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お宅訪問 ~大公家編~

この話は、本編【騒乱 ルーン王国編】直後の話です。


読まれる場合は、まずそちらを読んでからお勧めします。

「はぁっ!!」

 訓練用に刃を潰してある使い慣れた二振りの剣を手に、フレミーは身体が鈍らないようにと一心に剣を振るう。


 ルーン王国史上最大のクーデターとなった反乱事件から一週間以上が経ち、フレミーは王都ディアグラムを離れ、実家に戻っていた。


 理由は、彼女の主であり実の姉である王女フェリシアに「心身ともにフレミーは疲れてるんだから、一週間ぐらい実家に戻ってゆっくりしてきなさい!」と、”命令”されたからだ。

 事件の際、フレミーは”勇者”ユーリ・ペンドラゴンの一派に誘拐され、洗脳による記憶の改ざんを受けていた。昊斗そらと玉露ぎょくろの活躍により、フレミーは無事助け出されたが、大事を取って休養を取るようフェリシアに進められた。

 しかし、当のフレミーはそれを断り、すぐにでも騎士として復帰することを申し出た。ここから姉妹の攻防が始まるのだが、早い段階でフェリシアが伝家の宝刀(おうじょのめいれい)を抜いた為に勝敗は決し、フレミーは渋々実家へと戻っていたのだ。


 とは言え、実家に帰ってきてもやる事のないフレミーは、日がな一日剣を振るっているので、休暇になっているかは疑問が残る。


 ちなみに、事件の折、フレミーを選んだルーン王国の宝剣である、聖剣プロウェス・カリバーは、使いこなせていないフレミーに持たせたままにすると大変なことになる、と昊斗そらとと対の聖剣を持つ国王カレイドの判断でアルバート城に保管してある。


「フレミリア、ちょっといいかしら?」

 稽古を終え、一息ついていたフレミーの所に母であるリリーがやってきた。今回の事件で、大公家も大きな被害を被っており、その事後処理などで大公代理であるリリーは領内を慌しく回っていた。その忙しさは尋常ではなく、娘のフレミーも少し心配するほどだった。

 だが当のリリーはと言うと、疲れた色など微塵も見せず、訓練場の入り口に佇む姿にも風格が漂っている。


「はい、母様。どうかされましたか?」

 そんな忙しくしているはずのリリーが何の用だろう?と、フレミーはタオルで汗を拭い、母の元へと近づいていく。


「今日の午後、お客様がいらっしゃいます。あなたも身なりを整えてお出迎えなさい」

 リリーの言葉の聞き、フレミーは首をかしげた。

「お客様ですか・・・?」


 事件後、混乱する大公家の状況を察して、手紙などで見舞いの気持ちを伝える家が多く居る中で、訪問の旨を伝えるものがいくつか有った。だが、その殆どが懇意にしているとは言いがたい家ばかりで、何か思惑があるのだろうと、家長であるリリーが丁重に断りを入れていたのを、フレミーも知っている。

 まさか母の口から「客が来る」という言葉が出た事に、フレミーは疑問に思ったのだ。


 そんな娘の疑問を察してか、リリーは頷きながら説明を始める。

「えぇ、そうよ。今日お越しになるお客様は、我が大公家が大変お世話になった方々・・・今回は日ごろのお礼を兼ね、こちらから招待した大切なお客様方です。粗相の無いよう、貴女も正装してお出迎えなさい」

 この忙しい状況で、母に招かれる客とはどれ程の人物なのだろう、と頭の片隅で考えながら、フレミーは母の言葉に頷いたが、あることを思い出した。


「はぁ、分かりました・・・あ、でも母様。私、騎士団の正装を持って帰ってきてないです・・・」

 今回の帰省は、あくまで休養だという事で、騎士団の正装などは騎士団の寮に置いて来ていた。今から頼んで届けてもらっても到底間に合わないの確実で、フレミーは「マズイ」と言った表情を浮かべる。

 

 しかしリリーは、全く別の理由で娘に呆れた表情を浮かべ、盛大にため息を付いた。

「フレミリア・・・貴女は何を頓珍漢なことを言っているのです?騎士である前に、貴女は大公家の一人娘でしょ?なら、ドレスが貴女の正装でしょうが!」

 リリーの怒号の様な怒鳴り声に、部屋の窓がビリビリと振動する。

 そんな母の言葉に、フレミーが素っ頓狂な声を上げた。

「えぇぇ?!で、ですが母様!ドレスなどここ数年ほど新調していませんよ!?さすがにサイズが・・・・」

 騎士として、一度は女であることを捨てる覚悟さえしていたフレミーは、王都に居る時ドレスを仕立てた事はなく、殆ど騎士団の正装で済ませていた。

 今居る実家になら昔着ていたドレスがあるが、その殆どが数年前に仕立てたもので、デザインも去ることながら、今の彼女にはサイズが合わないのだ。

 しかし、そんなことはお見通しとばかりに、リリーは口元に笑みを浮かべた。

「心配には及びません。新しいドレスなら、すでに仕立てさせています。もちろん、貴女の今のサイズでね。フレミリア・・・・貴女はこれを期に、少しは淑女としての自覚を持ちなさい」


