初めての依頼
昊斗たちが、アルバート城から家に移った次の日。
「やぁ!おはよう、今日もいい天気だね!」
朝早くドアの外に、アルバート騎士団団長のフォルト・レーヴェがお供も連れずに笑顔で立っていた。
「フォルトさん?!どうされたんですか?こんな朝早く急に」
玄関先で応対した冬華が、驚いて声を上げる。
「いやいや、引っ越しのお祝いにきたんだよ・・・・はい、いいお酒が手に入ったんだ、この年の酒は評判が良くてね。みんなで飲むといいよ」
手渡された酒瓶を見ると、確かに年代物のお酒らしく、値の張りそうなものだった。未成年に酒を渡すのは如何なものかとも思うが、ルーン王国では18歳で成人となり、これは異世界人にも適用される。昊斗と冬華は今年で20歳、玉露と金糸雀は19歳になるので、問題はなかった。
玄関先では失礼と、冬華がフォルトを中へ招き入れる。
「それにしても表もそうだったけど、なかなかいい家だね。趣があって僕は好きだな」
玄関ホールを見渡し、感心するように顎を撫でるフォルト。冬華も、「ありがとうございます」と笑顔を返す。
「・・・冬華、誰か来たのか?・・・・あれ?フォルトさん」
そんな中、二階から降りてきた昊斗が、珍しい人がいると玄関ホールにいる二人に近付く。
「やぁ、ソラト君!おはよう、そして引っ越しおめでとう!」
先ほど冬華にした同じテンションで挨拶をするフォルト。
「昊斗君、これフォルトさんから、引っ越しのお祝いにって」
冬華は、フォルトからもらった酒を昊斗に見せると、昊斗はため息をつく。
「・・・・・フォルトさん、とりあえず本当の用事をお聞きしますよ」
昊斗の言葉に、「ははは・・・」と乾いた笑いをするフォルト。
「依頼ですか?」
「う~ん、どちらかと言えばお願いかな?」
突然やってきたフォルトから事情を聴くため、応接室に案内した昊斗と冬華。
さらに、騒ぎを聞きつけた玉露と金糸雀も交えて、話を聞いていた。
「僕の奥さんはね、小さいながら孤児院を運営しているんだ。だけど、手伝ってくれているスタッフさんが、怪我や病気などで今日来れなくなってね・・・・急きょ人手が必要になったんだ。最初は僕も手伝うって言ったんだけどね、即座に却下されたよ。自分の仕事をしなさいってね」
小さいながらも、現在保護している子供が10人もいるため、奥さん一人では到底見切れない、とフォルトは付け加えた。
「つまり、今からその孤児院に行って、奥さんのお手伝いをしてほしいってことですか?」
「そういうこと・・・突然で無茶を言っているのは承知の上だが、この通りだ、妻を助けてくれ!」
テーブルに額をこする勢いで頭を下げるフォルト。
昊斗たちは顔を見合わせ、お互いに意思を確認する。
「いいですよ」
「え?いいのかい!?」
即答する昊斗を、勢い良く顔を上げたフォルトは驚いて見つめる。昊斗たち四人が再度、確認を行う。
「要は、孤児院に行って子供たちの面倒をみたり、お洗濯やお掃除をすればいいんですよね?お安いご用ですよ」
冬華が胸に手を当て嬉しそうにしている。金糸雀も、同様に「ご奉仕できる」と嬉しそうだった。
「そ、そうか!ありがとう!!では、報酬の方だけど」
「報酬は・・・・・・今日のお昼と夕飯を人数分、奥様の手料理でお支払い頂くということでどうですか?」
昊斗の言葉に、聞き間違えか?とフォルトの目が点になる。
「騎士団団長としての依頼なら、それ相応の対価を要求しますが、フォルトさん個人なら話は別です。と言うより、水臭いですよフォルトさん。そう言ったことなら、喜んでお引き受けするのに」
冬華が笑顔で答える。
「フォルトさんには、王都に来てから何かと助けていただきましたし、困ってる奥さんのためなら、お手伝いしますよ。それに、フォルトさんの奥さんがどんな美人か気になってたし」
