第十三章 一反木綿騒動
映画ノベライズ『もしも、僕の彼女が妖怪ハンターだったら。。。(おかわり)』第十三章「一反木綿騒動」をお届けします。
前章までのシリアスで少し切ない展開から一転、今回は一反木綿が引き起こす朝のドタバタハプニングです。次々と入れ替わる拘束相手と、そのたびに露骨に変わるキャラクターたちのリアクションが最高に笑える、本作のコメディ要素がフルスロットルで発揮されるシーン。
朝から繰り広げられる怒涛の「密着劇」と、見事すぎるオチをお楽しみください。
朝の光が差し込む、立派な瓦屋根の古い日本家屋。その縁側の外から、白い布のような妖怪『一反木綿』がふらふらと宙を舞い、閉じた窓の隙間から家の中へと逃げ込むように入り込んだ。
居間では、白い割烹着のような上着を着た翔太が、洗濯物の山が積まれた籠を抱えて歩いていた。しかし、床を這うように伸びていた一反木綿の白い布に足をとられ、大きくバランスを崩してしまう。
「うわぁ!……痛っ」
翔太が派手に転倒すると同時に籠は放り出され、中に入っていた大量の洗濯物が宙を舞って畳や板間に散乱した。うつ伏せに倒れた翔太がのそりと身を起こすと、その頭にはフリルのついた白い下着がすっぽりと被さっていた。
「ん?」
翔太は不思議そうに頭の上の布をつまみ上げる。目の前に掲げてしげしげと見つめ、再び「ん?」と声を漏らした。さらに傍らに落ちていた見知らぬブラジャーを拾い上げ、首を傾げて「ん?」と呟く。その間にも、背後の床に散らばった洗濯物の山の中へ、一反木綿がスルスルと紛れ込んでいった。
翔太は手にした下着を籠に放り込み、散らばった衣類を拾い集める。「よいしょ」と自分の服の裾を整えながら立ち上がったところへ、襖が開いて雛が入ってきた。
「おはよう、翔太」
「あ、おはよう、雛ちゃん」
挨拶を交わした直後、雛は部屋の中に漂うわずかな妖怪の気配を感じ取ったのか、「ん?……ん?」と警戒するように周囲を見回し始めた。
「どうしたの?雛ちゃん」
翔太が不思議そうに尋ねた、その瞬間だった。洗濯物の山から一反木綿が勢いよく飛び出し、翔太と雛の二人にぐるぐると巻きついた。
「うわっ!」
「あ!」
二人は向かい合わせの状態でピッタリと密着させられ、布で強固に縛り上げられてしまう。キリキリと締め付ける一反木綿に、雛が思わず声を上げる。
「しまった!締まってる、締まってる」
「どうなってんのこれ」
翔太が慌てて身をよじるが、一反木綿はキリキリと容赦なく二人を締め上げる。
「ちょっと、ちょっと、近い、近い、近い」
「雛ちゃん、近い!」
「近い!」
顔と顔が触れ合いそうな距離で二人がジタバタしていると、そこへ大和が飛び込んできた。
「えーっ!ちょっと!どういう状況だよこれ、あ!」
大和は目を丸くして怒鳴りながら駆け寄り、二人を引き離そうと手を伸ばす。
「おい、ちょっと待て、翔太、やめろ、やめろ、うわっ!」
大和が布に触れた途端、一反木綿は翔太を瞬時に解放し、代わりに大和を巻き込んだ。
「わっ!」
拘束が解けた翔太は後ろへ弾き飛ばされるように尻餅をつく。代わって、大和と雛が向かい合わせでガッチリと拘束されてしまった。
「え?」
「おー」
大和と雛は、至近距離で見つめ合う形になる。
「あ……雛ちゃん」
大和がデレデレとした声を出すと、雛はパニックになって首を振った。
「ん……え?いや、違う違う違う違う違う」
しかし大和は目を閉じ、「うー」と唇を尖らせてキスを迫ろうとする。
「いや、それはまだ私たちの関係……違う違う違う違う違う!やだやだやだ!」
雛が必死に顔を背けて抵抗していると、今度は七海が血相を変えて部屋に駆け込んできた。
「やめて!絶対に嫌!」
七海が無理やり布を引っ張って引き離そうとすると、後ろから翔太も加勢する。