 そう言って、リリーが指を鳴らすと大公家に仕える侍女たちが音もなく現れ、困惑するフレミーをガッチリ拘束すると、衣裳部屋へと連行していってしまった。


********


 約束の時間となり、やってくる客を出迎える為、母や大公家に仕えている使用人たちと共に綺麗に着飾ったフレミーが玄関先に立っている。

 問答無用で王都で流行しているデザインの薄い若草色のドレスに着替えさせられ、バッチリ化粧を施されたフレミーは、恥ずかしげに俯いていた。

 そうこうしていると、二台の馬車が現れると玄関先に乗り付けられ、招待された客たちが馬車から降りてくる。現れた客の姿を見て、フレミーは驚きのあまり恥ずかしさが何処かへ吹き飛んでしまう。


「今日はお招き頂きありがとうございます、リリーさん」

「遠路はるばる、ようこそおいでくださいました、ソラト殿。そして皆さん」

 現れたのは昊斗そらとたち傭兵四人。そして、王女して忙しく国内を飛び回っているはずのフェリシアだった。


「・・・・・・・・」

 少し考えれば、母が招待した客の素性に気が付きそうだが、忙しい彼らが来る筈が無い、とその可能性を真っ先に頭から除外していたフレミーは、驚きのあまり絶句する。

 そんな妹の姿を見てフェリシアが「ふふっ」と微笑み、リリーの前へと進み出て優雅に一礼した。


「こんにちは、リリー伯母様、フレミー。申し訳ありません、私までお邪魔させていただいて」

 実の所、彼女が大公家に来る予定は無かった。現在、フレミーの代わりにフェリシアの護衛についているのは昊斗そらとたちなのだが、彼らがリリーに招待されていると知ったフェリシアが、自分の予定を強引に調整して昊斗そらとたちにあわせ、付いて来ていたのだ。――ちなみに、この場に居ないルールーとカグは、王都のチェンバレン孤児院にいるエメラーダの所に遊びに行っている。 


 フェリシアが来る事を予想していたのか、リリーは驚くことなく頷いて見せた。

「構わないわ、フェリシア。貴女も王女として忙しかったでしょう?今日はゆっくりしていきなさい」

「はい、伯母様!」

 滞在の許しが出たことに喜ぶフェリシアを尻目に、リリーは左手首につけた婦人用の細めの時計に目をやる。

「食事・・・と言うには時間が中途半端ね。お茶の準備をさせるから、良かったら準備が出来るまで、皆さんは我が大公家自慢の庭園を見て周っていてください。我が家の庭は昼と夜で全く表情が変わるから、まずは昼から楽しんで頂戴・・・・何を呆然としているのです、フレミリア?皆さんをご案内して差し上げなさい!」

 大公家の従者たちに指示を出しながら、いつまでも呆然とする娘に、リリーが喝を入れる。


「はぇ?!あ・・・は、はい!母様!」

 母の喝に、慌てて再起動したフレミーはフェリシアたちを庭園へと案内する為、「こちらへどうぞ!」と歩き出した。


「フレミーがそういう流行のドレスを着てるなんて、珍しいよね」

「普段の騎士服もお似合いですが、やはりフレミー様はドレスもお似合いですね」

「確かに、よく似合ってる。フレミーさんは、そういう落ち着いた色が映えるね」

「ドレスに興味があったのなら言ってくださればよかったのに。丁度、マリアさんと競作の一着が・・・・」

「い、いえ!こ、これはですね・・・・・」

 姉や冬華とうかたちの”口撃”に、フレミーがアワアワとうろたえながら庭園へと向う中、昊斗そらとは視線を感じ、その方向を向くとリリーが不敵な笑みを浮かべて昊斗そらとを見つめていた。


「ソラト殿。申し訳ないけど、少し時間良いかしら?」

 長年の経験から、厄介ごとが待っていそうな雰囲気だったが、冬華とうかやフェリシアたちと庭園を見て周るのも気が乗らなかったので、昊斗そらとはリリーの誘いに乗る事にした。

