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お宅訪問(夏季休暇 木漏れ日の森二日目)

この話は、聖域の中の母娘編の(6)と(7)の間に起きた話です。

「大きな樹だとは思っていましたが、こんなに大きいなんて・・・・」


 初めて間近で天に向って伸びる巨大な樹を見つめ、驚きを露にするフェリシアが感嘆の声を上げる中、アリエルやヴィルヘルミナたち同行している面々も唖然として見上げていた。

 彼女たちの後ろに居た昊斗そらと冬華とうかは、目の前の大樹を超える樹木を数多く見てきているため、あまり驚いた表情をしていなかった。

 

 ルールーとカグ。それに玉露ぎょくろ金糸雀カナリアの姿が無いのだが、彼女らはいつもの授業の為、本日は別行動となっている。


 木漏れ日の森二日目。

 昨日起きた、フェリシアと鞍馬くらまの一件でちゃんと挨拶できなかったポンタへの挨拶をしに、彼女の家を訪れることにした昊斗そらとたち一行。

 

 ポンタの家は、木漏れ日の森の”裏”と呼ばれる地域にあり、ドラグレアの庵や王家の別荘から見える何本もの巨大な樹の一つ。

 そのあまりの巨大さに、根元まで来た際ミユは、見上げすぎて後ろへ倒れそうになっていた。


 すると、ズシンズシンと地響きをさせ、ポンタが樹の中から現れる。

 いつもは大きく感じるポンタの身体が、大樹の影響で小さく見え、フェリシアたちは妙な感覚になっていた。


 ヨウコソ、ミナサン。ソレニシテモ・・・・・ワタシノ、ホウカラ、モウイチド、アイサツニ、イコウトオモッテイタノニ・・・・


「いいえ!昨日は私のせいで、ポンタさんにご迷惑をお掛けしてしまったのですから、こちらから出向くのは、当然です!」

 昨日の失態を取り戻すかのように、力説するフェリシア。だがポンタは、彼女の隠れた意図を察していた。


 フフ・・・・ホントウハ、ソレダケジャ、ナインデショ? 


 遠くから、小さくも力強い鳴き声が複数聞こえ、その声をする方を少女たちが、ソワソワしながら見つめていた。 

「・・・・・・・・判りますか?」

 ごめんなさい、と頭を下げるフェリシアに、ポンタはその大きな手でポンポンと撫でた。


 ツイテキナサイ・・・アンナイスルワ 

 そう言って、歩き出したポンタの後をまるで雛のように一行がついて行く。


 まるで、動物園のアスレチックの様な、木で出来た遊具で遊ぶ、ポンタの子供たち。

 ちなみに、造ったのは管理事務所の職員一同である。


 遊んでいた子供たちが、やってきた人間に臆することなく、興味津々に近づき、先頭に居たアリエルが見た目完全にぬいぐるみのポンタの子供を、抱きかかえた。

 小型犬よりちょっと大き目の子供が、アリエルの豊満なお胸さまに埋まり、ジタバタともがいている。


「可愛いですね〜♪」

 何とか胸から顔を出した小グマと眼が合い、アリエルは「うふふ〜♪」と笑みをこぼす。

「あぁっ!アリエル姉さま・・・・羨ましい」

 小グマを抱えるアリエルを、羨ましそうに見つめるヴィルヘルミナに、侍女のアイリスが肩を叩いた。

「ミーナ、こっちにも居る」


 別の小グマがヴィルヘルミナの足元まで来ており、しゃがんで子グマに手を差し出すと、子グマが彼女の手に擦り寄ってきた。

 アイリスに「抱いてみたら?」と言われ、ヴィルヘルミナが恐る恐る子グマを抱きかかえる。

「あ・・・・ふぁ・・・・」

 特に暴れることなく、ヴィルヘルミナに抱かれる子グマの身体全体から鼓動を感じ、目の前の子グマが生きているのだと実感したヴィルヘルミナは、感動を覚える。

「ほら、アイリスも」

 とヴィルヘルミナが、抱いていた子グマをアイリスへと渡す。まさか、自分に来るとは思っていなかったアイリスは、おっかなびっくりしながら、子グマを抱くと、未だに無表情が多い彼女の顔に、笑みが浮かんだ。

