69. ☆「Concentration of Fate ~2019.11.25 21:33」
MYTHをやめ現実を正しく生きよう、そう決めて1日も経ってないがその心構えは着実に俺の何かを変え始めていた。
「キメ台詞の言葉選びが――」
そう、今までロクに関わってなかった人に、しかも一方的に話しかけるだなんて。
「作者もきっと感謝してますよ。絶対……ものすごく」
とにかく以前までの俺なら決して自分からこんなことしなかった、ってのにな。幸い彼女、三夜さんが理解ある人でよかったけど。
だが“物書きになろう”の話が通じるとはこの人も読んでんのかな。言っちゃ悪いが喪女とはいかずとも“同類”のニオイがするから。
まあ腹に溜まった澱、喉に付いた灰汁を言葉で押し流すこの感じも悪くない。これも“積み重ね”のため新たな関係を築いた結果か。
「そういえば明星さん、今晩の送別会には出ますか?」
でもここでなんとあのクソバイトリーダー、河野に私物化されてる飲み会に誘われる。冗談じゃない、んなモン誰が行くかって――
いや待て。出なければそいつの悪口大会、出ればイジリの始まるに違いない。――さて、こんな場合はどうするか。
「三夜さんが行くなら。――借りも、あることだしね」
「えっ? “借り”――って?」
結果、迷いつつも乗ることに。我ながら妙な言い方になっちまった。ただでさえ俺がこの人を狙ってるとか下らん噂されてるのに。
「本当? ぜひお願いします! あたしも出るので!」
だが、笑顔というこれまた予想外の反応が返ってくる始末だった。やれやれ、俺が嫌われ者って知ってるくせに人がいいことだな。
「ふふ、今から楽しみです♪」
けどまあ彼女、このバイト先じゃ唯一まともな人だしせっかくの誘いを無下にするのもよくないよな。“俺がよく見てればいい”か。
* * *
「大学生の塾講師といえど教育者の端くれだ。三夜さんにはその自覚がないから保護者のクレームも多いんだよ。それわかってる?」
案の定、事なかれ主義の社員らはさっさと帰り、あとはたかがバイトの独壇場だ。
「あはは……。すみません、これからは気をつけます」
苦笑いしかできないひとりをここぞとばかりに口撃だ。聞いてて気分が悪くなる。
『今日は渋谷で5次回♪ 皆でサボタージュ♪ っとォ……げぼ』
『女狐ェ……アタマ痛いンだから騒ぐなっつの。ウィィ……ぐぶ』
『Was ist denn los、叔母さんもナリコも。夜はこれからだろ?』
『……ハハッおうとも! 珍しく意見が合ったなシュテイン!?』
ふう、さらには隣の座敷にも酔っ払い客たちのお着きかよ。まあこれもある意味いいタイミングだったし隙を見て、
「三夜さん、僕の注文まだ来てないんで聞いてきてもらえますか」
そうして少し経ってから俺も席を立った。すると襖の陰から「ありがとう。伝わりました」と上目遣いが注がれる。
「さっきからずっとイビられてたあたしをかばって席、外させてくれたんでしょ?」
「さあ、何のことだか? それよりさっきの件、早いトコお願いしたいんですけど」
「ふふ、自分でやりなさい♪」
「いや、俺トイレに行くので」
「もう、あたしこっちに戻りたくないです。よかったらふたりだけで話しませんか」
「えっ。話って、何をです?」
「実を言うとあたしも小説好きなんですよ。明星さんもそういうの詳しいのかなと」
「そうなんだ。まあそんな知識はないけど。じゃあ、喫煙所でよければいいですよ」
「吸うの? ふふ、何か意外」
「嫌じゃないなら、行こうか」
「ふふっ、トイレはいいの?」
むうっ、今日これで何度目だろう。また思わぬ展開になったな。けど河野と同じ空間にいたくないのは俺も一緒だ。
それにやっぱこの人もそういう趣味だったか。ならせっかくだしさっきみたく創作談議もいいかな。そんなことを思い歩いてると、
「応、大丈夫かい兄サンよ?」
不意に飛び込んできた光景に度肝を抜かれる。曲がり角のすれ違いざまぶつかり、尻もちをついた痛みなんてどうでもいいほどに。
視線を上げれば2mはある巨漢が悠然とそびえ立ってたからだ。しかもふたりも。
「悪ィなァ。余所見してたぜ」
でっでで、デケェ! シャツの下からでもわかるゴッリゴリでバッキバキの筋肉!
短髪だがリアル範馬勇次郎かってほど暴力的、破壊的な体躯がそこにあったのだ!
「連れが失礼を。立てます?」
手を差し出したこっちもかなりのガタイだ。目を引くは顔の右半分まで覆う銀髪。
このダンディかつ色気もある感じ、DMCダンテがスーツを着たらこんなだろうか。
「いっ、いえっ。そのっ――」
そんな俺はというと怯むばかり、こんないかにも漫画的な強キャラ然とした迫力にただ気圧されるのみだった。それもふたり分の。
「さあしっかり。建、そっちの腕を持ってさしあげろ」
「応、じゃあ行くぜ兄サンよ。いっせーの、せいっと」
そうして支え起こしてもらった時、その瞬間だった。
(ご覧下さい義父上! わたしもついに極意を会得致しました!)
(坊ちゃんも【氷】をすっかり使いこなして。すごい素質ッスね)
(この子は“月”だ。星などよりよほど才にあふれているだろうさ)
これは。これは――何だ??
(先陣はそなただ。その一騎当千の力を存分に振るうがよかろう)
(応! 任されよ。だが千などと見くびって貰っては困るな。おれの武は“一騎当億”よ! その眼で然と照覧あれ!)
この――“映像”は。一体??
「おいおい本当に大丈夫かい。おれを恨むなよ兄サン」
「気を確かに。よければ座席までお連れしましょうか」
――ここで視界が元に戻る。ふたりに「結構……ただの目眩です」と答え三夜さんには「大丈夫、行こう」と言う。
今のは一体、何だったんだろう。一瞬意識があっちの世界みたいなトコに飛びサブリミナルのように見えたアレは。
でも意識はちゃんとここにある。それに前にもルーシーの声が聞こえたこともあるし別に気にしなくてもいい、か?
* * *
「さあてと、一服も済んだしそろそろ行きましょうや」
「……」
「ん? オイ一体どうしたんだい、何を呆けてんだよ」
「今の青年、どこかで。確かどこかで見たことが――」
「おい、本当にどうしたってんだい。あんた様までよ」
「……」
「あの小僧をじっと見て何だ。遂に男迄いける様になったのかい」
「ああ、女色を極めるとそうなると言うしな。それが仮に弟でも」
「……は?」
「ひとつ尻貸してくれよ、建」
「ひいっ! たっ、退散!!」
「――今の青年。まさか、な」




