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神々のケンカ

この話は、聖域の中の母娘編・(8)でルールーに連れて行かれたカグに何があったのかの話です。

「うわぁ!」

 湖へと放り込まれたカグは、全身がずぶ濡れになりながらも、放り込んだ犯人を睨んでいた。


 その先には、封印が解け幼女から美しい女性の姿となり、しかも際どい水着を着たルールーが視たものを凍らせそうなほどの冷たい笑みを浮かべて立っていた。


「さぁ、カグツチ・・・・何をして遊ぶかの?」

 妖艶な笑みで、カグを見つめるルールー。その姿は、カグの記憶の中にある、水の神ルドラそのものだった。

「ルドラ!今日、僕が悪かったのは認めるよ!けど、今はソラトさんたちを如何にかしないと!」

 自分よりも死地に近い、昊斗そらとのことを心配するカグ。

 だがカグの心配を余所に、ルールーは笑みを深めて首を横に振った。

「大丈夫じゃ・・・・ソラトのことは、トウカたちに任せておけば・・・妾たちは、今を楽しもうではないか」

「ルドラっ!」

 全く話の通じないルールーに、カグが声を荒げると、ルールーの顔から笑みが消えた。


「・・・・・・・・・楽しみだったのに」

 ポツリと、ルールーは消え入るような声で呟いた。

「妾は今日、主と遊ぶのが楽しみじゃった・・・・・・にも関わらず、主は妾を置いて・・・・・女と遊んでおったのじゃな?」

「えっ?!」

 確かに昼間、【聖域】と呼ばれる場所で、ハイエルフの母娘と出会い、話しはしたが、彼女たちの匂いが付くような物理的接触は無かった。

 にも拘らず、母娘と出会ったことをまだ話していなかったのに、モノの見事に言い当てたルールーに、カグは驚愕し声を上げた。


「まさか、気づかぬとでも思ったか?主からは、女の匂いがプンプンに臭っておった・・・水の落として、漸く薄くなった・・・・・・が」

 そういうと、ルールーの青い髪が霊力の放出を受けて、ゆらっと蠢き始める。

「・・・やはり遊ぶ前に、主には仕置きが必要な様じゃ」

 そしてルールーの背後に、こぶし大の水の球が数百と言う数も展開される。

「っ!馬鹿な真似はやめるんだ、ルドラ!!」

 彼女が何をしようとしてるか察したカグが声を上げる。

「うるさい!!」

 だが、怒りで我を忘れているルールーは、躊躇無く水の球をカグに向けて撃ち出した。

 弾丸と化した水が、雨のようにカグへと殺到する。


 封印を解く暇も無く、飛んでくる水の弾丸を紙一重で避け続けるカグ。

 いざと言う時の為に、封印が解くことが出来ない状況でも戦えるように、子供の姿のままで訓錬をやっていたのが功を奏していた。

 だが、それでも全てを避ける事はできず、身体のあちこちに傷が増え始め、カグは痛みで顔を顰める。


 そんなカグの姿が見ていないのか、ルールーは自身に溜まっていた怒りを吐き出していた。

「大体、主はいつもそうじゃ!誰にでも良い顔をしおって!そのくせ、妾にはいっつも小言ばかり!どうせ、妾のことが嫌いじゃから、そんな意地悪をするんじゃろ!!」

「違う!大体、いつも怒られるような事をしている、ルドラが悪いんじゃないか!!」

 売り言葉に買い言葉。

 ルールーからの攻撃で、冷静さを欠いていたカグの言葉に、ルールーの怒りが頂点に達する。


「うるさいうるさい!!悪いのは、全部カグツチなのじゃ!!妾に優しくしないカグツチなぞ、大嫌いじゃ!!」

「!?」

 まるで子供ような理屈を振りかざし、ルールーはカグの立ってる湖の直径と同じ大きさの水の塊を作り出し、カグに向って投げつける。


 巨大な水の塊が迫る中カグは、子供じみたルールーの言葉にショックを受け、頭が真っ白になり、そして彼の中で何かが切れた。


