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本当の家族へ(2)

 クレスト連邦の大使の言葉通り、本国から捜査協力のために捜査官がやってきた。


 広域捜査官のアークイラとその相棒である犬耳族のティタニアである。

 国内で犯人逮捕に至れなかったと悔やんだ二人は自ら志願し、ルーン王国の騎士団と協力して捜査することとなったのだ。


 ルーン王国、王都ディアグラムに到着した彼らは、その足で王城アルバート城へとあがり、国王カレイドと謁見を果たしていた。

 本来ならば、国王との謁見など叶うはずも無いのだが、カレイド自ら言葉を掛けたいということで、彼らは謁見が許された。

 謁見の間にはカレイドとドラグレアが待っており、玉座に座る国王を前にティタニアは緊張で固唾を呑んでいた。


「遠路はるばる、ご苦労だった。君らは、クレスト連邦が誇る優秀な捜査官だと聞いている。我が国の騎士団と協力し、速やかな事件解決を期待する」

 王の威厳を顔に貼り付け、カレイドが二人に声を掛ける。


 ティタニアはカレイドの言葉を聞き、改めて自分たちの任務の重大さをかみ締めた。

「微力ながら粉骨砕身、犯人逮捕に全力を尽くします!」

 事件解決を誓い、ティタニアは万感の思いで敬礼をし、横に居たアークイラも敬礼する。


 「以上だ」というカレイドの言葉と共に、執事服を着た一人の男性がアークイラたちに近づいてくる。

「お二人ともこちらへ、団長方がお待ちです」

 カレイドに仕えている従者に声を掛けられ、アークイラとティタニアは従者の後ろについて、謁見の間を後にした。



「今回のクレストの対応・・・やはり協力する気が無く、形だけでもと二人”しか”寄越さなかったのか、それとも最も信頼出来る優秀な捜査官を二人”も”寄越したのか・・・・ドラグはどう見る?」

 カレイドは、二人の顔付きや纏った雰囲気から、二人が一線で活躍する者たちだと確信していた。


 だが、クレスト連邦からきたの彼ら二人だけ。これがどういうことを意味するのか、カレイドはクレストの真意を図りかね、友人であるドラグレアに意見を求めた。

 そんなカレイドの言葉に、ドラグレアは考えるようにあごに手を当てる。


「そうだな、どちらでも取る事ができるが・・・・気が付いたか?男の方・・・あれ、おそらくハイエルフだぞ」

 ドラグレアの発言を聞き、カレイドの目が大きく見開かれ、驚きを露にする。

「?!っそれは本当か!?」

 先日の聖域での事件で、グラン・バースに物語で語られる存在が人々に紛れて生活している事を、昊斗そらとたちからの報告でカレイドは知っていたが、まさか目の前に、幼い頃に母や祭事巫女のマーナから聞かされた物語に出てくる存在が現れるとは思っていなかった。

 そんな驚きを露にする親友を見ながら、ドラグレアは話しを続ける。


「取引上、エルフを始めとする人間以外の種族の知り合いも多くてな。中にはオレの様に、普段から意図的に力を封印している奴もいる・・・・あの男からも、似たような気配を感じた。まぁ、ハイエルフっていうのは、オレの勘なんだけどな」

「つまり、ドラグは後者だと考えるのか?」

 ドラグレアの話を聞き、伝説の存在を送り込んできたクレスト連邦に、ほんの少し希望があるのか?とカレイドは考えた。

 しかし、アークイラの存在を言い当てたドラグレアは、肩を竦める。


「どうかな・・・・もし本国でも力を隠していたのなら、クレスト連邦は前者の考えで二人を寄越した可能性だって有り得る。だがモノは考えようだぞ、カレイド。人手ばかり寄越されても、統率が取れなければ意味は無い。彼ら二人だけなら、どちらであっても騎士団の妨げにはならないだろうさ」

