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第十七章 逃走するハンターと残された名刺

映画ノベライズ『もしも、僕の彼女が妖怪ハンターだったら。。。(おかわり)』第十七章「逃走するハンターと残された名刺」をお届けします。

前章の絶体絶命なシリアス展開から一息つき、舞台は再び緑豊かなキャンプ場へ。A5ランクの高級和牛が入ったクーラーバッグをめぐる、夏生と悪徳(?)ハンター・伊神のしょうもない追いかけっこが幕を開けます。

緊迫する本編の裏側で繰り広げられる、まるでコントのような伊坂ファミリーのドタバタ劇。怒涛の展開の合間の、クスッと笑えるコメディブレイクをお楽しみください。

木漏れ日が差し込む公園の遊歩道。肉の入ったクーラーバッグを抱えて全力で逃げる伊神を、夏生が血相を変えて追いかけていた。

「待てー!」

夏生は必死に足を動かし、伊神の背中に追いつく。

「待てと言われて待つ人間見たことあるか!」

走りながら伊神が怒鳴り返すが、ふと何かに気づいたように足を止めた。

「あれ? 待て」

伊神は夏生の肩をがっちりと掴み、二人はその場に立ち止まった。

「待て、待て。なんで俺が逃げてんだよ!」

「あ!」

その言葉にハッとした夏生は、伊神の手からクーラーバッグをひったくると、素早く身を翻し、猛ダッシュで逃げ出した。

今度は伊神が夏生を追いかける番になった。

「あ! ちょっと、三百万円! 待てー!」

伊神の怒声が響く中、夏生は必死に逃げるが、その弾みで足をもつれさせてしまう。

「うわっ!」

夏生が転倒した瞬間、手からすっぽ抜けたクーラーバッグが宙を舞った。伊神はそれを見逃さず、空中で見事にクーラーバッグをキャッチする。すぐさま中の肉を確認して安堵する。

「おっ!」

伊神が肉を確認して周囲を見回すと、そこにはすでに夏生の姿はなかった。

「……しまった、どこ行きやがった」

伊神は誰もいない遊歩道をただ呆然と見回すしかなかった。

一方、駐車場では、奈美とさくらが停めた車の中に座って待っていた。そこへ、手ぶらの夏生が息を切らせて走って戻ってくる。夏生は疲れ切った様子で、車のドアに寄りかかった。

車の中から、奈美が不満げに尋ねる。

「あなた、お肉は?」

さくらも後部座席から身を乗り出して聞く。

「取り返した?」

「あなた、まさかお肉取られたんじゃないでしょうね?」

奈美が鋭い視線を向けると、夏生は荒い息を整えながら誤魔化すように言った。

「えー、あのお肉で、三百万チャラになるかもなー」

その言葉を聞いて、奈美は少し考え込んだ。

「はあ……三百万払うより、お肉で済めば安かったわね」

「へへ、そうだね。よし、バーベキューは中止! もう帰ろう」

夏生が宣言すると、奈美もあっさりと同意した。

「そうね、帰りましょう。あなた、さっさと片付けて!」

「はい」

奈美たちを車内に残し、夏生は一人で芝生のバーベキュー会場へと向かった。ポツンと残されたテーブルやコンロの前に立ち、夏生はぶつぶつと独り言をこぼしながら片付けを始める。

「よいしょ。よし、片付けようかな。はいはいはい。本気出しちゃうからね。はいそれピッ、それで片付けて。ね、さっき広げたのにまたすぐ片付けるんだよ。よいしょ。よいしょ。よいしょ。よいしょ。よいしょ」

夏生は折りたたんだ道具を抱え、車の開いたトランクへと戻ってきた。荷物を積み込んでいる最中、ふとトランクの隅にあった小さな白い紙切れに目が留まる。

「なんだこれ」

夏生は名刺を手に取り、そこに書かれた文字を読み上げた。

「『妖怪にお困りなら。親切、誠実、安い。妖怪ハンター伊神昇』……なんだこれ。ゴミだな」

その時、車のドアが開き、奈美が顔を出した。

「もう、あなた早くして!」

「あ、あーっ! はい!」

夏生が慌てて返事をすると、奈美が提案した。

「せっかく来たんだから、どっかで一泊しましょう」

「あー、そうだな」

夏生はトランクを閉め、急いで運転席に乗り込んだ。車がゆっくりと走り出し、駐車場を後にしていく。車内では、三人の会話が続いていた。

「いやー、奈美、さくら、この埋め合わせは必ずするからな」

「どこにしようかなー」

奈美が楽しげに言うと、さくらが提案する。

「山とか?」

奈美は即座に却下した。

「テントで一泊は嫌よ。山は……絶対に嫌!」

「よーし! 山じゃないところに行きましょう。ついでに虫も少ないところね。ここは山じゃない方向、右です! 右に曲がります! よーし、山じゃないどっかに向かって出発!」

夏生の明るい声と共に、伊坂ファミリーを乗せたミニバンは緑の木々を抜けて走り去っていくのだった。

第十七章「逃走するハンターと残された名刺」、いかがでしたでしょうか。

走りながら「なんで俺が逃げてんだよ!」と冷静に我に返る伊神と、ハッとして今度は自分から逃げ出す夏生の見事なアンジャッシュ的すれ違いコント。そして、あんなに執着していた高級お肉を奪われたにもかかわらず、「三百万払うより安かったわね」とポジティブに納得してしまう奈美のあっけらかんとした態度が最高です。

トランクに残されたうさん臭い伊神の名刺を「ゴミだな」と一蹴し、めげずに次の旅行先へと向かっていく伊坂ファミリーの逞しさにほっこりさせられるエピソードでした。

映像版では、誰もいなくなったバーベキュー会場で一人ぶつぶつと愚痴りながら高速で片付けをする夏生(お父さん)の哀愁漂うコミカルな演技が光っています。ぜひ配信サイトでもお楽しみください!

さて、お肉を巡る争いが平和に(?)一件落着したところで、次回はいよいよ大和たちの緊迫した本編へと視点が戻ります。葛城に連れ去られた雛はどうなってしまうのか……次章の怒涛の展開もどうぞお楽しみに!

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