第十二章 湖上の舞と闇への連れ去り
映画ノベライズ『もしも、僕の彼女が妖怪ハンターだったら。。。(おかわり)』第十二章「湖上の舞と闇への連れ去り」をお届けします。
今回は、月明かりに照らされた美しい湖上での幻想的な舞と、紅玉を襲う無情な闇の鎖が描かれるシリアスなシーンから幕を開けます。二体の等身大人形が織りなす神秘的な空気と、引き裂かれる二人の悲壮な決意。本作のファンタジー要素が色濃く表れたエピソードです。
しかし後半では、そんな重厚な空気を一変させるような、大和への思いがけない「ハプニング」が待ち受けています。シリアスからラブコメディ(?)への急展開をお楽しみください。
静寂に包まれた夜の森。暗い空を、白い布のような妖怪『一反木綿』がふわりと横切って飛んでいく。青白く妖しげに光る花々が咲き乱れる森の奥深くに、しめ縄が飾られた小さな赤い鳥居がひっそりと佇んでいた。
その奥には暗い洞窟が続いている。
そこへ、淡い水色の着物をまとった少年、水晶が歩み寄る。彼の手には、青く発光する美しい手毬が抱えられていた。
鳥居に近づこうとした水晶は、見えない壁のようなものに阻まれる。
どうやら何かの結界に守られているようだ。
水晶は鳥居の前に立つと、手毬をふわりと宙に放り投げた。それはしめ縄の奥の洞窟へと吸い込まれるように入っていく。手毬に応えるかのように、洞窟の奥が一瞬光ったかと思うと、再び彼の手の中へと戻ってきた。
手毬を両手で包み込むように持った水晶は、静かに呟いた。
「大和、見つけた」
その言葉に呼応するかのように、鳥居の奥に閉ざされていた扉がギィィと軋む音を立てて開いた。
煌々と輝く満月が照らし出す夜の湖。水面にブーツを履いた足が降り立ち、波紋が広がる。湖の真ん中には、赤い着物と袴を身にまとった少年、紅玉が立っていた。
森の木陰から、市華がそのシルエットをじっと見つめている。
「紅玉」
市華がそっとその名を口にすると、紅玉は振り返り、手にした扇を広げて優雅に舞い始めた。そこへ手毬が空中に現れ、落ちてきたそれを受け取るように水晶も姿を現す。水晶が手毬を掲げ、紅玉が赤い扇を翻し、二人は水鏡のような湖上で息の合った美しい舞を披露する。
二人が繋いだ手を満月へと高く掲げた、その時だった。
突如、空間を裂くように青い光の鎖が現れ、紅玉の腕の黒い手枷を強く引いた。
光の鎖の先は、上空に突如として現れた真っ黒な霧の塊へと繋がっている。鎖に引っ張られ、抵抗する間もなく紅玉の体は宙へと浮き上がり、黒い霧の中へと引きずり込まれていく。
「紅玉!」
水晶が必死に手を伸ばして叫ぶが、届かない。紅玉を飲み込んだ黒い霧は、そのまま夜空へと溶けるように消え去ってしまった。
一人湖に取り残された水晶は、手毬を胸に抱きしめ、決意を込めて呟く。
「紅玉。必ず助ける」
次の瞬間、水晶の体も眩い光の粒子に包まれ、湖上からフッと姿を消した。
森の陰から一連の出来事をじっと見つめていた市華。その背後から、足音が近づいてきた。
「あ、市華ちゃん。こんなところに一人で出たら危ないよ」
暗がりの中から現れたのは、大和だった。市華は振り向き、少し誤魔化すように微笑む。
「うん、ちょっと外の空気吸いたかったから」
「あー、そう。でももう遅いし。そろそろ部屋に戻ろう」
大和が優しく促したその直後、市華はいきなり大和の胸に顔を埋めるようにして強く抱きついた。
「ちょっと、市華ちゃん!」
突然の行動に大和は驚き、両手を上げてたじろぐ。しかし市華は腕を解かず、大和の胸にすがりつきながら顔を上げた。
「稲田さんは雛さんと仲がいいですね」
「うん?」
「私、私……」
思いを吐露しようとする市華の言葉を遮るように、大和はひどく狼狽した声を出した。
「あ! ちょっと、あの、明日、明日! 明日家まで車で送っていくから、あの……ね? ちょっと、ちょっと離れて。ね? ちょっと離れて。ちょっと離れて」
大和は市華の肩に手を置き、たしなめるように少しずつ彼女の体を自分から引き剥がした。距離を置かれた市華は、少し寂しそうな目で大和を見つめる。
「雛さんは明日一緒に来るんですか?」
その問いに、大和はさらにしどろもどろになりながら視線を泳がせた。
「え? あ、え? ど、どうかな? 聞いてみないとわからないんだけど、とにかく戻ろう。はい」
大和は気まずそうに会話を打ち切ると、逃げるように背を向けて歩き出した。市華は、足早に進む大和の後ろ姿を静かに見つめながら、その後をゆっくりとついていくのだった。
第十二章「湖上の舞と闇への連れ去り」、いかがでしたでしょうか。
水晶と紅玉による湖上の舞は、映像版でも非常に美しく幻想的なシーンとして描かれています。再会も束の間、再び闇へと引きずり込まれてしまった紅玉と、彼を助け出すと誓う水晶。鳥居の前で水晶が呟いた「大和、見つけた」という言葉が、今後の展開の大きな鍵を握っていそうです。
一方で、そんな神秘的でシリアスな空気をすべて持っていってしまった大和の狼狽っぷり。市華の突然のハグに完全にパニックになり、両手を上げてしどろもどろで距離を置こうとする姿は、本作らしい絶妙なコメディリリーフになっていました。市華の行動に隠された真意とは何なのか、そしてこの現場を雛に見られていないかヒヤヒヤさせられます。いよいよ物語も佳境へ。次章の展開もどうぞお楽しみに!