 水の塊が、カグに直撃する瞬間、彼から膨大な炎が噴出し水の塊を受け止めた瞬間、水が一気に蒸発し辺りが水蒸気に覆われる。

「くっ・・・・・・!?」

 水蒸気の熱さに、身を逸らすルールー。

 カグが立っていた方向から熱風が巻き起こり、水蒸気を吹き飛ばす。

「・・・・・・・・・」

 カグの立っていた湖の水が完全に干上がり、底には封印を解け、青年の姿となったカグが、炎を羽衣のように纏って立っていた。


「カ、カグツチ?」

 俯いたままのカグが纏うその炎が、炎却の衣だと判ると、ルールーの顔に焦りの色が浮かぶ。

 さすがにやりすぎたかと、ルールーがもう一度声を掛けようとした時だ。


「・・けるなよ」

「え?」

 普段の彼からは想像も出来ない、低く冷たい声に、ルールーは何か言い知れぬモノを感じた。


「ふざけるなよ・・・・・・ルドラ!!」

 顔を上げ、ルールーに向って突進するカグ。

 その目つきは、やはりいつものカグとは違う、攻撃的で殺気を孕むものだった。


 見たこともないカグの姿に、咄嗟に先ほどの水の球を作り出し、カグへと攻撃するルールー。だがカグも同じ大きさの火の玉を作り出して、彼女の攻撃を相殺する。

 爆発する二つの力を掻い潜り、カグがルールーの懐に飛び込む。


「っ!!・・・・・・・?!は、離せ!!」

 接近戦が苦手なルールーと、ここ最近昊斗そらとと組み手をやっているカグ。

 結果は火を見るより明らかで、ルールーは成す統べなくカグに押し倒され、カグはマウントポジションを取ってすぐにルールーの両手を左手で拘束した。


 自分を拘束するカグの手を振り払おうとするルールーだが、どんなに暴れてもビクともせず、ルールーは初めてカグに対しある種の”怖さ”を感じた。


「・・・・・・・」

 暴れるルールーを拘束し見下ろしていたカグの頭が、スッと下がる。

「離せと言ってっ!?・・・んっんん!!」

 突然、ルールーの口がカグの口のよって塞がれる。

 あまりの出来事に、ルールーは目を大きく見開き、暴れる力を強める。

 だが、カグはその口を離すことはなく、さらに彼女の中へと荒々しく入り込む。


 最初は力の限り暴れていたルールーだったが、今は殆ど抵抗することなく、その行為に集中していた。

「ぷはっ・・・」

 口を離したカグが再びルールーを見下ろす。

 顔を上気させ、荒い呼吸をしながらルールーは、恍惚の表情を浮かべてカグを見つめていた、

 

「いいか、ルドラ・・・・一度しか言わないぞ?ルドラがどう思っていようと、()はお前のことが好きだ。何があろうと、その想いは変わらない・・・・・だからお前は、俺を信じて、俺だけを見ていろ・・いいな?」

 初めて、カグの口から「好き」という言葉を聞き、ルールーは―自分何を焦っていたのだろう?と思い、本当の意味でカグを信じていなかったことに、彼女は恥ずかしくなった。

「・・・はい・・・・・んっ・・・・」

 うわ言のように呟き、頷くルールーが目を閉じ、二人の口が重なる。

 先ほどとは違い、今度はとても優しい口付けだったが、そう長くは続かなかった。

   

「?!・・・・?カグツチ?」

 突如、カグの身体が弛緩し、ルールーに覆いかぶさるように倒れ、封印が作動したのか子供の姿へと戻ってしまった。 

「ね、寝てる・・・・?っ・・・・・・・」

 寝息を立てるカグを見つめていると、ルールーの封印も作動し、彼女の姿もいつもの子供のものへと戻ってしまった。

「もう時間切れか・・・・なんじゃ?急に眠気が・・・・」

 猛烈な眠気に襲われ、抗うことが出来ずにルールーの意識は、深い底へと落ちていった。


 折り重なるように倒れる二人に、巨大な影が近づく。

 アラ・・・・アレハ?


