騎士たちの熱戦 その2(中編)
随分とお待たせしました
「それで、俺たちのところへ来たわけか?」
「ハイ!」
昊斗の問いに、何故か、フェリシアが笑顔で肯定する。
実は昼休み。フレミーたち三人が屋上へ行く姿を目撃したフェリシアは、その様子から「何かある!」と直感し、三人を尾行。屋上へと上がっていくのを見て、これ以上は気配を察知されてバレるかも考えて、練習中だった隠形の精霊術を使い姿と気配を消すと、気付かれる事なくフレミーたちが座っていたベンチの背後へと回り、物陰に隠れて会話を盗み聞きしていたのだ。
そんなフェリシアの背後で、彼女の騎士であるフレミーが何ともいえない苦い表情を浮かべていた。
「まさか、姫様に背後を取られて気が付かなかったなんて・・・」
精霊術を使っていたとは言え、守るべき人物に背後を取られ、あまつそれに気がつかなかったことに、フレミーが気落ちする中、横に居たペトラが腕を組んで感心するように頷いていた。
「フェリシア様は、精霊術士として様々な訓練を受けておられると聞いていたが、隠形の精霊術まで使えるとは・・・恐れ入った!」
「何暢気な事言ってるの?!そのせいで、ギャラリーが増えちゃったんだからね!あの格好を姫様以外に見られるなんて・・・」
感心するペトラの横で小さな声で悲痛な叫びを上げていたフローラの目が、ある一団を捉える。
彼女の視線の先では、特設観覧席に座るヴィルヘルミナやアリエル。ミユやアイリス、莉麻と言ったいつものメンバーが冬華たちと談笑していた。
彼女らがここに居るのは、屋上で盗み聞きしていたフェリシアが、自分だけ楽しんでは勿体無いと、放課後すぐに誘っていたのだ。
羞恥心から、未だに戦闘服を第三者に見られることを躊躇っているフローラとしては、これは由々しき事態だが、すでに逃げ出せる状況ではなかった。
フェリシアと話し終わった昊斗が突然、拍手を一つ打った。
その音の大きさに、離れて談笑していたヴィルヘルミナたちがビクッと身体を竦ませ、昊斗の方へと視線を向ける。
「さて、時間も時間だしな。とっとと始めるか」
昊斗がそう告げると、フェリシアは冬華たちのいる観覧席へと走っていく。
そして、先ほどまで少女の顔をしていたフレミーとペトラの表情が既に戦士のそれへと変わっており、フレミーの背後には契約精霊であるラファルとマリーナが姿を現した。
ーー唯一、フローラだけがこの世の終わりが来たような絶望的な表情を浮かべている。
「では、これより模擬戦を始める。だが模擬戦と言っても今回はより実戦に近づけるために、訓練用結界は用いないものとする。もちろん、攻撃の余波がフェリシアたちに届かないよう結界を張っておくので、周りへの被害は心配するな。ただし、戦闘を行うお前たちは防御を抜かれ致命傷を受ければ命を落とす可能性があるので、気を引き締めろ。万が一の場合が起きても、冬華が居るからすぐに蘇生できる。安心して全力を出せ、いいな?」
「「はい!」」「はい・・・」
ルールを確認し、フレミーたちが一斉に頷く。
「それでは双方、開始地点に移動し、装備を展開しろ」
昊斗の指示に従い、フレミーたちはそれぞれ距離を取って相対すると、ポケットから一枚のカードを取り出す。
ところが、カードを取り出した三人は、手にするカードを見つめたまま固まってしまう。
「・・・どうした、装備を身につけないといつまでも始められないぞ?」
三人の様子を見て、昊斗は小さくため息を漏らすと、すぐ準備するように促した。
渋い表情を浮かべる三人。その中で、一番に動いたのは精霊たちに急かされたフレミーだった。
「・・・・っ顕現せよ!高貴なる魂の宿りし、何者にも穢されない純潔の白き鎧よ!戦場に咲く華となれ!!戦女神の鎧!!」
カードを掲げて発動呪文を唱えると、カードが光り輝くと、フレミーが着ていた制服が光となってカードに吸い込まれ、同時にカードが帯状の光へと変化し、フレミーの身体を包み込む。