「・・・・えぇ、構いませんよ」


***********


 昊斗そらとが案内されたのは、リリーが自慢だと言った庭園が見渡せる二階のバルコニーだった。

 庭園内では、フレミーが冬華とうかたちに庭園の説明をしている。


 そんな彼女たちを眺めながら、バルコニーに置かれたテーブルを挟んで、昊斗そらととリリーが座っていた。

「改めて、先日は娘が大変世話になりました。母として、お礼を言わせてください・・・ありがとうございます」

 事件の事後処理等で、フレミーを助けた事に対して正式に礼を言えていなかったリリーが、昊斗そらとに深々と頭を下げる。

「リリーさん、頭を上げてください。俺は、礼を言ってもらうために彼女を助けたわけでは有りません。かけがえの無い友のため・・・是が非でも助けにいくのは、当然のことです」

 謙虚な受け答えをする昊斗そらとに、リリーは不満があるのか目を細めた。

「友、ね・・・」


 そういうと、リリーは居住まいを正し、昊斗そらとを真っ直ぐ見据えた。

「質問させて頂けるかしら?・・・貴方、フレミリアをどう思うかしら?」

「フレミーを、ですか?」

 妙な間を開けた質問の意図に、昊斗そらとは一瞬思案して、リリーに視線を戻した。

「・・・・師の腕が良かったこともあるのでしょうが、あの年齢であれだけの剣技も身に付けているのは、賞賛に値します。まだまだ精神的に未熟な所もありますが、それも経験を積めば補う事が出来るでしょうし、騎士として将来が楽しみですね」

 ”剣士”として、素直に思った答えを返す昊斗そらと。だが、リリーの望んでいた答えではなかったため、あからさまにしかめっ面になっていた。


「・・・・・・そう来るか。すっとぼけてるのか、それとも素か・・・・」

 口元に手を当てリリーが小声で独り言を喋るが、昊斗そらとの耳には筒抜けで、「やっぱ、あっちの方か・・・」とリリーの質問の意図を把握し、一瞬渋い顔つきになる。

 考えても埒が開かない、とリリーは剣呑な顔つきで口を開いた。


「単刀直入に聞くわ。男としての貴方には、あの子がどう映ってるの?」

 リリーが求めていた答えとは、女性としてのフレミーをどう思っているのか?・・・それを昊斗そらとの口から聞きたかったのだ。

 まるで、彼女の家に来て両親と会って話しをする時の様な心境――あくまで他人から聞いた話であって、昊斗そらと自身は経験無し――になりながら、昊斗そらとは短く息を吐いた。

「そうですね・・・・努力を怠らない子ですし、何かにひたむきに打ち込んでいる姿は、好感が持てます。まぁ、少々おっちょこちょいな所がありますが、それを含めて可愛らしい女性だと思いますよ」

 するすると出てくる昊斗そらとの答えに納得できないのか、リリーが疑いの眼差しを向ける。


「・・・・無難な答えね」

「俺としては、誠意を持って答えたつもりですよ?」

 嘘を言ったつもりは無い、と笑みを浮かべ目を逸らさず昊斗そらとはリリーを見つめ、そのまま二人の駆け引きが始まる・・・かに見えたが、先にリリーが折れてしまい、諦めたようにため息を漏らし、肩の力を抜いた。


「・・・貴方の意見は分かったわ。あとは、あの子の問題だし・・・・あの子自身が如何にかすべきよね」

 そう言いながら、リリーは立ち上がりバルコニーの欄干まで歩くと、手を置いて眼下にいる娘を見つめる。

「フレミリア・・・貴女、大変な人を好きになったわね」

 と、これから苦難が待ち受けているであろう娘に、「頑張んなさい」と母としてリリーはエールを送った。


「さて!話しはここで終了。ごめんなさいね、変な質問しちゃって!!」

 質問攻めにしたことを謝罪しながら、リリーが振り返った瞬間、右手が煌いた。すると、昊斗そらとの喉元にレイピアの切っ先が迫っていた。

 

「!・・・・これは、どういうつもりですか?」

 咄嗟に、椅子ごと後ろに倒れこみ、リリーの攻撃を避けた昊斗そらとは、そのバック宙を数回行って彼女との距離を取る。すると、視線の先にいたリリーの手には愛剣のレイピアが握られ、特別製の胸当てと脚甲に手甲が装備されていた。彼女の首には、異世界から齎された魔法具のペンダントが掛けられており、ペンダントにはリリーが愛用している装備一式が収納されている。

