第五章:思いがけない訪問者
映画ノベライズ『もしも、僕の彼女が妖怪ハンターだったら。。。(おかわり)』第五章「思いがけない訪問者」をお届けします。
夜の林での死闘から一転、舞台は落ち着いた民家の和室へ。謎の追っ手から逃げ延びた市華を匿う大和たちですが、マイペースに動き回る付喪神のロレッタを市華から必死に隠そうとする、コミカルな攻防が繰り広げられます。
さらに料理担当だった四人目の仲間・翔太も合流。張り詰めた緊張感が一気にいつものドタバタ劇へと変わる、絶妙なテンポ感をお楽しみください。
夜の民家の中。落ち着いた和室のテーブルに、温かい湯気を立てるコーヒーカップがコトンと置かれた。
「はい」
七海がカップを差し出すと、まだ少し怯えた様子を残す市華が小さく頷く。
「ありがとう」
市華の隣には雛と七海が座り、彼女を労わっていた。そこへ、シャワーを浴び終えた大和が、首にかけたタオルで濡れた髪を拭きながら部屋に入ってくる。
「ふぅ。あの場所に変な人はいなかったし、さすがにここまで追ってはこないと思うよ」
大和がそう言って腰を下ろすと、七海が市華の顔を優しく覗き込んだ。
「大丈夫、怪我はない?」
雛も尋ねる。
「とりあえずここにいれば安心だと思う。一体誰に追われてるの?」
その時、雛の前のテーブルの上に置いてあるスタンドの明かりが消える。
犯人は、雛が大切にしている人形の付喪神・ロレッタだった。
普通の人間が自由に動き回る人形を見たら、きっと卒倒するに違いない。
慌てて、市華にロレッタのことが知られないように誤魔化そうとする三人。
七海は市華の気を逸らすように、矢継ぎ早に問いかけた。
「どこから来たの?家は近いの?追ってくるのは男?女?」
その間も、ロレッタは小さな紙飛行機を飛ばしたり、大和の膝をつついてみたりと、イタズラが止まらない。
「ストーカーかな?何かされた?」
七海も誤魔化すのに必死だ。
「名前は?」
大和まで前のめりになって問いかけると、市華は戸惑ったように視線を泳がせた。その様子にハッとした七海が、慌てて謝罪する。
「ごめんね、質問攻めで」
少し落ち着きを取り戻した市華は、ぽつりと口を開いた。
「私は、神大寺市華」
「私、山口七海」
「私は、謝花雛」
「僕は、稲田大和。みんな同じ大学の同級生で、今日はあの、友達の実家の、お留守番がてら四人で旅行に来てるってわけなんだけど。あ、その四人目はね、今キッチンで料理中」
大和の言葉に、市華は小さく頷いた。
「とりあえず警察に連絡しといたほうがいいと思う」
七海がそう提案した、まさにその時だった。
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴り響き、一同にピリッとした緊張が走る。
「はーい!」
キッチンの奥から、エプロン姿の西山翔太の呑気な声が聞こえた。
「どちら様?今開けますね!」
翔太がズカズカと玄関へと歩いていく。大和や七海、雛は慌てて「開けるな!」と必死のジェスチャーを送るが、翔太は全く気づかずにガラリと玄関の戸を開けてしまった。
しかし、そこに立っていたのは怪しい追っ手ではなかった。
「すみません。昼間、子供たちがこちらのお庭にサッカーボールを入れてしまったのですが、どなたもいらっしゃいませんでしたので、お庭を探させてもらってもよろしいでしょうか?」
落ち着いた声で話すのは、黒いバンダナを巻いた男性・葛城久音だった。
「あぁ、どうぞどうぞ」
と快諾する翔太。
そのやり取りを部屋の奥で聞いていた大和は、ホッと胸を撫で下ろして囁いた。
