騎士たちの熱戦 その2(後編)
本日二話目
「ペトラ!」
「パンツァー!!」
昊斗の開始の合図を受け、先に動いたのは前回同様ペトラとフローラだった。
ペトラが起動ワードを叫んだ瞬間、彼女の手にするバルディッシュ【竜断斧】のブースターが作動し、ペトラの身体を一個の弾丸へと変えてフレミーに襲い掛かった。
前回の模擬戦を焼き回したような攻撃だが、その速度は比べ物にならず瞬く間に二人の距離が縮まる。
しかし前回と違うのは、フレミーがペトラの出鼻を挫くように前へ出ることなく迫り来るペトラを待ち構えていた。
「はぁああああああああ!!」
ただ待ち構えているフレミーに、ペトラは手心を加えることなく加速のエネルギーを殺さずにその力も上乗せしてティアマトーをフレミーへと振り下ろす。
対するフレミーは右手に握ったソウル・オブ・アクアを強く力を込めると、振り下ろされるティアマトーに合わせるように右手を上げ攻撃を受け止めた。
「っ!!」
「なっ!?」
強烈な衝撃波とともに甲高い音が辺りに響き渡る。
鋼鉄の装甲をも切り裂く一撃を受け止められペトラが驚きで眼を見開くと、フレミーが笑みを浮かべた。
「ダメですよ、ペトラ殿。戦闘中、そう簡単に呆けては!!」
そういうと、フレミーはエア・ハートを握る左手をスッと引き、上半身のバネを使って強烈な突きを繰り出した。
「ペトラ!!」
「くっ!!」
フローラの声に我に返ったペトラは即座にブースターを作動させ、迫り来る突きから逃れるようにフレミーとの距離を取る。
「逃がさない!!」
逃げるペトラを追撃しようとするフレミーに、後方に控えていたフローラが銃口を向けた。
「させないわ!イクシオン、ライトアーム・・・クラスターバレットセット!フォイア!!」
起動ワードとともに鈍い装填音がなるのを確認したフローラが右腕のアサルトショットガンのトリガーを引いた瞬間、装填されていた弾丸が発射されフレミーに向って飛翔する。
銃声を聞き、フレミーは咄嗟にフローラの方へと視線を向けるとペトラへの追撃を取りやめ、剣を構えた。
昊斗との訓練で「飛んでくる銃弾くらい、斬り落とせるようにならないとな」と言われたフレミーは、少し怖い思いをしながらも訓練の甲斐もあって、飛んでくる弾丸を斬れるようになりフローラの放った弾丸を斬り落とすつもりでいた。
しかし、今回に限ってそれは悪手だった。
弾丸が突然フレミーの手前で破裂すると、中から無数の弾が現れフレミーへと降り注いだのだ。
「っ!そんな・・・・!?」
フレミーが驚く中、一部の弾が地面に接触した瞬間に爆発を起こし、それが他の弾の爆発を誘発してフレミーを飲み込んでいく。
フローラの撃った弾は特殊弾頭弾と呼ばれ、高性能爆薬を封入した超小型爆弾が無数に詰められており、発射後に目標付近で破裂し、散らばった超小型爆弾によって広範囲を攻撃できるようになっている。帝国軍において開発中の特殊爆弾が基になっており、それを【バレット・メーカー】というアサルトショットガン【雷穿砲】に付随された弾丸生成能力で、フローラが発射直前に作ったものだった。
「すまない、フローラ。助かった!」
ブースターを吹かしてフローラの傍まで戻ってきたペトラが声を掛けると、フローラはため息を漏らして出迎えた。
「・・・・・もう、前回の借りを返したいってペトラが言うから初手を任せたって言うのに、全く同じ手を使ってどうするのよ!?」
「いやぁ何、あの時と比べて我々の装備は大幅に強化されたから行ける!と思ったんだがなぁ〜」
ペトラの言葉に、フローラは眩暈を覚えて頭を抱えた。
「あんたね・・・・フレミー殿だって同じように装備が強化されてるし、色々と経験を積んでるのよ?同じ手が通用するわけないでしょうが!!」
フローラの最もな意見を聞いて、そのことにまで考えが及んでいなかったのかペトラの表情が固まる。
「・・・・・・・・・・・まぁ、フローラのお陰で仕切り直せるんだから、結果オーライだ!」
だが、自分の失敗を隠すようにペトラが「はっはっはっ!」と笑い飛ばすと、フローラが改めてため息を漏らした。
