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6話:剣と弓、それから魔術

「んー!!」


弓術を学ぶことになった。

どうも、アルマも弓術ができるらしい。これは村人の噂で知ったものだけど。


(アルマは自分の話とかしないからなぁ)


子供用に作られた短弓とはいえ、かなり硬い。

全力で引っ張っても、矢は飛ばなかった。


「肘を伸ばしなさい。背中は曲げない」

「…はい!」


腕がちぎれそうなほど引っ張る。ばっと手を離すと、弓は思わぬ方向へ飛んでいってしまった。


(あぁもう、全然飛ばないじゃん!)


初心者とはいえ、弓術に長けた二人の娘となると、多少のプレッシャーを感じてしまう。


「むぅ…」

「始めたばかりだ。これから上達する」


アルマは私に期待しているのか、こうしてよく褒めてくれる。


「うん!がんばる!」


私が頷けば、アルマは優しく私の頭を撫でてくれた。


早く上達して、少しでも二人の役に立たなければ。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



「あれがコボルトだ」


今日も仲良くジェラルドとお散歩!


なんて言う可愛い話ではなく、私は先遣隊の魔物狩りに参加させられていた。


正確には見物人である。



「犬っぽかったり、虫っぽかったり、なかなか厄介な魔物だよ」


そういいながら、コボルトの群れに向かってヴェロスを走らせた。


「やっつけちゃうの?」

「あぁ、命を頂くんだ。だからベル」


揺れる視界。近づく魔物。


「目を離してはいけないよ」


頭上から、力強く静かな声がした。



それからは、あっという間だった。


魔術を武器にまとわせた戦闘。人はそれを、魔剣と呼ぶ。


「きれい……」


私は目を奪われた。


トナカイに騎乗したまま、剣を振る。


「どんな魔物も、頭を潰せば動かなくなる」


赤紫の血が、雪解けの草を濡らした。

遅れて、コボルトの体が地面へ倒れ込む。


正直、グロい。


この人生も三年目。

食べるために、年老いたトナカイを屠殺する場面を見なかったわけじゃない。


でもやっぱり、間近でみる殺生はキツい。


「……どうだった?」


私を抱えたまま、トナカイを操り、魔物を討伐する。


この人、本当に強いんだ。


「……すごかった」

「そっか」


ジェラルドは少しだけ笑った。


「――ベル」


真剣な声だった。


「お父さんがいない時は、ベルがお母さんを守ってあげてね」


さっきまで剣を振っていた人とは思えないくらい、優しい声。


「……うん。わかった」


「約束だよ」



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



ドコドッ ドコドッ


蹄がぬかるんだ地面を蹴る。


「はぁっ――!!」


放たれた矢は真っ直ぐ飛び、的の中央に突き刺さった。


「やったー! お母さん見たー!?」

「見ていたわ。だから、そんな風に身を乗り出さないの」


両手を広げ、ぐっと仰け反る。落馬を心配したアルマが手綱を引いた。


数ヶ月前、私は五歳になった。

 

三歳から乗馬や弓術、剣術を学び始め、五歳になる頃にはそれなりにできるようになっていた。

 

――けれど、魔術だけは違った。


あれは三歳になって、少し経った頃のことだった。



「集中しなさい。みぞおち……胸の少し下にある熱を意識して」


「……うん」


手のひらが熱い。


身体の奥で、血管が脈打つような感覚が広がっていく。


「それを手に集めるの。そうしたら唱えて。『ネロー(水よ)』」


「ネロー(水よ)」


ちょろ……


「……え?」


手のひらから水が出た。


ほんの少しだけ。

蛇口を僅かに捻ったような、情けない水量。


それだけ。


(……これが普通?)


