7話:幼なじみ
ウキアは大人の言うことを聞かない。いわゆるサボり魔だ。
剣が好きで、仕事が苦手。
仕事が嫌いなのは、寝るか剣術に時間を使いたいかららしい。
サボるために馬術を覚えたようなヤツだ。
面構えが違う。
そんなウキアは、ヴィクセンの言うことは聞くし、意外にも私とアルマのことも聞いてくれる。
今みたいに、乳しぼりとかをお願いすれば手伝ってくれる。
「ウキアは先遣隊に入りたいの?」
「あ?なんでそう思ったんだ?」
「だって、お兄ちゃんみたいになりたいっていってたじゃん」
ウキアには兄がいる。会ったことは無いが、ジェラルドと同じく先遣隊に入っているらしく、ウキアは前々から憧れのような羨望の眼差しを向けていた。
「ばーか。先遣隊より普通に獣狩った方が生活の足しになる」
「そぉ?」
時々やってくる行商人相手に熊やタランドゥスの毛皮は暖かいらしく、綺麗な状態でとっておくと高値で買ってくれる。
「外から来たヤツらは欲しがるだろ?毛皮」
「暖かいもんねー」
「それもそうだけど、そもそもアールヴィの土地に合わせた毛皮は特別丈夫なんだよ」
そうなのか。今度ヴィクセンに聞いてみよう。
ヴィクセンは一つ聞くと十も二十も教えてくれる。気になることがあればヴィクセンに聞くようにしている。
「ほら、終わったから戻るぞ」
そういって、私の持っていたバケツを奪って前を歩いていく。
(何気に優しいんだよな)
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冬、それは狩りの時期。
「ウキアー!」
「わかってる!」
雪に覆われた樹海には、様々な魔物が隠れている。種類によっては高く売れるので、冬眠しない飢えた魔物が大暴れする前に狩ってしまう。
「三体倒した!」
「もう二体いる」
群れで活動するバーゲスト。犬に似た見た目の通り、習性も近い。
「リーダーは?」
「今から討つ!」
(残りの二体は私が!!)
雪の上は走りにくい。
でもそれは慣れでどうにでもなる。
正面からリーダーらしいやつが襲いかかってきた。咄嗟に雪を蹴り上げると、目くらましになったようで一瞬だけ隙が生まれる。
「やぁっ!」
その隙に踏み込み、剣を振り抜いた。
「ギャン!!」
倒れた。
(倒せた……倒せた!)
背後から強い殺気を感じて振り返る。
(しまった、振りが間に合わない!)
「甘い!」
「ギャッ……」
背後から襲おうとしたバーゲストは、ウキアの斬撃を受け、その場に崩れ落ちた。
大きく開かれた口から覗く鋭い牙に、ゾクリと震える。
ウキアが倒してくれなかったら、噛まれていた。
「気をつけろ。一回噛みつかれたら、中々離さないからな」
「うん。ありがと」
「ウキア」
「わかってる。やろう」
解体して、骨と皮を回収する。
そして、手を組み目を瞑る。
「冥福を祈ろう」
これは討伐した者に向ける手向け言葉。
先遣隊がやっていたのを見様見真似でやっている。
「お前、今回は弓使わなかったな」
「私の弓の精度じゃまだ射てないよ」
バーゲストは足が早く、一瞬で距離をつめられる。私の技術では、あの早さの生き物を射抜くことはできない。
解体した肉や骨を袋に詰めて橇に乗せた。
「帰ろっか」
「おう」
冬は厳しい。
大人しく待っていたタランドゥスを撫でてから、乗り込む。手綱を引っ張ると、ゆっくりと動き出した。
「今夜も吹雪くかもね」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「最近、エルフ狩りが行われているようだ」
アルマは火に薪をくべながら言った。
「アールヴィは本来、人間が簡単に入れる土地じゃない。正式な許可無く立ち入れば容赦なく罰せられる。それでも入ってくる。欲に取り憑かれた人間は、法と協定を破ってやってくる」
(密猟者か…)
「ジェラルドによれば、既に四つの村が消えた。アルヴの鹿も何頭か捕まってしまった」
「じゃあ……」
「生け捕りにされたなら奴隷になるか、薬にされるだろう。アルヴの鹿は……競売にでも掛けられる。奴隷の場合は、『耳切り』されるだろう」
耳切りというのは、エルフの耳に傷をつける行為だ。ピアス穴とはまた違う刃物で切られた傷は、エルフにとって弱さの証となり村から追い出される原因となる。
惨いが、それがエルフたちを襲う現実だ。
「よりによってこの時期に現れるなんて!」
「だからって俺に当たるなよ!」
ウキアは呆れたように眉を下げた。
「どうせ春龍を探しに来たんだろうよ。毎年この時期になると、そういう連中が増えるからな。エルフはそのついでだ」
かつてアールヴィには、多くの龍類が生息していた。
しかし人類の争いと、戦闘兵器として利用するための乱獲によって数を減らし、ドラゴンたちは住処を失った。
弱いドラゴンは自分に合う環境を求めて、アールヴィを離れた。それが今の渡り龍だ。
「それより、そろそろセレネー祭だけどさ、お前なんか披露すんの?」
「そろそろって、再来年だけど?」
「いいか、セレネー祭はな、各村の力の見せつけ合いの場だ。剣術、弓術、魔術以外に着るもんとか踊りも見られるんだぞ?」
セレネー祭は五十年に一度開催される祭りだ。月神に繁栄の感謝を捧げるため、月神を信仰する各村や部族が集まり、一家引いては村全体の持ちうるもの全てを披露する。
「まぁ私魔法使えないし、弓かな」
「はぁ?最近剣術も俺に勝てる回数増えてきたのに?……つーか、おまえ別に魔術使えなくても強いじゃん」
「そういう問題じゃないの!」
私が叫ぶと、ウキアは少しだけ目を丸くした。
「私がもっと魔術を使えたら、お父さんの役に立てるでしょ?」
木剣を握り直す。
「そしたらさ――」
みんな、ボロボロで帰ってこなくて済むじゃん。
脳裏には、龍災の度に傷ついて帰ってくるジェラルドたちの姿が浮かぶ。傷が治らない内に、また戦いにでなければならないみんなの姿。
ウキアは黙った。
落ちついたブルーの瞳が、静かに私を見ていた。
「……なに?」
「いや、なんでも。もう日が落ちる。帰るぞ」
「はーい」