その時だった。
―戦いの最中、会話に花を咲かせるのはお二人の悪い癖ですね。
突如、二人の後方から声が聞こえペトラたちが慌てて後ろに振り返ると、そこには爆発の中へと消えたはずのフレミーが何食わぬ顔で立っていた。
「なっ?!」
「どうやって私たちの後ろへ回ったの!?」
自分たちと同じ常識を超える防御力を持つ装備を纏ったフレミーに、先ほどの攻撃でダメージを与える事が出来ないことは撃ったフローラは勿論、ペトラも解っていたが、フレミーが自分たちに悟られる事なく後ろへ回っていたことが解らず、声を上げる。
「お二人とも、もう授業内容をお忘れですか?精霊を武装化していても、精霊術は使えるんですよ」
困惑する二人に、フレミーが簡単な説明で種を明かすと、ペトラとフローラは彼女が何をしたのか理解し、「しまった!そうだった!!」と、あることを失念していた事に顔を顰める。
あの爆発の瞬間、フレミーは複数の精霊術を駆使して爆発を回避し、ペトラたちの死角を突いて後方へと回り込んでいたのだ。
「今度は、こちらからです!!」
動きを止めた二人を見て、フレミーが一足で距離を詰めると、フローラに対してソウル・オブ・アクアに霊力を集中させて振りぬく。
「っ!イクシオン、レフトアーム!ショット・シェル!!」
咄嗟に右腕のイクシオンの銃身でフレミーの攻撃を受け止めたフローラは、彼女の重い一撃に顔を歪めながらも、空いていた左腕のイクシオンに通常の散弾を装填し、拳を繰り出すようにイクシオンを突き出し散弾を発射する。
「っ・・・・はぁっ!!」
フローラが得意とする銃精の輪舞による攻撃だが、フレミーは冷静に攻撃のタイミングを見極めると、ダンスのステップを踏むかのようにフローラの後ろへ回り込んで攻撃を避けると、左手に握るエア・ハートに霊力を込めた強烈な突きを、フローラの背中へと放った。
「っ?!あぁっ!!・・・・・・」
尋常でない衝撃を背中に受け、フローラの視界は激しく明滅し、その身体が遥か彼方へと吹き飛ぶ。
「フローラ!?クソッ!!」
目の前で起きた光景に声を上げるペトラだったが、すぐさま意識をフレミーへと向けティアマトーを構えると、間髪いれずにフレミーからの突きが繰り出された。
「しっ!!」
「っ!!」
先ほどフローラが受けた攻撃を想定して、力を込めてティアマトーの柄で攻撃を受け止めたペトラだったが、フレミーの攻撃が予想外に軽かったことに、「は?」と思考に空白が生まれ、一瞬力を抜いてしまう。
その瞬間を見過ごさなかったフレミーは、一気に畳み掛けた。
「はぁあああああああああああ!!」
剣先が霞むほどに繰り出される乱れ突き。師匠である母リリーの繰り出す鋭い突きには遠く及ばない物の、装備による身体強化によって攻撃の速さで補い、ペトラを攻め立てる。
「くぉおおおおおお・・・・・」
目にも留まらぬフレミーの攻撃を、ペトラは常人離れした動体視力と長年培ってきた勘を頼りに柄で防ぎ続けるが、虚を突かれたのと強弱をつけるフレミーの攻撃に徐々に対応しきれなくなり、ついには強く入った攻撃によってティアマトーごと両腕を高く跳ね上がり、無防備に胴体を晒してしまった。
「しまっ・・・・」
「っ・・・はぁーーーー!!」
慌てて腕を下げようとしたペトラだったが、フレミーの方が一歩早く右手のソウル・オブ・アクアに霊力を込め、ペトラの胴体を薙いだ。
「がはぁっ?!」
斬られた衝撃によってペトラの身体が地面を滑るように吹き飛び、遥か彼方の地面に叩きつけられる。
斬り払った形で吹き飛んだペトラを見つめていたフレミーだったが、その表情は何故か悔しさを滲ませていた。
「やはり、今の私の力では・・・・・」
そう呟きながら、フレミーは油断なく構えを取る。
二人を攻撃した際、フレミーはとてつもなく分厚い壁に攻撃を阻まれるような感覚を覚えた。それが、ペトラたちが着ている軍服に施された防御術式の効果であることは、自分も同じ術式を施された鎧を纏っているフレミーにもすぐに理解でき、その防御を付け焼刃である精霊武装では抜く事が出来なかったことに「やはり無理だった」と思う反面、自分たちの努力を否定されたように感じ悔しさを感じたのだ。
