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本当の家族へ(プロローグ)

この話は、【風の神 強襲編】で昊斗たちが帝国に旅立った直後の話です。

「♪〜・・・・・」

 月夜に照らされ、部屋の中にいる”彼”は懐かしい”故郷”の民謡を口ずさむ。


「んーーっ!!!んー!!」

 縄で縛られているわけでもないのに、何故か身体の自由が利かない家主が、猿轡をされながらも懸命に叫び声を上げる。


 だが、そんな家主の悲痛な叫びを聞きながらも、”彼”は民謡を口ずさみながら、迷うことなく恐怖に顔を引き攣らせる家主の妻に馬乗りになってナイフを突き立てた。


「・・・・ふっ」

 ナイフの刺さる腹部の痛みに震え、涙を流す女性を見つめ、”彼”はニタ〜っと笑みを浮かべ、ナイフを引き抜くと一心不乱に刺し続けた。


「んーーーーー!!!」

 絶命していく妻の姿を見せ付けられ、家主の男性が泣きながら妻の名を叫ぶ。

 すると、”彼”は立ち上がり返り血を拭うことなく、家主の男性を見つめる。


 再び、故郷の民謡を口ずさみながら、”彼”は男性へ近づいていく。

「んっんーーー!!」


 あまりの恐怖に錯乱する男性。

 彼の目に映ったのは、美しいまでの”少女の微笑み”だった。



***********


 

「これで、五件目か・・・」

 噎せ返る様な血の匂いが充満する部屋の中、アークイラは眉一つ動かすことなく床に散らばる孤児院を運営する夫婦だった”物体”を見つめる。


「・・・・・」

 彼の横に立つ犬耳族の女性が、ベッドの上を見つめながら、悔しげに下唇をかみ締めている。

 そこには、孤児院で引き取られていた十人の子供たちが、それぞれのベッドの上で、まるで眠っているかのように息を引き取っている。

 ”他の手口”同様、全く外傷がなく、苦しんだ様子もないことから、特殊な方法等で眠らせた後、薬物等を用いて殺害された可能性があると、鑑識から報告が上がっていた。


 大人と子供で全く違う殺され方をしている異常な現場。

「・・・っ、すみません・・・」

 協力する地元警察の警官たちが、そのあまりの光景に吐きそうな顔をし、また一人外へと駆け出していった。  



「ティタニア、大丈夫か?」

 アークイラは、相棒である犬耳族の女性、ティタニアに声を掛ける。

「・・大丈夫」

 顔を強張らせながらも、ティタニアは辛うじて頷き返す。そんな彼女に「無理はするなよ」とアークイラは肩を叩き、孤児院の中を入念に見渡しながら、今現在わかっている情報を整理し始めた。

 

「この現場も先の四件と同様、犯行現場は孤児院の中。犯人の侵入した形跡はなく、運営に携わっている大人を甚振り容赦なく惨殺しておきながら、孤児である子供たちは逆に苦しませず、まるで眠らせるように殺している。犯人は、西から東に向いながら、その通り道にある孤児院を標的にしている。しかも、世間では悪い噂一つ聞かない優良な院ばかり・・・この相反する殺害方法と犯行現場の選定は、やはりお前の言った・・・」

 アークイラの問いに、ティタニアは首を横に振った。


「模倣犯の可能性も捨て切れないワ。私の居た世界では、書籍や映画の題材にもなったかなり有名な事件だし、それに犯人はもう・・・・」

 そこまで言って、ティタニアは悔しげに顔を顰める。

 故郷の世界で起きた事件には、彼女にとって”ある因縁”がある。その事件を切っ掛けにティタニアは警察官を目指し、犯人逮捕に執念を燃やすほどの、強烈な”因縁”が。

 だが事件は、被疑者”行方不明”で終結した。それは、彼女にとっては望んだ結末ではなかったが、犯人の手によってもう犠牲者が出ないのだからと、強引に気持ちを納得させていた。


 しかしティタニアは、召喚されたグラン・バースの世界で全く同じ手口の犯行に遭遇する。もう二度と、あんな思いを誰にもさせないと誓ったにも拘らず、元の世界以上に、犯人の影もつかむ事が出来ず、五件もの犯行が繰り返されていたのだ。


 ティタニアの相棒であるアークイラは、彼女から元の世界で起きた事件に関する話を全て聞いていたわけではないが、ハイエルフとして伊達に七百年近く生きているだけあって、相棒の様子から深い事情がある事は察していた。

 だが彼はあえて聞く事はなく、ティタニア自身がその事情を告げるまでは気づかないフリをしておこうと思っていたのだった。


 孤児院の中から出たアークイラは気持ちを切り替えるように、短く息を吐いた。


「・・・・とにかく、一連の犯行が本人であれ模倣犯であったとしても、とにかく犯人は”国内”で捕まえる。それが俺たちの仕事だ」

 アークイラの言葉に、ティタニアは重々しく頷く。

「分かってル・・・」


 五件目の現場となった孤児院からこのまま東に向えば、隣国ルーン王国との国境がある。その間には、大きな都市や街は無く、小さな農村が点在する程度。

 犯人が紛れ込める場所は少なく、心理上、急いで国境を越える可能性があるのだ。もし、犯人が国を越え、ルーン王国で犯行が行われれば、クレスト国内で犯人を逮捕できなかったクレスト連邦の捜査機構に対する信用は地に落ちてしまう。捜査機構は面子を保つために、過去に例の無い規模の人員を投入しているのだが、経験の無い大量の人員投入のために命令系統は混線し、現場は混乱してしまい後手に回っていた。


 そんな中、広域捜査官であるアークイラとティタニアは、命令系統から完全に切り離されており、しかも独自の権限を持たされているため、その混乱に巻き込まれる事無く、捜査を続けている。しかも、異世界人である二人には組織や国の面子など関係なく、この残虐な犯行を繰り返す犯人の犠牲者を一人でも減らさなければ、という使命感の方が大きかった。


「ここは所轄にまかせて、オレたちは犯人の足取りを追うぞ」

「えェ」

 そういうと、二人は現場を後にし、闇に消えた犯人を追いかける。


 だが彼らの捜査も空しく、その後も犯行は起きてしまい、そして最も恐れていた事態が起きたのは五件目の事件から、一月後のことだった。


 そう、同一手口による犯行が、ルーン王国側で起きてしまう。


 そして、この一連の事件が、ある家族にとって大きな転換点を迎える事となるのだが、その事を知る者はまだ誰一人としていなかった。


番外編初の続き物です。

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