フレミーや団員達から聞いた話で、フォルトの奥さんが絶世の美女だと聞いていた四人はいつか会いに行こうと思っていたのだ。
「でも、本当にいいのかい?」
「えぇそれに、戦い以外の依頼は・・・・・本当に久しぶりなんで」
昊斗だけでなく、女性陣も複雑な笑顔を浮かべている。
この時の四人の表情を見て、フォルトは彼らがどんな人生を送ってきたかを想像し、悲しくなった。
*********
フォルトの案内で、四人はフォルトの奥さんが運営している孤児院に出向いた。
「チェンバレン孤児院?」
表にかかる看板を見て、四人は首を傾げる。
「チェンバレンは僕の旧姓でね、レーヴェは奥さんの方の姓なんだ。僕がアルバート騎士団の団長を拝命するに当たって、貴族じゃないってことが問題になったんだ。僕の奥さん、大貴族のご令嬢でね・・・・それで、僕がレーヴェ家に婿養子に入って問題解決ってわけさ」
そんな話をしていると、入口が開かれる。
「あなた!?・・・・まさか、お仕事をサボってきたんじゃ・・・・」
出てきた女性の髪が、怒りで揺らめく。
「ち、違うよ!・・・君のお手伝いをしてくれる人たちを連れてきたんだ・・・みんな紹介するよ、こちらが僕の愛する奥さん、アレクシス・ティア・レーヴェ。シス、彼らが前に話したソラト君にトーカ君。ギョクロ君にカナリア君だ」
「え?!あ、あの・・・・すみませんお恥ずかしい所を・・・・初めまして皆さん。フォルトの妻の、アレクシスです」
「「「「ど、どうも。宜しくお願いします・・・・・・」」」」
慌てて頭を下げるアレクシスに、昊斗たちは呆気にとられてぎこちなくお辞儀をする。
フォルトの奥さんは、美女と言うより”美少女”と形容してもおかしくない若さだった。
聞いていた話では、フォルトと同い年の30代後半と言うことだったが、どう見ても20代前半、下手をしたら10代にも見え、一緒に立っていると夫婦と言うより兄妹に見えてしまう。
そんな中、フォルトがキョロキョロと周りを見渡す。
「アルトは?また寝たのかな?」
「えぇ、あなたを送り出してすぐに寝てしまいました」
「そっか、それなら仕方ないね・・・・そろそろ仕事に戻るよ」
「はい、いってらっしゃいませ。それから、ありがとうございます、あなた」
いってらっしゃいと感謝を込めたキスで送り出すアレクシスに、フォルトの顔がにやける。
「それじゃみんな!シスのことよろしく頼むね!!」
大の大人がスキップでもしそうな足取りで仕事に向かう姿は、何とも微笑ましい光景である。
「・・・・!!で、では!皆さん、今日はよろしくお願いしますね!子供たちに紹介しますから、どうぞこちらへ・・・」
夫婦のやり取りを他人に見られていたことに気が付き、アレクシスが顔を赤くして孤児院の中へ案内する。
「すげー!!」
「お兄ちゃん!これってなんて遊びなの?」
「これか!これは・・・・リフティングって言って、こんな風にボールを落とさないようにするものだ!」
男の子たちの羨望の眼差し先に、ボールを器用にコントロールする昊斗がいた。
「お姉ちゃんのお洋服、変わってるね」
「これは洋服ではなく、着物というんですよ。異世界にある国の民族衣装です」
「これ、綺麗だね」
違う場所では、玉露が女の子たちに囲まれている。
子供たちとの顔合わせを終えた四人は、分担を分けて手伝いを始めた。
昊斗と玉露は、子供たちの遊び相手。冬華と金糸雀は、アレクシスの手伝いで洗濯をしていた。
「本当にありがとうございます」
「いいえ、お気になさらないで下さい。こういうのみんな好きなので、ね?金糸雀」
「はい、我が主」
洗い終わった洗濯物を干していると、部屋の中から三歳ぐらいの子供が一人、眠い目をこすりながら出てきた。
「ママ・・・・・」
「あら、アルト。目が覚めたのね」
出てきた子供を抱き上げ、寝癖の付いた頭を撫でるアレクシス。その姿は、まさに聖母そのもののように見える。
