追試
この話は、創造神たちの傭兵【聖域の中の母娘 編】(3)と(4)の間に起きた出来事です。
なので、まずはそちらを読んでから、この話をお読みください。
『それでは、皆さん。夏期休暇中、怪我や事故に気をつけて、楽しい思い出を沢山作って下さい・・・・・だけど、アイディール学園生徒として節度ある行動を忘れてはダメですよ?いいですね?』
アイディール学園学園長のメイ・サンドラ・マクマホンが、壇上から生徒へ向けての言葉をかける。
無事、学期末テストが終わり、ディアグラムにあるアイディール学園を含む殆どの学校が今日、終業式を迎えていた。
とはいえ、部活や希望者への特別授業、成績不振者の追試が行われるので、一部の生徒を除いては夏期休暇に入ると言う実感は無かったりする。
『では、よい休暇を』
終業式が終わり、各クラスのホームルームが終わると、教室から街へと遊びに行く相談をする生徒たちが出てくる。
そんな中、騎士クラスのとある教室では―
「・・・・・・・・・・・・・」
ぺトラは、いつも使っている机の上に広げた成績表を見つめ、声にならない声を上げていた。成績表には、華麗なまでに”赤”く書かれた点数が並び、担任からの一言の欄に書かれた言葉は、悲しみか、はたまた怒りからか、震えて文字が大きくブレていた。
彼女の目の前には、主である帝国皇女のヴィルヘルミナが無言で、今にも泣きそうなほど悲しい目をして自身の従者を見つめている。
「・・・・・も、申し訳ありません姫様。私がついていながら、このような体たらくを・・・・」
重苦しい空気感に堪えられず、謝る必要のないフローラが頭を下げる。
「フローラが謝ることはありません。ぺトラにこのような成績を取らせてしまったのは、主であるわたくしの責任・・・・・・わたくしのせいです。今まで、わたくしの我儘で、あなたたちに迷惑をかけ、勉強時間を取って上げられなかったから・・・・・・」
「ぐは・・・・・・・」
ヴィルヘルミナの言葉を聞き、ぺトラが血反吐を吐いて机に倒れこむ。
確かに、同時多発テロ事件以前のヴィルヘルミナは、我儘で自分勝手なお姫様と言うキャラを自分の中に作り出し、周りの迷惑などお構いなしに振舞っていたが、ぺトラの成績不振には全く関係なかった。
単に、彼女が実技以外の授業を軽んじ、今の今まで勉強しなかった結果なのだ。それを、「自分のせいだ」と主であるヴィルヘルミナに言わせたことに、ぺトラは自責の念に駆られ顔を上げることが出来なかった。
「ヴィー、ソラトさんに連絡取れたよ。ペトラさんの追試の勉強、見てくれるって」
フレミー、アリエル、さらに生徒会会長のクレアと共に、ペトラの教室に現れたフェリシアが、帝国メンバーに吉報を知らせる。
「本当ですか?!・・・ありがとうございます、ソラトお兄様」
自分たちの申し出を、快く引き受けてくれたであろう青年を思い浮かべているのだろうか、ヴィルヘルミナが涙を浮かべて一礼する。
「しかし、ペトラ殿も筋金入りと言うかなんと言うか・・・・・・」
「あれだけ、ソラト殿が勉強を見てくれたのに・・・・・」
ペトラの成績表を見て、呆気に取られるフレミーに、フローラが情けないという面持ちでため息をつく。
「・・・・・勉強などできなくても、戦いは出来るんだ。本当に役立つか分からぬモノに、注力するのは勿体無いと、私は思うんだ」
言いたい放題の同級生に独自の持論を展開するペトラ。
しかし、彼女は後にこの事を後悔することとなる。
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いつものメンバーで、昊斗たちの家を訪れたフェリシアたち。
出迎えた玉露と金糸雀が、フェリシアたちをいつもの食堂へと案内する。
「・・・・・・・それにしても、昊斗が勉強を見てこれって・・・・・勉強が嫌いな私や金糸雀でも、もう少しまともな点数取ってたわよ・・・・」
「そうだね・・・・・・それに、ちゃんと点数取らないと、昊斗さん凄く怖いから、わたしたちも必死だったね・・・・最初に玉露ちゃんが、「勉強なんてやって何の意味があるの?」って言ったら、そこから一週間、不眠不休で勉強の大切さを昊斗さんに殺気込みで説明されたからねぇ・・・・」
「あぁ・・・・・あれも、今にして思えばいい思い出よ」
ペトラの成績表を見て、随分昔のことを思い出すかのように、二人の口から乾いた笑いが漏れる。
