1話
「おぉ・・・」
思わず、そんな声が漏れてしまった。
目の前にはレンガ造りの建物がずらりと並び、ところどころに人間とは違う種族の人が目に入る。
中世ファンタジーとはまさにこれだと言わんばかりの光景が目に飛び込んできた。
「とりあえず記念に一枚!」
いつものようにスマホを操作して写真を撮る。この街のシンボルっぽそうな時計塔をバックに、ポーズを決めてシャッターを押した。うん、いいカンジ。
そのまま写真をインスタにアップして、今立っているこの街の大通りに沿って歩き出す。
大通りにはいろんな商店が構えていて、そのどれもが、元の世界では見たこともない物ばかりだった。
食べ物や服、ペットとか武器屋みたいな店までいっぱい。思わず写真を撮りまくっちゃったけど、お店の人には変な冷やかしと取られたのか、あまりいい顔はされなかった。
そして見てる内に気づいたけど、どうもあーしはこの世界の文字を読み書きできるみたい。
たぶんあの神様のフォローだと思う。ありがたい。
でもお金に関してはフォローしてくれなかった。
当然、あーしはこの世界のお金なんて持ってない。
あーしだって見てるだけじゃつまんないし、いっぱい買い物もしたい。・・・ていうか今日泊まる所とか、それ以前にご飯も食べられない。あれ、思った以上にあーしヤバい・・・?
「よぉ、どうした嬢ちゃん。お困りかい?」
「あっ、はい。実は・・・?」
ナンパじみた助け舟の声に振り向いてみると、そこには誰もおらず、大通りを行きかう人々が視界に入るだけ。
え、なに? イタズラ? 幽霊?
「ここだここ」
「え? わっ!?」
再び聞こえてきた声の発信源は、あーしの視線の少し下。
リ〇ちゃん人形サイズの可愛らしい子が、宙に浮いた状態であーしを見上げていた。
「何だ? 妖精を見るのは初めてか?」
「よ、妖精?」
小さな体に背中に生えた蝶の羽。
可愛らしい小さい顔に、揺れる赤い長髪が神秘的。
確かにその子は、あーしのイメージする妖精そのままのシルエットをしていた。
「おう。名前はゼルだ、よろしくな」
「ど、どうも。あーしは赤羽茜・・・です」
「敬語はいらねーよ。んでアカネ、見た感じお前はお上りさんみてぇだが、何しにこの街に来たんだ?」
「あー、えっと、この世界を色々見て回ってみたいんだけど、その、お金が無くて」
「なるほどな」
赤毛の妖精 ゼルは、合点がいったとでもいう風に手で顎を触り、ふむふむと頷いている。なんか見た目の割にサバサバしてるなこの子。
「そういう事ならまずはギルドだな。俺も用があるんだ、一緒に行こうぜ」
「あっ、うん。ありがとう!」
あーしはゼルの後ろについて行き、名前だけは聞いた事のある『ギルド』に向けて大通り沿いを歩きだした。
街の中心部らしい広場に来ると、『冒険者ギルド』とでかでかと書かれた看板が目に入った。
他の建物と比べてひと際大きく、頑丈そうな造りをしている。
「おー、すごいね! 迫力満点!」
あーしが夢中で写真を撮っていると、ゼルが変な目で見ながら中に入るよう促してくる。
「何してんだ? 早く行くぞ」
「ゴメンゴメン。初めて見たからつい」
「・・・なるほどな。よし、気を取り直して行くぞ!」
ゼルはあーしの持ってるスマホを不思議そうに見つめた後、改めてギルドの入り口に向き直り、両開きの大扉を勢いよく開けた。
「おおおおお!」
ギルドの中は、アニメやゲームでしか見た事ない出で立ちの人々でごった返していた。
鎧を着こんだ戦士風の人や、とんがり帽子を被った魔法使いみたいな人。
たぶんこの人たちが『冒険者』なんだろう。看板にも書いてたし間違いない。
写真撮りたい欲に駆られたけど、さすがにいきなりは失礼なので、ここはぐっと我慢する。大通りの件もあるしね。
冒険者たちはギルドに入ってきたゼルを見るなり、くだけた様子で口々に挨拶を交わしてきた。
「ん? おうゼル、遅かったな! 何だそのカワイコちゃん? ナンパでもしたのか?」
「ちげーよ。人助けだ」
「人助け? あのチンピラ妖精が?」
「似合わねー!」
「よーしお前ら表出ろ。全員ブッ飛ばしてやる!」
到着早々ワーワーと騒ぎだすゼル含む冒険者たち。
おぉ・・・こういう荒くれ者のどんちゃん騒ぎは嫌いじゃない。
「よし、いいカンジ」
結局我慢できずに撮ってしまった。
まぁ風景画みたいなもんだし、いいでしょ。うん。
「コラコラ、そこまでにして下さい。他のお客様の迷惑ですから」
制服を着た職員風のお姉さんが、ゼル達の間に割って入る。
本人たちも止め時を探っていたのだろうか、すんなりとお互いに手を引いた。
「チッ、しょうがねえ。ケリは今晩、飲み比べでつけようぜ」
「望むところだ! テメーのちっこい体にどんだけ酒が入るのか楽しみにしてるぜ!」
このセリフにもう一度湧き上がる冒険者たち。
各々どっちが勝つか予想し合い、早くも賭けが始まっている。
いいね! いいよこういうの!
こういうバカ騒ぎは日本じゃ絶対見れないし!
冒険者の熱気に充てられたあーしも、夢中になって写真を撮っていく。
「わりぃ待たせた・・・って何してんだお前さん?」
話を終えて戻ってきたゼルが、スマホを構えるあーしを不思議そうな目で見つめてくる。
それを一枚パシャリと撮って、ゼルに見せてみた。
「うぉっ!? なんじゃこれ!?」
「写真ってゆーの。景色を切り取った絵って言えばいいのかな」
「はぁー、すげえモン持ってんのなお前さん」
他の色んな写真もスワイプして見せるたびに、はーとかほーとか反応するゼル。ちょっと面白いかも。
「・・・あぁなるほどな。だからお前さんは世界を見て回りたいと」
「そ。綺麗な景色とか、迫力ある魔物とか! そういうのをインスタに上げたくて、この世界に来たの!」
「おもしれえ奴だな。正直よく分からんところもあるし、もっと教えてくれよ。その代わりメシ奢ってやるから」
「いいの!? 行く行く!」
「決まりだな」
そうしてあーしはゼルに連れられるまま、ギルドに併設された酒場へと足を運んでいった。