「アレクシスさん。その子は?」
「この子は、夫と私の子供でアルトといいます。アルト、お姉さんたちにご挨拶は?」
「んーーーー」
起き抜けのせいか、アレクシスに抱きつき、ぐずるアルト。
「ごめんなさい、この子寝起きがあまり良くなくて・・・」
「大丈夫ですよ。こんにちは」
アルトと目線を合わせ、笑顔で挨拶する冬華。
目線が合ったが、アルトがプイッと母親の方へ顔を背けてしまう。
「あらら、嫌われちゃったかな?」
ダメだったと、苦笑しながら冬華が離れる。
「アレクシス様。お名前からすると、お子さんは男の子なんですか?」
金糸雀が、失礼かもと思いつつ疑問をぶつける。
アルトは、ウェーブのかかった長い髪に、父親譲りのエメラルド色の瞳、母親似の顔立ちの為か、女の子にしか見えなかった。
「えぇ、よく女の子に間違われるけど、立派な男の子です」
甘えるアルトの髪を、ゆっくり撫でるアレクシス。
「おい、二人とも!洗濯が終わったのなら、こっちを手伝ってくれ!さすがに、これだけの人数を二人で相手にするのは無理がある!!」
遠くで子供たちにもみくちゃにされながら昊斗が、声をあげる。
「行ってあげて。掃除なら、私一人でも出来るから。アルト、お姉さんたちと一緒に遊んできなさい」
だいぶ落ち着いたアルトを下ろして、優しく言い聞かせるアレクシス。アルトが母の顔を見て、その後冬華たちの顔を見る。
冬華がしゃがみ、アルトと目線の高さを合わせる。
「どうかな?お姉さんたちと一緒に行かない?お友達も待ってるよ?」
ゆっくりと、優しく問いかける冬華。アルトが、向こうで遊んでいる子供たちを見つめ、少し考えたのちにコクンとうなずく。
その姿に、アレクシスが目を見張る。
「それじゃ、行こうか?」
手を繋いで遊んでいる昊斗たちの下へ歩いていく冬華とアルト。
「あの子、見知らぬ人には近づいたりしない子なんですが、あんな風に私たち以外の人と手を繋ぐなんて」
「主は、子供に好かれる性質なんですよ。どんなに心を閉ざした子供でも、なぜか主には心を開くんです」
誇らしげにアレクシスに説明する金糸雀。
「夫が、皆さんに助けを乞うた理由が分かった気がします・・・・・それにしても、あなたは行かないの?」
アレクシスが不思議そうに金糸雀を見つめる。突かれたくない所を突かれ、押し黙る金糸雀。
「・・・・・・・主とは正反対に、私はなぜが子供に避けられてしまい、終いには泣かれてしまうんです」
冬華同様に、子供好きな金糸雀なのだが、どうしても子供とは仲良くなれず、今では自ら子供に近づくことはなかった。
「そう・・・・・なら、あなたには掃除のお手伝いをお願いしてもいいかしら?」
「は、はい!喜んで!!」
洗濯籠を抱え、金糸雀はアレクシスの後を付いて行った。
夜、遊び疲れた子供たちがベッドの中で眠ったのを確認した昊斗たちは、孤児院の外でフォルト夫妻に見送られていた。
「本当に今日はありがとうございました」
眠い目を擦るアルトを抱え、頭を下げるアレクシス。
「また人手が必要になりましたら、お声をかけてください。喜んでお手伝いにきますよ」
「ありがとうソラト君」
話をしている昊斗とフォルトの隣で、冬華がアレクシスとアルトに近づく。
「それじゃ、またねアルト君」
「・・・・バイバイ」
手を振るアルトに、フォルト夫妻が驚く。
「ドラグレア様じゃないが、君たちには驚かされてばかりだよ」
「特別何かしている訳じゃないんですけどね・・・・それでは、これで」
レーヴェ一家に見送られながら、帰路につく昊斗たち。
今回も一度も子供に好かれることなく、肩を落として落ち込む金糸雀を励ます冬華と玉露だったが、家へ帰り着くや否や、昊斗に「子供可愛かったね」とか「いつかは子供を・・・」など、顔を赤くしてアピールを始めた二人に昊斗は頭痛を覚えたのだった。