「違ったみたい。ストーカーじゃない」
それを聞き、雛が玄関の方へと顔を出す。
「あれ?葛城さんですよね?」
「あれ?謝花さん?どうしてここに?」
葛城も驚いたように目を丸くした。
「大学の同級生たちと旅行中。葛城さんこそ?」
「あぁ。僕は毎週ここで、ボランティアで子供たちに人形劇を見せたり、サッカーをしたりしてるんです。あ、ロレッタちゃんはどうですか?」
葛城の問いに、翔太が不思議そうな顔をする。
「ロレッタって誰?」
「あのね、雛ちゃんが大事にしてる人形」
大和が小声で教えると、雛は葛城に向かって微笑んだ。
「ありがとうございます。前よりも綺麗になったって喜んでるみたいですよ」
「そうですか。ロレッタちゃんは可愛いですからね。それはよかった。それではこれで失礼します」
葛城は丁寧にお辞儀をして、暗闇の中へと去っていった。戸が閉まり、部屋に戻ってきた翔太が雛に尋ねる。
「雛ちゃん、あの人誰?」
「あぁ、知り合いの人形師」
「へぇー。こんなところで会うなんて奇遇だね。雛ちゃんが人形好きなんて知らなかったよ。ロレッタちゃんって言うんだっけ?雛ちゃんの人形。よかったら今度僕にも見せてよ」
そう言いながら視線を巡らせた翔太は、見慣れない少女・市華の存在に気づいた。
「お?で、こっちも誰?」
「あぁ、この子は今誰かに追われて逃げ込んできて、僕たちが今匿ってる途中の、こう…」
大和が説明を濁すと、市華が自ら真っ直ぐに見つめて名乗った。
「神大寺市華です」
市華を見た瞬間、翔太の顔がパァッと明るくなった。
「あ、じゃあ今日ここに泊まっていけば!あぁ、俺、西山翔太」
「なんでそうなるかな」
七海が呆れ顔でツッコミを入れつつ、市華に確認する。
「市華ちゃんはそれでいい?」
「うん」
市華が頷くと、翔太は嬉しそうに身を乗り出した。
「それがいいよ。みんなでいた方が心強いし。大丈夫。僕が絶対に市華ちゃんを守るから」
翔太は市華の手を両手でしっかりと握りしめ、熱弁を振るう。
「ほら、手を取り合うも多少の縁って言うじゃない。きっとこれも何かの縁だよ」
その言葉を聞くや否や、七海が容赦なく翔太の手を市華から引き剥がした。
「それを言うなら、袖振り合うも多生の縁!」
「え?そうでしたっけ?」
キョトンとする翔太の顔を、七海が両手でガシッと掴んで強引に自分の方へ向けさせる。
「市華ちゃんのことじっと見てんじゃないわよ。真菜ちゃんに振られたからって、手出したらダメだからね!」
痛いところを突かれた翔太は、目をひん剥いて叫んだ。
「なんでそれ知ってんの!?」
――翔太の脳裏に、キャンプ場でのほろ苦い記憶がフラッシュバックする。
自然に囲まれたテーブルで、横並びになってカレーを食べていたあの時。無情にも立ち上がった真菜が、空になったお皿を差し出して言い放ったあの一言。
『おかわり!』
第五章「思いがけない訪問者」、いかがでしたでしょうか。
動くロレッタに翻弄される三人の慌てっぷりや、雛の知人である人形師・葛城との予期せぬ再会など、今後の鍵を握る要素とコメディが入り混じるエピソードでした。
そして何より、翔太の苦い失恋の記憶と共に蘇った真菜の「おかわり!」の一言。まさか本作のサブタイトルがこんな形で回収されるとは……と思わずクスリとしてしまう、映画本編でも印象的なシーンです。
市華が一晩泊まることになり、ますます賑やかになった一同。しかし、彼女を狙う危険な影が完全に消え去ったわけではありません。次章の展開もどうぞお楽しみに!