そして光が弾けた瞬間、フレミーの姿は純白のドレスに白銀の鎧を纏った姫騎士スタイルへと変わり、その腰には鞘に収められながらも、聖剣プロウェス・カリバーが存在感を放っていた。
いち早く”変身”したフレミーを見て、ペトラは頬を伝う汗を拭うと覚悟を決めたように自身の頬を叩いた。
「フレミー殿は潔いな・・・よし!我々も行くぞ!現れよ、暴れ狂う殲滅の刃!天を斬り裂く嵐となれ!!竜断斧!!」
ペトラが発動呪文を叫ぶと、カードが光り輝き、フレミーと同様に、着ていた制服が光の粒子となってカードへと吸い込まれ、カードがペトラの愛斧であるバルディッシュへと変化する。ペトラが武器を手に取ると、彼女の足元から風が巻き起こり、その風が繭の様にペトラを包み込む。
そして、ものの数秒で風の繭が弾け飛ぶと、中から某アイドル風軍服に身を包んだペトラが姿を現した。
相棒あるペトラが”変身”したことで、一人取り残されたフローラは思いっきり表情を引き攣らせ、手にするカードを見つめる。
「っ〜〜あぁもう!!現れなさい、万物を穿つ神速の弾丸!地を砕く雷となれ!!雷穿砲!!」
そして、恥ずかしさを払いのけるように自棄ぎみにフローラが叫ぶと、カードを高々と掲げて発動呪文を唱えた。
先の二人同様、カードが光り輝くと着ていた制服が光の粒子となってカードに吸い込まれると、カードが二枚に別れフローラの両手の甲に吸い付くと、彼女の手を覆いつくすアサルトショットガンが姿を現す。そして、フローラの周りに幾つもの稲妻が円を描くように落ちると、その稲妻が彼女に向って地面を走り、足元へと到達した瞬間、一つの巨大な雷となってフローラを飲み込みながら、天へと昇る。
雷の通り過ぎた後には、ペトラと同じ軍服を身に纏ったフローラが静かに立っていた。
「うわ、うわ!カッコいい!!ミーナ、アイリス!今の見た!?」
「はい、見ました!!」
「ん・・・なんと言うか、心を揺さぶられて、燃える・・!」
目の前で起きた変身ショーに、眼を輝かせながらピョンピョンと飛び跳ねるミユの言葉に、ヴィルヘルミナも同じように眼を輝かせて同意し、最近ではクールビューティーな方向に落ち着きだしていたアイリスも、興奮したのか鼻息を荒くして拳を握っている。
「何度見ても、見てるこっちが恥ずかしくなるなぁ」
「そうですねぇ〜・・・・カッコいいとは〜思いますが〜・・・さすがにあれは〜・・・色々と大事な物を〜捨て去らないとぉ・・無理ですねぇ〜」
「星亜ちゃんなら喜んでやりたがるだろうけど、莉麻には無理かな〜・・・」
はしゃいでいるミユたちとは反対に、フェリシアとアリエルは恥ずかしさから顔を赤くし、莉麻は中学時代に友人にコスプレを迫られた事を思い出して、顔を引き攣らせていた。
彼女たちは知らないが実の所、装備展開にあんな大仰な発動呪文は必要なくただ念じるだけで装備を装着する事が出来るように設定可能だった。
発動呪文も変身の効果エフェクトも、偏に製作者である緑の悪魔の完全な趣味である。
自分が思い描いていたエフェクトがちゃんと再現されている事に玉露は満足そうに頷き、彼女の様子に冬華はため息を漏らし、金糸雀は困ったように笑っていた。
外野の喧騒を余所に、昊斗は三人が装備を整えた事を確認するとゆっくりと右手をあげた。
「では、双方構え!」
昊斗の掛け声に、ペトラとフローラが腰を落とし武器を構えるが、何故かフレミーは腰に下げたプロウェス・カリバーを抜く素振りを見せなかった。
「?」
フレミーの様子に、ペトラとフローラは訝しげな表情を浮かべ、昊斗も右手を上げたまま、フレミーを見つめる。
すると、自然体で立っていたフレミーが、眼を閉じてゆっくり呼吸を整え始めた。
「・・・・プロウェス・カリバー、お願いします!」
『承知シマシタ、姫様』
フレミーの声に呼応して、プロウェス・カリバーに填められた宝石が光り輝くと、後ろに控えていたラファルとマリーナの耳飾が金色へと変わる。
そして、フレミーが大きく両手を開いた。
「ラファル、マリーナ・・・精霊武装!!」
””はい!!””