 もし、クレスト連邦が数十人から数百人規模の捜査員を派遣してくれば、とてもではないが統率が取れたとはドラグレアは思えなかった。

 そういった意味にでも、”少数精鋭”なのはルーン王国側にとっても、やりやすいと言える。


「・・・・そうだな。彼らの働きで、連邦の真意を判断させてもらおう」


 二人が出て行った扉を見つめながら、カレイドは笑みを浮かべた。



**********



 案内された先の部屋でアークイラとティタニアを待っていたのは、アルバート騎士団団長のフォルトと、もう一人深緑の騎士団長服に身を包む三十代前半の女性だった。


「アルバート騎士団団長のフォルト・レーヴェです。こちらは、事件のあった地域を管轄するローランド騎士団団長の・・・」

日下部焔くさかべほむらよ、よろしく」

 ほむらと名乗った彼女は、元の世界で会得していた刀技の力でのし上がった、異世界人初のルーン王国騎士団の団長を務める女傑で、管轄内にある木漏れ日の森の管理者であるポンタとは飲み仲間でもある。

 ニホン(・・・)出身であるが、昊斗そらと冬華とうかとは別の世界の出身で、木漏れ日の森のスタッフをしている異世界人の鞍馬くらまと同じ世界だったりする。


 団長二人の紹介を受け、ティタニアはカレイドの時とは違った意味で緊張していた。ルーン王国へ来る前、アークイラに「今回のルーン王国とのやり取りを、自分に任せて欲しい」と願い出ていた。基本的に、アークイラが

 だが、まさか最初に国王と謁見するとは思ってもいなかった彼女は、先ほどのカレイドとの謁見で勢いを殺がれてしまい、完全に萎縮してしまっていた。


 そんな相棒ティタニアを見かねて、アークイラが一歩前に出た。

「クレスト連邦、中央捜査機関・広域捜査室所属のアークイラ捜査官だ。で、こっちの・・・・初めてのピアノの発表会張りに緊張して耳が垂れているのが、ティタニア・ウイニング捜査官だ。よろしく」


 アークイラの紹介に、ティタニアは息を呑み、顔は一瞬で真っ赤になってしまい、垂れていた犬耳が真っ直ぐに立った。

「なっ?!アークイラっ!いうに事欠いてなんて事ヲ!?」

 緊張していた事を暴露され、恥ずかしさと怒りを綯い交ぜにした表情で相棒に詰め寄るティタニア。

「本当のことだろ?来る前は、アレだけ威勢のいいことを言っていた奴が・・・・シャキっとしろ、シャキっと!俺たちは、犯人を捕まえるために来ているんだぞ!」

「っ?!わ、分かってるワ!」

 アークイラに叱咤され、ティタニアは表情を引き締める。自分より数十倍も長い時を生きている相棒に、ティタニアはどう距離をとっていいものか迷う事もあるが、こうやって緊張を解いてくれるアークイラに、感謝していたりする。


 そんな二人のやり取りを見ながら、フォルトはアークイラにある人物の影を重ねていた。かつて愛した女性の影を。

 フォルトの視線に気が付き、アークイラは怪訝な表情を浮かべる。


「何だ?男に見つめられて喜ぶ趣味は、持ち合わせていないのだが?」

「あ、いえ・・・貴方が、知り合いによく似ているものでつい・・・」

 アークイラに指摘され、フォルトは謝罪しながら何故彼を見てファルファッラのことを思い出したのか、内心疑問に感じていた。たしかに見た目は似ているが、もし彼がファルファッラと同族出身なら、彼女から感じた強烈な気配をアークイラからも感じるはずなのに、一切感じないのだ。

 「他人の空似・・・か」と、人間以外でもあるんだなとフォルトは考えるのをやめる。


「それよりも、こちらで起きた事件の詳細を説明したいのだけど?」

 すると、ほむらが事件の資料を持って、フォルトをジト目で見つめていた。

 先ほどまで事件以外のことを考えていたなどと、悟られないようにフォルトは笑みを浮かべる。

「あ、すまないクサカベ団長・・・お願いします」

 普段から、優男然な態度の目立つフォルトに、同年代のほむらは思うところがあるのだが、アークイラたちの手前、それを飲み込んでルーン王国で起きた事件を説明し始めた。



「・・・・以上よ。そちらの意見は?」

 ほむらの説明を聞き終わり、アークイラとティタニアは厳しい表情を浮かべていた。

 ティタニアがアークイラに視線を送ると、彼は肯定するように頷く。


「間違いなく、クレスト連邦で起きた事件と同一犯ですネ」

 アークイラの支持を受け、ティタニアはルーン王国の犯人が、クレスト連邦と同一犯だと判断した。


「そういえば、クレスト連邦の捜査機関は、帝国の最先端捜査技術を輸入してるって話を聞いたんだけど、犯人のプロファイリングは行ってないの?これだけの手口となると、犯人にある種の思想があるんじゃないかって思うのだけれど」