 彼女が念じれば、魔法具が反応し一瞬の内に装備される仕組みとなっているのだった。


 完全装備のリリーの姿を見て昊斗そらとは、「やっぱり、先ほどの受け答えに思うところがあったのか?」とリリーから攻撃される理由を探すが、彼女の答えは全く違っていた。


「実はこっちが本題。レイ君たちから貴方の事を聞いていたの・・・前に、フレミリアが貴方と戦って負けたってね。師匠として弟子の仇を取らないといけないじゃない?」

 攻撃理由と、不意打ちで昊斗そらとを攻撃したのは、その程度を避けられない相手に、弟子である娘が負けるはずが無い、とリリーが説明した。

 弟子のために師が出張ってくるというのは、昊斗そらともこれまで何度も経験しているが、リリーの表情を見て「あ。別の思惑があるな、これ」とすぐに気が付いた。

「・・・・で、本音は?」

 呆れて疲れたような顔で質問した昊斗そらとには、次の瞬間、彼女の周りに満開の花が咲くのが見えた。


「だって、ソラト君が物凄い剣技の使い手って聞いたから、戦ってみたかったの!」

 

 まるで、少女の様な答え方をするリリーの顔は、これまた乙女の様な満面の笑顔が花開いていた。

「・・・・・・」

 そんなリリーを見ながら、「弟子の仇討ちは口実かよ」と、昊斗そらとは何となくリリーの人となりが見えた気がした。

 しかし、そんな笑顔が突然、親の顔へと変わる。


「まぁ、それと・・・・娘が好意を寄せている殿方が、私より弱いのは論外でしょ!!」

 言葉と共に昊斗そらととの距離を一足で詰め、腰を落として構えたリリーが下から上へと突きを繰り出す。

 心臓へと迫る神速の突きと言って良いリリーの攻撃を、昊斗そらとはリリーの左側へと身体を滑らせ避けるが、直後にリリーはレイピアを持つ右手首を返し、昊斗そらとを追撃せんとレイピアを横なぎに払った。

 リリーの反応の速さや、攻撃の鋭さから昊斗そらとは彼女が間違いなく達人レベルの存在だと確信し、創神器ディバイスから高周波ブレードを取り出して、迫ってくるリリーのレイピアを弾く。

 攻撃を弾かれながらも、その勢いを殺すことなくリリーはダンスを踊るようにステップを踏んで体勢を立て直すと、連続して突きを繰り出していく。

 高周波ブレードで攻撃を往なしながら、昊斗そらとはバルコニーでは手狭だと感じ、下に広がる庭園の広場へ跳ぶ。

 その姿を見ながら、リリーもヒールのある脚甲を打ち鳴らしながら駆け出すと、躊躇いなくバルコニーから飛び降りた。

 着地した瞬間、リリーは昊斗そらととの距離を詰め、再び猛烈な突きや薙ぎを繰り出す。

 だが、それでも昊斗そらとに届くことはなく、彼女の顔が悔しげに歪む。


「まさか、ここまで私の攻撃が当たらないなんて・・・・」

 長年掛けて鍛えた己が技量と、精霊と契約できないハンデを補うための、特別製の装備に施された身体強化などの効果によって必中となるはずの攻撃を、全て避けられ往なしてしまう昊斗そらとに、剣士の性かリリーから殺気が漏れ出し始めていた。


「そりゃ、こっちは避けることだけに集中してますから。リリーさん、本気で殺しに来てるでしょ?」

 一撃一撃ごとに攻撃の鋭さが増し、そのどれもが急所もしくは致命傷になりかねない攻撃ばかりだった。はっきり言って、相手が昊斗そらとでなかったら、すでに”決着”が付いていたのは間違いない。

 

「だって、ここまで避けられると、腹が立つのだもの!!」

 駄々っ子の様なことを言いながら、手合せの度を越えた攻撃を繰り出すリリーに、昊斗そらとはこれ以上長引かせると、周りに迷惑が掛かると考え、決着を付けることにした。


「仕方ない・・・では、こちらも攻勢に出るか」

 そういうと、昊斗そらとは高周波ブレードを構え、一歩踏み出すと同時にブレードを一閃した。

「っ!」

 その踏み込みと剣筋に、熱くなっていたリリーの頭が一気に冷却される。

 もう何年も前に見ることが出来なくなっていたその剣筋に、反応しようにも身体が付いてこず次の瞬間、昊斗そらとの高周波ブレードの刃先が、リリーの首元に突きつけられていた。