 そんなアイリスを見ながら、ヴィルヘルミナは親友として嬉しさがこみ上げたのだった。


 少し離れた所ではそんなヴィルヘルミナの騎士二人が、もう少し大き目の子グマを抱き上げて、にらみ合っていた。


「これが、ああなるのか?恐ろしいものだな」

 大樹の根元で農作業をしている、ニ〜三メートル級の成体の子供たちと見比べ、ペトラは抱き上げる子グマを見て唸る。

「ちょっと、ペトラ・・・それは失礼でしょ?て、いうか次は私に抱っこさせて!」

 その横で、フローラがペトラの身体を揺らしながら不満の声を上げるが、当の相棒は聞こえていないようで、子グマとにらみ合っている。


 悔しそうにしていると、フローラの傍に子グマがやってきて、彼女の足に前足を乗せて見上げてきた。

 そのあまりの可愛い仕草に、心を撃ち抜かれたフローラはしゃがみこんで、子グマとじゃれ始めるのだった。


「あ、君はこの間の仔かな?大きくなったねぇ」

 また別の場所では、フェリシアにフレミー、クレアの三人が子グマと遊んでいる。


 フェリシアが遊んでいた子グマは、他の個体とは耳の形が異なっており、彼女はその特徴的な形の耳を持った子グマが、試練の折に遊んだ子グマだと気が付き、元気に育っていたことを喜んだ。 


「姫様、私にも触らせて頂けませんか?」

 「いいよぉ」と、フェリシアから渡された子グマを抱き、フレミーの表情が綻ぶ。

 先のフローラたちもそうだが、騎士とはいえ、そこは年頃の女の子。やはり、可愛い物には興味があるのだった。 


「オオキレグマの生態は知っていましたが、本当に子沢山なのですね」

 フェリシアたちと遊んでいる子グマを始め、農作業に励む個体や、力比べをやっている若い個体など、見える限りに居るオオキレグマは全て、ポンタの子供たちである。

 子供たちの数を数えながら、クレアは改めてオオキレグマと言う存在の凄さを実感した。


 そんな中、何故かプリエは物陰からフェリシアたちのことを見ていた。

「プリエ、貴方もそんなところに居ないで、触ってみたらどうです?」

 騎士の師匠であり、学校の先輩であるフレミーの言葉に、プリエが勢いよく首を横に振った。

「む、無理ですよ!僕・・・そういう小さな生き物が苦手で・・・・大きいのは、良いですけど」

 実は彼が隠れているのは、農作業中の三メートルを超える個体で、”ジャマ、ナンダケド”と迷惑そうにしていた、

「変わってるねぇ」

 そんなやり取りの最中、フェリシアの視界に、遠くにいる昊斗そらと冬華とうかの姿が入ってきた。


「さ、祭事巫女のミユ・ヤナカ・クロエと申します!ポンタ様のことは、マーナ様やマダ・・・・姫巫女様からお聞きしております!これから、よろしくお願いいたします!!」

 初めてルーン王国へ来た時の、カレイドたちへの挨拶以上に、緊張のあまり声が裏返ったり、噛んでしまったりと、ミユは顔を真っ赤にしながらポンタへ挨拶していた。

 それもこれも、シオンが「私の大切な友人だから、粗相の無いようになさい」と言ったのが原因で、目の前に立つ巨大なポンタの威圧感とも相まって、段々ミユの声がフェードアウトしていく。

 

 そんなミユを見ていたポンタは、若き日のマーナを思い出し、彼女から楽しそうに笑う”声”が聞こえた。


 フフフ・・・・ソンナニ、カタクナラナクテ、イイワヨ・・・・・ソレカラ、ワタシノコトハ、”サン”ヅケデイイワ。ミンナモ、ソウヨンデルカラ。ムリヲセズ、イツモドオリノ、アナタデ、イナサイ