 グラン・バースに召喚される前、ほむらは海外の科学捜査ドラマをよく見ていた。そして帝国の”技術力”を知っている彼女は、犯人の心理を読み解くプロファイル技術が連邦の捜査機関にあると確信していた。

 しかし、アークイラたちが提出した資料にそれがなかったため、問い質したのだ。


 だが、ほむらの問いに、アークイラは首を横に振った。

「悪いが、この事件においてプロファイルは行われていない」 

「・・・・は?」

 聞き間違いか?と怪訝な顔をするほむらに、アークイラはため息交じりに説明を始める。

「正確には、複数(・・)のプロファイルが存在して、役に立たないと言った方がいい」

 説明を聞き、今度はフォルトが首をかしげた。

「どういうことでしょうか?」

「実は・・・事件が広範囲で起きたせいで、その・・・組織内の縄張り意識が邪魔をし、当初は同一犯の仕業だとされていなかったんでス」

 ”身内の恥を晒す”と言う行為に、情けなさを感じティタニアは俯いてしまう。


「・・・・・・」

 案の定、フォルトとほむらは唖然としていた。かつてのルーン王国でも、騎士団間において似たような事は横行していたが、それも百年近く前の話だ。

 ”平等”を謳い民主化した国の組織内で、そのような前時代的な考えが蔓延している事に、二人の団長は言葉を失う。

 

「オレたち広域捜査室が同一犯による犯行だと立証しなければ、未だに無駄な捜査と論議が繰り広げられていただろうな。最先端の捜査技術があっても、上が”能無し”では何の役にもたたんわけだ」

 追い討ちをかけるように、アークイラが組織の批判を行う。そんな彼に、フォルトが厳しい視線を投げかける。


「自国の・・・しかも所属する組織を、随分卑下するのだな、貴方は」

 騎士団という組織を纏める団長として、思うことがあっても決して人前で口にしないフォルトにとって、アークイラの発言は看過できるものではなかった。

 そんなフォルトに対し、アークイラは持論を展開する。

「オレは、異世界人だ。連邦に居るのも、とある縁があるだけ。捜査官をしてるのも、誰かの助けになりたいと思ったからで、組織や・・・ましてクレスト連邦自体に何の感慨も持ち合わせていないのさ」

 緊迫した空気の中、ティタニアが慌てて、カバンに入れてあった資料を取り出した。


「あ、あの!調査室独自のプロファイルでよければ、あくまで参考程度ですが提示できますけド・・・」

 場の空気を変えるにしては少々強引な手ではあるが、それでも男二人の間の空気が一瞬和らぐ。

「・・・聞くわ」

 その隙を見逃すことなく、ほむらはティタニアにプロファイルの内容を話すよう促す。

 フォルトも、これから共に行動するアークイラと、最初からケンカ腰ではいけない、と気持ちを切り替える。

「お願いできるかな?ウイニング捜査官」

「はい!」

 どうにか場の空気を変えることが出来たティタニアは、団長二人に資料を見せながら、説明を始める。


 そんな中アークイラは頭の片隅で、フォルトとの”距離”を考えないと後々面倒そうだ、と彼との接し方を考えていたのだった。


**********


 クレスト連邦との国境と王都ディアグラムの丁度中間地点。ローランド騎士団の管轄する地域で最も東に位置する町では、団長焔ほむらの命令により、団員たちが定期的に見回りを行っていた。