判断がつかず、アルマを見る。


けれど返ってきたのは、険しい表情だけだった。


「もう一度」


再びやってみる。


けれど結果は変わらない。


コップ一杯にも満たない水。


魔力はある。

ジェラルドとアルマが恐れるほど、確かにあるはずなのに。


「そんな……」


アルマの掠れた声。


「っ……!」


頭を鈍器で殴られた感覚とは、まさにこのことか。



私は――魔術が使えなかった。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



結果として、魔術の訓練は続けている。


まだ身体が魔力に順応していないだけかもしれない――と。


あの日以降、アルマの表情はずっと険しい。


ジェラルドにイヌワシを飛ばしていたので、多分あまり良くない状況なのだろう。


それでもアルマは、生きる術を私に教え続けた。


乗馬、弓、剣。


私の矢が的に当たる度、剣筋が良くなる度、ちゃんと褒めてくれる。


でもその奥に不安があることを私は知っていた。


「魔術、なんで使えないんだろう」


魔力が多い者は、無意識に魔術を暴発させることがあるらしい。


肉体の容量に対して、魔力量が大きすぎる時に起こる現象。


そして大抵は――、自分の魔術に殺される。


つまり、魔力量が多いことは、必ずしも“強さ”ではないのだ。


「水よ!」


バシャッ


「……増えてない」


出てきたのは、相変わらず情けない水量。


暇さえあれば自主練習を続けた。

家にあった魔術指導書を読み漁って色々試した。



もしかすると、一属性しか扱えないのかもしれない。



そんな淡い期待もあった。


「水、火、風、土……全部だめ……」


なら派生属性は?


「氷……『ハラーズィ』」


ぽとっ


「小さい氷ひとつ……。これじゃ水一杯も冷やせないんですけど…」



とにかく。


私には、魔術の才能がないらしい。


「はぁ……」


剣術と弓術を鍛えるしかないか……。

 


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



ヴィクセンとは、今も時々お茶する仲だ。手土産にと色々なものをくれたり、アールヴィや村の歴史はもちろん、魔術のことまで。気になることがあれば、私はいつもヴィクセンに聞いている。

 

最近は私が相棒となるタランドゥスを選んだお祝いにと、タランドゥス用の装備をプレゼントしてくれた。


何より、彼女の孫であるウキアという少年の紹介があったからだ。


ウキアを一言で説明するなら“雪豹みたいな人”だろう。

白と灰色の髪と青い目もそうだけど、あのバランス感覚はネコ科の動物みたいだ。


ふと目を離すと草原に丸くなって寝ているのも猫っぽい。



「お前寝すぎじゃね?」

「んぇ、そお?」


意外にも、私がウキアをよく寝る人だと思ってるように、ウキアも私をよく寝るやつだと思っていたらしい。心外だ。


「やること終わらせたら暇だからさぁ」

「まぁわかる」


そう言いながら私の隣に寝転ぶと、大きな欠伸をした。

釣られて、私も欠伸をする。


「寝るかぁ」

「うん。おやすみぃ」


こんな感じで、私たちは気が合う。


昼寝友達として、仲良くしているのだ。


「るいは、ともをよぶ……」

「んぁ、何?」

「なんでも」


暖かな日差しが降り注ぎ始めた。

 

ちょうどいい、今のうちに寝てしまおう。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「ねみぃ」

「ねえ、練習つきあってよ」


ウキアの腕を無理やり引っ張って起き上がらせようとしても、一向に起き上がらない。


「お前、今でも十分強いって」

「それじゃだめなの。村の子どもの中で強くても、外に出たら何もできないかもしれないでしょ?」


そう言うと、ひとつため息をついてから渋々と立ち上がってくれた。


ウキアは、剣の扱いが上手い。多分、この村の子どもの中で一番上手だと思う。


そんな人が身近にいるなら、手合わせに誘ってしまうのは当然のこと。


「三回だけな」

「やった!」

 

ウキアに木剣を投げ渡すと、ニヤリと笑った。

私は今まで、一度もウキアに勝てていない。今日こそ、と毎回思いながら挑んでいる。


木剣がぶつかり合う。単純な力じゃ勝てない。それは分かっている。

でも、私は戦いながらあれこれ考えるのが苦手だ。


「はっ、はっ」

「息上がってんぞ」


もっと早く!もっと強く打たないと!


 

「あ゛ー負けた!」


ボッキリと折れた木剣を手放した。

木剣を折ったのは十回以上。これ以上折るとアルマに怒られかねない。

ムキになると直ぐに折ってしまうクセ、直さないと。

 

「へっ、俺に勝つには百年早いね」


エルフの百年はかなり現実的な数字に見えるけど。


「そ、それってめっちゃ頑張ればウキアに追いつけるってこと?」

「“かも”な。大体俺の半分も生きてないお前が、なんで俺と対等に打ち合えるのかわかんねぇし」


ウキアは強い。それは紛れもない事実で、このままいけば先遣隊にも入れられるかも、と噂されている。

そのウキアと平気で打ち合う私も変だと言われてるけど、ウキアの努力には勝てない。


「私、もっと頑張るから!」


ウキアに追いつけるように。

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