第四章:暗闇の遭遇
映画ノベライズ『もしも、僕の彼女が妖怪ハンターだったら。。。(おかわり)』第四章「暗闇の遭遇」をお届けします。
前章に引き続き、巨大妖怪・野槌の口へと引きずり込まれていく大和の絶体絶命のピンチから幕を開けます。一方で、第二章で不気味な屋根裏部屋から逃げ出した市華にも、謎の追っ手の刃が迫り……。
夜の林という同じ舞台で起きていた二つの逃走劇が、ついに交差します。緊迫したシリアスな展開と、大和を待ち受ける理不尽でコミカルなオチのギャップをお楽しみください。
夜の林の中。神大寺市華は、何者かから必死に逃げていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
荒い息を吐きながら、鬱蒼と茂る木々の間をがむしゃらに駆け抜ける。その後方から、顔の見えない追っ手の男が音もなく迫り、懐から冷たい光を放つナイフを取り出して投げつけた。
ヒュッ!
風を切る音とともに飛来したナイフは、木の根に躓いて転びそうになった市華の頭上をギリギリでかすめ、目の前の大木に深く突き刺さった。恐怖に顔を引きつらせ、市華がへたり込んだその時。
「たすけてくれー!」
林の奥から、見知らぬ男の悲痛な叫び声がこだました。市華はハッとその声に振り向くと、弾かれたように立ち上がり、声のする方向へと走り出した。
同じ頃、林の別の場所では、稲田大和が絶体絶命の危機に瀕していた。
「助けてー!助けてー!」
大和の体は、巨大な妖怪・ノヅチのすさまじい吸引力によって、ズルズルと地面を引きずられていく。万事休すかと思われた瞬間、大和は咄嗟に地面に落ちていた太い木の枝を両手で掴み取った。
大和の腰につけているお守りがチリンと鳴った。
ノヅチはそのまま大和を丸呑みにしようと巨大な口を閉じるが、大和が掴んだ木の枝が上下の顎につっかかり、口が閉じられない状態になる。大和はノヅチの口の入り口で、真っ暗な胃袋に吸い込まれないよう、必死に枝にしがみついて耐えていた。
そこへ、謝花雛が疾風のように走り込んでくる。手にした剣を一閃させ、ノヅチの体を真横に一直線に切り裂いた。強烈な紫色の放電が迸り、さらに巨大な白蛇が姿を現す。白蛇がノヅチの大きく開いた口から飛び込み、体内を貫いて尻尾から抜け出た途端、ノヅチの巨体はボロボロと土塊のように崩れ落ちた。
大量の土くれが、真下にいた大和の頭上からドサドサと降り注ぐ。全身が泥と土にまみれ、見るも無惨な姿になった大和は、涙目で天を仰いだ。
「なんで、こうなるの!」
理不尽な結末に文句を叫ぶ大和を見て、雛はホッとしたような顔でふっと微笑んだ。
ノヅチとの死闘を終え、林の中を歩いて戻る三人。全身ドロドロの大和を中心に、七海と雛が彼を挟むようにして、少し距離を取って歩いていた。
「これ、ドロドロ酷くない? 雛ちゃん。もうちょっと早く助けてくれてもいいんじゃないかな」
大和が不満げに口を尖らせながら歩み寄ろうとするが、雛は冷たく言い放つ。
「大和、それ以上近づかないで」
雛に冷たくあしらわれた大和は、今度は反対側を歩く七海の方へと顔を向けた。
「七海、俺、そんなに臭い?」
一歩近づきながら尋ねる大和に、七海は全力で顔をしかめて手で制止する。
「ちょっと、来ないで来ないで来ないで!ああーそれ以上来ないでー、臭い!」
「臭い?」
「臭い!うわぁ!」
大和が近づくたびに、七海は悲鳴を上げて距離を取る。
ガサガサッ!
突如、前方の茂みから激しい物音が響いた。大和、雛、七海の三人が一斉に振り向き、ピタリと足を止めて身構える。暗がりの中から転び出るようにして姿を現したのは、息を切らした市華だった。
「お願い!助けて!」
切羽詰まった声で叫び、市華は三人の前に立ち止まる。しかし、彼女の視線が泥まみれの大和に向いた瞬間、市華は思わず顔をしかめ、指で鼻をつまんだ。
「臭い!」
緊迫した空気は、大和の放つ異臭によって一瞬にしてかき消されてしまった。
第四章「暗闇の遭遇」、いかがでしたでしょうか。
間一髪のところで野槌を撃破した雛のクールな剣捌きと白蛇の召喚は胸を熱くさせますが、その真下で泥まみれになる大和の不憫さがなんとも言えない見事なコントラストを生み出していました。
謎の男から命からがら逃げ延び、必死に助けを求めて飛び出してきた市華の緊迫感を、大和の「異臭」が一瞬で台無しにしてしまうという、シリアスとコメディが怒涛の勢いで入り乱れる本作らしいシーンです。
ここから市華という新たなキャラクターが本格的に合流し、物語の謎がさらに深まっていきます。彼女を追っていたナイフの男の正体とは? そして、大和は無事に泥の匂いを落とせるのでしょうか。次章の展開もどうぞお楽しみに!