 そんな中、ペアを組んで見回りをしていた団員二人が、小さな孤児院の前を通った時だった。

「ん?・・・・・聞こえたか?」

「あぁ・・・何の音だ?」


 建物の中から物音が聞こえ、二人は警戒を少し強めて敷地内へと入る。


 入り口までやってきた二人は、扉に手を掛けノブを回すと鍵が掛かっておらず、抵抗無く開く。様子がおかしいと思いつつも、中の様子を調べるため、アイコンタクトを送り、二人は各々武器を手に取ると、建物内へと入った。

 すると、強烈なまでの血の匂いと、不可思議な歌詞の歌が聞こえてくる。

 その声に導かれるように、二人は部屋の中へと入った。

「おい。何かあったのか?そこで一体何を・・・・・・?!」


 部屋の中央で影が動き、住人かと思って声を掛けるが、その直後月明かりが部屋の中に入り、二人の目には惨状が映りこんだ。


 そして、返り血を浴びた”それ”が振り向くと、口がゆっくりと動いた。

 

 −ミ・タ・ナ−


 その瞬間、二人の身体が金縛りにでもあったように硬直し、血の海と化した床に倒れこむ。


「な、なんだ?!」

「身体が・・・うごかっ?!」

 二人の上に影が落ち、”それ”が二人を見下ろしていた。


 二人が最後に見たものは、恐怖を呼び起こすような、狂気の笑みだった。


***********



「また・・・防げなかっタ」

 次の日。知らせを受けたアークイラとティタニアは、ほむらと共に事件現場のある町へと入った。

 小さな孤児院に入っていた、子供五人と管理者の親子二人が犠牲になった。

 クレストの時とは犯行の間隔が短く、心のどこかで「まだ時間が有る、大丈夫」と思っていた自分を、ティタニアは激しく叱責したくなり、俯いてしまう。


「ティタニア。落ち込んでいる暇があるなら、前を見ろ。殺された者にオレたちがしてやれる事は、犯人を捕まえて報告する事だけだぞ」

 運び出される遺体を見つめながら、アークイラが冷静な声でティタニアを叱咤する。だが、その表情は、犯人に対する怒りに満ちていた。

「・・・分かってル!」

 いつもの様に相棒の”激”を受け、ティタニアは顔を上げる。


「二人とも、こちらに来てくれないか!」

 部下から報告を受ける為、席を外していたほむらが大声で、二人を呼ぶ。

「?」


 二人がきたのを確認すると、ほむらは孤児院の裏庭へと出た。

「実はわたしの命令で、孤児院周辺を警戒させていたローランド騎士団の団員が二人、犠牲になったんだが・・・今までとは、殺され方の毛色(・・)が違うんだ」


 ほむらの視線の先にある”モノ”を見て、アークイラは眉を顰める。

「なんだ、あれは?」

 白い外壁の前に、団員二人が跪き両腕を天高くあげ、何かを差し出すように掲げていた。


 それは、自身の心臓だった。

 その姿はまるで、自らの心臓を差し出し神の審判を受ける罪人にも見える。


 彼らの後ろにある外壁には、彼らの血で書かれたと思われる文字が書き殴られているが、グラン・バースの共用語では無い為に、誰にも読めなかった。


 フッと、ティタニアなら読めるのでは?と思ったアークイラが彼女の姿を探すも、見当たらなかった。


「あ・・・ぁあ・・・」

 彼女の声が聞こえ、アークイラがその方向へと振り向くと、ティタニアは裏庭の入り口で棒立ちになり、驚愕したまま声を漏らしていた。

「ティタニア?どうした・・・・?」

 様子がおかしいと、アークイラが近づくと、ティタニアは震える手で自らの顔を覆い、そして・・・・・


「い・・いや・・・・いやぁああああああああああああ!!!」


 力なくその場にへたり込むと絶叫し、そのまま後ろへ倒れる。


「どうした?!」

「ティタニア?!しっかりしろ!おい!!」

 突然のことに、アークイラとほむらがティタニアへと駆け寄ると、彼女は発作を起こしたように身体を引き付けていた。


「誰か、救護兵を呼べ!!」


 ほむらの命で、現場が慌しくなる。


 それはまるで、この先に待ち構える嵐の前触れのようだった。  


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