そんな二人の様子に、当のペトラだけでなく、勉強での昊斗の怖さを知るフレミーとフローラが、顔色が一気に真っ白なものへと変わった。
「昊斗君、勉強に関しては厳しいからねぇ。はい、お待たせ」
お茶の準備をしていた冬華が、テーブルにお茶と手作りのお菓子を並べる。
国王カレイドの勧めで、休暇を貰うことになった昊斗たちは、休暇に入ったのを機に、家での家事の担当をじゃんけんで決めていた。
ちなみに今日の台所担当は、冬華である。
「ありがとうございます、トーカさん!」
並べられるお茶とお菓子を見た少女たちの顔に、笑顔と言う満開の花が咲き誇った。
「そういえば、トーカお姉さま。先ほどからソラトお兄様のお姿が見えないのですが?」
今回の主役といえる青年の姿が見えず、ヴィルヘルミナが、冬華を見る。
「あ、昊斗君なら、もうすぐ来るんじゃ・・・・・」
そう言っていると、食堂のドアが開き、そこに何故かスーツ姿の昊斗が立っていた。
食堂内に、何処か艶のある黄色い歓声と、戦慄するような悲鳴が同時に上がった。
前者は、フェリシアを始め、ヴィルヘルミナにアリエルにクレア。
後者は、ペトラにフレミーにフローラの騎士三人。
冬華と玉露、そして金糸雀は、事も無げに椅子に座っていた。
スーツを着ている昊斗だが、何故か微妙に着崩しており、これで貴金属を付けていれば、ホストか少々怖いご職業の方にしか見えない。
そんな昊斗の目が、はっきりと見て取れるほど釣り上がり、ペトラを射抜いていた。
そのあまりの怖さに、悲鳴を上げた三人は陸に上がった魚のように喘いでいた。
テーブルの上に置いてあった成績表を一瞥し、昊斗が静かに口を開いた。
「アレだけ勉強を教えて、このざまは何だ?ペトラ・クリスティーネ・ローレンツ少尉・・・・・説明しろ」
まるで、軍人である父親とそっくりな昊斗の言い回しに、ペトラは血相を変えて立ち上がり、直立不動で真っ直ぐ前を向いた。
「はっ!申し訳ありません、サー!!」
「俺は、謝罪ではなく説明を求めたんだぞ?少尉、君は俺を馬鹿にしているのか?」
「ノ、ノー!サー!!」
まさに、上官と部下のようなやり取りに、フローラまで立ち上がらなければ!という衝動に駆られたが、冬華が、「大丈夫だよ」とやんわりと止めた。
直立不動のまま、赤点の説明・・・と言う名の言い訳を一向に始めないペトラに、昊斗は短く息を吐いた。
「・・・・もういい。フローラ、追試までの予定はどうなっているんだ?」
いきなり話を振られ、フローラが驚きを通り越え、涙目になる。
「え?!・・・あっえっと、明日から二日間、追試の為の授業が朝から夕方まであり、三日後に追試です!」
震える声で説明し終えたフローラに、昊斗が「ありがとう」と、突然微笑んだ。
その顔を見たフローラは、もう死んでもいいや〜、とフニャンと椅子に座り蕩けた顔でテーブルに伏した。
「なるほど・・・・・・・・ヴィルヘルミナ、悪いが追試が終わるまでの間、ペトラを預からせてもらうが、構わないか?」
「は、はい!お兄様、どうかペトラのこと、お願いしたします!」
微笑む昊斗を見て、ヴィルヘルミナは顔を赤くし、深々と頭を下げた。
「任された・・・・・さて、少尉。今日から追試が終わるまで、眠ることは許さん。一分一秒無駄にしないために、学校の登下校も短距離跳躍で送り届け、学校から帰っても俺がマンツーマンで勉強を見る。反論はおろか意見は一切許さん」
あまりに現実離れしたことを言う昊斗に、ペトラが抗議しようと昊斗の方を向いたが、いつの間にか昊斗から微笑みは消え、彼の目は、一切冗談を言っていないぞ、と告げており、反論しようものなら殺される!とペトラは口をつぐんだ。
「では、早速始めるか・・・・行くぞ」
昊斗に首根っこを掴まれ、ドナドナされるペトラ。
その目には、後悔の二文字が浮かんでいるように、その場にいた全員が幻視した。
「な、なんじゃ?今のは・・・・・」
「さぁ・・・・何だろ?」
昊斗たちと入れ替わりに、食堂へ入ってきたルールーとカグが、一種異様な光景を目の当たりにして、眉を顰めて見送った。
その後、ペトラは昊斗のマンツーマン指導のおかげで、無事追試に合格した。
ただ、追試が終わってもペトラが虚ろな目をして、数学の公式や歴史の年号などを呟いていたのには、教師たちも何があったのか心配したのは、言うまでも無かった。。