そんな中、フローラとペトラが倒れていた地点から、霊力の爆発的な高まりが生じる。
「っ!」
霊力に反応し、フレミーが相手の動きに対処できるよう腰を落とすとその頬に冷や汗が流れた。
二人の霊力ともに、自分に対しての明確な殺気が向けられていたからだ。
「ホント、自分のお気楽さが嫌になるわ。フレミー殿との全力の戦いを望んでおきながら、心のどこかで「これは模擬戦だから」と本気になりきれて居なかった・・・・今回は、下手をすれば命を落としかねないっていうのに」
陽炎のように揺らめく霊力を纏い、フローラがゆっくりと立ち上がりながら呟くと離れた場所に倒れていたペトラも立ち上がり、頷いた。
「全くだな。これは実戦・・・・ここは、命のやり取りをする戦場だと言うのを失念していた」
甘えを一切棄て、思考を軍人のそれへと切り替えた二人がフレミーを見据える。
「というわけで、フレミー殿。これより私たちは、貴女を殺すつもりで攻撃します・・・・」
「貴殿も、その気で戦ってもらうぞ!!」
二人の顔がフレミーはおろかヴィルヘルミナさえ知らない軍人のものへと変貌したかと思うと、フローラが両腕のイクシオンの銃口をフレミーへと向けた。
「イクシオン、ディス・チャージ!!」
フローラの掛け声とともに銃口内に微かな稲光のような光の瞬きが起きる。
「レール・キャノン!!」
「っ?!・・・ぐはぁっ!!」
どのような弾丸が飛んでくるか判断できず身構えるフレミーだったが、フローラが引き金を引き閃光が見えたかと思った瞬間、腹部に強烈な衝撃が走りフレミーの身体は遥か後方へと吹き飛ばされていた。
地面と平行に吹き飛ばされながら、何が起きたのか訳が分からずフレミーは自分の状態を確認しようとする。
そんな彼女の上に、突然影が落ちた。
「起きろ、ティアマトー!・・・・フレミー殿、覚悟!!」
鬼気迫るペトラの掛け声とともにティアマトーの刃に霊力が纏わりつき、その形が死神の鎌のように伸びる。
そしてその死神の鎌が無慈悲に振り下ろされた。
「っ!?くっ・・・・っ?!」
ペトラの声に我に返ったフレミーは咄嗟にエア・ハートとソウル・オブ・アクアの刃を交差させ、迫りくる凶刃を防御する。
ティアマトーの霊刃と二振りの精霊武装が交わった瞬間、フレミーは先ほど受けた時とは比べ物にならないほどの衝撃を両腕に感じ顔を顰める。
「どりゃああああああああああ!!」
対照的にペトラは、フレミーを精霊武装ごと切り裂かんばかりに気迫を込めて叫ぶ。
拮抗するかに見えた鍔迫り合いだったが、すぐに結果が現れた。
ーーピシッ
フレミーの握る精霊武装から鈍いひび割れるような音がなった。
「っ?!い、いけない!!」
焦りからフレミーの集中力が一瞬途切れてしまい、ペトラはその隙を見逃さなかった。
「言ったはずだぞ、フレミー殿!こちらは、殺す気だと!!」
ペトラがティアマトーに霊力を込めると霊力の刃がさらに大きくなり、そのまま力任せに振り抜いた。
「っあっ!?」
ペトラの攻撃に耐え切れず手にしていた精霊武装が砕け、攻撃がフレミーの身体に直撃しまい地面へ向かって落下し地面に叩き付けられる。
その様子を見ていたフローラの横にペトラが着地し、ティアマトーを肩に担いだ。
「どう?」
「駄目だな。結局防御を抜くことはできなかった」
フローラの問いかけに、ペトラは渋い顔で首を横に振った。
フレミーがそうであったように、二人も攻撃した手ごたえを得られてはいなかった。
自分たちの身に着ける防具を見渡しながら、改めて昊斗たちの作った装備の常識外れな性能を二人は思い知った。
そんな中で、地面に叩き付けられたフレミーがふらつきながら立ち上がる。
フレミーにダメージは全く見られないが手にしていた精霊武装はすでに消え去り、彼女の背後には自らの腕をかばうラファルとマリーナの姿があった。
通常精霊は、武装化状態で破壊されてしまうと最悪消滅してしまう。だがラファルとマリーナの場合、プロウェスカリバーからの力の恩恵のおかげで最悪な状況は避けることができたのだが、それでも影響は避けられず大きなダメージを負っていた。