 マリアと同じことを言うポンタに、ミユは後ろに居た昊斗そらとたちの方へ「いいのかな?」と言いたげに視線を送る。

「ポンタさんがいいって言ってるんだ。普段どおりのミユでいいんだよ」

「そうだよ、ミユちゃん。リラックス、リラックス」

 二人の後押しを受け、ミユはポンタへと視線を戻す。

「は・・はい!がんばりましゅ!」

 やはり、一瞬の内に変わるわけも無く、再び噛んだミユは耳まで真っ赤にして俯いてしまった。

 本人からすれば、恥ずかしさのあまり、穴があったら入りたい状況なのだが、周りからすると、微笑ましい姿に見えてしまう。

 お面を被って逃げ出そうとするミユに、冬華とうかが優しく耳打ちする。

「ミユちゃん。シオンさんに頼まれてた、あれ・・・渡さなくていいの?」

 恥ずかしさで、本来の目的を失念していたミユの身体が、ビクッと跳ねた。

「そ、そうだった!あの、姫巫女様からお預かりしているものが・・・・これです」

 お面を定位置に戻し、ミユは懐から包みを取り出し、手早く包みを開いて、ポンタへ差し出した。


 包みの中身を見たポンタは、それが何なのか知っていたのか、爪に中身を引っ掛け持ち上げた。


 サスガハ、シオンサマ・・・・チョウド、マエノガダメニ、ナリカケテイタ、トコロダッタノヨ・・・


 それは緻密な刺繍が施され、緋色の紐がついたお札だった。

 お札を見ていた冬華とうかが、その札を見てあることに気が付く。

「これって、魔力増幅用の?」

 ポンタの爪に引っかかったお札の刺繍は、その縫い方自体に意味があり、冬華とうかの言うとおり、持ち主の持つ魔力を一時的に高める、過給器のような機能を持っていた。


 エェ・・・・・コレヲ、ツカワナイト、サイキンデハ、シッパイガオオクテ・・


 そう言うと、ポンタの身体から魔力が溢れ、その巨体が輝きだす。


「うん、大丈夫そうネ」

 輝きだしたポンタの巨体が小さくなったかと思うと、輝きが消えそこには一人の女性が立っていた。

 年齢は四十代そこそこで、身長は女性にしては高く、昊斗そらととほぼ同じ高さ。ワンピースを着たグラマラスな肉体からは、周りにいる少女たちには無い色気が漂っている。

 それでいて、オオキレグマの毛色に似た髪色した長い髪が特徴的な頭には、可愛らしいクマ耳が生えており、ピコピコと動いていた。

「え?」

 フェリシアを除く、周りにいた全員がキョトンと人間の姿に変わったポンタを見つめる。

 予想通りの周りの反応に、満足そうに頷くポンタ。


「驚いたかしラ?木漏れ日の森の管理者としテ、人前に出ないといけない事が多々あるシ、王都に上る事もあるワ。そんな時ニ、あの姿じゃ色々都合が悪いでショ?」

 独特な発音のポンタの説明に、巨体を揺らして王都を闊歩するポンタの姿を想像し、全員が納得する。


――間違いなく、パニックになる、と。


 胸に手を当てながら、ポンタは懐かしき日々を思い出し、語りだした。

「・・・・これは元々、助けていただいた恩返しをしようと、ジェラード様たちの旅に同行するために、シオン様に教えていただいたものなノ。マーナ様が祭事巫女としてルーン王国に着任された頃、彼女を心配したシオン様が黙ってこの国に来た折にネ・・・・まぁ、マーナ様曰く、シオン様は自分が楽しむために来ただけだ、って言っていたけどネ」 

「あぁ・・・・そんな感じだな、あの人は」

 若い頃から変わんないんだな、と今もそんな妹に尻を叩かれながら、仕事に勤しんでいるであろう姫巫女の顔が、昊斗そらとたちの脳裏に浮かぶ。


「それにしても、魔力を用いた変身法ですか・・・・・相当な魔力量じゃないと出来ませんね」

 ポンタが変身を思い出しながら、冬華とうかはその方法を使うには、かなり限られた者にしか出来ないのでは、と見抜いていた。

 冬華とうかに指摘され、ポンタは「その通り」と頷く。

「えぇ。他の群れのオオキレグマたちにも教えてみたけど、私と旦那しか出来ないワ・・・家の子達で、もうそろそろ出来そうな子が一〜二頭いるかしラ」

 ポンタの口から、「旦那」という単語が聞こえ、フェリシアが昊斗そらとたちの元へやってきた。


「・・・そういえば私、まだポンタさんの旦那様にお会いしたことがありません」

 元々、ポンタの家に来たのも初めてだったフェリシアは、ポンタの旦那とは会ったことが無かった。忙しいヒトだと話には聞いていたが、前回の試練の時も出会えなかったのだ。


「そういえば、王女様は会ったことが無かったかしラ?ちょうどいいわ、もう少ししたら帰ってくる・・・・」

 そう言いかけたポンタの言葉が途切れ、一点を見つめて固まった。

 何事かと、心配する面々の後ろから気配が近づいてくる。

「おや?今日は、随分とお客さんが多いネ」

 昊斗そらとたちが振り向くと、そこには作業服を着た小柄な男性が笑みを浮かべて立っており、全員がその頭に視線が集中する。

 短く刈り揃えられた髪は、ポンタ同様オオキレグマの毛並みと同じ色で、しかもクマ耳がピコピコ動いていた。

 

