第九章 最強の武器と予期せぬ悲鳴
映画ノベライズ『もしも、僕の彼女が妖怪ハンターだったら。。。(おかわり)』第九章「最強の武器と予期せぬ悲鳴」をお届けします。
今回は、さらなる強敵を見据えたハンターたちの「武器」にまつわるお話です。伝説の武器をゲームのドロップアイテムやネット通販の感覚で欲しがる大和と、それに冷静なツッコミを入れる雛と七海。三人のテンポの良い会話劇の中で、日本神話の伝承や巫女としての七海の知識が光ります。
真面目な妖怪談義が盛り上がってきた矢先に響き渡る、予期せぬ悲鳴。シリアスとコメディが絶妙なタイミングで交差する展開をお楽しみください。
夜の居間。テーブルを囲んで座る大和、雛、そして赤い服の七海。大和は手元で導線の被覆を剥く作業をしており、雛は書類仕事の手を休めて口を開いた。
「ヤマタノオロチは本当にレアだから、ラスボス並みに強いとは思うんだけど。でもその分、賞金もとてつもない額だと思うんだ」
大和は作業をしながら、感心したように相槌を打つ。
「やっぱ大物か」
「うん、今よりもっと強い妖怪を倒さないとね」
雛は真剣な表情で頷き、
「でも、今のままじゃあムカデやノヅチを倒すので精一杯だし」
と付け加えた。
大和は手元の黄色いカッターのような工具を握り直すと、熱を込めて身振り手振りを交え始めた。
「やっぱ強い敵にはもっと、強い武器がないと……」
振り回したカッターが、七海の方へ向きそうになる。
「あ、危ない」
大和は慌てて動きを止める。
雛は身を引き、諭すように頷いた。
「危ない危ない」
七海が、ふと伝説の話を持ち出した。
「スサノオがオロチを倒した後、オロチの尻尾からアメノムラクモノツルギ、後の草薙の剣ってすごい武器が出てきたけどね」
その言葉に大和は目を輝かせる。
「やっぱりアイテムとかドロップするんだ」
「クエストのアイテムじゃないし」
七海が呆れたようにツッコミを入れた。
「違うんだ」
大和は少し残念そうに返す。
雛が冷静に話をまとめる。
「そもそも小物妖怪が、武器を落とすわけないし」
「あ、じゃあ買えばいいじゃん」
大和は閃いたように身を乗り出した。
「あの、その、なんとか通販で」
「妖怪ハンター御用達通販?」
「そうそうそうそれ。それで売ってないの?草薙の剣」
大和が期待を込めて聞く。
雛は冷ややかな目を大和に向けた。
「大和まだ借金する気?」
図星を突かれた大和は、しどろもどろになって弁解する。
「いや、あ、あの、これ、そういうつもりじゃ……すいません」
七海も静かに首を振った。
「それに草薙の剣はお金じゃ買えないわよ」
「そうなの?」
七海が指を立てて、一つ一つ数えるように説明する。
「草薙の剣、八咫の鏡、八尺瓊勾玉。この三つは三種の神器と呼ばれていて国宝なのよ」
「へえー、七海詳しいね」
大和が純粋に感心すると、七海は少しムッとして答えた。
「私これでも巫女なんだけど」
「そうでした、すいません」
大和は再び小さくなって謝った。しかし、気を取り直したように、もう一つの疑問を口にする。
「あの、いいかな」
「うん」
雛が頷く。
「あの、アメノムラクモノツルギは、ヤマタノオロチを倒した後にドロップしたんだよね」
大和が確認するように尋ねると、雛は「うん」と答えた。
「じゃあ、スサノオノミコトは、何の武器でヤマタノオロチと戦ったの?」
大和の素朴な疑問に、七海が即答する。
「オロチノカラサイ」
「え?」
大和が聞き慣れない名前にポカンとした瞬間だった。
「ああああー!」
突然、奥の部屋から翔太の悲鳴が夜の家に響き渡った。三人はビクッと肩を揺らし、声のした方へ振り向く。
「妖怪?」
雛が緊張を走らせる。
「え?」
七海が戸惑う中、大和はハッとして立ち上がった。
「翔太だ!」
大和は一目散に襖を開け、翔太の部屋へと駆け出していった。雛と七海も慌ててその後を追うのだった。
第九章「最強の武器と予期せぬ悲鳴」、いかがでしたでしょうか。
「オロチノカラサイ」というスサノオが使った聞き慣れない武器の名前に大和が首を傾げた絶妙なタイミングで、見事に翔太の悲鳴がオチを持っていきました。
前章のラストで、付喪神のロレッタに巨大な筆ペンで顔中を「かわいく」落書きされていた翔太。妖怪の襲撃かと緊張して部屋へ駆け出す大和たちですが、読者や視聴者の皆様には悲鳴の理由がはっきりとわかっているという、アンジャッシュ的なすれ違いの可笑しさが詰まったシーンです。
RPG感覚で武器を手に入れようとする大和の気の抜け具合と、借金という現実問題に直面する雛のシビアな対比も、本作ならではの面白さですね。翔太の顔面が一体どんな仕上がりになっているのか、次章のドタバタ劇にもご期待ください。