自分たちが相手の攻撃に耐えられなかったことを悔い謝罪を口にするが、フレミーは首を横に振った。
「・・・ううん、ふたりは悪くない。私が軽い気持ちで精霊武装を試したのが悪かったの・・・」
聖剣のフォローがあったとはいえ、属性の違う二体の精霊を武装化できることに対して、ペトラたちや昊斗たちに見せつけたかったという傲りがあったのでないかとフレミーは自分を殴りつけたくなる。
しかし、今は反省している時ではないと気持ちを切りかえるように何度も頭を振り、ペトラたちに注意を払いつつ背後の精霊たちに振り返った。
「ふたりとも、後は私と彼女に任せて、今は傷を治すことに専念して」
『うん・・・』
『頑張ってね』
フレミーの言葉に、ラファルとマリーナは申し訳なさげに俯きながら答えると、光となってフレミーの身体へと消える。
自身の胸に手を置いてフレミーは小さな声で「ありがとう」と精霊たちに感謝の言葉を贈ると、スッとペトラたちを見据えた。
『姫様・・・今ノ精神状態デハ、ワタシヲ振ルウノハ一度ガ限界デスヨ?解ッテイマスネ?』
聖剣の問いかけにフレミーは静かに頷くと、静かに深呼吸を繰り返しながらゆっくりと柄を握った。
「フローラ、来るぞ」
「えぇ」
聖剣に手を伸ばしたフレミーを見て、ペトラとフローラに緊張が走る。
「・・・プロウェス・カリバー、抜剣!!」
掛け声とともに鞘のロックが外れると、圧倒的な霊力が鞘の中から溢れ出だしそれが暴風となって周りに吹き荒れ、その中でフレミーは伝説の聖剣を鞘から引き抜いた。
天にも届く鐘の音のような鞘走りの音が鳴り響き、聖剣が姿を現す。
その光景を目にしたペトラたちは、自分の身体が奥底から震えているの感じ、それが恐怖ゆえの反応だと理解と誤魔化すように笑みを作った。
「あれが、伝説の中に謳われる聖剣か・・・相手にとって不足なしだな」
「・・・・今更だけど、貴女トンでもないことを申し出をしたんじゃない?あんなのと真正面からやるなんて普通に自殺行為よ」
軽口をたたく二人だが、今にも逃げたくなる衝動に駆られる。
しかし、すでに逃げられる状況ではなかった。
「すみません、お二人とも。今の私が聖剣を振るうことができるのは一度きりです・・・覚悟してください」
右手に握る聖剣の柄を両手で握り、フレミーは高々とプロウェス・カリバーを掲げた。
「はぁああああああああああ!!」
気迫とともにプロウェス・カリバーの刀身が光り輝きだし、巻き起こっていた霊力の嵐が刃へと収束し始める。
「っ!ペトラっ!!」
「解っている!!」
フレミーの掲げる聖剣が放つ霊力を増すのを目の当たりにして、ペトラとフローラの行動は早かった。
フローラは左手のイクシオンのグリップにあるボタンを押すと左側だけパズルのように変形をはじめ、ほんの一瞬でアサルトショットガンが巨大な銃身へと姿を変えると、フローラは右手の銃口へと装着する。
彼女の見慣れたアサルトショットガンは長大なキャノン砲へと姿を変えていた。
「イクシオン、ディスチャージ!!」
起動ワードに応えるようにイクシオンから甲高い起動音が鳴り始め、銃口から放電音が鳴り響くとフローラは両手で持ったイクシオンを腰だめに構える。
「うぉおおおおおおおおおおおおお!!」
対するペトラは絶叫にも似た雄叫びをあげてティアマトーへと力の限り霊力を流し込むと、霊力の刃がさらに膨れ上がりまるで巨人が振るうような巨大なものへと変わった。
相対する三人が三人とも、次が最後の一撃と決めて力を高めていく。
ひりつく様な息苦しさが戦場だけでなく、観覧席にいるフェリシアたちにも覆う。
そして、その時が来た。
「切り裂け!プロウェス・カリバーーーーーーーーーー!!」
「うぉりゃああああああああああああ!!」
「フォイアーーーー!!」
それぞれが最大の攻撃を放ち、衝突する。
その瞬間、全ての音が消え去り光があふれた。
そして、全てを巻き込む大破壊の嵐が巻き起こったのだった。
次で完結。




