言葉を紡いだ。
「申し訳ありません。ソラト殿の頼みと言えども、それはできません」
フレミーの言葉に、プリエは落ち込んで肩を落とす。
「一応、理由を聞いてもいいか?」
「一つは、私が特例で騎士を拝命し、そして騎士としての経験が浅いからです。騎士としての経験の乏しい私に、人を育てられるはずがありません。二つ目は、私が姫様に仕えている身だからです。姫様に許可を得ないと、私の意志では決められません。そして最後に、プリエ君は男の子ですね?騎士と騎士見習いとの師弟関係は同性でないといけないと、騎士団の規約で決まっています。以上の点で、私が彼を弟子に出来ない理由です」
フレミーの説明に、昊斗はうなずきながら聞いていた。
「・・・つまり、それを全て解消できればいいわけだな?」
「え?」
不敵な笑みを浮かべる昊斗に、フレミーはどこか冬華や玉露に似た色を見て、身が引けてしまう。
「一つ目だが、確かに君は、騎士としての経験が不足している。だが、そんなものは些細なことだ。日々の生活の中で君が感じたこと、体験したことだって”経験”だ。それを、彼に伝えればいい。人に何かを教えるって言うのはそういうことだよ。そして、二つ目だが・・・・」
昊斗が後ろに視線を送る。
「許可します!!」
後ろの座席に座っていた一人が、立ち上がって振り向く。
「ひ、姫様!?」
そこに居たのは、町服と眼鏡で変装をしたフェリシアだった。
「話は全て聞かせていただきました。私は、フレミーが正式に騎士見習いを弟子にすることに賛成します!!」
フェリシアの言葉を聞き、昊斗がフレミーに視線を戻す。
「これで、二つ目もクリアーだな?」
「・・・・ですが、最後の一つはどう曲げても無理です!私は女ですし、プリエ君は男です!この事実は変わりません!!」
最後の砦を死守せんとばかりに、立ち上がるフレミー。だが、昊斗は涼しげな表情を浮かべている。
「別に、学校の後輩に何かを教えるのに、性別は関係ないだろ?」
「・・・・・・はい?」
普段見せることのないフレミーのキョトンとした表情に、フェリシアが「おぉっ」と声を上げる。
「実際のところを言うと、最初の二つもこれ一つで解決するんだが・・・・学校で、先輩が後輩に指導や助言をするって普通だろう?別に、騎士とか性別とか関係なく、教えたり教えられたりする・・・・学校って、そういう所だ。簡単な話、フレミーが卒業するまでの間、プリエの面倒を見てくれればいいんだ。彼なら、一年で多くのことをフレミーから学べるはずだからな」
昊斗の言葉に、フレミーはため息をつく。
「それって・・・屁理屈ですよね?」
「屁理屈だって、理屈の内だ」
笑みを浮かべる昊斗に、フレミーはドキッとして顔を真っ赤にする。
「フレミー、どうするの?」
主であるフェリシアに問われ、フレミーは顔に籠った熱を解消するように何度も首を振り、そして大きく息を吐いた。
「・・・・・分かりました、私の空いた時間でいいのなら」
「ほ、本当ですか?!ありがとうございます!フレミー先輩!!」
大喜びで飛び回るプリエ。その姿は、”男”らしさからはほど遠いものだった。
「では、予防線を準備しておきましょうか?」
フェリシアが座っていたテーブルから、冬華を始めとした傭兵の女性陣と、フェリシアに着いてきていたルールーが現れ、先ほどの言葉を言いながら玉露が一歩進み出てプリエを見る。
彼女の顔は、かなり悪い顔をしていた、とのちにその場に居た全員が口をそろえて答えた。
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ディアグラム合同学園祭の準備が始まったアイディール学園の屋上で、警護対象のヴィルヘルミナを監視していた昊斗が、フッと視線を別の場所へ移すと、見慣れた姿を二つ見つけた。
身に着けたバイザーの望遠を絞り、二人の姿を拡大する。
「頑張ってるじゃないか」
そこに映し出されたのは、とても画になる二人の”美少女”たちだった。
一人は通学用に髪の色を変え、眼鏡をかけたフレミー。
そしてもう一人は、フレミーよりも背が低く、中性的な顔立ちに短い髪が特徴の”女の子”・・・・プリエだった。
彼は、なぜか女子の制服を纏い、フレミーと一緒に歩いている。
あの日、玉露の言った予防線が、プリエの女装だった。
「聞いた話では、騎士クラスの女生徒の中には、男子の制服を着ている者もいるそうですから、その逆だってありですよね?それに、彼が女装すれば、性別云々を持ち出す輩は少ないでしょうし、後々フレミーさん付の騎士見習いになるのなら、その方が好都合でしょう」
もっともらしい説明をする玉露だが、その目には、”男の娘、萌!”とはっきりと浮かんでいた。
最初は嫌がっていたプリエだが、玉露の説得(脅迫?)を受けて心を決め、学校生活を女装で過ごすことを決めた。
元々クラスメイトからも、女子だと勘違いされていたプリエは、女子の制服で登校しても何の騒ぎも起きることなく、今ではフレミーの”妹分”として周りから認識されていた。
「頑張れよ、”少年”」
ほんの少し着地点がズレたような気もする昊斗だったが、騎士を目指して歩み出した少年に、ささやかなエールを送るのだった。




