第十六章 捕らわれた大和と白蛇の鱗
映画ノベライズ『もしも、僕の彼女が妖怪ハンターだったら。。。(おかわり)』第十六章「捕らわれた大和と白蛇の鱗」をお届けします。
ついに本性を現した人形師の葛城と、彼に操られるように動く市華。大和をめぐる女同士の修羅場かと思いきや、市華の真の目的はまさかの「雛」自身でした。
大和がまたしても「釣りの餌」として扱われる情けなくも笑える幕開けから一転、物語は葛城の恐るべき陰謀と、最強のハンターであるはずの雛が戦意を喪失してしまう絶体絶命のシリアスバトルへと突入します。息を呑む急展開をお楽しみください!
荒涼とした採石場のような場所。大和は鉄骨の柱に太いロープでぐるぐる巻きに縛り付けられていた。目を覚ました大和は、自分の状況に気づき慌てて声を上げる。
「あれ? あれ? 俺、どうしたんだっけ?」
少し離れた広場では、雛と市華が対峙していた。それに気づいた大和が叫ぶ。
「あ! 雛ちゃん、いや、市華ちゃん!」
「市華! 大和を返して!」
雛が鋭い声で要求する。
「渡さない! あなたが納得するまで!」
市華も引かない。
「納得するも何も……」
「お願い! 稲田さんと別れて!」
市華が悲痛な声を上げる。
「え、あなたが何言ってるのかわかんないんだけど」
雛が困惑した表情を見せる。
「稲田さんは、稲田さんは、私にとって!」
市華が感情を露わにする。
大和が縛られたまま必死に叫ぶ。
「やめて! 俺のために争わないで!」
しかし二人は同時に大和の方を向き、声を揃えて言い放った。
「大和さんは黙ってて!」
「大和は黙ってて!」
直後、雛が手を突き出し、大和に向かって強烈な電撃を放った。
「うわああああ!」
バチバチと音を立てて電撃を浴びた大和は、白煙を上げてうなだれ、
「ごめんなさい……」
と小さく謝った。
雛は再び市華に向き直る。
「これはどういうこと?」
「あなたよ。あなたが欲しいの」
市華の言葉に、大和も雛も驚きの声を上げた。
「えっ?」
「えっ?」
「雛、私の元にきて! あなたが言うこと聞いてくれないと……」
市華が切実な表情で訴える。
大和はたまらず口を挟む。
「えっ、市華ちゃん、俺が目的じゃなかったの? さっきの事とか、昨日のあれとかって」
「え? 昨日のあれって?」
雛が不審そうに聞き返す。
「え、いや! なんでもありません!」
大和は慌てて顔を背けた。
市華は冷たく言い放つ。
「あなたは、雛を釣るためのただの餌よ!」
「ええっ! やっぱ俺、釣りの餌だったんだ……」
大和が肩を落とす。
「一体何が狙い?」
雛が問い詰めたその時、重々しい男の声が響いた。
「何が狙いか教えて差し上げましょうか」
足音と共に、頭に黒いバンダナを巻いた男、葛城が姿を現した。
「葛城さん?」
雛が驚く。
「人形師の……人」
大和が呟く。
「オロチの八番目の首として、あなたの白蛇が欲しいのです」
葛城は淡々と告げる。そして市華を見た。
「市華、よくやりましたね。あの男を餌に、雛をおびき寄せるなんて思いもしませんでした」
葛城が右手の見えない鎖を引くような仕草をすると、赤い着物と袴姿の少年、紅玉が光と共に引きずり出されるように現れた。
「紅玉……」
市華が悲痛な声を漏らす。
「雛、大人しくこっちへ来るんだ」
葛城が命じると、紅玉が持っていた赤い扇子を雛に向かって飛ばした。雛はそれをかわし、そのまま葛城に向かって電撃を放つ。しかし紅玉が素早く葛城の前に立ちふさがり、扇子で電撃を防ぎきった。
「いい子ですね、紅玉は」
葛城が言う。紅玉はそのまま柱に縛られた大和の横へ飛び、大和の首に扇子の鋭い刃を突きつけた。
「あなたの、大事な大和が、どうなっても知りませんよ」
葛城が脅す。
「ロレッタ! 私の可愛いロレッタ!」
雛が叫ぶと、光と共にゴシックドレスの人形、ロレッタが現れた。
「こんにちは、雛」
「お願い、大和を助けて!」
「はい、雛」
ロレッタが大和の元へ向かおうとすると、紅玉が立ちはだかり、二人は空中で激しい攻防を繰り広げ始めた。
「市華!」
葛城が命じる。市華は大剣を出し、雛に斬りかかった。雛も赤い柄の剣を出し、市華と激しく打ち合う。そこに葛城も剣を抜き、「はあっ!」と声を上げて雛に襲いかかった。一対二の不利な戦いを強いられる雛。
鍔迫り合いの中、葛城は懐から白い菱形の鱗のようなものを取り出した。
「それは!?」
雛が息を呑む。空中で戦っていたロレッタも、それに気づく。
「あれは!」
「これが何だか分かったようだね」
葛城は鱗を突き出しながら言った。
「雛、大人しくこっちへ来るんだ」
雛の頭の中に、懐かしい優しい雛を呼ぶ声が聞こえた。
「ひ、な」
雛は抗うことをやめ、剣をその場に落とし、ゆっくりと葛城の方へ歩き出した。
「雛ちゃん! 雛ちゃん!」
大和が必死に叫ぶが、雛の耳には届かない。
葛城は歩み寄ってきた雛の額に、白い鱗をかざした。光が溢れ、雛の意識が奪われていく。
また、雛を呼ぶ声が聞こえた。
「ひな!」
その時、突如として白い狐の面を被った狐巫女が空から降ってきた。狐巫女が剣を振るうと、大和を縛っていた太いロープが切断された。
「うわっ!」
拘束が解け、大和がよろける。
「七海!」
狐巫女は素早く動き、市華、葛城、そして紅玉に次々と斬りかかり、彼らを退けた。そして意識を失った雛を支える。
「何をしてるの、雛! あなたらしくもない!」
狐巫女は叫んだ。
「ここは一旦逃げるわよ!」
狐巫女が剣を振るうと、七色の光の帯が彼らを包み込み、狐巫女、大和、雛の三人はその場から一瞬にして消え去った。
遅れてロレッタもその後を追って飛んでいった。
後に残された採石場。葛城は忌々しそうに、三人とロレッタが消えた方向を見つめている。その後ろでは、市華が一人、思い詰めたようにうつむき、立ち尽くしていた。
第十六章「捕らわれた大和と白蛇の鱗」、いかがでしたでしょうか。
「俺のために争わないで!」という大和の盛大な勘違いからの、容赦ない雛の電撃ツッコミ。シリアスな空気の中でも大和の不憫な扱いは健在でした。
しかし、葛城の目的が「ヤマタノオロチの八番目の首」として雛の白蛇を奪うことだったとは驚きです。そして、圧倒的な強さを誇る雛が、葛城の取り出した「白い鱗」と懐かしい声によって、あっさりと抵抗をやめてしまいました。あの鱗には、一体どんな秘密が隠されているのでしょうか。
間一髪のところで狐巫女(七海)が乱入し窮地を脱したものの、雛の意識は奪われたまま。圧倒的不利な状況の中、大和たちはどう反撃に出るのか?
葛城や市華、そして紅玉との大迫力のアクションシーンは、ぜひ配信サイトの映像版でもお楽しみください。物語はついにクライマックスへと向かいます。次章の展開にもご期待ください!