「ぁ!?・・・・・・参ったわ」

 足掻こうとも考えるリリーだったが、目的が手合せだった事を思い出すと共に、自分では昊斗そらとには勝てないと悟り、彼女は素直に負けを認め両手を挙げた。

 リリーの言葉を聞き、殺気や闘気が彼女から消えたことを確認して、首元に突きつけていた高周波ブレードを退け、昊斗そらとは鞘へと収める。


「驚いた・・・貴方、いつの間にアルバート剣術を?」

 纏っていた装備をペンダントへ収めたリリーが、質問をぶつける。昊斗そらとが最後に放った攻撃は、紛れもなくリリーやフレミーが習得してるアルバート剣術の剣筋だった。

 しかも、一朝一夕で身に付けたとは思えない動きに、リリーは疑問に思ったのだ。


「フレミーの稽古に幾度となく付き合ってましたからね。それに、貴女の様な達人の剣技を間近で観察できれば、真似るのは容易いですよ」

 簡単に言ってのける昊斗そらとに、リリーの目が大きく見開かれる。

 昊斗そらとの動きは真似たなんてレベルの動きではなかった。リリーがそう思った理由は、只一つ・・・・彼の動きが、リリーの師であり姑である、女性で唯一”剣聖”を名乗ることが許されていた先王の王妃”フレミリア”と全く同じ挙動だったからだ。

 王妃ししょうの居た高みにまで至っていない自分リリーの動きを観察しても、あの動きを再現できるはずもなく、昊斗そらと自身が観察し最適化した結果があの動きだったと思い至り、リリーは改めて友人であるドラグレアの言葉が理解できた。


「・・・本当に、規格外なのね」

 悔しさよりも、二度と見る事は叶わないと思っていた師匠の剣筋をもう一度見る事が出来た事に、リリーは嬉さで胸が一杯になり、感謝と一方的に攻撃したことへの謝罪から昊斗そらとに握手を求めた。

「ごめんなさいね、私の我侭に付き合ってもらって」

 晴れやかな笑みを浮かべるリリーの手を握り、昊斗そらとは首を横に振る。


「いいえ、お気になさらず。俺としても、フレミーの目指すべき到達地点を確認する事が出来ましたから」

 昊斗そらとは、フレミーがこの休暇から帰ってきたら聖剣との付き合い方を教える事になっており、同時に剣の稽古も本格的に行うことになっていた。

 その前に、達人級のアルバート剣術の使い手と手合せできた事は、昊斗そらととって重畳だったのだ。


「心強いわね・・・あ〜あ、この歳になって娘が羨ましいなんて思うことになるなんて、思ってもいなかったわ」

 立場のある彼女にとって、昔に比べて剣を握る時間は確実に減っている。自ら望んだ事とは言え、リリーは自分はやはり剣士なのだと実感する。

 何せ、時間を忘れて剣を振れる娘が羨ましくて仕方ないのだ。しかも、剣士としてどんなに望んでも得る事ができない経験を、昊斗そらとの下でこれから多く積めるのかと思うと、嫉妬の感情さえ覚えてしまいそうだった。

 そんな複雑な感情が入り混じるリリーが「とりあえず、娘をお願いね?」と茶目っ気たっぷりにウインクつきで昊斗そらとに頼んできた。

 「お願いね?」と言う言葉に、どんな意味が含まれているのか気になった昊斗そらとだが、あえて触れることなく頷いた。


「善処します・・・それより、さっきからこちらを凝視している彼女たちへの説明・・・お願いしますよ?リリーさん」

 昊斗そらとの言葉の意味が解らず、首を傾げるリリーだったが、突き刺さるような視線を感じてそちらへ振り向くと、庭園見学していた冬華とうかたちが二人を見つめていた。

 冬華とうか玉露ぎょくろ、そして金糸雀カナリアは、創神器ディバイスを通じて状況を知っていたが、双子の姉妹はそうは行かなかった。

 姉のフェリシアは、突然戦闘を始めた二人に「何があったの?!」と驚きをあらわにしており、妹のフレミーに至っては「まさか母様まで、ソラトさんのこと気に入ったとか言いだすんじゃ?!」と見当違いなことを言って、母親に嫉妬の炎を燃やしていた。


 「これは、面倒な事になったわね・・・・」と、我侭の代償が高くつきそうな雰囲気に、リリーは困惑した表情を浮かべ、どう娘を宥めたものかと思案し始める。


 この後、夜にはささやかながらパーティーがもようされ、大公家は久方ぶりに賑やかな空気に包まれたのだった。


ちなみに夜のパーティでは、昊斗は冬華たちを相手にダンスを踊っていたりしますが、それはまた別のお話。

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