契約者の声に、二体の精霊は大きく頷いて応えると、その姿が霞のように消え、刹那にフレミーの両手に長細く伸びた風と水が現れ、彼女がその二つを力強く握ると、二振りの剣へと姿を変えた。
だが、その形はフレミーが普段使っている剣とは大きく形が違い、しかも左右で剣の種類まで違った。
精霊武装によってラファルが変化し左手に握られた剣は、風の意匠が目を引くレイピア。
そして、マリーナが変化し、右手に握られる剣は、水の意匠が施された刀よりも刃の厚い片刃の剣なのだ。
「精霊武装、エア・ハート!ソウル・オブ・アクア!!」
手にした精霊武装を構え、フレミーがペトラたちを見据えると笑みを浮かべた。
「属性の違う精霊二体を、同時に精霊武装させたのか!?」
「嘘でしょ?!」
学園の授業で、精霊武装に関して学んでいたペトラとフローラが声を上げる。元々、契約した精霊が精霊武装にまで至る者は数が少なく、その中でダブルシンボルといわれる二属性契約者は、人以上の努力をしても良くてどちらか一方の精霊を武装化させるのが精々である。
にも拘らず、フレミーは契約する二体の精霊をそれぞれ精霊武装に至らせただけでなく、同時に武装化させたためペトラたちは驚きを隠せなかったのだ。
そして、驚いていたのは審判を務める昊斗も同様だった。
「いつかは、と思っていたがもう出来るようになっていたとはな・・・」
精霊武装は、契約者の精神力の充実と精霊との絆が高まる事で行えるようなることを、昊斗たちはフォルトから聞いていた。
そのことを踏まえてここ最近、聖剣を使いこなす為に精神力を高める修行をフレミーに課していた昊斗は、彼女がもうそろそろ精霊武装が行えるのではないかと見ていたが、既にそこまで至っていたことに驚くが、すぐにフレミーの精霊武装を見極めるように目を細める。
そして昊斗同様、冬華、金糸雀の二人もフレミーの持つ精霊武装を冷静な眼で見つめていた。
「確かに、フレミーさんの錬度ならラファルちゃんやマリーナちゃんを武装化できるとは思ってたけど、二つ同時って言うのは・・・」
「間違いなく、プロフェス・カリバーのサポートのお陰ですね。でなければ、いくらフレミー様でも異なる属性の精霊武装を同時に使うなんて現状では不可能なはずですし」
簡易計測して取得したデータを見ながら二人がフレミーの精霊武装を分析をしていると、隣にいた玉露が短く息を吐いた。
「それよりも、あの子の精霊武装の形状を見て意見はないの?片方は母であり剣の師匠でもある人の得意とする武器。そしてもう片方は愛する人の使う武器、刀に似せている・・・・・いじらしいとは思わない?」
大人な余裕のある笑みを浮かべる玉露の言葉に、冬華と金糸雀は顔を見合わせ「・・・たしかに」と頷くと、優しげな視線を向けた。
そんな三人を見て、フェリシアが何故かがっかりした様に肩を落としていた。
「・・・皆さん、全然驚いていませんね」
何処か不満げなフェリシアの言葉に、冬華が小首をかしげる。
「え?十分驚いてるよ。さすがに私たちも、ここまでは予想してなかったからね・・・・逆に聞くけど、フェリちゃんも驚いてないよね?反応から察してフレミーさんの精霊武装の事、知ってた?」
「・・・・知ってましたよ、フレミーの特訓に付き合ってましたから・・・・・あ〜あ、今度こそトーカさんたちがワッと驚いてくれると思ってたのになぁ〜」
折角、フレミーの精霊武装の件を秘密にしていたにも拘らず、期待した反応が冬華たちから得られなかったため、ため息を漏らし拗ねながらフェリシアがテーブルに倒れこんでしまう。
外野が騒がしい中、精霊武装を手にしたフレミーがペトラたちに「お待たせしました」と声を掛けた。
「・・・・・本来なら、お二人のご要望にお答えして、真っ先に聖剣を抜くべきなのですが、この力が実戦で通用するのか試したくなって・・・・お二人を試金石に使うようで、申し訳ありません」
武器を構えたまま謝罪するフレミーに、ペトラがニカッと笑みを見せた。
「何を言っているんだ、フレミー殿。まさか、貴女がこのような手の隠していたとは、こちらとしては嬉しい誤算だ。これからの戦い、楽しみで仕方がない。それに・・・我々も貴女を相手に試してみたい手を幾つも考えてきている。なぁ?フローラ!」
「えぇ、その通りよ!そういうことですからフレミー殿、遠慮なく!」
「はい!」
三人の準備が整った事を改めて確認した昊斗は、一呼吸置いて右手を掲げた。
「・・・では、始め!!」
昊斗の掛け声とともに、戦いの火ぶたが切って落とされた。