***************


「?!・・・・あれ?ここは」

 目を覚ましたカグは勢いよく身体を起こし、周りを見渡す。


 そこは、木材がふんだんに使われた家具が並ぶ、落ち着いた雰囲気の部屋の中だった。

「眼が覚めたようネ」

 声を掛けられ、カグが声のする方へと視線を動かすと、人間の姿のポンタが座っていた。

 だが、ポンタの人間の姿を知らないカグは、一瞬何者かわからなかったが、彼女から感じる気配で、その正体が判った。

「?・・・・あ、この森の管理者殿か?」

「えぇ、そうヨ。よく分かったわネ」

 カグたちのことを神だと知らないポンタは、素直に驚きを見せる。

「気配が同じですから・・・・・・で、ここは?」

 カグたちがいる部屋は、ポンタの家の中にある、人間用の客室である。

 二人を診るために、ポンタは人間の姿に変身していたのだった。

「私の家ヨ・・・湖のほとりで、貴方達が倒れていたのを、見つけてネ。時間が時間だったシ、ここへ運んだノ・・・・それで、何があったノ?」

「・・・・・・・すみません。それが、よく覚えていないんです」

 とんでもない力のぶつかり合いを感じたポンタが、現場へと向うと二人が倒れているのを発見し、自分の家まで運び、介抱していたことを聞いたカグ。

 何があったのか、必死に思い出そうとするが、その辺りの記憶が酷くあいまいで、カグは頭を抱えた。

 

「もう一人の方も、説明できる状態じゃなかったシ、仕方ないわネ」

「はい・・・・・!あの、ルドラは?!」

 保護してもらったことに頭を下げるカグは、ルールーのことを思い出し、再び辺りを見渡す。

「横で寝ているワ」

 クスクスと笑みを浮かべるポンタの指さす先を見ると、カグの隣の布団が盛り上がっている。

 カグが布団をはがすと、子供姿のルールーが気持ちよさそうに眠っていた。


「・・・・・うふふ・・だめじゃ、カグツチ・・・・それは妾たちにはまだ早いのじゃ・・・・」

 彼女が一体どんな夢を見ているのか見当も付かず、困惑の表情を浮かべるカグは、とりあえずルールーの身体に布団を掛けなおし、優しく髪を撫でた。


「ここへ運んだ時に眼が覚めて、さっきまで貴方を心配して起きていたのだけれド・・・・まぁ、今日はゆっくりしていきなさイ」

 そういうと、ポンタは「何かあったら、呼びなさイ」と言い残し、部屋を出て行った。

「は、はい・・・・・・・」

 彼女の背中に頭を下げ、カグはベッドを抜け出し、窓の方へと歩いていく。

 外はすっかり真っ暗になっていた。

 あの後、昊斗そらとはどうなっただろうか?とドラグレアの庵がある方角を見つめ、心配するカグ。


「んんっ・・・・・・・?」

 すると、寝ていたルールーが身体をよじり、目を覚ました。

「あ、ルドラ・・・・眼が覚めた?」

 上半身を起こし、眠たげな目を擦りながら、声を掛けてきたカグの顔をボーっと見つめるルールー。

・・・・・!?ふぁあ!!」

 だが、意識がハッキリすると、ルールーは素っ頓狂な声を上げ、布団を抱えて顔を隠した。

「ル、ルドラ?!」

 ルールーの行動の意味がわからないカグは、驚いて彼女へと近づく。

「だ・・・・大丈夫?」

 心配し、ルールーへと手を伸ばすカグ。

 タイミングよく、ルールーが顔を覆っていた布団を下げると、伸びてきたカグの指がルールーの頬に、チョンと触れた。

「!?・・・・・・・きゅう」

 真っ赤だった顔がさらに真っ赤になり、ルールーは目を回してベッドの上に倒れ込んでしまった。

「え?!ルドラ!?」

 カグが慌てて、ルールーの顔を覗き込むと、彼女は何処か嬉しそうな笑みを浮かべ気を失っていた。


「ど、どうなってるんだ?」

 だが、カグの方は何がどうなっているのか訳がわからず、ただただ困惑するのだった。


この後以降、基本的にルールーはカグに対してデレです。

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