68. △「赤い実、はじけちゃった!? ~2019.11.25 19:36」
「えっ、最近読んだ小説みたいな、って?」
「うん、まあ本じゃなくwebのですけどね」
「えと、ちなみに似てるって何がです??」
「大切なのは“積み重ねと思考を止めないこと”。あと普通じゃない“日陰者”なりに頑張ろうって精神」
ん? ハテ、それどっかで聞いたような。
「それって“物書きになろう”みたいな??」
「そうです、まさにそこ」
「ちなみにタイトルは?」
「ええと確か……【裸であったが、恥ずべきことと思え】ってやつです」
バサッ――
「あっ、落としましたよ」
「あっ、はっは――はい」
「最初は微妙な話だなと思ったけど読み進めればこう、味わい深くてね」
「……」
「進行は遅いし群像劇だから視点変更も多くって難解かもだけど、意味深な伏線が少しずつ回収されてくカタルシスがあって」
「……」
「表現のセンスやキメ台詞の言葉選びが光っててね。ゆるいの好きな今時のパンピーには受けないだろうけど、僕は好きだな」
「……」
「テンポや手軽さばかり重視して薄く野暮ったいよりよほど良い。あのサイトじゃ人気獲れないだろうけど名作だと思います」
呆然とするあたしをよそに、彼は初めて見るような顔で饒舌に続ける。
「一番好きなのは強キャラの書き方かな。幾度も修羅場をくぐってきた凄味と余裕すなわち積み重ね」
「僕みたいに無力なジ・オタク男がズルして強くなったりしちゃ駄目なんだ。何の魅力もないからね」
「で『主役は自分じゃない、近づこうとする者だ』って言葉が深く刺さった。気づけば感想書いたりといろいろしてましたね」
「タイトルの意味もそこでわかって。ぬるま湯を出て何も持ってない現実、丸裸を受け入れろ。そこから始まるんだっていう」
「皆所詮ただのヒト、現実で頑張るしかないって大切なことを訴えてるのに見向きされてないからじゃあ俺が読もう、ってね」
こっ、これは。なんとあの素敵なメッセージと一字一句同じだった――
まさか当人が、夜風リリスに最上の励ましをくれた【夜刀神さよこ】さんがこんな側にいたなんて。
「まあ僕はその、DB超よりGT、超サイヤ人ブルーより4が好きな変わり者だから。結局正しいのは評価を下す受け手ですけど」
「そんなことないですよ。作者もきっと喜んでるはずです……とっても」
「そういや三夜さんと名前似てたな。ファーストネーム何でしたっけ?」
「……凛々」
これは嘘。“凛々翠”じゃ恥ずかしいからそう表記してもらってただけ。
「考え方も僕にはないモノがあった。『読者が楽しめるのが第一。営利のためには人集めの敷居も下げないといけない』って」
これも嘘。ただ角が立たないように猫を被っただけ。あたしだっていかにもなテンプレの寄せ集めなんて大々大っ嫌いだよ。
しかも流行だから自分も同じようなの書くとか、動画を観ながら読める文だなんてそもそも小説である必要がまったくない。
そう、人は活字で教養を得てきた。それも多様な。どれもこれも似通った頭の悪そうなのばかり本になるなんて間違ってる。
出版されても大多数が売上不振で打ち切りになるのが何よりの証明だ。
「タニシの住家でも鮎は釣れるんだって見直しました。求める釣り人が来なそうなのが残念ですけど」
いえ、あたしもあなたを見直しました。ああ正体を明かしたい、あなたの絶賛する作品を書いたのはあたしなんですよ、と。
ああ、何だかそんな“補正”で、言っちゃ悪いけどあたしと同じ陰キャ然とした童顔無表情も整った美少年っぽく見えてきた。
とにかくどんな人か気になってたけど実物も悪くないししかも今はこんな狭い空間でふたりきり。やだ、急に恥ずか――///
「おいっ三夜さんうるさいよ! 塾講師とあろう者が騒いでどうする!」
「ンな大声は出してませんよ、河野さん?」
「むっ。――明星君は、関係ないだろうが」
「ありますよ。ほぼ俺の声なのに、なんで彼女の名前で注意すンですか」
「――言い訳するんじゃない! 生徒のために私語は慎む、常識だろ!」
けど、せっかく話の弾んでた途端こうして沈黙せざるを得ない空気に。
「すっ、すいません。あたしのせいで……」
「いや、悪いのは僕ですから気にしないで」
でも、とにかくこんな感想は一般人からじゃまず出てこないな。なろうじゃ投稿作はなかったけど彼も創作やる側なのかな。
そう、ここで何かこう、もっと話したい――そんな思いが湧き上がる。
あっそうだ、ちょうど今晩おあつらえ向きのイベントがあったじゃないと、ひとつ尋ねてみたけど、
「異動する副室長の送別会? 行くわけないですよ、そもそも呼ばれてないし。何せ主催者のあいつに大層嫌われてますから」
うーんそれはまあ確かに。あの人あたしにも必要以上に当たり強いし。
残念、彼が行かないならあたしも――いや待った。それもそれであとでまた何か言われそうだなぁ。
どうすればと悩んでると明星さんも何やら考え込み始めた様子。でもやがて小さくため息をつきつつもどこか微笑みながら、
「三夜さんが行くんなら――俺も行くかな」