「そうだよ、やめろ大和!」
「そんなこと言われても、俺じゃないって!」
大和が弁解した途端、一反木綿は雛を解放し、今度は七海を巻き込んだ。
「うわっ!」
雛が床に崩れ落ちる。代わって大和と七海が締め上げられた。
「うっ!あ……大和」
七海は少し嬉しそうに目を閉じ、キス待ちの体勢に入る。
「ちょ、ちょ、ちょ、七海、ちょ、七海、ちょっ、ちょっ、七海、近い!ちょっと、一回ちょっと離れて!ちょっと離れて!」
大和は必死に顔を引いて抵抗する。
「大和!」
床から雛が不機嫌そうに叫び、翔太も大和の服を掴んで引っ張る。
「やめろ大和!」
「俺じゃないって!離れろって!」
大和が叫ぶと、一反木綿はついに大和を解放し、今度は翔太と七海をガッチリと巻き込んだ。
「うわっ!」と大和が解放されてよろける。
「うっ!」
「……おっ!」
今度は翔太と七海が向かい合わせに締め上げられた。
「ひゃあ!絶対に嫌!」
七海が本気で嫌がる声を上げると、翔太は少しむっとしたように返す。
「そんなこと言われたって……あ!」
布がさらにキリッと締まる。
「いやー!」
と叫ぶ七海に対し、翔太は少し余裕の表情を見せた。
「悪くないけどね」
「嫌ー!」
「そこまで嫌わなくても……」
翔太がぼやいていると、一反木綿は七海をあっさりと解放した。
「うわっ!」
と七海が床に倒れ込む。それを見ていた雛は
「おー!」
と声を上げ、座り込んだ七海は「助かった……」と安堵の息を吐く。
しかし、一反木綿のターゲットはまだ残っていた。今度は大和が巻き込まれ、翔太と大和の二人が向かい合わせに締め上げられる。
「うわっ!」
「ちょっ、ちょっ、ちょっ!近い!くるな!」
大和が悲鳴を上げると、翔太も負けじと叫ぶ。
「それは俺が言いたい!」
男二人、顔と顔がみるみる近づき、唇が触れ合う寸前まで締め上げられる。
「あー……」
と雛が呆然とした声を漏らし、
「あー……」
と七海も絶望的な声を上げる。
「うわっ!」
バランスを崩した大和と翔太は、抱き合ったままの状態で床に倒れ込んだ。大和が下で翔太が上、まさにキスの体勢である。
「ん?」
その時、部屋の扉が開き、口に棒付きの飴をくわえた市華がひょっこりと顔を出した。市華がくわえていた飴を手に取り、部屋の惨状をポカンと見つめていると、二人の男を縛っていた一反木綿がふわりと解け、風に飛ばされるように窓の方へと飛び去っていった。
市華は窓へと消える白い布を目で追い、再び床で唇を重ねて抱き合う男二人に視線を戻す。そして、ただ一言、無表情のまま挨拶をした。
「おはようございます」
市華の手から滑り落ちた飴が、床に当たってカラン……と虚しい音を立てる。床に転がった大和と翔太は、もがくように「うぅ……」と苦しげなうめき声を上げるしかなかった。
第十三章「一反木綿騒動」、いかがでしたでしょうか。
次々とターゲットを変えて強制的に密着させる一反木綿のイタズラによって、キャラクターたちの思惑が交錯する抱腹絶倒のエピソードとなりました。雛に迫る大和、大和に迫る七海、七海にまんざらでもない翔太……と見事な連鎖を見せた末に、最終的に男同士で重なり合ってしまう大和と翔太の不憫さがたまりません。
そして、絶妙すぎるタイミングで現場を目撃した市華の無表情な「おはようございます」と、床に落ちた飴の虚しい音が、さらに笑いを誘います。
映像版では、布に絡め取られてジタバタするキャラクターたちのフィジカルなコメディが、特撮ならではの実体感のある動きとともに大爆笑を生み出しています。配信サイトでもぜひ、この見事なアンジャッシュ的すれ違いコントをお腹を抱えてお楽しみください。
この最悪に気まずい空気から彼らがどう立ち直るのか……次章の展開もどうぞお楽しみに!