「お帰りなさい、あなた!」

 突然駆け出したポンタが、男性の胸向って飛び込む。

 凡そ、胸に飛び込んだ音とは思えない衝突音が辺りに響き渡るが、男性は自分よりも大きなポンタを軽々受け止め、その頭を優しく撫でていた。


「こらこら、お客様の前ではしたなイ・・・子供たちも見ているのだヨ?」

 自分の胸に、顔を摺り寄せてくる妻の姿に苦笑しながら、旦那は諭すようにポンタに声を掛ける。

「だって、二日ぶりなんだもノ・・・・・あなたぁ・・・」

 だが、スイッチの入ったポンタは、周りの目など気にせず、笑みを浮かべて夫の胸に顔を埋めた。

「・・・・・・・・・」

 全くイメージに無かったポンタの甘えように、フェリシアが”ポカ〜ン”と口を開けて固まる。

 他の面子も、呆気に取られてしまい、どうすればいいか困惑していた。


「全ク・・・・・・王女フェリシア様ですネ?初めまして私が夫のワンコでございまス。仕事上がりのため、このような格好で失礼します」

 ポンタの旦那ワンコの自己紹介に、昊斗そらと冬華とうかが思いっきり噴出しそうになった。

(冗談だよね?)

(・・・・・・・そうあって欲しい)


 渋い顔を浮かべ小声で話す二人の横で、固まっているフェリシアの袖をミユが引っ張る。

「姫様!・・・・・」

「・・・・っ!?は、初めまして!フェリシア・アルバーナ・ルーンです!奥様には、大変お世話になっております!」

 慌てて頭を下げるフェリシアに、ワンコは「とんでもない」と深々と一礼した。


「こちらこそ、王家の方々には、長年お世話になっておりまス。申し訳ありませんが、私はこれにて失礼しますが、今日はゆっくりなさってくださイ・・・・ほら、君もいつまで甘えているんだイ?」

 そういうとワンコは、抱きつくポンタをべリべりと引き剥がし、自分よりも大きな妻を軽々持ち上げると自分の横に立たせた。

「むゥ・・・・・・・・・」

 強引に引き剥がされ、不満そうにする妻を見て、ワンコは笑みを浮かべると、とんでもない発言を放り込んだ。


「良い子にしていたら今晩、沢山可愛がってあげるかラ」

 バリトンボイスで甘美な言葉を紡ぐワンコ。その言葉に、ポンタの表情が輝いた。

「ホントに!?」

「あァ」

 とても年頃の娘さんたちには聞かせられないやり取りを繰り広げる、熟年夫婦。


 昊斗そらと冬華とうかは、「なるほど、だから子沢山なのか」と冷静にオオキレグマの生態を分析していたが・・・・

「!?・・・・・」

 フェリシアを始めとする高等部メンバーは顔を真っ赤にして視線を逸らし

「?」

 ミユに、ヴィルヘルミナとアイリスの仲良し三人組は、意味がよく分からず首を傾げていた。


「では、私はこれデ」

 爆弾を投下した張本人は、一礼すると元のオオキレグマの姿へと戻り、家へと歩いていく。


 人型同様、平均的なオオキレグマの体躯に比べて小さいワンコだが、その身体には無数の傷が刻まれている。


 家へと向うワンコに、子供たちが駆け寄っていくが、中には「一手ご教授!」と言わんばかりに、父親に襲い掛かる子供もいた。


 だがワンコは、自身よりも大きな子供たちを、体格差など無いかのようにいとも簡単に投げ飛ばし、何事も無かったように家である大樹の中へ消えていった。


 いろんな意味で衝撃的なポンタの家族を目の当たりにした昊斗そらとたちは、夫婦に気を使って早めに退散することを心に誓ったのだった。


ポンタさんと旦那様がつがいになって半世紀以上・・・・未だに新婚の様にラブラブです。

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